桜の勇者~異世界召喚されたら聖剣に選ばれ、可憐な少女が自分を頼ってくるので守ることにした~

和美 一

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第7章:リアライド王国・冒険編

第75話:リアライドに渦巻く陰謀

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 四体のゴーレムは全てが倒れた。

 強敵ではあったが、ナハトたち一行が勝てない相手ではなかった。

 それぞれゴーレムを一体ずつ倒し終わり、ナハト、イーニッド、グレース、アイネが嵐の団のメンバーを睨む。ナハトたちの後ろには控えていたイヴとドラセナの姿もある。

 ナハトたちに睨まれ嵐の団のメンバーは狼狽をあらわにした。



「ば、馬鹿な……四体のゴーレムが……ぜ、全滅だと……?」



 嵐の団・リーダーの男、ジュプリスが呆然として呟く。呆然としているのは他のメンバーたちも同じだった。



「これで俺たちの強さは分かっただろう? なら、さっさと道を開けてくれ。俺たちはリアライドの王都に行くんだ」



 ナハトがそう言い、黄金の光刃と化した聖桜剣を構えて見せる。

 ジュプリスはナハトたちがゴーレムと戦っている間に弾き落とされた自分の幻想具の剣を拾ったようで、それを構えて対抗の意志を示して見せるものの、彼がナハトの敵ではないことはもはや、明白であった。

 あの幻想具の剣も大したことはない幻想具だ。使い手のジュプリスも戦闘に長けているという訳でもない。

 聖桜剣を持ち、数々の修羅場をくぐり抜けてきたナハトにとっては、恐れるに足りない。

 自分ではナハトに到底かなわないことをジュプリスも自覚しているのだろう。その腰は及び腰であった。ただ目だけは、屈するものか、という自尊心で維持された睨みの形を崩していなかったが。



「この拳で無理矢理に押し通ってもいいんだぞ?」

「さっさと退散した方が身のためだと思うけど? 氷漬けになりたいなら、話は別だけど」



 イーニッドとアイネもそう言い、嵐の団のメンバーに脅しをかける。

 頼みの綱のゴーレムたちも倒された。想獣の援軍も、どうやらどこかで様子を伺っていたであろうリリアーヌはゴーレムが倒されたことで嵐の団に見切りを付けたのかやってこない。

 嵐の団のメンバーは完全に動揺し切っており、「ジュプリス様……」と弱気な声が漏れる。



「くっ……退散だ! 一時撤退する! 戦略的撤退だ!」



 ジュプリスがそう叫び、嵐の団のメンバーはその言葉に心底安堵した様子を見せ、各々が去っていく。

 ナハトたちに倒され立ち上がれないメンバーも他のメンバーが肩を貸して連れて行ったところを見るにゴルドニアース傭兵団よりは仲間意識に長けた集団だと言うことは伺えた。もっとも実態はゴルドニアース傭兵団と同等の悪質な集まりではあるが。



「帰ってくれたか」



 ナハトはそう言うと聖桜剣を纏っていた黄金の光を解き、薄紅色の刀身を見せた聖桜剣を鞘に収める。

 仮にさらなる戦いになっていたとしてもまず負ける事はあり得ない相手ではあったが、弱者を一方的に蹂躙して喜ぶ趣味はナハトにはない。

 戦わずに終わってくれたことに関しては素直に安堵していた。



「全く。なんだったのよ、アイツら。嵐の団とか憂国の士とか、偉そうに言っちゃって……」



 アイネが不機嫌さをあらわにしてそう呟く。「リアライドも一枚岩ではないということだろう」と応じたのはグレースだ。



「ドラセナ様の力の研究は国を揺るがすレベルの一大事だ。それを許せないという輩も多く存在しているだろうな。今のような非合法組織だけではなく、リアライド王国内にも」



 それは警戒を促す言葉だった。

 リアライド王国内にもドラセナのような想力を身に纏った人間の力を研究することを良しとしない一派が存在している。

 それは考えれば当たり前のことではあるのだが、ナハトは今の今までその考えに至らなかった。



「そうか……リアライド内にもそんな凄い力の研究をすることに反発するヤツらも当然、いるよなぁ……」

「ドラセナさんの力は強力ですからね……そんな力を使いこなすことは不可能と考える人も多いでしょう……」



 ナハトの言葉にイヴが応じる。ドラセナは表情を曇らせた。

 自分の持つ力の重大さ、それを改めて突き付けられたような気分になれば、それはあまり気持ちのいい気分ではないのだろう。

 ナハトは慌てて、「べ、別にドラセナを責めている訳じゃないぞ」と言う。その言葉にドラセナは笑みを浮かべて「うん、分かっている、平気」と応える。



「ドラセナ様の力を研究することが多くの人間を助けることにも繋がる。少なくとも私はそう信じております、ドラセナ様」



 グレースもそう言って、ドラセナを気遣う様子を見せる。

 そうだ。何もドラセナの力を研究することが悪いことばかり起こる訳ではないのだ。

 獅子の想獣王の前足を切断した時のような破壊の力もドラセナは持っているが、剣鬼ルゼとの戦いでナハトの肉体を強化した時のような力もある。

 後者の力を応用すればそれを多くの人間を救うことにも繋がる力だと思える。

 とはいえ、リアライドが果たしてそんな目的でドラセナの力を研究してくれるのか。それは少し怪しい所だった。

 ドラセナの力は破壊の力も含んでいるのだ。それを兵器などに転用しようという目論見もあるかもしれない。

 そう思うとこうしてドラセナをリアライドの王都まで送り届け、研究に協力することがいいことがどうかということに再び疑問も抱いてしまう。



(いや、大丈夫さ)



