桜の勇者~異世界召喚されたら聖剣に選ばれ、可憐な少女が自分を頼ってくるので守ることにした~

和美 一

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第7章:リアライド王国・冒険編

第72話:嵐の団

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 マインダースを出てしばらく歩いた。道路は整備されており、辺りには風光明媚な自然が広がっている。

 想獣の気配やゴルドニアース傭兵団、ヴァルチザン帝国の影など欠片も見えない平和な光景に思わずナハトは気が緩むのを感じた。



「どうされましたか、ナハト様?」



 そんなナハトの様子を察してかイヴが声をかけてくる。いや、とナハトは言い、「ここいらの自然があまりに綺麗だからちょっとボーっとしちゃって」と答えた。

 「あったりまえでしょう」とそんなナハトに声をかけてきたのはアイネだ。



「ここはリアライド王国の領内なんだから。リアライドは風光明媚で有名なのよ」

「そうか? そうなのか……たしかに本当に綺麗だな」



 ナハトの言葉に異論がある者はいないようで一同に穏やかな雰囲気が広がる。リアライドの地の自然がもたらした穏やかさだ。そんな雰囲気を断ち切るように「しかし」とグレースが口を開いた。



「あまり気を緩めすぎるのもどうかと思うぞ。我々はドラセナ様を護衛しているのだからな」

「そうだったな……悪い、ドラセナ」



 グレースの言葉にナハトは気を引き締め直し、ドラセナに詫びるが、ドラセナは「ううん、気にしないで」と言って気にした様子を見せなかった。



「これだけ綺麗な光景なんだから気が緩むのも無理はないよ。ずっと気を張り詰めていたら身がもたないよ。たまには気分を休めないと」



 ドラセナはそう言って笑う。それでもナハトは気を引き締め直し、辺りを警戒した。

 今のところ、脅威となるようなものは見当たらないが……。そうして一同が森の中に入ってしばらくした時だった。

 周囲に獣の気配がしたのは。一同は目線で合図し、それぞれの獲物を抜く。

 想獣が茂みを突き破って飛び出てきたのはそのすぐ後だった。「想獣か!」とナハトは叫ぶ。

 ナハトに向かってきた狼型の想獣を一匹、聖桜剣で斬り捨てる。もはや、今のナハトたちに普通の想獣など、敵でもなんでもなかった。

 あっという間に斬り伏せられ、体内のラプラニウム鉱石をこぼしながら大地に息絶える。

 だが、それで終わりではない。第二波がやってくる。再び想獣が飛び出してきてナハトたちに襲い掛かる。



「ここいらはこんなに想獣が多い地域なのか!?」



 ナハトは目の前の想獣を斬り伏せながらそう叫ぶが、「いや!」とグレースの叫びが返ってくる。



「この辺りに想獣が多く生息しているという話は聞いたことが無い!」



 グレースはそう言う。想獣が本来いない場所に大量に現れる想獣。それを可能とする人間の存在がナハトの脳裏に浮かんだ。



「じゃあ、あいつ……想獣使いのリリアーヌのしわざか!?」



 一同は返事をしなかったが、おそらくそうなのだろう、ということは全員が思っていた。

 大量に現れる想獣たちを斬っては捨て、斬っては捨てる。想獣使いのリリアーヌ。こんなところまで自分たちを追いかけてくるとは。どうしてもヤツらはドラセナの力が欲しいらしい。

 憤り半分、呆れ半分でそんなことを思いながらも第二波の想獣の群れを退ける。再び何者かが近寄ってくる気配。

 想獣の第三波か! と警戒したナハトたちだったが、次に姿を現したのは人間だった。

 十数人の人間がナハトたちを取り囲むように現れる。友好的な雰囲気は、ない。

 現れた者たちは武器を手に構えている。ナハトたちは円陣を組む。ナハトは叫ぶように言った。



「なんだ! お前たちは!? ゴルドニアース傭兵団か!?」



 言いつつもおそらく違うだろう、とナハトは思っていた。ゴルドニアース傭兵団の傭兵たちは革鎧を身に纏っていたが、この男たちは鎧の類は装備しておらず独特の刺繍が施されたコートを着ている。

