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第2章:アグド山道
第22話:華麗なるアイネ
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三匹のゴリラのような想獣たちは横並びになってこちらに迫って来る。
聖桜剣を構えたナハトは迎え撃つ姿勢を整えた。こちらから斬り込んで行くのも良いが相手は三匹だ。
想獣に人間程のチームワークができるのかは分からないが一匹を相手している内に残りの二匹に襲われる可能性がある。
そう思っての選択だったのだが、そんなナハトの思惑は「ナハト、突っ込みなさいよ!」というアイネに声に掻き消された。
視線は前方の想獣たちに固定したまま「突っ込めっって……」と抗議の声を出す。「アンタはアタシのサポートなんだからアタシの言うことを聞いて当然でしょ!」と声が返ってくる。思わずアイネの方を振り返る。アイネは得意げな笑みを浮かべていた。
「大丈夫。ヤツらの連携はアタシが崩すわ」
そう言って自信満々に手に持つ幻想具、氷雪剣ネーヴェを構える。剣を振りかぶり、遥かリーチの外にいる想獣たちに向かってその片手剣が振るわれる。
当然、刃は空を斬る。何をやっているのか、とナハトが思った次の瞬間だった。刃の剣筋から白い波動……氷と雪だろうか? が凄まじい勢いで放たれ、前方の想獣たちに襲い掛かる。まだ距離が開いていると想獣も油断していたのか、氷雪の波動をモロに想獣たちは受ける。三匹の体の表面は凍り付き、苦しみに想獣たちが呻く。
「今よ! ナハト!」
「なるほどな!」
得心し、ナハトは地を蹴り、駆けた。あの状態になってしまえばもはや連携も何もあるまい。
三匹の内、一番、先頭にいた一匹を聖桜剣の射程に捉えるとナハトは剣を振るった。凍り付いた体の上から聖桜剣の刃が食い込む。「グガア!」と想獣が呻き声を上げる。
一太刀、ナハトが一旦、後ろに飛ぶと、その合間を埋めるようにアイネが氷雪剣を片手に躍り出る。ナハトの聖桜剣の一撃を受けた想獣に対し、氷雪剣を突き出す。
狙いは違わず。氷雪剣は想獣の胸に深々と突き刺さり、鮮血が舞う。氷雪剣を抜いて、アイネが後ろに離れた時には先頭の想獣は地面に倒れ伏していた。
先頭の一匹がやられた。これには想獣たちの間にも動揺が走る。ただでさえ、氷雪の波動を受けて、動きが鈍くなっているところにさらに困惑から動きが鈍る。
「ほうら、もう一発! 喰らいなさい!」
アイネは残り二匹の内、一匹に狙いを定めたようだ。剣のリーチの遥か外から勢い良く突きを繰り出す。
その刀身の先端からは氷雪の波動が槍のように放たれ、想獣に襲い掛かる。
想獣の悲鳴が鳴り響き、「ナハト!」とアイネの声。言われるまでもない。今、狙うべきはあいつだ! ナハトは駆け出し、全身をほとんど凍り付かせた想獣を袈裟懸けに斬り付けた。
これは致命傷だった。肩から腰までをざっくり斬り裂かれた想獣は血とラプラニウム鉱石をばら撒きながら地面に倒れ伏す。
こうなればもう後は楽である。残るは体中を凍り付かせた想獣一匹のみナハトとアイネは二人がかりで想獣に斬り掛かり、打ち倒した。
「はっ! 楽勝ね!」
氷雪剣を振るいその刀身についた血を拭い落としながらアイネが得意げに笑う。ナハトは何も言うことはなく聖桜剣を鞘に収めたが、内心舌を巻く気持ちだった。
アイネという少女の強さについてだ。
この年頃の少女でありながら傭兵家業などをこなし、想獣狩りもする上に天才を名乗るくらいなのだからまぁ、弱くはないだろうとは思っていたが、その強さは予想以上だった。
手にした幻想具、氷雪剣ネーヴェを完全に使いこなし、その剣術も一流の物と言っていいだろう。なかなかの凄腕だ、と思わざるを得ない。
そんなことを思って内心、感心しているナハトにアイネは「ナイスサポートだったわよ」と笑いながら声をかけてくる。しかし、その言葉には少し疑問があった。
「サポート? むしろ、アイネの方が俺をサポートしてくれたんじゃ?」
「な!?」
アイネの表情が驚愕に変わり、エメラルドの瞳が見開かれる。
「そんなことないわよ! アンタがアタシのサポートをしたの!」
「でも、俺が斬り掛かる前にアイネが吹雪を吹かせて想獣の動きを止めてくれたし……」
「アタシも斬り掛かったでしょう!?」