 ナハトは自分を納得させるように、自分に言い聞かせる。

 そんな風な軍事転用目的の研究だと分かればその場でリアライドを離れればいいだけのことだ。

 マインダースを出る時に確認したことだ。ドラセナの力の研究は多くの人や何よりドラセナ自身のためになる研究でなくてはならない。



「それじゃあ、そろそろ行くか。余計なことで時間を喰われちまった」



 ナハトはそう一同に言葉をかける。一同はナハトの言葉に頷いた。目指すはトレリカとか言う町だ。どんな町なんだろうな、と思ったナハトはそれを声に出していた。



「トレリカってどういう町なんだ?」



 その言葉に「さあ?」とアイネが応じる。



「アタシは行ったことがないし……」

「私も知りませんね……」

「わたしも初めて行くところだ」



 アイネだけではなく、イヴもイーニッドも知らないようだった。そんな一同に対しグレースが口を開く。



「学術に関する研究が盛んな町だな。中でもゴーレムの研究が特に盛んだ」



 ゴーレム! 今さっき戦ったばかりの強敵の名前を出されて、ナハトは思わず表情をこわばらせる。

 そんなナハトの様子を察したのだろう「ゴーレムと言ってもさっき戦ったようなヤツらばかりではない」とグレースが苦笑いして言う。



「作業用や家事などを行うゴーレムもいる。何も戦うことだけに特化した存在ではないのだ。ゴーレムというものは」

「そうなのか? それなら、いいんだが……さっきみたいなヤツらが群れをなして襲って来るんじゃないかと思ってな……」

「大丈夫だろう。もしそんなヤツらばかりだというのならトレリカはとっくに滅んでいる」



 グレースは気楽な調子で言う。

 そうか、ゴーレムの研究に長けた町か。作業用や家事用など様々な種類のゴーレムが存在しているとグレースは言った。

 ナハトの元の世界で言うところのロボットなどの研究に近いのだろう。



「ゴーレム以外の研究も盛んな都市だぞ。見ていて退屈はしないはずだ」



 グレースはそう言って言葉をまとめる。なるほど、たしかに。それは退屈しない町だろう。行くのが楽しみになってきた。



「よし! それじゃあ、一刻も早くその町に辿り着けるように行くか!」



 ナハトは楽しげな声を出す。

 一同は頷き、歩みを再開する。嵐の団が去ってからというものの一同の歩みを邪魔する者はおらず、ナハトたちはリアライド王国の自然を楽しみながら、旅を進めた。









「嵐の団の襲撃は失敗したようだ」



 闇夜の中、とある小部屋の中に壮年の男の声が響いた。松明の灯りだけが小部屋を照らしている。その声を発した男は高価そうな衣服に身を包み、マントまで付けていた。



「全く、貴重な戦闘用ゴーレムの原核を提供したというのに頼りない……」



 男の声に別の男が応じる。こちらはあまり高価そうな衣服に身を包んでいる訳ではなかった。高価そうな服を着た男が口を開く。



「とにかく連中がトレリカに到着するのはもうすぐだ。そこでなんとしても連中を止めねばならない」

「お任せ下さい。例のゴーレムを投入します」



 男がうやうやしく言う。例のゴーレム。その言葉に高価そうは衣服の男は少し眉をしかめる。



「例の試作型か。だが、あれを動かせば町にも被害が出るのではないか?」

「多少の犠牲は仕方がありません。全てはこの国のためです」

「そうだな……全てはこの国のためだ」



 高価そうな服を着た男は苦々しく呟く。



「全く、国王陛下も乱心したものだ。想力を纏った化物どもの研究を進めるなど百害あって一利なしというのに……」

「ベルード伯爵様の仰る通りです。あの研究はなんとしても中止に追い込まなければなりません」



 ベルード伯爵と呼ばれた男はふむ、と頷く。



「貴重な実験材料のドラセナ・エリアスの身柄さえ確保できなければ国王陛下も考えを改めるだろう。そのためにもこの町、トレリカでなんとしてもドラセナ・エリアスの命を奪うのだ」

「承知しております」

「うむ。任せたぞ」



 ベルードの言葉にもう一人の男は深々と頷き、その部屋を後にする。後にはベルードだけが残った。



「我々が国内に手引きしたヴァルチザンの連中もいる。ヤツらの力を借りるという手もあるかもしれんな」



 ベルードのその言葉を聞く者は誰もおらず、松明の灯りに照らされてベルードは思慮深く目尻に皺を寄せて考え込むのであった。

 全てはこの国のために。リアライド王国の発展のために。その思いを胸にしながら、そのためならどんな犠牲も許容するという覚悟で。
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