 その刺繍は紋章か何か、だろうか? 男たちのリーダー格とみられる男が口を開く。



「我々は嵐の団! リアライド王国を繁栄に導くための憂国の士だ!」



 その名を声高に叫ぶ。その声音からは自分たちの行いを正義と信じて疑わない確固たる意志が感じ取ることができた。

 「嵐の団……だと……?」とナハトは呟く。



「私の名は嵐の団、リーダーのジュプリス・イーダー! この国のため貴公らをここから先に行かせる訳にはいかぬ!」



 ジュプリスと名乗ったリーダーの男はそう言い、剣を構える。あれは幻想具だな、とナハトは思った。

 グレースが憤った様子で声を発する。



「憂国の士が何故、我々を襲う!? 我々はリアライド王国の正式な打診を受けて、ドラセナ様をリアライド王都まで送り届けている最中だぞ!?」



 もっともな問いかけだった。憂国の士を名乗るのなら、何故、自国の面子に泥を塗るような真似をするのか。

 しかし、ジュプリスは悪びれた様子もなく「それが国のためだと思ってのことだ」と答える。



「この国にはドラセナ・エリアスのような強大な力を使いこなすことはできない! この国の未来のためにドラセナ・エリアスを王都に辿り着かせる訳にはいかない!」

「国を憂いると言いながら、国の決定に逆らうのか!?」

「国を思えばこそ、国の方針に従えない時もある!」



 グレースに対して、ジュプリスは毅然として言い放つ。

 聞きながらナハトは内心で呆れた。何を言っているんだ、こいつは。頭のネジが一本か二本外れているんじゃないのか? 自国が招いた少女を、自国のためにならないから襲う。

 常人の発想ではない。だが、ジュプリスを始めとする嵐の団とやらのメンバーたちはそんな自分たちの行動になんの疑問も抱いていないようだった。

 さらに、茂みから想獣たちが飛び出してくる。ナハトたちの警戒は一層強まる。

 想獣たちは嵐の団のメンバーを襲うことをせず、むしろ嵐の団のメンバーと足並みを揃えて、ナハトたちを包囲した。



「お前ら……想獣使いの女、リリアーヌと組んでいるのか!?」



 糾弾の意図も込めて、ナハトがそう言い放つ。油断なく聖桜剣を構えて、その背中でドラセナをかばいながら。「呆れるわね」と言ったのはアイネだ。



「国のためって言いながら、敵対国の人間と手を組んで友好国の人間を襲うなんて……アンタら何、考えている訳?」

「これも正義のためだ。この国のために我々は必要と思ったことをしているだけのこと。リリアーヌ殿と手を組んだのもその一つだ」



 こいつら……、とナハトは思う。こいつらは自分たちの正義に酔っている。正義感が暴走して、何も見えなくなってしまっているのだ。 ナハトが元いた世界での変な宗教にハマっているヤツらと同じだ。自分たちこそが正しい。自分たちのすることこそ正義にして真理。そう信じて疑わない狂信がこいつらを支えているのだ。



「お前たちごときがわたしたちに勝てると思うなよ!」



 イーニッドが強気に言い放つ。

 そうだ。こんな連中は敵ではない。

 これまでの戦い……ラグリアでのゴルドニアース傭兵団との戦いやペルトーセでのメリクリウスとの戦い、ペルトーセからクラフトシティまでの竜との戦い、そして、マインダースでの剣鬼ルゼとの戦い。

 それらと比べれば、憂国の士を名乗る狂信者どもとの戦いなどなんてことはない。だが、イーニッドの言葉を聞いても嵐の団のメンバーはひるんだ様子もなく、ナハトたちに鋭い視線を向ける。

 なんてことはない、と思ったのは撤回しないといけないかもしれないな、とナハトは思い直す。こいつらは自分たちの狂信で動いている。そういうヤツらはたしかに危険だ。

 おそらくは国のためと信じられることなら命すら投げ出すのも惜しまない連中なのだろう。

 嵐の団のメンバーとそれと共にいる想獣たち。自分たちを包囲している戦力を冷静に見極める。

 幻想具の剣を手にしたジュプリスが口を開く。



「最後に聞いておく。引き返す気はないか? このリアライドを去って、アインクラフトに戻るというのなら、手出しはしない」



 その言葉にナハトの後ろにいたドラセナが言葉を返した。



「いいえ。わたしはわたしの力を制御するため、リアライドに行くと決めました。引き返すつもりはありません。そうだよね? ナハト」



 ドラセナに視線を向けられ、ナハトは「ああ」と頷く。



「アンタらには悪いが俺たちはリアライドの王都まで行く。その意志に変わりはない」

「そうか……残念だ。では、君たちにはここで息絶えてもらうことにしよう」



 ジュプリスがメンバーに合図を出す。それと同時に想獣たちも吠える。「ナハト」とドラセナが不安げな声を寄越す。そちらに顔を向けてナハトは「心配するな」と安心させる言葉をかけた。



「お前は俺が守る。こんなヤツらにやられやしない」



 そう言い、再び視線は前へ。自分たちを包囲している嵐の団と想獣たちに向ける。聖桜剣を両手で構えて、いつでも斬り掛かれる体勢を整える。



「なるべく平和的に行きたかったが、仕方がない……かかれ!」



 ジュプリスの号令。それを聞き、嵐の団のメンバーと想獣たちは一斉にナハトたちに襲い掛かってきた。
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