桜の勇者~異世界召喚されたら聖剣に選ばれ、可憐な少女が自分を頼ってくるので守ることにした~

和美 一

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第7章:リアライド王国・冒険編

第76話:ゴーレムの町、トレリカ

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 途中で嵐の団の襲撃といったアクシデントがあったものの、当初の見込み通り、二晩を超えて、歩き続けると、トレリカの町にナハトたちは到着した。

 町の周囲を城壁で囲まれているのはこの世界の町では珍しいことではなかったのだが、入り口の正門でナハトは驚かされることになった。



「うわっ! ゴーレム!」



 先日、戦ったのとさして変わらない外見のゴーレムが警備の兵士と一緒に立っている。

 そんなナハトの様子に警備の兵士は苦笑して「トレリカは初めてですか?」と訊ねてきた。ナハトは頷く。



「それはさぞ驚かれたことでしょう、旅の方。ですが、この町ではこのようにゴーレムが何かをしていることは自然なことなのですよ」



 警備の兵士は笑ってそう説明する。

 ゴーレム作りに長けた町だとグレースから聞いてはいたが、そのゴーレムに警備も任せる程だとは思ってもいなかった。

 正門ではロクに身分をチェックされることもなく、アインクラフト王直々の書状も出番はなく、すんなり中に通してくれた。

 親しみやすい町、と言えば聞こえはいいが、少し不用心な気もしないでもない。

 町の中には豪華でも貧相でもない、普通の家々が並んでいた。

 悪い町ではないな、とナハトが第一印象を抱いていると「ちょっと……あれ、見てよ」とアイネが声をかけてきた。何だろう、と思ってアイネの視線を追う。そこは商店のようだった。だが、



「……ここでもゴーレムかよ」



 商店の店番をしているのは人間ではなかった。

 ゴーレムがカウンターに立って、お客相手にお金を受け取ったり、商品を手渡したりしている。

 ナハトたちがその店に入るとゴーレムは「イラッシャイマセ」と声をかけて来た。声まで発することができるとは。「凄いな……」と言ったのはイーニッドだが、その意見には全員が同意だった。

 店番もこなせる程高度な知能を持ったゴーレムも作り上げることができるとは。

 特に買い物する予定はなかったのだが、こうなってくると気になるものでナハトは適当に陳列されていた治癒の薬草を手に取り、カウンターに運んでいた。

 ゴーレムがそれを視界に捉え、値段を言ってくる。言われたとおりの額を渡すと店番用に作られただけあり、人間の手とさして変わらない五本指の手がそれを受け取り、お釣りを手渡してくる。いやはや、感心するしかなかった。



「アリガトウゴザイマス」



 ゴーレムがそんな声をかけてくる。商品を買った後も物珍しさでしばらく店の中にとどまっていたナハトたちだが、そこに店の奥から店員らしき人間が姿を見せた。

 「いらっしゃいませ!」とその店員は笑顔を見せた。少し安心する。

 ゴーレムに任せた方が利便性は上なのだろうが、やはり、買い物は人間相手にやりたいものだった。



「何かお探しでしょうか?」

「ああ、いや、買い物は済んだんだけどな……」

「はい?」



 店員に少し怪訝そうな目で見られる。やがて、ナハトたち一行が店番のゴーレムに注意を向けていることに店員は気付いたようだった。「ああ、こいつですか」と笑って言う。



「見たところ旅の方のようですし、ゴーレムにはさぞ驚かれたことでしょう。ですが、この町ではこのようにゴーレムに何かをさせるということは不自然なことではないのですよ」

「そうみたいね。でも、たいしたものだわ。土人形にこれだけ高度な知性を与えるなんて」



 アイネが言うが、それはナハトも全く持って同感だった。



「トレリカは研究の町、そして、ゴーレムの町ですからね」



 店員の男は自慢げにそう話す。「よかったら研究区画の方も見て行って下さい。ゴーレムの研究が主ですが、他にも様々な研究がされてますよ」との店員の声に送り出され、ナハトたちは店を出た。



