桜の勇者~異世界召喚されたら聖剣に選ばれ、可憐な少女が自分を頼ってくるので守ることにした~

和美 一

文字の大きさ
24 / 87
第2章:アグド山道

第23話:想獣王、再び

しおりを挟む
「こいつが想獣王……!」



 聖桜剣を油断なく構え、呟く。

 目の前で唸り声を上げる巨大なそれは化け物としか形容するしかなかった。

 ナハトもこれまで幾度か想獣と戦ってきた。だが、それらは狼のようなものだったり、ライオンのようなものだったり、ゴリラのようなものだったり、人の体に獣の頭を持つナハトの世界のファンタジーでは獣人と呼ばれるような想獣もいたが、どの想獣も概ね、動物の一種と言っていい形状をしていた。

 それはあの四つの赤い目を持った巨大なライオンの形をした想獣王でも変わりはない。

 しかし、今、目の前にいるこいつはなんだ? 本体、と思われる胴体は動物というより植物に近い巨大な樹木のような一本の筒であり、そこに無数の赤い瞳がぶつぶつとへばりついている。樹木のような本体からは無数の太い触手が伸び、獲物を捕まえんと、あるいは引きちぎらんと唸りを上げて、しなっている。それはどう見ても動物とは言いようがなかった。

 まさしく化け物。想獣の中にはこんな存在もいるというのか。その思いが「こんな巨大な木みたいなのが想獣だっていうのかよ!?」という叫びに出ていた。それを聞いたアイネは「元は普通の動物だったんでしょうね!」と叫び返す。



「でもラプラニウム鉱石を取り込む過程でその辺にあった植物とかまで取り込んでこうなったんだと思うわ! 珍しい例だけど、あり得ない話じゃない!」

「今から逃げ出す……ってのは無理だよな?」

「無理ね!」



 叫びながらアイネは氷雪剣を抜き放った。



「完全に補足されているわ! 戦うしかない!」

「こんな化け物と戦うなんて……」



 それ以上は言っている余裕がなかった。無数にある触手。その内の一つがナハトに向かってしなりながら伸びてきたからだ。

 その先端には鉤爪が覗き、直撃を喰らえばただでは済まないと本能で理解する。「はあっ!」と掛け声と共に聖桜剣を振るい、迫り来る触手を弾き返す。

 その際に聖桜剣が触手の肉に食い込んだが、ずぶり、という気持ちの悪い感触が手のひらに伝わってきて、あれを切断するのは手間だな、と思わされる。

 触手が狙ったのはナハトだけではなかった。アイネにも向かって触手の一本が伸びている。「アイネ!」とナハトは叫ぶ。アイネは氷雪剣を振るい、触手を弾き返そうとして、しかし、押し返しきれず、触手を氷雪剣の刀身で受け止める形になった。

 ジリジリと、触手一本相手にアイネが力比べをしている隙にも他の触手は待ってはくれない。もう二本の触手がアイネに狙いを定めてその胴体で押し潰そうと真上からアイネに迫り来る。

 まずい。あんなのを喰らったらただでは済まない。ナハトは聖桜剣の想力を解放した。

 薄紅色の刀身が黄金の輝きを纏い黄金の光刃になる。地を蹴りアイネの側まで寄ると黄金の剣を振るい、アイネに振り下ろされようとしていた二本の触手を同時に弾き返した。



「アタシをなめないでよ!」



 アイネは叫び、氷雪剣ネーヴェの刀身が青く輝き、氷雪の波動を放つ。

 それをほぼゼロ距離で受けた触手はその体の大半を氷漬けにされる羽目になった。

 凍り付き、動きが鈍った触手をアイネは押し返す。跳ね返された触手は宙空を舞い、本体の元まで戻っていく。その体が薄氷が張っているものの、たいした影響はなさそうだった。