うがー、とアイネは叫ぶ。どうやら、どうしてもそこは譲れない一線のようだった。
「とにかく! 主役はアタシ! メインはアタシなの! アンタはアタシのサポートに過ぎないんだからそこのところ、勘違いしないようにね!」
つっけどんに言い放つとアイネも氷雪剣を鞘に収める。
今ひとつ納得のいかないところのあるナハトであったが、意固地になって抗議する程のことでもない。
アイネがそう思っているのならいいか、と思い直した。実際、今さっき会ったばかりの自分とアイネにしては今の戦闘での連携は悪くないものだった。他人の行動に合わせて自分も行動できる程度には場馴れしてきたのかと思えば、悪くない感慨に浸れる。
「さあ、ナハト! 何をぼさっとしているの! アタシたちの目的はあくまでこの山道の上にいるっていう大きな想獣よ。こんな雑魚狩ってただけで満足してちゃいけないんだからね」
何が彼女をそうさせるのか。上から目線で自信満々にアイネは言い放つ。
今、倒した想獣たちの遺したラプラニウム鉱石を回収するとアイネはさっさと先に向かって歩き出してしまう。その後ろをナハトは慌てて追いかけた。
それからも想獣とは何度も遭遇したが、やりアイネの腕前は見事なものだった。氷雪剣から自由自在に氷雪の波動を放ち、想獣の動きを止め、その後は自らの剣術で仕留める。これが幻想具を完全に使いこなしているということか、とナハトは思う。
思い返してみれば、自分はこの剣、聖桜剣キルシェを使いこなしているとはとても言えない。想力を解放することくらいはできる。黄金の光の刃を纏わせて敵を斬り裂くことはできるが、それだけだ。
イヴが言うにこの剣を真に使いこなしている者は光の刃を振るうだけではなく、光の刃を放ち、さらには空をも駆けることができるというのに、自分にはそれが何もできていない。
新たな想獣との戦闘の後、そんなことを思いながら、抜き身の聖桜剣の薄紅色の刀身を見つめていると、「何、考え込んでるのよ」とアイネの声がかかった。
彼女の様子は変わらず、自信満々だ。
「いや、アイネは自分の幻想具を使いこなしているな、って思って」
そう答える。本心からの言葉だったのだが、「何よ、おだてても何もでないわよ?」とアイネは不機嫌そうに眉根を寄せる。いやいや、とナハトは首よ横に振った。
「本心からの言葉だよ。それに比べて、俺はこの剣をまだまだ全然使いこなせていないな、って思ってさ」
「アンタ、その剣を手に入れてからどれくらい経つの?」
アイネが真剣な表情になって問いかけてくる。ナハトは正直に答えた。
「まだ一週間も経ってないけど……」
「はぁ!?」
アイネは素っ頓狂な声を上げて、呆れるようにナハトを見た。
「アンタねぇ……そんなんじゃ使いこなせなくて当然でしょ? 幻想具を真に使いこなそうと思えば相当の修練と期間が必要なのよ? アタシだってこの剣を使いこなすのにどれくらいかかったか……まぁ、天才のアタシは比較的、短期間で使いこなせたと思っているけどね」
アイネはそう言って、氷雪剣を示して見せる。
「それにアンタ、幻想具を使いこなせていないって言っているけど、想力による身体能力の強化はできてるじゃない? それだけでも十分だと思うけれど」
「そうかなぁ……」
想力による身体能力の強化。そんなものは幻想具を持つ者にとって基本中の基本ではないのだろうか。自信なさげに言ったナハトにアイネは元気づけるように声をかける。
「まぁ、今のアンタでもアタシのサポートとしては申し分ないだけの腕前を持っているんだから、そこは自信持ちなさいよ」
そう言って笑う。そう言われてナハトも少しは自信というものを抱くことができた。
「ああ。ありがとう、アイネ。俺を元気づけてくれて」
「…………っ!」
途端、何故かアイネの顔が真っ赤に染まった。
「べ、別にアンタを元気づけようとか、自信つけさせようとか、そんなことを思った訳じゃないんだから! 勘違いしないでよね!」
そう言ってそっぽを向くとアイネは先に進んでしまう。ナハトは呆気に取られながらもその後ろを慌てて追いかけた。
大分、山道を登ったのでないだろうか。坂の傾斜も大分、きつくなってきた。ナハトは山道の奥に洞窟のような穴を見つけた。
何かがねぐらにする分にはちょうど良さそうな洞窟だ。ひょっとするとアイネの目当ての想獣はあそこにいるのではないだろうか?
