桜の勇者~異世界召喚されたら聖剣に選ばれ、可憐な少女が自分を頼ってくるので守ることにした~

和美 一

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序章

第10話:決着、そして、新たなる仲間

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ナハトとイーニッドの二人は同時に地面を蹴った。

 真っ向からぶつかり合う。黄金の光の刃を纏った聖桜剣の一振りと青い輝きを纏ったガントレットのストレート。

 激突した二つの武器はその力の違いを如実に示すことになった。

 ガアアアン! と大きな音が鳴る。イーニッドのガントレットが真っ向から弾き返され、イーニッドの体ごと真後ろに吹っ飛ばされたのだ。

 聖桜剣の光の剣筋を受け止めきれなかった結果だった。「く……!」とイーニッドは悔しげな表情でナハトを見る。

 ナハトはこの隙を逃すまい、と前に踏み込む。そして、光の刃で剣筋の嵐をイーニッドに浴びせる。

 ガントレットで一撃受ける度にイーニッドの体勢は崩れ、後ろに下がり、それを必死に踏み止まろうと歯を食いしばる。

 それの繰り返しだ。聖桜剣の攻撃をイーニッドは受け切れていない。ナハトの一方的な攻勢だった。

 ナハトの攻撃にイーニッドは圧倒されている。イーニッドの顔に焦りの色が浮かぶ。

 真っ向からの勝負ではとてもかなわないとそれだけの攻防で理解したのか。イーニッドは一旦、後ろに飛ぶと俊敏にナハトの右側に回り込み、回し蹴りを繰り出してきた。

 しかし、そんなものが黄金の聖桜剣からの大量の想力で強化されたナハトに通用するはずもない。

 蹴りの軌跡を見切ったナハトは体を後ろに飛ばし、回避する。返す刃で聖桜剣を振るうもイーニッドはその俊敏さでこれも回避する。

 もうイーニッドは真っ向から拳と剣をぶつけ合うような真似はしなかった。そんなことをすれば圧倒される。そんなことをすれば手も足も出ない。それを理解しているのだろう。

 ヒット&アウェイの戦法でイーニッドはナハトを攻め立ててくる。

 攻撃を繰り出し、下がる。パンチを繰り出し、それをナハトが聖桜剣で受け止めたのを見ると拳を引っ込め、地を蹴り、自身の位置を移動させる。

 返す刃でナハトが聖桜剣を繰り出してもそこにはもはや誰もいない、という訳だ。だが、そんな体力を大幅に消費するような芸当が長く続くはずもない。

 案の定。何度目かの攻撃を繰り出してきたイーニッドの攻撃をナハトは受け止めるとイーニッドが動くより前にナハトの攻撃が届いた。

 聖桜剣がイーニッドの体に迫り、イーニッドはそれをガントレットでかろうじて受け止める。しかし、受けきれない。イーニッドの体が衝撃に後退し、ナハトは前進する。

 そうして再び振るわれた聖桜剣をイーニッドはかろうじて躱す。

 だが、次いで繰り出した聖桜剣は回避し切れず、なんとかガントレットで受けようとして、やはり、受けきれず、後退する。

 戦局がナハトに圧倒的に有利なのは傍から見ているドラセナやイヴにも明らかだった。

 このまま勝負は決まるか。ナハトもドラセナもイヴも、そう思った。

 だが、イーニッドは諦めていないようだった。

 ナハトの攻撃の僅かな隙をついて真後ろに大きく跳躍するとナハトとの距離を取る。

 彼女に余裕がなくなっているのは明らかだった。イーニッドは肩で息をして、憎々しげにナハトを睨み付ける。



「やるな……それが聖桜剣の力か……!」



 だが、眼に宿った鋭い光は少しも衰えることなく、闘志を滾らせている。「そういうことだ」とナハトは答える。



「どうする? 降参するか?」

「ふざけたことを言うな! こちらも全力で行かせてもらうだけのことだ」



 そう言うとイーニッドは「はああ!」と気合の一声を込める。

 右拳を覆うガントレットの青い輝きがさらに強く輝く。まだ想力というものに疎いナハトでもそのガントレットに膨大な量の想力が込められているのは明らかだった。