「ごめん、助かった」



 アイネが視線を想獣王に見据えたまま言う。さっき、アイネに迫った二本の触手を払い除けたことを言っているのだろう。「いや、いい」とナハトも声を返す。

 最初の攻勢をしのがれて、警戒したのか想獣王は触手の群れを自分の周りにしならせながら、様子を伺うように唸り声を上げる。

 植物のように見えても、化け物のように見えても、獣は獣、ということだろう。そのタイミングをチャンスと受け取ったのかアイネが前に踏み出す。



「今度はこっちから行くわよ! 喰らいなさい!」



 右手で氷雪剣を振りかぶり、思いっきり振るう。その刀身から氷雪の波動が放たれ、想獣王に向かう。

 だが、これを想獣王は触手の群れを盾にすることで防いだ。いくつかの触手の表面が凍り付くも、それだけだ。想獣王本体にはまるでダメージを与えられた様子はなかった。

 しかし、ダメージはなくとも怒りを買うには十分なもののようだった。想獣王は叫び声を上げると、無数の触手を放ち、アイネを狙う。

 この触手を押し返すにはアイネの氷雪剣では力不足。それが分かっているだけにアイネの顔には焦りの表情が浮かぶ。

 ナハトは前に飛び出しアイネを守るようにアイネの前に立った。そうして、次々に迫り来る触手の群れを黄金の光刃で次々に払い除けていく。

 流石は伝説の聖剣と謳われた聖桜剣キルシェ。その刃は想獣王の触手の群れを相手にしてもまるで遅れを取ることはなく、その圧力をそれ以上の圧力で押し返していく。

 アイネもただナハトの後ろで守られているだけではない。氷雪剣から氷雪の波動を隙あらば放ち、想獣王の本体を狙う。

 その度に想獣王は触手を盾にしてそれをしのぐ。そうやって氷雪の波動をしのぐのに触手を回しつつもナハトたちに振り下ろす触手も絶やさない。

 攻撃と防御がほぼ同時に行われていた。

 何度目かの触手を弾き返しながら、ナハトはどうする? と考え込んだ。このままではジリ貧。触手の群れによる攻撃は今のところ聖桜剣で弾けているが、触手を弾き返したところで想獣王本体には痛くも痒くもない。直接、聖桜剣の刃を想獣王の本体に叩き込む必要があるのだが、後ろにはアイネがいる。ナハト一人なら触手をなぎ払い突っ込むことで想獣王に攻撃を加えることができるかもしれないが、それをすれば触手を完全に弾けない後ろのアイネの命が危うい。アイネを守っている以上、無茶な特攻もできない。



「アタシが……足手まといになっているっていうの……!?」



 信じ難い、というよりは信じたくないという風にアイネは口にする。そうしている間にも触手の攻勢は続く。ナハトは必死で聖桜剣を振るいその攻勢をしのぐ。どうする? どうすればいい……! そう思った瞬間だった。



「助太刀するぞ! ナハト!」



 声がした。聞き慣れた、声。小さな影がナハトとアイネの側に降り立ち、振り下ろされようとしていた触手の一本をその拳で弾き返した。

 小柄な体躯に短い白い髪。露出度の高い格好から見える褐色の肌。両手を覆う青く輝くガントレットと同様に青く輝く具足。



「イーニッド!」



 そうに違いなかった。そう言えばイーニッドも想獣狩りのためにこの山道に行っているとイヴは言っていた。この状況で助けに来てくれるのはありがたい。



「すまん、助かる!」

「無駄口は後だ! 今はこいつをなんとかするぞ!」



 それからは触手の攻勢に対してはナハトとイーニッドが二人がかりで防御をする。

 イーニッドの拳の一撃は触手相手に十分対抗できるだけの威力を持っているようだった。

 迫り来る触手の群れだが、それを弾き返すことができる人間が二人に増えたことで攻勢が追いつかなくなってきた。



「アタシが足手まといだなんて……あり得ないんだから!」



 アイネもそう言い、氷雪剣から氷雪の波動を連続して放つ。

 氷雪の波動は迫り来る触手や想獣王の本体を狙って放たれている。

 ナハトとイーニッドの二人相手にも手こずっている中に氷雪の波動の攻撃まで加わってついに想獣王は防御が追いつかなくなった。氷雪の波動を触手の盾で弾くことができず、本体に命中し、その体を凍り付かせる。

 それが想獣王の逆鱗に触れたようだった。怒り狂ったように叫び声を上げ、無数の触手を全て攻撃に回し、触手の群れがナハトたちに迫り来る。ここが勝負どころだ……! ナハトは歯を食いしばる。その隣でイーニッドも両拳を構え、叫んだ。



「想力……解放!」



 その言葉と共にイーニッドのガントレットが青い巨大な拳のオーラを纏うようになる。そこから感じられる力は先程までの比ではない。

 迫り来る触手の群れ。アイネも力不足ながら、氷雪剣を構えて迎え撃たんとする。

 全ての触手がナハトたちに振り下ろされる。黄金の光刃が、青い巨拳が、氷雪の剣が、それぞれそれらを受け止め、押し返す。全ての攻勢をナハトたちはしのぎ切る。

 黄金の光刃は黄金の剣筋を描き、触手を弾き返し、青い巨拳は真っ向から触手を押し返す。アイネの氷雪剣も触手を受け止め、時間を稼ぐ。

 ナハトは光刃を振るいながら勢いが鈍い触手がいくつか混じっていることに気付いた。それらは薄氷を表面に貼り付けている。アイネの氷雪の波動を受けて勢いが鈍っているのだ、と悟る。

