手帳の運び屋

彩葉

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───碧side

8___運び屋side

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ドアをノックする音で目を開けた。
仰向けのまま掌を天井にかざすと、うっすら向こうの景色が見えた。


返事をしなかったからか、相手はもう一度ドアをノックした。
「───はい。」
ドアが開く。

相手は一人しか居ない。
この文具店の主だ。
大方あのまま瞑想(昼寝)をしていたんだろう。
店主の頬には手の跡がくっきり残っていた。

『───今回のも綺麗でしょ?あげる』

そう言って店主はガラスの小瓶を自分に差し出した。
小瓶の中には紙の砂が入っている。
少し傾けると、その彩やかな砂が混ざり合って淡い光を放ちながらふわふわ浮いている。
窓から入る西日が反射して、更にそれを引き立てていた。


「綺麗─────。」
此処に来たばかりの幼い頃から、自分はこの砂に目を奪われた。

───ここの店主は紙使いだ。

彼は手帳の制作風景を自分によく見せてくれた。何かを唱え、彼が手を拡げた瞬間から彼の紙達は命を吹き込まれたかの様に動き出す。

“ 裁断 ”とか“ 混ぜる ”と彼は言うが、正直そんな言葉で言い表したくない。

色彩やかな紙達は見た事もない不思議な色の、淡く光る砂に変わる。手帳を作成する過程で出来た残りカスの様な物だと説明されたが、こんなに綺麗な物を自分は今まで見た事が無かった。

───当の本人も、残りカスだとは実際思ってなんかいないと思う。


自分はその特別な時間が大好きだった。

目の前に拡がる不思議な光景も、
それを生み出す自信に満ちた店主の横顔も、
自分の目を惹くには充分過ぎる内容だったから。


流石に今は気恥しさもあって自粛しているけど、こうして店主がガラスの小瓶に紙の砂を入れて持ってきてくれる。
三日もすると跡形もなく消えてしまうけど、自分はこれを窓際に置いて眺めるのが好きなんだ。

───ハッと気が付き視線を上へ向ける。

店主がこちらを向いて嬉しそうにニコニコ微笑んでいた。
(──────。)
心からのありがとうと感謝を伝えたかった筈なのに、彼の顔を見た上で自分の口をついて出た言葉は


「まだ居たの───。」
だった。

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