 これはおそらくイーニッドの全てを込めた攻撃。「行くぞ! 桜の勇者!」とイーニッドの声が響く。



「これがわたしの必殺……、喰らええええええええ!」



 イーニッドはそういうと青く輝く具足で地を蹴り、これまでで最高の速度で駆け出す。そして、飛ぶ。

 空高く飛び上がったイーニッドの小柄な体がひねられ、右拳をナハトの脳天に叩き込まんとする。

 その右拳は青いオーラで覆われていて、そのオーラは巨大な拳の形を象っている。

 これは、イーニッドの全身全霊を駆けた渾身の一撃。それを理解する。

 今の光刃を纏った聖桜剣でもこれは受けきれないかもしれない。そんなことを思う。

 それだけにナハトも聖桜剣に力を込めた。聖桜剣を覆う黄金の光がさらに輝きを増し、周囲に旋風を巻き起こす。



「う、おおおおおおおお!」



 迫り来る巨大な青の拳。それを真っ向から迎撃せんとナハトは聖桜剣を振るう。

 青の拳と黄金の剣はぶつかり合い、爆発的な余波を周りに撒き散らす。その果てに、



「うわああああああああああ!」



 イーニッドの体が後方に吹き飛んだ。

 巨大な青い拳はそれが幻であったかのように掻き消えていた。

 黄金の聖桜剣と青い巨拳の対決は聖桜剣が制したのだ。

 その衝撃でイーニッドは後ろに吹っ飛ばされ、拳の一撃に全身全霊を込めていたのだろう。受け身も取れずに地面に叩きつけられ、転がり、仰向けに天を仰いだ。

 それを見届け、ナハトはハァッと息を吐く。同時に聖桜剣を纏っていた黄金の光も晴れ、薄紅色の刀身があらわになる。

 勝負はついた。それはこの場にいる誰にとっても明らかなことだった。

 聖桜剣を鞘に納め、ナハトは吹っ飛んでいったイーニッドのところまで小走りでかける。「大丈夫か?」と声をかけた。

 イーニッドはしばらく仰向けに倒れ込んでいたものの、やがて「わたしの負け……か」と呟く。そして、ゆっくりとその体を起き上がらせる。



「あっはっはっはっは! 負けた、負けた! ははは!」



 と思えば、いきなり大爆笑した。突然のことに呆気に取られるナハトたち。それに構わずイーニッドはひとしきり笑うとナハトを見た。



「お前、強いな。流石は桜の勇者だ」



 先程まで真剣に戦っていたとは思えない天真爛漫な笑顔でナハトの方に歩み寄ってくる。「あ、ああ……」とどう反応していいか分からず、ナハトは曖昧に頷いた。



「ナハト! わたしはお前のことが気に入ったぞ! 強いヤツは大好きだ!」



 ニカッと眩しい笑みを見せつけてくるイーニッド。やはりナハトが反応に困っていると後ろの方からドラセナとイヴも出てくる。三人の様子を見たイーニッドは「ところで」と訊ねてくる。



「見たところお前たちも旅をしているのだろう? どこが目的だ?」



 一瞬、躊躇したものの、別段、隠すべきことでもないか、と思ったナハトは「首都だ」と答えた。



「この国、アインクラフトの首都に、ドラセナを、この娘を送り届けようと思っている」

「首都か~。わたしはまだ行ったことがない場所だな~。ふむふむ……、分かった!」



 一人で何かを勝手に納得している様子のイーニッド。かと思えばとんでもないことを口にした。



「わたしもお前たちの旅に同行するぞ! いいだろう?」



 突然の申し出にナハトたちは「は……?」と固まる。

 真っ先に我に戻ったらしいイヴが「いきなり何を言っているんですか?」とイーニッドに問いかける。



「わたしもお前たちに同行する、と言っているのだ」

「そ、それは分かりますが……いきなりそんなことを言われても」

「ダメか? わたしなら戦力になるぞ? そりゃ、桜の勇者ほどの力はないが、わたしの力は実証済みのはずだ」



 自信満々にイーニッドは言う。たしかに彼女が旅の仲間に加わればこれ以上なく心強い戦力になるだろう。それは先程、戦ったナハトがよく知っている。ナハトが迷っているとドラセナがナハトを見上げていた。