「研究区画、見に行ってみるか?」



 街角を歩きながら、ナハトがそう口にする。



「興味はありますね」

「わたしも見てみたいぞ!」



 イヴとイーニッドが言い、ドラセナやグレースも頷いた。



「わたしもちょっと興味がある」

「トレリカの技術力を見極めておくのも悪くはないな」



 アイネもまた反論はないようだった。それじゃあ、行くか、とナハトは言い、街角の案内板に従い、研究区画へと足を進める。

 研究区画には研究所が立ち並んでいるようで、それまでの住宅街とは少し趣の変わった様子が傍目にも伺えた。

 一番大きな研究所の前まで来て、中に入る。部外者は立入禁止かとも思ったが、中に入ると意外にも研究員たちはナハトたちを歓迎してくれた。



「いらっしゃい。旅のお方ですか?」

「まぁ、そんなところだ。この町のゴーレム研究に興味があってな」

「そうですか。でしたらこの研究所を色々と見て回ると興味深いと思いますよ。一部、関係者以外立入禁止の区画もありますが……」



 まぁ、全て見て回れるのは流石にないだろうとは思っていたので、何も文句は言わず頷く。

 むしろ、一部以外、自由に見て回れることの方が驚きなのだ。

 入り口のエリアを越えて中心部に入ると「お~!」とイーニッドが目を輝かせた。広くスペースの取られた大部屋にゴーレムがいくつも並んでいたからだ。

 既に完成済みで壁に立て掛けられたのもいれば、まだ未完成でテーブルの上に転がっているものもいる。

 研究員たちは何人もいて、慌ただしくゴーレムの製造などを行っているようだった。このような状況、場所で部外者は邪険にされるのが当たり前だと思っていたのだがやはり意外なことに研究員たちはナハトたちを歓迎してくれた。

 手の開いているという若い研究員の一人が名乗り出て、ナハトたちを案内してくれるという。

 マークと名乗ったその研究員にあのゴーレムは家事用に作られているだの、こっちのゴーレムは原型ができたところだの、色々と説明を受ける。

 ナハトたち一行は興味深い話とそれを受け止めていたが、中でもイーニッドは興味津々のようで何事かを何度も訊ねていた。

 あちこち見て回っている内にこの研究所には地下室が設けられていることに気付いた。ナハトたちは地下室も案内してくれないものかと、マークに頼み込んだのだが、申し訳ありませんとの言葉が返ってきた。



「この研究所の地下室は最重要機密が研究されているエリアでして……部外者の方には少し……」



 本当に申し訳無さそうに言う。それなら仕方がないか、とナハトたちも思っていたので気にしないでください、と返す。

 むしろ、重要機密を扱っている研究所にしてはこれまでが自由に見て回らせてもらった方だろう。それからもしばらく研究所を見て回り(イーニッドは終始、目を輝かせていた)ナハトたちは研究所を後にしようとした。

 すると、マークが、「今後、何かあったら私の名前を出してお訊ね下さい」と声をかけてくる。

 親切なその態度に好感を覚えながら、その時は是非、とナハトは声を返して、研究所を後にする。

 他の研究所も周ろうかと思ったナハトたちだったが、ゴーレム研究所を見て回るのに時間を使いすぎてしまったようだ。既に日は西の空に沈みかけていた。

 早めに宿を取っておかないといけない。ナハトたちは研究区画から住宅街のエリアに戻ると適当な宿屋で部屋を取った。ナハトの部屋とドラセナとグレースの部屋、イヴ、イーニッド、アイネの部屋と三部屋も取るので出費もバカにならないのだが、国王直々の支援を受けている旅なのでそのあたりはあまり気にしないで済んだ。

 ほどなく夕食の時間になり、食堂にみんなして集まって食事を取る。



「いやぁ~、今日は楽しかったなぁ!」



 そう言って機嫌が良さそうに運ばれてきた料理をたいらげたのはイーニッドだ。彼女はゴーレム研究にいたく興味を惹かれたらしく、ゴーレム研究所での出来事を口にする。



「まぁ、たしかに興味深かったのは事実ね」

「色んなゴーレムさんたちがいたね」



 アイネとドラセナもそんなイーニッドに応じた。



「戦闘訓練用のゴーレムもいるという話だろう? わたしはそいつらと戦ってもみたかったな」

「やめろ、やめろ。ぶっ壊して、損害賠償を請求されるだけだ」



 イーニッドが目を輝かせて言うのに対してナハトは苦笑いする。



「しかし……最初はゴーレムの研究なんて言うから、どんなもんかと思ったが……案外、平和利用もされてるものなんだな」



 ナハトは感慨深くそう言う。ゴーレムとの初遭遇が嵐の団が生み出した戦闘用ゴーレムとの戦いだったので、そのゴーレムと同類の存在が平和的に活用されているのを見て、思うところがない訳ではなかった。



「何事も使い方次第、ということだろう。ゴーレムの研究も、ドラセナ様の力の研究も……」

「そうだね。わたしの力もこの町のゴーレムみたいに平和的に利用されるのなら嬉しい」



 グレースの言葉にドラセナは笑う。そんな風にゴーレムに関する話をしている内に食事は終わり、各々は自分の部屋に戻る。

 一人部屋をあてがわれるのもすっかり慣れた。この旅のメンバーで男は自分一人だから仕方がないが。

 ナハトはベッドで横になる。何事も使い方次第、か。たしかにそうだな、とナハトは思う。

 ドラセナの力の研究もこの町のゴーレムのように人々の役に立つようにしてくれればいいものだが。

 ナハトたちは気付いていなかった。研究所で立ち入りを禁止された地下の施設。そこでナハトたちを、ドラセナを脅かすような研究が成されていることなど、知る由もなかった。

 張り巡らされた陰謀に気付く余地もなく、ナハトは深い眠りに落ちていくのであった。

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