「アイネ、あの洞窟?」
「ええ。行ってみましょう」
二人して洞窟の中に入る。洞窟は天井に亀裂が入っていて太陽の光が差し込んでおり、全く前が見えないということはなかった。
二人で歩いていると「グギャオオオオオ!」という間違いなく想獣のものと思われる絶叫が響き渡った。それもただの想獣ではなさそうだった。
「アイネ」
「ええ、どうやら、アタリみたいね。この先にいるのがアタシたちの目当ての想獣よ」
そうしてさらに進む。洞窟が一段と広がっている空間に出た。そして、息を飲んだ。
「なっ……!?」
「ちょ、嘘……!?」
そこにいた想獣は、なるほど、ただの想獣ではなかった。
体は植物のようであり巨大な樹木を思わせる本体から何本ものぶっとい触手が伸びていて、先端に鉤爪のついたそれらは獲物を求めて、うねりをあげてしなっている。その本体に無数についた真っ赤な瞳は先日戦ったライオンのような想獣王を思わせる。まさか、この想獣も……!?
「複数ある瞳の想獣……ちょっと……いくら強力な想獣だからって想獣王だなんて聞いていないわよ……!」
アイネが舌打ちして呟く。やはりこいつも想獣王に分類される想獣か。
触らぬ神に祟り無しと今からでも逃げ出そうとしたナハトだったが、想獣王の特徴らしい三つ以上ある赤い瞳がナハトたちの方を向いたのを感じる。
想獣王は唸り声を上げ、その体から伸びる触手の群れが動き出す。どうやら、ターゲットとしてロックオンされたようだった。
「くそっ、また想獣王と戦う羽目になるなんてな……!」
ナハトはそう言いながら、聖桜剣を抜き放つのだった。
聖桜剣を構えたナハトは迎え撃つ姿勢を整えた。こちらから斬り込んで行くのも良いが相手は三匹だ。
想獣に人間程のチームワークができるのかは分からないが一匹を相手している内に残りの二匹に襲われる可能性がある。
そう思っての選択だったのだが、そんなナハトの思惑は「ナハト、突っ込みなさいよ!」というアイネに声に掻き消された。
視線は前方の想獣たちに固定したまま「突っ込めっって……」と抗議の声を出す。「アンタはアタシのサポートなんだからアタシの言うことを聞いて当然でしょ!」と声が返ってくる。思わずアイネの方を振り返る。アイネは得意げな笑みを浮かべていた。
「大丈夫。ヤツらの連携はアタシが崩すわ」
そう言って自信満々に手に持つ幻想具、氷雪剣ネーヴェを構える。剣を振りかぶり、遥かリーチの外にいる想獣たちに向かってその片手剣が振るわれる。
当然、刃は空を斬る。何をやっているのか、とナハトが思った次の瞬間だった。刃の剣筋から白い波動……氷と雪だろうか? が凄まじい勢いで放たれ、前方の想獣たちに襲い掛かる。まだ距離が開いていると想獣も油断していたのか、氷雪の波動をモロに想獣たちは受ける。三匹の体の表面は凍り付き、苦しみに想獣たちが呻く。
「今よ! ナハト!」
「なるほどな!」
得心し、ナハトは地を蹴り、駆けた。あの状態になってしまえばもはや連携も何もあるまい。
三匹の内、一番、先頭にいた一匹を聖桜剣の射程に捉えるとナハトは剣を振るった。凍り付いた体の上から聖桜剣の刃が食い込む。「グガア!」と想獣が呻き声を上げる。
一太刀、ナハトが一旦、後ろに飛ぶと、その合間を埋めるようにアイネが氷雪剣を片手に躍り出る。ナハトの聖桜剣の一撃を受けた想獣に対し、氷雪剣を突き出す。
狙いは違わず。氷雪剣は想獣の胸に深々と突き刺さり、鮮血が舞う。氷雪剣を抜いて、アイネが後ろに離れた時には先頭の想獣は地面に倒れ伏していた。
先頭の一匹がやられた。これには想獣たちの間にも動揺が走る。ただでさえ、氷雪の波動を受けて、動きが鈍くなっているところにさらに困惑から動きが鈍る。
「ほうら、もう一発! 喰らいなさい!」
アイネは残り二匹の内、一匹に狙いを定めたようだ。剣のリーチの遥か外から勢い良く突きを繰り出す。
その刀身の先端からは氷雪の波動が槍のように放たれ、想獣に襲い掛かる。
