14 / 55
14話
しおりを挟む
「僕は愚か者だ。ピュリテ」
本当に目が覚めるなら、とジェレマイアに仕えて初めて5日間の休みをもらった。もしも、妹の目が覚めるならそばに居たいと思ったのだ。
「お前が死んでしまったら、僕はどうすればいいんだ」
ピュリテとライは孤児院出身だ。ライにとってピュリテ以外に大切な存在などおらず、生きている理由はピュリテとタキアナ皇后への恨みだけだった。
「お前が死んだら。皇后を殺しに行こう」
そう言うと椅子に腰を下ろしながら、ライは目を閉じた。
ライはタキアナ皇后後援の孤児院で優秀な成績を修め、気が付けばタキアナ皇后の影として入隊していた。ピュリテが眠り病を発病してしまったとき、ライはすぐにタキアナ皇后へと会いに行った。
「お願いします!高名な医師を紹介してください!」
当時、貴族たちも眠り病にかかってしまったため、外国からも有名な医師たちを招いていた。それらの医師はツテがないと診てもらうことはできない。ライはタキアナに直接会って、そのことをお願いしに行ったのだ。
「そうねぇ。あなたはライって言ったかしら?お願い事をしたいなら、私の願いも叶えてくれないとねぇ」
そう言ってタキアナから依頼されたのは、ジェレマイアの部屋に火をつけるということだった。
「あの子。毒も刃物も何も効かないの。でもねぇ。火はまだ試していないから」
「もしも任務に失敗したら」
「頑張ってあなたが死んじゃったらね。その頑張りは認めて、医者を手配してあげるから安心してやってきなさい」
ライはタキアナ皇后の命令に従うほかに、ピュリテを救う手立てを持っていなかった。そのため、彼女の言葉を信じ、ジェレマイアの部屋に火を放ちに行ったのだ。
しかし、火を放つ前に任務は失敗し、命からがら王城から逃げ出して自宅へと帰ったライが見たのは。
「ピュリテ!!!」
誰もいない真っ暗で寒い部屋のベッドで、ただただ眠り続ける妹の姿だった。もしも自分が帰ってこれなかったら?おそらく明日にでもピュリテの命の灯は消えていただろう。
「僕は馬鹿だ。なんで信じたんだ!」
そう泣き叫び、ピュリテを抱き上げるライ。
「そうだな。お前は愚かだ。あの女は平民のことなんて、使い捨ての駒とも思っていない」
「ジェレマイア!僕の後をつけていたのか!」
突然部屋に現れたジェレマイアに、ライは手元にあった短いナイフを構えて睨みつける。
「助けてやろうか?そのまま放置すれば、お前の妹はもうすぐ死ぬぞ」
「何だと。僕に何をしろと?タキアナ皇后でも殺せっていうのか!」
「そうだ。今じゃないけどな」
そう言うとジェレマイアは花の蜜が入った小瓶をライへと手渡す。
「ひとまず、これを舐めさせるように与えろ。詳しい話はその後にしてやる」
両親が死んでから誰も助けてくれなかった。ライは常にお兄ちゃんで、ピュリテを守って強く生きていかなければならなかった。そして、信じていたタキアナ皇后に裏切られた心に、ジェレマイアの優しさがすっと入った。
「ありがとう、ございます」
この日からライは、ジェレマイアの影に入り、側近としてずっとそばに仕えているのだ。
「あの時助けてくれた殿下が。わざわざ侍女を使ってピュリテを殺すわけないか」
ジェレマイアとの出会いを思い出していたライは、目を閉じたまま呟いた。ジェレマイアがライを助けたのは、自分にとって有益な人材だと判断したからだった。それをライも理解しており、ジェレマイアのそばで働いているのだ。
「んん」
「え?」
かすかに高い少女の声が聞こえ、ライは目を開ける。
「おにい、ちゃん?」
そこには、ベッドに横たわったまま、まぶしそうに目を開けるピュリテの姿があった。何度も確かめるようオレンジ色の瞳をぱちぱちとまばたきして、ライを見つめている。
ライは慌てて窓のカーテンを閉めると、ピュリテを力強く抱きしめる。
「ピュリテ!ああ!良かった!神よ!!」
「おにいちゃん。いたいよ」
ぎゅうぎゅうと抱きしめるライの腕を、ぐぐっとピュリテが押す。折れそうなほどに細いその手の指に、ライは何も言えずに力を少し緩めて涙を流した。
「私。いっぱい寝ちゃってたの?」
涙を流すライを不思議そうに見つめるピュリテ。こてん、と首をかしげる仕草に、ライは涙が止まらない。
「どこも痛いところはないかい?」
「うん。大丈夫だよ」
(――もう一度、ピュリテの声が聞けるなんて!その目を見て話すことができるなんて!)
