桜の勇者~異世界召喚されたら聖剣に選ばれ、可憐な少女が自分を頼ってくるので守ることにした~

和美 一

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序章

第4話:異世界

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「聖桜剣を守る一族、だって……?」



 少女の言葉にナハトは胡散臭げに少女を見た。そして自らの手に握られた未だ薄紅色の輝きを放つ剣、聖桜剣キルシェを眺める。



「アンタはこの剣をずっと守ってきたって訳か?」

「それも正確ではありませんね。私たちが聖桜剣に何か出来たかと言われれば何も出来なかった訳ですから」



 少女――イヴは自らを恥じるようにそう言った。「守ってきた、というより見守ってきた、と言った方が正確かもしれません」と続ける。



「ドラセナ。お前はそういう人が、イヴみたいな人がいるってことを知ってたか?」



 そしてナハトがドラセナに水を向けてみるとドラセナはフルフル、と首を横に振る。ドラセナも知らなかったようだ。余計、胡散臭い。訝しむような目でナハトがイヴに「待っていたって言うけど……」と声を向けた。



「この剣の使い手を待っていた? 俺のことを? 何のために?」



 その質問に対する返答は早く、そして、よどみがなかった。



「それは無論、聖桜剣の使い手に仕えるためです。そして、聖桜剣に選ばれし者にはこの世界を闇から救ってもらうためです」



 余計、胡散臭く感じる言葉だった。「闇から救う、ねぇ……」とナハトは呟く。そんなこと怪しい宗教団体の宣伝くらいでしか聞いたことがない。



「この世界は、その、闇とかいうのに襲われているのか?」

「今はそういう訳ではありません。ですが、不穏な空気が漂っているのもたしかです。例えば、アインクラフトとヴァルチザンの戦争など……」

「ああ、またその単語か……」



 さっき初耳の単語をもう一度聞かされてうんざりする。アインなんとかだのヴァルチなんとかだの、当たり前のように語られるがこっちは何も知らないのだ。そんなことを言われても訳が分からない。どうやら国の名前であるらしいことくらいは分かるが。



「俺は日本から来た日本人なんだけど、あんたらは一体何人だ? 日本人じゃないのは分かるけど……」

「ニホン……? それは何です?」



 先程のドラセナ同様、イヴも不思議そうな顔をする。まるでその単語を初めて聞いた、と言うように。まさか、と思いながらも、ナハトは一応訊ねてみる。



「えーっと、アメリカやイギリス、ロシアにドイツ……このあたりの国名に心当たりは?」

「残念ながら、私はどれも聞いたことがありませんね」



 イヴの言葉にやっぱりか……と諦めに似た感情を抱く。イヴの方もそんなナハトの様子に察するものがあったのか、ドラセナの方を向いて声をかける。



「あの……お嬢さん。この人はひょっとしてこの世界の人ではないのでしょうか?」



 この世界の人間ではない。さらりとトンデモないことを言われる。だが、ある種の納得はしていた。明らかに現代とは異なる様子の世界。剣や斧、皮鎧で武装した中世風の男たち。そして、何より現代には絶対に存在しないであろう持ち主に絶大な力を与える伝説の剣。イヴの問いかけにドラセナは少し迷ったような素振りを見せたが「多分……」と頷いた。



「ナハトはわたしの助けを求める声に呼ばれてここに来た。もしかしたらここに来る前はこことは違う世界にいたのかもしれない」



 ドラセナの答えにやはりそうですか、と言うようにイヴはナハトを見る。

 呼ばれて来た、か。薄々は察してたとはいえ、ナハトは確信した。これは、あれだ。ゲームとかの作品で言う召喚、とか言うヤツだ。自分は現代日本からこのファンタジー風な世界に召喚されてやって来たのだ。



「貴方は別の世界からの来訪者なのですね」



 イヴに真っ直ぐ見据えられ、そう断言される。「そういうことになるな」と返すしかなかった。イヴは少し考え込む様子を見せた。何度かナハトの方を伺いつつも、一人で思案している。「……ですが、来訪者の方でも役目は変わりません」と結論付けるように呟く。



「貴方には聖桜剣の使い手、桜の勇者としての役目を全うして貰わなければ」

「桜の勇者?」

「ええ。聖桜剣の使い手のことをそう呼ぶ、と伝承にありました」



 それはまた大きく出たな、とナハトは思った。自分など何の変哲もない一介の男子高校生に過ぎないのにそれが勇者、とは。「そういうけどなぁ」と困ったような声が出る。



「俺、できれば自分の世界に帰りたいんだけど……できる?」



 その視線はイヴではなく、どうやら自分をこの世界に招いたらしいドラセナに向けられていた。ドラセナは困ったようにうつむいてしまう。その末に「……ごめん」と呟いた。



「わたし自身、どうやってナハトをここに呼んだのかも、なんで呼べたのかも、よく分からない。無我夢中だったから……だから、多分元の世界に帰してあげることは……できない」

「マジか……」



 軽い絶望感に打ちのめされる。元の世界の自分は流されるまま生活し、そのことに虚無感を感じてグダグダ過ごしていた日々とはいえそれでも、それは大切な日常だ。それが完全に消滅してしまったことにショックを抱くな、という方が無理だろう。

