桜の勇者~異世界召喚されたら聖剣に選ばれ、可憐な少女が自分を頼ってくるので守ることにした~

和美 一

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第4章:交易都市ペルトーセ

第51話:聖桜剣の力

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 ナハトは聖桜剣を構えて、虹の短剣を持つ少女を見る。

 メリクリウス・シェルヴァ。見かけはフリフリのゴスロリ調の服に身を纏ったドラセナやイーニッドと同年代の可憐な少女。

 だが、その実態はゴルドニアース傭兵団の幹部級であり、聖桜剣に匹敵する幻想具、光芒剣ステラを桁外れの力量で振るう、並外れた強さの持ち主。

 この少女を相手に手加減など無用。それが分かっているからナハトは最初から聖桜剣の想力を解放した。

 桜の花弁を思わせる薄紅色の刀身を黄金の輝きが包み、聖桜剣は黄金の光刃と化す。それを見たメリクリウスは楽しげに笑った。



「あははっ! いきなり本気モードね、お兄ちゃん。そうこなくっちゃ」



 相変わらず、この少女は何がおかしくてそんなに笑うのかナハトにはさっぱり理解できない。

 黄金の光刃を構えて、メリクリウスを見据えていると、メリクリウスは「他の人たちはどうしたの?」などと問いかけてくる。

 もし仮にナハト以外の人間も来ていたら都合が悪いのはメリクリウスだろうに、その問いは、やはり、笑顔だった。



「他のみんなはまだ想獣と戦っている。俺一人がここに帰ってきた」

「あら?」



 少し驚いたような顔をするメリクリウス。それもすぐ笑みに戻る。



「随分な自信ね。一人だけでわたしたちを相手できると思ったんだ? 前の時は一人じゃわたし一人を倒せなかった癖に?」



 挑発するように笑うメリクリウス。

 落ち着け、とナハトは自分に言い聞かせる。怒りや焦りは大敵。このメリクリウスという少女はそんなもので目がくらんでいる状態で勝てる相手ではない。

 冷静に、冷静に、と言い聞かせ、努めて冷静さを保ったままナハトはメリクリウスに言った。



「俺もあの時の俺じゃない。今なら、お前くらい楽勝で勝てるさ」



 それを聞いたメリクリウスはやはり何がおかしいのか「ふっ」と吹き出した。



「あはは! 言ってくれるじゃない、お兄ちゃん! お兄ちゃんのそういうところ、わたし、好きよ!」



 哄笑が響き渡る。

 そうしてひとしきり笑い終えた後でメリクリウスは笑みを貼り付けたままナハトを見る。

 「それじゃあ、試させてもらおうかしら」と言うと光芒剣を振るった。

 剣筋を虚空に描いた光芒剣から虹色の光線が放たれ、ナハトに向かう、ナハトは体を横に飛ばし、それを避けた。

 だが、それだけで終わるメリクリウスではない。二振り、三振りと光芒剣を振るい、虹色の光線を放つ。

 二発目は回避し、三発目は聖桜剣で弾き落とす。「そんなものでやられる俺じゃない!」とナハトは叫んだ。メリクリウスはクスリ、と笑う。



「それじゃあ……これはどう?」



 メリクリウスは再び虹の短剣を振るう。そこから四つのシャボン玉のような光球が飛び出し宙空を舞い、ナハトを包囲するように周囲に舞う。

 この技には覚えがある。宙空に浮かび、自動で目標を攻撃する光球。

 四つの光球からそれぞれ光弾が放たれ、ナハトを襲った。ナハトはあるいは聖桜剣で弾き落とし、あるいは回避しそれに対応する。

 「こんな子供騙しで!」と言いながら自身への攻撃を防いでいるナハトだったが、その子供騙し相手に厄介だ、と思う気持ちもあった。

 この光球はふわふわと宙空に浮かびナハトを狙う。その攻撃を防ぐこと自体は難しくはないのだが、光球自体を攻撃するとなると少し厄介だ。

 光球を無視してメリクリウス本人を狙う手もあるが、そうすればメリクリウスに攻撃している隙に光球の攻撃が来る。どうする……? と思いながらナハトは自分に迫り来る光弾を弾き落とした。



「あはは! どうしたの、お兄ちゃん? 威勢のいいことを言っていた割にはこれで終わり?」



 無論、メリクリウスとて光球だけに任せた攻撃をしてくる訳ではない。

 メリクリウス自身も光芒剣を振るい、虹の光線を放ってくる。

 それにも対処に追われた。釘付けにされながら、ナハトは聖桜剣を見た。

 以前、メリクリウスは言った。俺には聖桜剣を完全に使いこなせていない、と。

 その通りだろう、と思う。だが、それではダメなのだ。この少女を相手にするには聖桜剣のもっと大きな力を、使いこなす必要がある。

 ナハトは攻撃を防ぎながら、聖桜剣に意志を込めた。応えろ、聖桜剣。俺にはもっと力が必要なんだ。お前の力をもっと、俺に貸せ。お前の力をもっと発揮しろ……!

