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40話

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 ブルクハルト公爵とジェレマイアが進めていたビオラのお披露目パーティは、ロザリーンが王都に帰ってくると言う情報を受けて急ピッチで準備をされた。

 また、パーティの前日には、眠り病を治した侍女がビオラであるという事実の情報と、実は隣国の没落貴族の子であるという噂を広めた。

 ロザリーンが王都に帰ってくると、アルゼリアの離縁と帰路に影響が出るかもしれない。というジェレマイアの判断で、お披露目パーティ当日の朝にアルゼリアは子爵領に帰ることになった。

「なんだか慌しかったわね」

 ふふ、とアルゼリアが笑う。そのそばにはエドガーが寄り添い、馬車の前後にはジェレマイアが付けた護衛の騎士たちがいる。

「しばらく会いに行けませんが、落ち着いたら絶対に会いに行きます」

 ぎゅっと手を握ってビオラが言うと、アルゼリアは自分のかけていたネックレスを外して、ビオラにかけた。

「今持っているものの中で、一番私が気に入っているものだわ。私にも、ビオラのものを何かくれない?こんなに離れるの初めてだから、寂しいの」

 碧色の美しい一粒石が、きらりと太陽の光を反射して光る。ビオラは自分の体を触り、何か渡せるものがないかを探す。

「すみません。こちらしかありませんが」

 しゅるり、と自身の髪の毛をまとめていたレースのリボンを取り、アルゼリアの手首に巻きつけた。

「このリボンは子爵領でも使っていたものね。嬉しいわ」

 しばらく手を握り合い別れを惜しむ二人に、エドガーがそろそろ行きましょう、と言って近づいた。

「こんなにいい条件で帰れるとは思ってなかった。これも殿下を落としたビオラのおかげね。本当にありがとう」

 鉱山の宝石の流通権利以外に、カルカロフ侯爵が所有してた鉱山や商店の権利も子爵家に譲渡された。

「またね。ビオラ」

「はい。お嬢様」

 ぎゅう、とお互いの身体を抱きしめ合うと、ビオラはそっとアルゼリアから身体を離した。

「エドガー様。騎士様。アルゼリア様をよろしくお願いいたします」

 (――王都にいるよりも、子爵領にいた方がお嬢様は安全だ。道中もこれだけ騎士様がいれば、きっと大丈夫)

 ビオラは込み上げてきた涙をぐっとこらえ、笑顔でアルゼリアを見送った。






 ブルクハルト公爵家は、朝から大忙しさだった。元々まだ先だったビオラを養子にすると発表するパーティを、かなり予定を縮めて行うことにしたため直前まで準備が終わっていなかった。

 (――うう。みなさんに申し訳ない)

 バタバタと人が走り回る音が、ビオラの耳に入る。豪華な部屋でビオラは、黒色の美しいドレスを身に纏っていた。

 以前ジェレマイアと王都に遊びに行った際に、ララの店でオーダーしていたドレスだ。まさかこの日に使うことになるとは思っておらず、公爵家に行ってビオラは初めて用意されていたこと知った。

「耳飾りはこちらで。髪もまとめさせていただきますね」

「はい。よろしくお願いします」

 上品な公爵家の侍女に、どきどきしながらビオラが答える。彼女はあら?と言って、くすくすと笑った。

「これからは私どものお嬢様になるのですから、もっと気軽にご命令ください」

「そのうちで、お願いします」

 どう見ても貴族出身の品のある女性に、敬語を外さずにビオラは苦笑いした。

「お姉ちゃん!」

「レティシアちゃん。可愛いね」

 ぴょんと部屋に元気よく飛び込んできたレティシアが、ビオラの前でくるりと回る。オレンジ色のドレスの裾が、ふわりと動いて可愛らしい。

「お姉ちゃんも綺麗だよ。本当のお姉ちゃんになるなんて、すっごく嬉しい!お部屋のものは私とお母様で選んだから、気に入ってくれると嬉しいな」

「お部屋、ですか?」

 (――そっか。お嬢様は離縁されたから、お屋敷も住めなくなるよね)

「お姉ちゃんになるんだから、一緒に住むんだよ。このお部屋気に入らない?」

 ぷう、と頬を膨らませたレティシアが拗ねたように言って、部屋の中を指差す。

「え?このお部屋が?」

「そうだよ。可愛いでしょう」

 カーテンや装飾品など、品よくまとまった部屋だった。十分すぎるほどの広さで、なぜか他の調度品と異なり、ベッドだけがピンクで可愛らしい。

「本当はカーテンとかも私が選びたかったんだけど、お母様がベッドしか選ばせてくれなかったの」

「気に入らないものがあったら、すぐに交換するわよ。特にベッドとか?」

「お母様!」

 笑顔で部屋に入ってきた公爵夫人に、頭を下げようとすると手で静止される。

「これから私たちは親子なのよ?気軽にお母様って呼んでちょうだい」

「ありがとうございます」

 (――お母様、とは呼べないよ。でも)

「嬉しいです」

「あら?」

「私自身、家族の記憶が全くありませんので。家族ができて本当に嬉しいです」

 アルゼリアに拾われるまでの記憶がなかったビオラには、当然肉親の記憶もない。アルゼリアが姉のように大切にしてくれていたが、家族はビオラにとって憧れの存在だった。

「まぁまぁ」

 そんなビオラの様子に公爵夫人が声をあげて、優しく抱きしめる。私も!とレティシアもくっついてきた。

「仲がいいのは良いことだ。さぁ、ビオラ。準備はいいかい?」

「公爵様」

「お父様と呼びたまえ」

 にやり、とブルクハルト公爵が笑みを浮かべ、ビオラをエスコートするため手を差し出した。

「さぁ。行こうか。この扉を出たら君は私の娘であり、公爵令嬢になる。王家以外に君よりも、尊い身分のレディはいない。周りの声は気にせず、堂々とパーティを楽しむといい」

 穏やかにビオラを見つめる公爵。公爵夫人やレティシア、そして忙しく立ち回る使用人たち公爵家の全員がビオラが養子になることを歓迎していた。

 暖かい公爵の目に、心がむずむずするような喜びを感じてビオラは公爵の手を取った。

 
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