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第1章:辺境の村、カウニカ
第11話:辺境の村、カウニカ
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カウニカ。アインクラフト王国の中でも辺境に位置する村である。
細々と農業や畜産で生計を立てており、この世界では貴重な公衆浴場があるくらいで他には特に見どころがある訳でもない地味で小さな村だ。
その村の入り口近くに身を隠すようにして一人の人間が立っていた。
その人間は身分を隠すようにコートにフードで顔と体を覆い隠し、目立たないようにしているようだったが、こんな村人全員の顔を村人が知っているような小さな村では逆に目立つというものだった。
その人物は布袋に包んだ長い物を持っているが、うっすらとそれが長物の類であることはすぐに分かる。
その人物は村の入り口に視線を向けている。そこに探し求めていた人間の顔を見つけて、歓喜した。しかし、同時に苦虫を噛み潰したような顔になる。
目当ての人物は一人ではなかったからだ。目当ての人物を護送するように周りに人間が三人。
一人は見慣れぬ衣装に腰に剣を下げた黒髪の男。もう一人は露出度の高い服を着た褐色の小柄な少女。最後の一人は聖職者のような格好をした少女だ。
村の入口で何事かを話していた集団を遠目に観察して離れる。目当ての人物を取り戻すのにはどうやらもう一苦労、必要そうだった。風が吹き、フードが揺れ、そこに隠れた顔がうっすらとあらわになる。それは金髪を揺らし、強い意志を秘めた青い瞳の見目麗しい少女だった。
イヴがよく山菜を売りに訪れているという村、カウニカは小さな村、と言ったイヴの言葉通りのイメージの村だった。
木造の小さな家屋がポツポツと立ち並び、所々には牛が飼育されている。農業も営んでいるようだったが、今ひとつパッとしない地味な村の印象を覆すには至らなかった。
朝にイヴの家を出て、昼前に森の中でイーニッドと出会い、それからイーニッドとの戦いの休息を挟んで、歩き倒し、日が暮れる寸前になってようやくこの村にたどり着くことができた。
こんな小さな村では自分たちのような旅人の宿泊施設はないのでは、とナハトは不安に思ったがイヴが言う分には宿屋の類は一応、あるようだった。立ち並ぶ木造家屋は黄昏を帯びていて、あと少しもすれば夜の帳も下りるであろう時間。流石にこんな時間からどこかに行く訳にはいかないので今日はここで一夜を明かすことになるだろう。
「イヴ。宿屋ってどこにあるんだ?」
ナハトが訊ねる。イヴは「はい」と頷いた。
「案内しますよ。この村には何度も来ているのでこの村のことなら私になんでも訊いて下さい」
「そりゃ頼もしいな」
そうして村の入り口から宿屋に向かって歩き出そうとしたナハトだったが、イーニッドの様子が妙なことに気付いて足を止めた。
イーニッドを見る。彼女は警戒心をあらわに周囲に注意を配っているようだった。「どうした?」と訊ねる。「いや……」とイーニッドは呟き、
「この村に入った時、視線を感じてな。誰かがわたしたちを観察しているような気がして……まぁ、気のせいかもしれんが」
そう言われれば気になるものだった。ナハトも周囲に注意を払ってみる。といっても素人のナハトがやっても自分たちを監視しているような人間を見つけることなどできないだろうが。
「やっぱりわたしが目当て……かな?」
ドラセナが遠慮がちに口にする。
ナハトたち一行の様子を伺っている人間がいるとしたらその目的はドラセナである可能性は高い。
ゴルドニアースの連中かもしれない。不安そうな表情を見せるドラセナにナハトは声をかけた。
「大丈夫だ。もしドラセナ目当てのヤツが襲って来たとしても俺がお前を守ってやる。聖桜剣で悪党なんて追い返してやるさ」
その言葉にドラセナは笑みを見せた。「うん。頼りにしてるね、ナハト」と嬉しそうに言う。
「誰かがわたしたちを監視していたとしても、少なくとも今はその気配は感じられない」
もう一度、イーニッドが周囲を見渡し、言う。
「イヴについていこう。わたしも今日は疲れた」