 そんなナハトの行動を知ってか知らずか「さあ、もっと楽しく遊びましょう!」とメリクリウスは笑い、光芒剣を振るう。

 そこから無数の光球が飛び出し、ナハトを包囲する。

 エイブラム相手には使わなかった技だ。エイブラム相手に使っても氷雪剣ネーヴェ・オリジンから放たれる吹雪の波動で全てはたき落とされるからだ。

 しかし、ナハト相手ならどうか。数え切れない量の光球がナハトの周囲を覆い、一斉に光弾が放たれる。

 これは流石に防ぎきれまい。メリクリウスは余裕の笑みでナハトを見た。

 ナハトは目を閉じて、聖桜剣をダラリ、と地面に下げている。

 防ぎきれないと見て、諦めたか。だとしたら興ざめだが。ナハトにはもっとあがいてもらいたかった。そう、メリクリウスは思った。



「聖桜剣……キルシェ!」



 ナハトは愛剣の名を叫び、開眼する。全ての光弾が自分に命中する直前、黄金の光刃と化した聖桜剣を振り上げる。するとナハトの周囲に円形の結界が出現し、それがナハトに迫り来る光弾を全て受け止めて見せた。

 これには流石のメリクリウスも呆然とする。ナハトは満足げに笑みを浮かべると愛剣を見た。

 応えて、くれた。聖桜剣は自分の意志に応えてくれて、さらなる力を発揮してくれた。

 今なら、今の聖桜剣なら、この状況にも対処できる。「はあああ!」と気合の一声を放つと聖桜剣から黄金の旋風が巻き起こり、周囲を覆う。

 ナハトの周囲を漂っていた光球たちは全て、それではたき落とされた。

 メリクリウスは驚愕の表情でそんなナハトを見る。彼女の表情から笑みが消えた。「嘘……!?」と信じ難いように呟く。



「聖桜剣のさらなる力を引き出したというの……? こんな土壇場で……?」



 信じられないとばかりにメリクリウスはナハトを見る。

 この少女がこんなに狼狽しているところを見るのは初めてだな、とナハトは思った。

 だが、すぐにメリクリウスは笑みを取り戻すと「ふふっ」と笑う。



「やるじゃない、お兄ちゃん。それくらいはやってくれないと相手にしていて意味はないわ」



 いつもの笑みを浮かべて余裕を装った言葉に思わず「下手な強がりだな」とナハトは声に出していた。

 メリクリウスの笑顔が崩れ、一瞬、ムッとした顔を見せたが、すぐに笑顔に戻り、「強がりなんかじゃないわよ」と言う。



「さあ、もっと戦いを続けましょう! お兄ちゃん、わたしを楽しませてね!」



 メリクリウスはそう言うと再び光芒剣を振るう。虹色の光線が放たれ、ナハトに迫る。だが、そんなものはもはやナハトにとって脅威でもなんでもなかった。

 ナハトも聖桜剣を振るう。無論、メリクリウスはナハトから遠く離れている。それどころかナハトに迫る光線もまだナハトの元に到達していない。

 何もないところを聖桜剣が斬る。その切っ先から黄金の波動が放たれた。

 メリクリウスは思わず目を見張る。聖桜剣から放たれた黄金の波動は虹色の光線を飲み込み、メリクリウスの元に迫り来る。慌ててメリクリウスは身を翻し、それを回避する。



「笑みが消えたな」



 ナハトはそう言って、メリクリウスを見る。

 これがナハトが引き出した聖桜剣の新たな……いや、真の力の一部だった。

 光の刃を纏うだけが聖桜剣ではない。真なる聖桜剣の使い手はその光の刃を飛ばすこともできる。

 メリクリウスは呆然とした表情でナハトを見ている。「それが……聖桜剣の力……!」と苛立ち混じりにメリクリウスが呟く。



「遠くから攻撃できるのは何もお前に限った話じゃないってことだ」



 そう言い、ナハトは再び聖桜剣を振るった。聖桜剣から黄金の波動が放たれる。

 メリクリウスは虹の短剣に、光芒剣に思いを込めた。想力を引き出す。

 先程、放った虹の光線はこの黄金の波動を前に一方的に掻き消された。ならば、対抗するにはもっと強い力がいる。

 光芒剣が虹色に輝き、メリクリウスはそれを振るった。これまでにない太さの虹の光線が放たれ、ナハトとメリクリウスの間で激突する。

 黄金の光と虹色の光は真っ向からぶつかり合い、お互いを消し合い、相殺された。

 ナハトは黄金の光刃と化した聖桜剣の切っ先を振り上げ、メリクリウスの方に向けた。切っ先を向けられたメリクリウスは内心の動揺をなんとか押し殺し、笑みを作ってみせる。



「お兄ちゃんが聖桜剣の力を引き出せたみたいで嬉しいわ。この戦い、さらに面白いものになりそうね」



 そう言いつつも、メリクリウスは油断なく光芒剣を構える。

 虚勢を張っているな、とナハトはそんなメリクリウスを見て思った。

 だが、自分が少し強くなったからと言ってメリクリウスは油断できる相手ではない。

 ナハトは聖桜剣を見る。さらなる力を持って自分に応えてくれた愛剣を見る。

 この一戦、頼むぜ、相棒、とナハトは聖桜剣に内心で語りかけるとメリクリウスの方を睨んだ。



「ここからが、本当の勝負だ。行くぞ、メリクリウス」



 ナハトの言葉にメリクリウスはクスリ、と相変わらずの笑みで応えるのだった。
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