桜の勇者~異世界召喚されたら聖剣に選ばれ、可憐な少女が自分を頼ってくるので守ることにした~

和美 一

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第6章:リアライド王国・入国編

第70話:不毛な尋問と不穏な影

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「……ですからリアライドの王都で行われている研究に協力しようとドラセナを護衛していただけだって言っているじゃないですか」



 マインダースの兵士たちに連行された先は兵士たちの詰め所だった。

 口裏を合わせられないように一人一人、個別に尋問が行われる中、ナハトは何度目かも分からない事実を口にした。

 ドラセナの力を研究するためリアライドの王都に向かっている。それはまごうことなき事実なのだが、それを聞いた兵士たちの反応は淡白なものだった。



「そんな話は初めて聞いたぞ?」

「大体、あのドラセナとかいう少女がそんな不思議な力を持っているのか? ただの小娘にしか見えないぞ」



 そんな風に言われてしまっても同じことを言うしかない。ナハトの言っていることは事実なのだから。



「宿に戻らせて下さい。そこにアインクラフト王直筆の書状があるんです」



 そう言ってみるものの、逃げ出すつもりだろう、と言われてしまい許可は下りない。

 だが、個別に尋問しているのに全員が同じことを言うナハトたちに対して兵士たちが信じてみようか、という気持ちになっているのも事実だった。

 それでもナハトたちを解放されないのは兵士たちの隊長格が未だにナハトたちのことを疑っているからだ。その隊長は他の兵士二人と共に今、ナハトの目の前にいる。



「お前たちがこの町にヴァルチザンの連中を手引きしたのではないのか?」



 何度目かも分からない、その質問をされる。「違いますよ」とナハトはやはり何度目かも分からない否定の言葉を発する。



「ヴァルチザンの連中はたしかにドラセナの力を狙っています。俺たちを追いかけてきたという意味では手引きしたとも言えるかもしれませんが、俺たちがヴァルチザンに協力しているなんてことはあり得ませんよ」

「うむむ……しかしだな……」



 隊長は唸る。彼の中でも一貫して同じことを言うナハトたちのことを信じてみようかと心が揺らいでいるのだろう。

 その時、扉が開き、「隊長!」と叫びながら一人の兵士が入ってきた。隊長はジロリ、と視線を向けて、「なんだ?」と不機嫌そうに訊ねる。「そ、それが……」と気圧されたようになりながら兵士は声を発する。



「この者たちが泊まっていた宿屋の部屋の荷物を調査したところ、アインクラフト王の直筆のサインと印鑑付きの書状が……」

「なんだと!?」



 ガタン、と音を立てて、隊長は立ち上がる。そして、恐る恐るといった様子でナハトの様子を見た。

 隊長はアインクラフトからの正式な使者のナハトの機嫌を損ねてしまったのではないかと心配なのだろうが、ナハトはこれでようやく誤解が解ける、と安心していて、怒る気持ちはなかった。



「貴様ら……いや貴公らはアインクラフトからの使者なのか……?」



 確認するように訊ねられる。「だからそうだと言ってるじゃないですか」とナハトは疲れた声を出した。急に小さくなったように見える隊長は居心地悪そうに呟く。



「そ、それは申し訳ないことをした……いや、私は最初から信じていたのだがな。部下たちが疑わしいというので……」

「えっ!? た、隊長がこいつらは信じられないって……?」



 急に水を向けられた部下の兵士が目を丸くする。「黙っていろ!」と隊長は理不尽に部下を叱責した。そんなやり取りに思わずナハトは笑みがこぼれた。「大丈夫、気にしてませんから」と言うと隊長は安堵した様子でナハトを見る。



「貴公らは我が国の首都を目指しているのか。そして本日襲撃をかけて来たヴァルチザンの連中は貴公らからドラセナという少女を奪おうとしている、と」

「ええ。だからそうだと何回も言っているでしょう」

「う、うむ……すまんな」



 高圧的な態度がすっかり消えた隊長は下手に出て話を進める。



「それにしてもヴァルチザンの連中め。この町に襲撃をかけてくるとは……これは王都の方からヴァルチザンに正式に抗議してもらわねばならない案件だな」



 そうして話題を変えるようにそう呟く。まぁ、国と国同士の話になってしまえば、ナハトには何も言うことも、できることもない。ナハトは「そうですね」とだけ言っておいた。



「……ところでそろそろ俺たちを解放して欲しいんですが。みんなヴァルチザンの敵……四獅のルゼとの戦いで疲れています。宿で横になりたいところなんですが……」

「あ、ああ! これはすまなかった。すぐに貴公らを解放しよう! いや、此度のことは本当に申し訳なかった」



 そう言い、隊長は慌てて部下たちに指示を飛ばす。程なくしてナハトたちは全員解放された。









「あーもう! あいつらムカつく!」



 詰め所から解放され、宿に戻ると開口一番、アイネがそう言って声を出した。



「こっちが真実を言っているのに、まるで信じてくれないのよ!? なんなのよ、あいつら!」



 どうやら、ナハトと同じような扱いをアイネもされたようだった。不機嫌そうに眉根を寄せて、苛立ちをアピールする。それに「仕方がなかろう」と声をかけて諌めたのはグレースだ。