「どうするの、ナハト?」

「そうだな……」



 ナハトはもう一度、イーニッドの方を見て、決断を下した。



「分かった。イーニッドにも一緒に旅をしてもらう」

「やった!」

「本気ですか!? ナハト様!」



 喜びはしゃぐイーニッドと血相を変えて問い詰めてくるイヴ。ドラセナはどちらでもよさそうだった。ナハトは頭を掻きながら、「って言ってもなぁ」とイヴに言葉をかける。



「多分、ダメって言ってもついてくるぞ、こいつ。この様子だと。それにドラセナを守る上で戦力はたしかに必要だろ? 三人旅よりは四人旅の方が心強い」



 ナハトの言葉に反論できないのか、イヴは黙り込む。「これからは仲間だな!」とはしゃいだ様子のイーニッドはナハトの後ろにいるドラセナとところまで駆け寄り、声をかけた。



「わたしはイーニッド! お前、なんていうんだ? わたしと同じくらいの年だろ?」

「わ、わたしの名前はドラセナ……」

「ドラセナかー。これから、よろしくな!」



 いきなり親しげに声をかけられ戸惑うドラセナに構わず、イーニッドは一方的に友好宣言をする。そして、イヴの方を見る。



「おっぱい大きいお姉ちゃんもよろしくな!」



 その言葉にイヴの顔が真っ赤になる。「お、おっぱ……」と言葉に詰まる。

 たしかにイヴの胸のサイズは大きめではあるが……。ナハトの視線が思わずイヴの胸に行くとイヴは怒りの表情をナハトに向ける。



「ナハト様! どこを見ているんですか!」

「あ、いや、すまん。つい……」

「全くもう……」



 不機嫌そうにプイ、と顔をそらすイヴ。どうやら機嫌を損ねてしまったようだ。不機嫌顔のままイーニッドを見る。



「私にはイヴという名前があります。大いに異論はありますが、一応、貴方を旅の仲間として認めます。よろしく、イーニッドさん」

「おう! よろしく、イヴ!」



 不承不承といった様子にイヴに対し、喜色満面のイーニッド。生真面目な性格のイヴに自由奔放そうなイーニッド。対照的な二人だな、とナハトは思った。



「それじゃあ、これからよろしくな! ナハト!」



 満面の笑みを向けてくるイーニッド。ナハトも思わず口元に笑みを浮かべて「ああ」と頷く。



「これからよろしく。イーニッド」



 ナハトがそう言うとイーニッドがいきなり飛び跳ねるよういしてナハトに抱き付いてきた。

 突然のことに呆然とするナハト。ドラセナとイヴは目を丸くしてそんな二人を見ている。

 筋肉質なように見えて意外とやわらかい体だな、なんてことを思いながら、「な、何するんだよ……」とようやくナハトが声をしぼり出す。「へへへ……」とイーニッドは悪気なく笑う。



「挨拶代わりだ。これから旅を共にする仲間への、な」



 くっついたままそんなことを言う。「ナハト……」と心なしか冷ややかなドラセナの声。「イーニッドさん、何をしているんですか!」とイヴが吠える。



「あはは! とにかく、これからよろしくな! ナハト!」



 イーニッドはそのままナハトから離れようとしない。

 力づくで無理矢理振り払うのも何なのでナハトもされるがままだ。

 そんなナハトをドラセナとイヴは冷ややかな目で見る。イヴはなんとかイーニッドをナハトから引き剥がそうとしているようだが、イーニッドはなかなか離れようとしない。

 こいつを旅の仲間に加えたのは早計だったかもしれない……。そんなことを思うナハトだった。
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