想獣の悲鳴が鳴り響き、「ナハト!」とアイネの声。言われるまでもない。今、狙うべきはあいつだ! ナハトは駆け出し、全身をほとんど凍り付かせた想獣を袈裟懸けに斬り付けた。
これは致命傷だった。肩から腰までをざっくり斬り裂かれた想獣は血とラプラニウム鉱石をばら撒きながら地面に倒れ伏す。
こうなればもう後は楽である。残るは体中を凍り付かせた想獣一匹のみナハトとアイネは二人がかりで想獣に斬り掛かり、打ち倒した。
「はっ! 楽勝ね!」
氷雪剣を振るいその刀身についた血を拭い落としながらアイネが得意げに笑う。ナハトは何も言うことはなく聖桜剣を鞘に収めたが、内心舌を巻く気持ちだった。
アイネという少女の強さについてだ。
この年頃の少女でありながら傭兵家業などをこなし、想獣狩りもする上に天才を名乗るくらいなのだからまぁ、弱くはないだろうとは思っていたが、その強さは予想以上だった。
手にした幻想具、氷雪剣ネーヴェを完全に使いこなし、その剣術も一流の物と言っていいだろう。なかなかの凄腕だ、と思わざるを得ない。
そんなことを思って内心、感心しているナハトにアイネは「ナイスサポートだったわよ」と笑いながら声をかけてくる。しかし、その言葉には少し疑問があった。
「サポート? むしろ、アイネの方が俺をサポートしてくれたんじゃ?」
「な!?」
アイネの表情が驚愕に変わり、エメラルドの瞳が見開かれる。
「そんなことないわよ! アンタがアタシのサポートをしたの!」
「でも、俺が斬り掛かる前にアイネが吹雪を吹かせて想獣の動きを止めてくれたし……」
「アタシも斬り掛かったでしょう!?」
うがー、とアイネは叫ぶ。どうやら、どうしてもそこは譲れない一線のようだった。
「とにかく! 主役はアタシ! メインはアタシなの! アンタはアタシのサポートに過ぎないんだからそこのところ、勘違いしないようにね!」
つっけどんに言い放つとアイネも氷雪剣を鞘に収める。
今ひとつ納得のいかないところのあるナハトであったが、意固地になって抗議する程のことでもない。
アイネがそう思っているのならいいか、と思い直した。実際、今さっき会ったばかりの自分とアイネにしては今の戦闘での連携は悪くないものだった。他人の行動に合わせて自分も行動できる程度には場馴れしてきたのかと思えば、悪くない感慨に浸れる。
「さあ、ナハト! 何をぼさっとしているの! アタシたちの目的はあくまでこの山道の上にいるっていう大きな想獣よ。こんな雑魚狩ってただけで満足してちゃいけないんだからね」
何が彼女をそうさせるのか。上から目線で自信満々にアイネは言い放つ。
今、倒した想獣たちの遺したラプラニウム鉱石を回収するとアイネはさっさと先に向かって歩き出してしまう。その後ろをナハトは慌てて追いかけた。
それからも想獣とは何度も遭遇したが、やりアイネの腕前は見事なものだった。氷雪剣から自由自在に氷雪の波動を放ち、想獣の動きを止め、その後は自らの剣術で仕留める。これが幻想具を完全に使いこなしているということか、とナハトは思う。
思い返してみれば、自分はこの剣、聖桜剣キルシェを使いこなしているとはとても言えない。想力を解放することくらいはできる。黄金の光の刃を纏わせて敵を斬り裂くことはできるが、それだけだ。
イヴが言うにこの剣を真に使いこなしている者は光の刃を振るうだけではなく、光の刃を放ち、さらには空をも駆けることができるというのに、自分にはそれが何もできていない。
新たな想獣との戦闘の後、そんなことを思いながら、抜き身の聖桜剣の薄紅色の刀身を見つめていると、「何、考え込んでるのよ」とアイネの声がかかった。
彼女の様子は変わらず、自信満々だ。
「いや、アイネは自分の幻想具を使いこなしているな、って思って」
そう答える。本心からの言葉だったのだが、「何よ、おだてても何もでないわよ?」とアイネは不機嫌そうに眉根を寄せる。いやいや、とナハトは首よ横に振った。