「剣鬼ルゼが相手では仕方がないとはいえ、あれだけの大立ち回りを演じたのだ。疑われてしまっても無理はない」

「それにしたってあの態度はないでしょ!? あいつら、始めからアタシたちのこと信じてなかったのよ!?」

「ま、まぁ……いいじゃないですか。今は信じてくれた訳ですし……」



 未だに怒りがおさまらないといった様子のアイネにイヴも声をかける。アインクラフト王直筆の書状が効力を発揮した結果だった。

 ナハトはあの王のことは今ひとつ好きになれないのだが、今回に限っては感謝しないといけないな、と思っていた。



「それにしてもヴァルチザンの連中がこんなところまで追いかけてくるとはな……」



 イーニッドがそう呟く。そこには多少の驚きも含まれている。

 ナハトとて驚いている。ここはリアライド王国の領内。ヴァルチザンからはかなり離れた位置にあるというのに、そこまで追撃の手を差し伸べてくるとは。



「それもやって来たのは剣鬼ルゼ、ときた。どうやらヴァルチザンの連中はよっぽどドラセナの力が欲しいらしいな」



 イーニッドがドラセナを見る。ドラセナはシュン、とこうべを垂れた。



「ごめんね、みんな。わたしがいるから敵を呼び寄せちゃってる……わたしさえいなければ襲われることもないのに」



 思わず一同の間に沈黙が走るが、そこにアイネが明るい声を出した。



「あー、ストップ、ストップ! そういうのはなしなし! 悪いのはヴァルチザンの連中でドラセナは悪くないんだから、気にする必要はないわよ。少なくともアタシは気にしていないし、ナハトたちだってそうよ」

「そうだな。ドラセナが気にすることじゃない」



 アイネの言葉にナハトは頷く。ドラセナの暗い表情が少し明るさを取り戻した。



「それにしても、ドラセナさんがナハト様にやったことは何なんですか? あの剣鬼ルゼをも退けるだけの力をナハト様に与えたようですけど……」



 イヴが話題を変えるようにそう訊ねる。ドラセナは「あれもわたしの力の一端」と答えた。



「他人に自分が纏っている想力を分け与える。今はまだ完全に自由に使える力じゃないけど、物理的な破壊をもたらすことよりは制御し易い力だから、少しずつ練習していたの」

「なるほど。ナハト様に想力を分け与えて、それでナハト様の身体能力を底上げした、という訳ですね」

「うん。そんな感じ」

「すごい力じゃないか!」



 頷いたドラセナにイーニッドがそうはしゃいだ声をかける。

 たしかに凄い力だ。ドラセナから分け与えられた力はあの剣鬼ルゼをも圧倒するだけの力だった。

 これでもまだドラセナの力の一端であるということが恐ろしくもある。ドラセナはその小柄な体躯の中にどれだけの力を秘めているというのだろう?



(それを研究するためにリアライドに向かっているんだったな)



 そう思う。この力を研究することが何を生み出すのか。今は何も分からない。平和的に利用されるといいのだが、とこの力が軍事転用される可能性を危惧する。



「とにかく、今晩は剣鬼ルゼとの戦いや馬鹿な兵士たちの尋問で疲れたからさっさと眠っちゃいましょう。今すぐ、この町を発たねばならないってことはないんでしょう?」



 アイネがそう言う。太陽はとっくの昔に西の空に沈み、今は真っ黒な闇夜の中だ。ルゼとの戦いの疲れもある。今は休むという案には賛成だった。



「そうだな。みんな、ゆっくり体を休めてくれ。この町を発つのは明日だ」



 ナハトの言葉に一同は頷く。そうして、各々の部屋に戻り、ナハトたちは眠りにつくのであった。







 闇夜の下、マインダースの街角で二人の男が人目を忍ぶようにして会っていた。内、一人はナハトたちを尋問した兵士だ。



「例の少女、ドラセナ・エリアスがこの国に来ました」



 そう報告する。もう一人の男は「ついに来たか……」と頷く。



「どうします? 彼女に王都に行かれては不都合です。この町にいる内に暗殺しますか?」



 物騒なことを兵士は呟く。もう一人の男はいや、とその首を横に振った。



「この町の中では無理だろう。ドラセナ・エリアスと桜の勇者一行がこの町を出るのを待って、対処はそれからだ」

「分かりました」



 男の言葉に兵士は頷く。



「もしドラセナ・エリアスの力がリアライド王家に渡ればそれは脅威となる。そうなる前に防いでおかなければならないな」

「承知しております」



 リアライド王国といえども一枚岩ではない。今のリアライド王家が力を持つことを良しとしない勢力はたしかに存在しているのだ。

 男たちは頷き合い、別れる。兵士は去り、一人、残った男はどうすればドラセナ・エリアスを王都に行く前に止めることができるか、そのことを考えながら、根城に戻るべく、闇夜の中を歩き出した。

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