まるで夢のようだ、とライは感情を抑えることができない。
しばらくそのまま抱きしめていると、ゲホゲホと腕の中のピュリテが咳をして、慌ててライが立ち上がった。
「喉は乾いてない?水を持ってくるよ。すぐお医者さんにも診てもらおうね」
それだけ言うとライは部屋から出て、ヴォルカーを呼びに行った。ピュリテが起きた喜びと、そして救ってくれたビオラへの感謝で胸がいっぱいだった。
本当に目が覚めるなら、とジェレマイアに仕えて初めて5日間の休みをもらった。もしも、妹の目が覚めるならそばに居たいと思ったのだ。
「お前が死んでしまったら、僕はどうすればいいんだ」
ピュリテとライは孤児院出身だ。ライにとってピュリテ以外に大切な存在などおらず、生きている理由はピュリテとタキアナ皇后への恨みだけだった。
「お前が死んだら。皇后を殺しに行こう」
そう言うと椅子に腰を下ろしながら、ライは目を閉じた。
ライはタキアナ皇后後援の孤児院で優秀な成績を修め、気が付けばタキアナ皇后の影として入隊していた。ピュリテが眠り病を発病してしまったとき、ライはすぐにタキアナ皇后へと会いに行った。
「お願いします!高名な医師を紹介してください!」
当時、貴族たちも眠り病にかかってしまったため、外国からも有名な医師たちを招いていた。それらの医師はツテがないと診てもらうことはできない。ライはタキアナに直接会って、そのことをお願いしに行ったのだ。
「そうねぇ。あなたはライって言ったかしら?お願い事をしたいなら、私の願いも叶えてくれないとねぇ」
そう言ってタキアナから依頼されたのは、ジェレマイアの部屋に火をつけるということだった。
「あの子。毒も刃物も何も効かないの。でもねぇ。火はまだ試していないから」
「もしも任務に失敗したら」
「頑張ってあなたが死んじゃったらね。その頑張りは認めて、医者を手配してあげるから安心してやってきなさい」
ライはタキアナ皇后の命令に従うほかに、ピュリテを救う手立てを持っていなかった。そのため、彼女の言葉を信じ、ジェレマイアの部屋に火を放ちに行ったのだ。
しかし、火を放つ前に任務は失敗し、命からがら王城から逃げ出して自宅へと帰ったライが見たのは。
「ピュリテ!!!」
誰もいない真っ暗で寒い部屋のベッドで、ただただ眠り続ける妹の姿だった。もしも自分が帰ってこれなかったら?おそらく明日にでもピュリテの命の灯は消えていただろう。
「僕は馬鹿だ。なんで信じたんだ!」
そう泣き叫び、ピュリテを抱き上げるライ。
「そうだな。お前は愚かだ。あの女は平民のことなんて、使い捨ての駒とも思っていない」
「ジェレマイア!僕の後をつけていたのか!」
突然部屋に現れたジェレマイアに、ライは手元にあった短いナイフを構えて睨みつける。
「助けてやろうか?そのまま放置すれば、お前の妹はもうすぐ死ぬぞ」
「何だと。僕に何をしろと?タキアナ皇后でも殺せっていうのか!」
「そうだ。今じゃないけどな」
そう言うとジェレマイアは花の蜜が入った小瓶をライへと手渡す。
「ひとまず、これを舐めさせるように与えろ。詳しい話はその後にしてやる」
両親が死んでから誰も助けてくれなかった。ライは常にお兄ちゃんで、ピュリテを守って強く生きていかなければならなかった。そして、信じていたタキアナ皇后に裏切られた心に、ジェレマイアの優しさがすっと入った。
「ありがとう、ございます」
この日からライは、ジェレマイアの影に入り、側近としてずっとそばに仕えているのだ。
「あの時助けてくれた殿下が。わざわざ侍女を使ってピュリテを殺すわけないか」
ジェレマイアとの出会いを思い出していたライは、目を閉じたまま呟いた。ジェレマイアがライを助けたのは、自分にとって有益な人材だと判断したからだった。それをライも理解しており、ジェレマイアのそばで働いているのだ。
「んん」
「え?」
かすかに高い少女の声が聞こえ、ライは目を開ける。
「おにい、ちゃん?」
そこには、ベッドに横たわったまま、まぶしそうに目を開けるピュリテの姿があった。何度も確かめるようオレンジ色の瞳をぱちぱちとまばたきして、ライを見つめている。
ライは慌てて窓のカーテンを閉めると、ピュリテを力強く抱きしめる。
「ピュリテ!ああ!良かった!神よ!!」
「おにいちゃん。いたいよ」
ぎゅうぎゅうと抱きしめるライの腕を、ぐぐっとピュリテが押す。折れそうなほどに細いその手の指に、ライは何も言えずに力を少し緩めて涙を流した。
「私。いっぱい寝ちゃってたの?」
涙を流すライを不思議そうに見つめるピュリテ。こてん、と首をかしげる仕草に、ライは涙が止まらない。
「どこも痛いところはないかい?」
「うん。大丈夫だよ」
(――もう一度、ピュリテの声が聞けるなんて!その目を見て話すことができるなんて!)