疲れた、という言葉は本音のようだった。それはそうだろう。
森の中でナハトとイーニッドは全力を出して戦い、そこからイヴの治癒杖による怪我の治癒と少しの休息は挟んだものの、それからは歩き通しでこの村まで来たのだ。
あまり上質なベッドは期待できそうもないが、ベッドで横になりたいという気持ちになっても無理はない。
イヴの後に続き、村を歩く。イヴは何度もこの村を訪れているというだけあり、顔見知りも多いようで道中、何度も村人たちに声をかけられていた。
一緒にいる人たちは誰なのか? という問いかけに対しては適当にあしらってはいたが。流石に伝説の桜の勇者だと喧伝するのもどうかと思うのでそれで正解だろう。
辿り着いた先はこの村の中では比較的立派な建物で宿屋というのも頷ける。
とはいえ部屋を選ぶ余裕がある程、部屋があふれているということはなく、四人部屋の一室を取った。
男の俺が女性のみんなと一緒の部屋でいいのか? とナハトは訊いたが、流石にこんなところで二部屋も取るような浪費をする余裕はなくまた彼女たちも、イヴは抵抗はありますが桜の勇者様が不埒な事をしないと信じています、と言い、ドラセナもわたしも少し抵抗はあるけどナハトを信じてるとナハトへの信頼を口にしてくれた。
イーニッドはそういうことに全く気にしていないようで「なんで男と女が同じ部屋だとまずいんだ?」と不思議そうにしていた。
二階建てベッドが二つ並んだそう広くはない部屋に通され、ナハトは荷物を置くと、ベッドの一角に横になった。
「ふう」と安堵の声ももれる。なんだかんだで旅なんていう慣れないことをして心身共に疲弊していたのだと気付く。
歩き通しの両足はパンパンになっていた。「ナハト様、お疲れのようですね」とイヴが声をかけてくる。
「まぁな。旅なんて慣れないことをしたせいで疲労困憊だ。両足もパンパンだよ」
「ふふっ、でしたらマッサージして差し上げましょうか?」
「え?」
イヴのクスリ、と笑っての言葉に思わず聞き返す。「いや、別にいいよ」と遠慮して言った。
「ドラセナやイーニッドはもっと疲れてるだろ? やるなら二人の方をしてやれよ」
「わたしは大丈夫だよ、ナハト」
「わたしも大丈夫だ!」
しかし、ドラセナとイーニッドはそう言って笑う。ドラセナはナハトとイヴを交互に見た後、言った。
「マッサージ、してもらいなよ、ナハト。ナハトはイーニッドと戦ったりした分、疲れてるでしょ?」
「それもそうだけど……わかったよ、イヴ。マッサージ、頼む」
ナハトの言葉にイヴは何故か楽しそうに笑う。
「はい。かしこましました」
そう言ってナハトが横になっているベッドに上がってくると両手でナハトの両足を揉むようにしてズボン越しにグッと力を込めてくる。両足に適度な力がかかり、正直、心地良かった。
「ああ、いいな、うん、もっと頼む」
「はい。では、このように」
「ああ、いい感じ、いい感じ」
両足に加わる適度な刺激にナハトの口から声が漏れる。それを聞いていたドラセナが何故か眉をひそめた。
「……なんだか卑猥」
「ヒワイ? ヒワイってなんだ? ドラセナ?」
「……なんでもない」
ドラセナとイーニッドが何か言っているようだったが、ナハトの耳には届かなかった。そうして、しばらくの間、イヴのマッサージは続き、それが終わった頃には両足がすっかり楽になっていた。
「サンキュ、イヴ。大分、楽になった」
「お役に立てたようで何よりです。ナハト様」
ナハトは礼を言うが、イヴは気にした様子もなく微笑んでいた。
それから食堂で夕食を食べ、イーニッドの大食漢っぷりに驚かされたりしながらも部屋に戻り、みんなして眠りについた。
イヴが言うにはこの村には公衆浴場もあり、何もないこの村の唯一のウリという話だったが、なんだかんだでみんな疲れていたようで今日はお世話になることはなく、すぐに眠りについた。一応、言っておくと不埒なことなどなかった。
そして、朝、ナハトが目を覚ました時には既にドラセナとイヴが起きていた。イーニッドはまだ爆睡している様子だった。
「おはよう、ドラセナ、イヴ」
「おはよう、ナハト」
「おはようございます、ナハト様」
部屋の窓から差し込む朝日が目に眩しい。寝起きの気だるさなどはなくすっかり熟睡できたようだ。
「もう少ししたら朝食の時間ですが、どうなさいますか、ナハト様?」
「そうだな。ちょっと、散歩に行ってくるよ」
部屋でジッとしているのも悪くはないが、今は朝日を存分に浴びたい気分だった。
「分かった。気をつけて」とドラセナが言い、「すぐに朝食ですから、なるべく早く戻ってきて下さいね」とイヴが言う。
二人に見送られてナハトは宿屋を出た。念のため、聖桜剣は持って出た。こんな平和な村の中で野盗の類がいるとは思えないが念のためだ。
そうして村の中を適当に散策して回っていると、ナハトは不審な人物を見かけて、思わず足を止めた。
全身をコートで纏い、顔はフードで隠している。何か長い棒状の物を布袋に包んで持っているようだ。
誰だ? ナハトは疑問に思った。フード姿の人物もまたナハトの方を見据えている。
そうして、「ようやく一人になってくれたな」とフード姿の人物が言った。その声は驚くことに女性のものだった。
「だ、誰だ!?」
ナハトは警戒心をあらわに声をかける。フード姿の女性はフードとコートを脱ぎ捨てる。
コートの下にあったのは豪華な意匠が施された服装と軽鎧だった。銀の軽鎧に鎧の下に着込んだ白いコート。美しい金色の髪を腰まで伸ばし、瞳の色は青い。
その顔は壮麗なものだったが女性というよりはまだ少女と言った方がいい顔たちをしている。歳の頃はナハトと同じくらいではないだろうか? 騎士、という言葉が脳裏をよぎる。
「我が名はグレース・アルミナ! 誇り高き、アインクラフト王国の騎士だ!」
そのナハトの直感に違わず少女は自分を騎士と名乗った。その名乗りを聞いて服装の色合いから白騎士、という単語をナハトは思い浮かべる。
「私はドラセナ様を奪還する任を帯びてここに来た! ドラセナ様誘拐犯め! 覚悟しろ! 貴様を倒し、ドラセナ様を取り戻す!」
堂々たる宣言と共に棒状の物を包んでいた布袋を脱ぎ捨てる。その中にあったのは長い棒に先端についた槍の刃と斧の刃。ハルバードと呼ばれる複合武器だ、とナハトはRPGの知識で理解する。
いきなりのことに困惑するナハトに構わず、少女騎士――グレースは殺意すら込めた青い瞳でナハトを睨むのだった。
細々と農業や畜産で生計を立てており、この世界では貴重な公衆浴場があるくらいで他には特に見どころがある訳でもない地味で小さな村だ。
その村の入り口近くに身を隠すようにして一人の人間が立っていた。
その人間は身分を隠すようにコートにフードで顔と体を覆い隠し、目立たないようにしているようだったが、こんな村人全員の顔を村人が知っているような小さな村では逆に目立つというものだった。
その人物は布袋に包んだ長い物を持っているが、うっすらとそれが長物の類であることはすぐに分かる。
その人物は村の入り口に視線を向けている。そこに探し求めていた人間の顔を見つけて、歓喜した。しかし、同時に苦虫を噛み潰したような顔になる。
目当ての人物は一人ではなかったからだ。目当ての人物を護送するように周りに人間が三人。
一人は見慣れぬ衣装に腰に剣を下げた黒髪の男。もう一人は露出度の高い服を着た褐色の小柄な少女。最後の一人は聖職者のような格好をした少女だ。
村の入口で何事かを話していた集団を遠目に観察して離れる。目当ての人物を取り戻すのにはどうやらもう一苦労、必要そうだった。風が吹き、フードが揺れ、そこに隠れた顔がうっすらとあらわになる。それは金髪を揺らし、強い意志を秘めた青い瞳の見目麗しい少女だった。
イヴがよく山菜を売りに訪れているという村、カウニカは小さな村、と言ったイヴの言葉通りのイメージの村だった。
木造の小さな家屋がポツポツと立ち並び、所々には牛が飼育されている。農業も営んでいるようだったが、今ひとつパッとしない地味な村の印象を覆すには至らなかった。
朝にイヴの家を出て、昼前に森の中でイーニッドと出会い、それからイーニッドとの戦いの休息を挟んで、歩き倒し、日が暮れる寸前になってようやくこの村にたどり着くことができた。
こんな小さな村では自分たちのような旅人の宿泊施設はないのでは、とナハトは不安に思ったがイヴが言う分には宿屋の類は一応、あるようだった。立ち並ぶ木造家屋は黄昏を帯びていて、あと少しもすれば夜の帳も下りるであろう時間。流石にこんな時間からどこかに行く訳にはいかないので今日はここで一夜を明かすことになるだろう。
「イヴ。宿屋ってどこにあるんだ?」
ナハトが訊ねる。イヴは「はい」と頷いた。
「案内しますよ。この村には何度も来ているのでこの村のことなら私になんでも訊いて下さい」
「そりゃ頼もしいな」
そうして村の入り口から宿屋に向かって歩き出そうとしたナハトだったが、イーニッドの様子が妙なことに気付いて足を止めた。
イーニッドを見る。彼女は警戒心をあらわに周囲に注意を配っているようだった。「どうした?」と訊ねる。「いや……」とイーニッドは呟き、
「この村に入った時、視線を感じてな。誰かがわたしたちを観察しているような気がして……まぁ、気のせいかもしれんが」
そう言われれば気になるものだった。ナハトも周囲に注意を払ってみる。といっても素人のナハトがやっても自分たちを監視しているような人間を見つけることなどできないだろうが。
「やっぱりわたしが目当て……かな?」
ドラセナが遠慮がちに口にする。
ナハトたち一行の様子を伺っている人間がいるとしたらその目的はドラセナである可能性は高い。
ゴルドニアースの連中かもしれない。不安そうな表情を見せるドラセナにナハトは声をかけた。
「大丈夫だ。もしドラセナ目当てのヤツが襲って来たとしても俺がお前を守ってやる。聖桜剣で悪党なんて追い返してやるさ」
その言葉にドラセナは笑みを見せた。「うん。頼りにしてるね、ナハト」と嬉しそうに言う。
「誰かがわたしたちを監視していたとしても、少なくとも今はその気配は感じられない」
もう一度、イーニッドが周囲を見渡し、言う。
「イヴについていこう。わたしも今日は疲れた」
疲れた、という言葉は本音のようだった。それはそうだろう。
森の中でナハトとイーニッドは全力を出して戦い、そこからイヴの治癒杖による怪我の治癒と少しの休息は挟んだものの、それからは歩き通しでこの村まで来たのだ。
あまり上質なベッドは期待できそうもないが、ベッドで横になりたいという気持ちになっても無理はない。
イヴの後に続き、村を歩く。イヴは何度もこの村を訪れているというだけあり、顔見知りも多いようで道中、何度も村人たちに声をかけられていた。
一緒にいる人たちは誰なのか? という問いかけに対しては適当にあしらってはいたが。流石に伝説の桜の勇者だと喧伝するのもどうかと思うのでそれで正解だろう。
辿り着いた先はこの村の中では比較的立派な建物で宿屋というのも頷ける。
とはいえ部屋を選ぶ余裕がある程、部屋があふれているということはなく、四人部屋の一室を取った。
男の俺が女性のみんなと一緒の部屋でいいのか? とナハトは訊いたが、流石にこんなところで二部屋も取るような浪費をする余裕はなくまた彼女たちも、イヴは抵抗はありますが桜の勇者様が不埒な事をしないと信じています、と言い、ドラセナもわたしも少し抵抗はあるけどナハトを信じてるとナハトへの信頼を口にしてくれた。
イーニッドはそういうことに全く気にしていないようで「なんで男と女が同じ部屋だとまずいんだ?」と不思議そうにしていた。
二階建てベッドが二つ並んだそう広くはない部屋に通され、ナハトは荷物を置くと、ベッドの一角に横になった。
「ふう」と安堵の声ももれる。なんだかんだで旅なんていう慣れないことをして心身共に疲弊していたのだと気付く。
歩き通しの両足はパンパンになっていた。「ナハト様、お疲れのようですね」とイヴが声をかけてくる。
「まぁな。旅なんて慣れないことをしたせいで疲労困憊だ。両足もパンパンだよ」
「ふふっ、でしたらマッサージして差し上げましょうか?」
「え?」
イヴのクスリ、と笑っての言葉に思わず聞き返す。「いや、別にいいよ」と遠慮して言った。
「ドラセナやイーニッドはもっと疲れてるだろ? やるなら二人の方をしてやれよ」
「わたしは大丈夫だよ、ナハト」
「わたしも大丈夫だ!」
しかし、ドラセナとイーニッドはそう言って笑う。ドラセナはナハトとイヴを交互に見た後、言った。
「マッサージ、してもらいなよ、ナハト。ナハトはイーニッドと戦ったりした分、疲れてるでしょ?」
「それもそうだけど……わかったよ、イヴ。マッサージ、頼む」
ナハトの言葉にイヴは何故か楽しそうに笑う。
「はい。かしこましました」
そう言ってナハトが横になっているベッドに上がってくると両手でナハトの両足を揉むようにしてズボン越しにグッと力を込めてくる。両足に適度な力がかかり、正直、心地良かった。
「ああ、いいな、うん、もっと頼む」
「はい。では、このように」
「ああ、いい感じ、いい感じ」
両足に加わる適度な刺激にナハトの口から声が漏れる。それを聞いていたドラセナが何故か眉をひそめた。
「……なんだか卑猥」
「ヒワイ? ヒワイってなんだ? ドラセナ?」
「……なんでもない」
ドラセナとイーニッドが何か言っているようだったが、ナハトの耳には届かなかった。そうして、しばらくの間、イヴのマッサージは続き、それが終わった頃には両足がすっかり楽になっていた。
「サンキュ、イヴ。大分、楽になった」
「お役に立てたようで何よりです。ナハト様」
ナハトは礼を言うが、イヴは気にした様子もなく微笑んでいた。
それから食堂で夕食を食べ、イーニッドの大食漢っぷりに驚かされたりしながらも部屋に戻り、みんなして眠りについた。
イヴが言うにはこの村には公衆浴場もあり、何もないこの村の唯一のウリという話だったが、なんだかんだでみんな疲れていたようで今日はお世話になることはなく、すぐに眠りについた。一応、言っておくと不埒なことなどなかった。
そして、朝、ナハトが目を覚ました時には既にドラセナとイヴが起きていた。イーニッドはまだ爆睡している様子だった。
「おはよう、ドラセナ、イヴ」
「おはよう、ナハト」
「おはようございます、ナハト様」
部屋の窓から差し込む朝日が目に眩しい。寝起きの気だるさなどはなくすっかり熟睡できたようだ。
「もう少ししたら朝食の時間ですが、どうなさいますか、ナハト様?」
「そうだな。ちょっと、散歩に行ってくるよ」
部屋でジッとしているのも悪くはないが、今は朝日を存分に浴びたい気分だった。
「分かった。気をつけて」とドラセナが言い、「すぐに朝食ですから、なるべく早く戻ってきて下さいね」とイヴが言う。
二人に見送られてナハトは宿屋を出た。念のため、聖桜剣は持って出た。こんな平和な村の中で野盗の類がいるとは思えないが念のためだ。
そうして村の中を適当に散策して回っていると、ナハトは不審な人物を見かけて、思わず足を止めた。
全身をコートで纏い、顔はフードで隠している。何か長い棒状の物を布袋に包んで持っているようだ。
誰だ? ナハトは疑問に思った。フード姿の人物もまたナハトの方を見据えている。
そうして、「ようやく一人になってくれたな」とフード姿の人物が言った。その声は驚くことに女性のものだった。
「だ、誰だ!?」
ナハトは警戒心をあらわに声をかける。フード姿の女性はフードとコートを脱ぎ捨てる。
コートの下にあったのは豪華な意匠が施された服装と軽鎧だった。銀の軽鎧に鎧の下に着込んだ白いコート。美しい金色の髪を腰まで伸ばし、瞳の色は青い。
その顔は壮麗なものだったが女性というよりはまだ少女と言った方がいい顔たちをしている。歳の頃はナハトと同じくらいではないだろうか? 騎士、という言葉が脳裏をよぎる。
「我が名はグレース・アルミナ! 誇り高き、アインクラフト王国の騎士だ!」
そのナハトの直感に違わず少女は自分を騎士と名乗った。その名乗りを聞いて服装の色合いから白騎士、という単語をナハトは思い浮かべる。
「私はドラセナ様を奪還する任を帯びてここに来た! ドラセナ様誘拐犯め! 覚悟しろ! 貴様を倒し、ドラセナ様を取り戻す!」
堂々たる宣言と共に棒状の物を包んでいた布袋を脱ぎ捨てる。その中にあったのは長い棒に先端についた槍の刃と斧の刃。ハルバードと呼ばれる複合武器だ、とナハトはRPGの知識で理解する。
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