、そんなナハトに気を使ってくれたのだろう。しばらくドラセナもイヴも話しかけてはこなかったが、ややあって、「あの……」とイヴが声をかえてくる。



「桜の勇者様。貴方のお名前は?」

「葛城夜かつらぎナハト……いや、こっち風に言うのならナハト・カツラギ、だ」

「そうですか、ナハト様……ですね」



 イヴは微笑む。そしてドラセナの方に視線を移す。



「わたしはドラセナ。ドラセナ・エリアス。ゴルドニアース傭兵団にさらわれていたのをナハトに助けて貰った」

「さっきの騒ぎはそれでしたか、ドラセナさん。しかし……ゴルドニアース傭兵団となると相当、大きな組織ですね……」



 イヴの言葉にそうなのか? とナハトは訊ねる。イヴは首を縦に振った。



「ヴァルチザン帝国内でも指折りの強豪傭兵団です。アインクラフト内でも活動している、というのはあまり聞いてはいませんが……」



 強豪傭兵団、ねぇ。先程、聖桜剣の力の恩恵とはいえ鎧袖一触でその連中を蹴散らした身としては強豪と言われてもあまりピンとこない。



「ゴルドニアース傭兵団がアインクラフト内で活動しているということはやはりこれは何か、災いの前兆なのかもしれません……」



 不安そうにイヴは呟く。そして、ナハトの方を見た。



「ナハト様、異世界人である貴方にこんなことを頼むのは不躾なのは承知です。ですが、この世界の秩序を守るため桜の勇者として力を貸してくれないでしょうか?」



 真摯な瞳で真っ直ぐに見られる。しかし、そう言われてもナハトとしては困ってしまう。伝説の聖桜剣に選ばれた、桜の勇者だ、と言われてはしても具体的に何をすれば良いのかそれがサッパリ分からない。この世界に来たばかりの自分には世界情勢すら知らないのだ。困り果てるナハトに助け舟を出すようにドラセナが呟いた。



「ナハト、わたしをアインクラフトの王都まで連れて行って欲しい」

「アインクラフトってこの国、だよな?」

「そう」



 ドラセナは頷く。



「わたしは元々、アインクラフトの王家で保護されていた。そこからゴルドニアースの連中にさらわれてここまで連れてこられた。わたしは王都に戻らないといけない」

「ふむ……」



 ドラセナの言葉に頷く。それは確かに何をすればいいのかさっぱり分からないナハトにとって分かりやすい目的だ。だが、そこには疑問点が一つある。



「そもそも、ドラセナ、お前はどうしてゴルドなんとかとかいう連中にさらわれたりしたんだ? 王家で保護されていたとか言うし、何かあるんだろ?」



 ナハトの問いにドラセナは言葉に詰まる。そして、「ごめん」と頭を下げた。



「助けてもらって、これからも力になってもらおうとしているのにこんなこと言うのは筋違いだって分かってる。……でも、今は話せない」

「……そうか」



 完全に納得した訳ではない。だが、彼女にも彼女なりの事情があるのだろう。それを察したナハトはそれ以上は何も言わなかった。ナハトは考え込む。王都といえばここよりは多くの人間がいるだろう。その中には自分を元の世界に戻すことのできる方法を知っている人間もいるかもしれない。そう思い、ここで何もしないでいるよりは王都とやらに行った方がいいか、とポジティブに考える。



「分かった、ドラセナ。俺はお前を王都まで送り届ける」

「本当?」

「ああ」



 ナハトの言葉にドラセナは明らかに表情を明るくした。「ありがとう、ナハト」と笑顔で言う。



「お前を守るって言ったろ」



 それに彼女といると自分の中にある虚無感のようなものが薄れて、義務感のような熱い感触が胸の中に芽生える気がするのだ。やりたいこと、とでも言うか。それは心地が悪いものではなかった。異世界という異常事態に精神が混乱しているだけなのかもしれないが。兎に角、自分はドラセナを守りたいのだ。

 ナハトはイヴを見た。



「……という訳で俺はドラセナを王都まで送ることにした。アンタはどうする?」

「お供させていただきます」



 一瞬の迷いもなくイヴはそう言い切った。



「伝説の聖桜剣の使い手、桜の勇者様に仕えることが私の一族の義務です。でしたらナハト様がドラセナさんを王都に送り届けるというのならそれに力添えをするのは当然のことです」

「そりゃ、ありがたいな」



 何分、ナハトはこの世界のことは右も左も分からないのだ。ドラセナもどこか浮世離れしたような印象を受けるし、この世界のことに詳しそうな彼女の助力はありがたいことだった。



「……ですが、今日はもうこんな時間ですし、出発は明日の朝にして今夜は私の家で休まれてはいかがでしょうか? ここからそう遠くない位置にあります」



 その申し出もありがたいことだ。今晩の逃避行でナハトもドラセナも疲弊している。特にドラセナの疲労は大きいだろう。休息は何よりも必要なことだった。「わかった」とナハトは頷く。



「ドラセナもいいな?」

「うん。正直……凄く疲れていたから……」

「それでは参りましょう」



 イヴの先導で彼女の家に向かって歩いて行く。ドラセナをアインクラフトの王都に送り届ける。その目的を胸に秘め、そのためにも今は十分な休息を取らなければな、と思うナハトだった。
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