 それもあり、全ての攻撃は止められ、その瞬間、致命的な隙が想獣王に生じた。触手の群れに阻まれていた想獣王の本体への道。それが開かれた。

 ナハトは考えるまでもなく「イーニッド! 援護、頼む!」とだけ言い放ち地を蹴る。ナハトの意図を察したイーニッドもそれに続く。ナハトの狙いに気付いたのか、想獣王は慌てて触手を防御に回すが、既に遅い。

 多くの触手は攻撃のために前に伸びており、そこで弾き返された衝撃から回復していない。なんとか防御に間に合った触手たちもイーニッドの拳に弾き返される。駆けるナハトの行く末を阻むものはもう何もない。



「喰らいなさい!」



 アイネの声も響き、氷雪剣から氷雪の波動が放たれる。それはもはや守るものなどない想獣王の本体に直撃した。薄氷を纏った想獣王の本体。そこについにナハトは到達した。黄金の光刃を渾身の力を込めて振り上げる。



「喰らえええええええっ!」



 黄金の光刃が巨大な樹木のような想獣王の本体に食い込んだ。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界では地味な俺が、なぜか神々に最愛されて無双してる件

fuwamofu
ファンタジー
平凡な高校生・桐生ユウは、女神の手違いで異世界に転生した。 チートもスキルも貰えず、冒険者登録すらままならない落ちこぼれ……のはずだった。 しかし周囲の異常な好感度、意味不明な強運、そして隠された神格スキルによって、ユウは「無自覚に全能」な存在へと覚醒していく。 気づけば女神も姫騎士も魔王娘も彼に夢中。誤解と崇拝が加速する中、ユウの“地味な日常”は世界を揺るがす伝説になっていく。 笑いあり、胸キュンあり、ざまぁありの最強(なのに本人だけ気づいてない)異世界ファンタジー開幕!

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

最強すぎて無職になりましたが、隣国の姫が勝手に嫁入りしてきました

eringi
ファンタジー
平凡なサラリーマン・佐藤亮は、満員電車で謎の光に包まれ異世界へ転移する。神様から「世界最強の力」を授かったはずが、本人はただの無職ニートとしか思っていない。冒険者ギルドで雑用を請け負う日々。そんな亮の周囲に、冷徹な騎士姫、天才魔導士、元盗賊の少女、竜人族の戦士など個性豊かな美少女たちが自然と集まってくる。一方、彼を「ただの運のいい凡人」と侮る貴族や悪徳商人たちは次々と痛快なざまぁ展開に。亮は「俺なんて大したことないのに」と呟きながら、気づけば国を揺るがす陰謀を解決し、世界を救うことに――。無自覚最強主人公による、爽快ハーレムファンタジー開幕!

無自覚に世界最強だった俺、追放後にチートがバレて全員ざまぁされる件

fuwamofu
ファンタジー
冒険者団から「役立たず」と追放された青年リオ。 実は彼のスキル《創造》は、世界の理を作り替える最強の能力だった。 追放後、孤独な旅に出るリオは、自身の無自覚な力で人々を救い、国を救い、やがて世界の中心に立つ。 そんな彼の元には、かつて彼を見下していた美少女たちが次々と跪いていく──。 これは、無自覚に世界を変えてしまう青年の、ざまぁと覇道の物語。

勇者パーティーを追放されたので、張り切ってスローライフをしたら魔王に世界が滅ぼされてました

まりあんぬさま
ファンタジー
かつて、世界を救う希望と称えられた“勇者パーティー”。 その中で地味に、黙々と補助・回復・結界を張り続けていたおっさん――バニッシュ=クラウゼン(38歳)は、ある日、突然追放を言い渡された。 理由は「お荷物」「地味すぎる」「若返くないから」。 ……笑えない。 人付き合いに疲れ果てたバニッシュは、「もう人とは関わらん」と北西の“魔の森”に引きこもり、誰も入って来られない結界を張って一人スローライフを開始……したはずだった。 だがその結界、なぜか“迷える者”だけは入れてしまう仕様だった!? 気づけば―― 記憶喪失の魔王の娘 迫害された獣人一家 古代魔法を使うエルフの美少女 天然ドジな女神 理想を追いすぎて仲間を失った情熱ドワーフ などなど、“迷える者たち”がどんどん集まってくる異種族スローライフ村が爆誕! ところが世界では、バニッシュの支援を失った勇者たちがボロボロに…… 魔王軍の侵攻は止まらず、世界滅亡のカウントダウンが始まっていた。 「もう面倒ごとはごめんだ。でも、目の前の誰かを見捨てるのも――もっとごめんだ」 これは、追放された“地味なおっさん”が、 異種族たちとスローライフしながら、 世界を救ってしまう(予定)のお話である。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

処理中です...