「本心からの言葉だよ。それに比べて、俺はこの剣をまだまだ全然使いこなせていないな、って思ってさ」
「アンタ、その剣を手に入れてからどれくらい経つの?」
アイネが真剣な表情になって問いかけてくる。ナハトは正直に答えた。
「まだ一週間も経ってないけど……」
「はぁ!?」
アイネは素っ頓狂な声を上げて、呆れるようにナハトを見た。
「アンタねぇ……そんなんじゃ使いこなせなくて当然でしょ? 幻想具を真に使いこなそうと思えば相当の修練と期間が必要なのよ? アタシだってこの剣を使いこなすのにどれくらいかかったか……まぁ、天才のアタシは比較的、短期間で使いこなせたと思っているけどね」
アイネはそう言って、氷雪剣を示して見せる。
「それにアンタ、幻想具を使いこなせていないって言っているけど、想力による身体能力の強化はできてるじゃない? それだけでも十分だと思うけれど」
「そうかなぁ……」
想力による身体能力の強化。そんなものは幻想具を持つ者にとって基本中の基本ではないのだろうか。自信なさげに言ったナハトにアイネは元気づけるように声をかける。
「まぁ、今のアンタでもアタシのサポートとしては申し分ないだけの腕前を持っているんだから、そこは自信持ちなさいよ」
そう言って笑う。そう言われてナハトも少しは自信というものを抱くことができた。
「ああ。ありがとう、アイネ。俺を元気づけてくれて」
「…………っ!」
途端、何故かアイネの顔が真っ赤に染まった。
「べ、別にアンタを元気づけようとか、自信つけさせようとか、そんなことを思った訳じゃないんだから! 勘違いしないでよね!」
そう言ってそっぽを向くとアイネは先に進んでしまう。ナハトは呆気に取られながらもその後ろを慌てて追いかけた。
大分、山道を登ったのでないだろうか。坂の傾斜も大分、きつくなってきた。ナハトは山道の奥に洞窟のような穴を見つけた。
何かがねぐらにする分にはちょうど良さそうな洞窟だ。ひょっとするとアイネの目当ての想獣はあそこにいるのではないだろうか?
「アイネ、あの洞窟?」
「ええ。行ってみましょう」
二人して洞窟の中に入る。洞窟は天井に亀裂が入っていて太陽の光が差し込んでおり、全く前が見えないということはなかった。
二人で歩いていると「グギャオオオオオ!」という間違いなく想獣のものと思われる絶叫が響き渡った。それもただの想獣ではなさそうだった。
「アイネ」
「ええ、どうやら、アタリみたいね。この先にいるのがアタシたちの目当ての想獣よ」
そうしてさらに進む。洞窟が一段と広がっている空間に出た。そして、息を飲んだ。
「なっ……!?」
「ちょ、嘘……!?」
そこにいた想獣は、なるほど、ただの想獣ではなかった。
体は植物のようであり巨大な樹木を思わせる本体から何本ものぶっとい触手が伸びていて、先端に鉤爪のついたそれらは獲物を求めて、うねりをあげてしなっている。その本体に無数についた真っ赤な瞳は先日戦ったライオンのような想獣王を思わせる。まさか、この想獣も……!?
「複数ある瞳の想獣……ちょっと……いくら強力な想獣だからって想獣王だなんて聞いていないわよ……!」
アイネが舌打ちして呟く。やはりこいつも想獣王に分類される想獣か。
触らぬ神に祟り無しと今からでも逃げ出そうとしたナハトだったが、想獣王の特徴らしい三つ以上ある赤い瞳がナハトたちの方を向いたのを感じる。
想獣王は唸り声を上げ、その体から伸びる触手の群れが動き出す。どうやら、ターゲットとしてロックオンされたようだった。
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ナハトはそう言いながら、聖桜剣を抜き放つのだった。
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