まるで夢のようだ、とライは感情を抑えることができない。
しばらくそのまま抱きしめていると、ゲホゲホと腕の中のピュリテが咳をして、慌ててライが立ち上がった。
「喉は乾いてない?水を持ってくるよ。すぐお医者さんにも診てもらおうね」
それだけ言うとライは部屋から出て、ヴォルカーを呼びに行った。ピュリテが起きた喜びと、そして救ってくれたビオラへの感謝で胸がいっぱいだった。
23
あなたにおすすめの小説
私、魅了魔法なんて使ってません! なのに冷徹魔道士様の視線が熱すぎるんですけど
紗幸
恋愛
社畜女子だったユイは、気づけば異世界に召喚されていた。
慣れない魔法の世界と貴族社会の中で右往左往しながらも、なんとか穏やかに暮らし始めたある日。
なぜか王立魔道士団の団長カイルが、やたらと家に顔を出すようになる。
氷のように冷静で、美しく、周囲の誰もが一目置く男。
そんな彼が、ある日突然ユイの前で言い放った。
「……俺にかけた魅了魔法を解け」
私、そんな魔法かけてないんですけど!?
穏やかなはずの日々に彼の存在が、ユイの心を少しずつ波立たせていく。
まったりとした日常の中に、時折起こる小さな事件。
人との絆、魔法の力、そして胸の奥に芽生え始めた“想い”
異世界で、ユイは少しずつ——この世界で生きる力と、誰かを想う心を知っていく。
※タイトルのシーンは7話辺りからになります。
ゆったりと話が進みますが、よろしければお付き合いください。
※カクヨム様にも投稿しています。
主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから
渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。
朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。
「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」
「いや、理不尽!」
初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。
「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」
※※※
専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり)
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
無能聖女の失敗ポーション〜働き口を探していたはずなのに、何故みんなに甘やかされているのでしょう?〜
矢口愛留
恋愛
クリスティーナは、初級ポーションすら満足に作れない無能聖女。
成人を迎えたことをきっかけに、これまでずっと暮らしていた神殿を出なくてはいけなくなった。
ポーションをどうにかお金に変えようと、冒険者ギルドに向かったクリスティーナは、自作ポーションだけでは生活できないことに気付く。
その時タイミングよく、住み込み可の依頼(ただしとても怪しい)を発見した彼女は、駆け出し冒険者のアンディと共に依頼を受ける。
依頼書に記載の館を訪れた二人を迎えるのは、正体不明の主人に仕える使用人、ジェーンだった。
そこでクリスティーナは、自作の失敗ポーションを飲んで体力を回復しながら仕事に励むのだが、どういうわけかアンディとジェーンにやたら甘やかされるように。
そして、クリスティーナの前に、館の主人、ギルバートが姿を現す。
ギルバートは、クリスティーナの失敗ポーションを必要としていて――。
「毎日、私にポーションを作ってくれないか。私には君が必要だ」
これは無能聖女として搾取され続けていたクリスティーナが、居場所を見つけ、自由を見つけ、ゆったりとした時間の中で輝いていくお話。
*カクヨム、小説家になろうにも投稿しています。
異世界召喚されたアラサー聖女、王弟の愛人になるそうです
籠の中のうさぎ
恋愛
日々の生活に疲れたOL如月茉莉は、帰宅ラッシュの時間から大幅にずれた電車の中でつぶやいた。
「はー、何もかも投げだしたぁい……」
直後電車の座席部分が光輝き、気づけば見知らぬ異世界に聖女として召喚されていた。
十六歳の王子と結婚?未成年淫行罪というものがありまして。
王様の側妃?三十年間一夫一妻の国で生きてきたので、それもちょっと……。
聖女の後ろ盾となる大義名分が欲しい王家と、王家の一員になるのは荷が勝ちすぎるので遠慮したい茉莉。
そんな中、王弟陛下が名案と言わんばかりに声をあげた。
「では、私の愛人はいかがでしょう」
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
【完結】たれ耳うさぎの伯爵令嬢は、王宮魔術師様のお気に入り
楠結衣
恋愛
華やかな卒業パーティーのホール、一人ため息を飲み込むソフィア。
たれ耳うさぎ獣人であり、伯爵家令嬢のソフィアは、学園の噂に悩まされていた。
婚約者のアレックスは、聖女と呼ばれる美少女と婚約をするという。そんな中、見せつけるように、揃いの色のドレスを身につけた聖女がアレックスにエスコートされてやってくる。
しかし、ソフィアがアレックスに対して不満を言うことはなかった。
なぜなら、アレックスが聖女と結婚を誓う魔術を使っているのを偶然見てしまったから。
せめて、婚約破棄される瞬間は、アレックスのお気に入りだったたれ耳が、可愛く見えるように願うソフィア。
「ソフィーの耳は、ふわふわで気持ちいいね」
「ソフィーはどれだけ僕を夢中にさせたいのかな……」
かつて掛けられた甘い言葉の数々が、ソフィアの胸を締め付ける。
執着していたアレックスの真意とは?ソフィアの初恋の行方は?!
見た目に自信のない伯爵令嬢と、伯爵令嬢のたれ耳をこよなく愛する見た目は余裕のある大人、中身はちょっぴり変態な先生兼、王宮魔術師の溺愛ハッピーエンドストーリーです。
*全16話+番外編の予定です
*あまあです(ざまあはありません)
*2023.2.9ホットランキング4位 ありがとうございます♪
【完結】番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる