桜の勇者~異世界召喚されたら聖剣に選ばれ、可憐な少女が自分を頼ってくるので守ることにした~

和美 一

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第7章:リアライド王国・冒険編

第77話:陰謀の包囲網

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 ナハトたちが立ち入りを禁止された研究所の地下区画。そこにそのゴーレムはあった。

 地下二階分が吹き抜けになった空間に安置されたそのゴーレムは全長5メートル近い巨体を誇る。

 ゴーレム一体につき通常一つしか用いられないゴーレムの原核も豪勢にも胸に三つ装備されている。

 通常のゴーレムより明らかに巨大で強力なその姿にベルード伯爵は「素晴らしい」と声をもらした。そんなベルードの相手をするのは昼間、ナハトたちの案内をした若き研究員マークである。

 マークは表情を不安げに染めて、「本当にドラセナ・エリアスや桜の勇者たちを襲うのですか?」と恐る恐ると言った様子で訪ねた。何を今更、と言った顔を作ったベルードはマークを見る。



「彼らがこのトレリカにいる内がチャンスなのだ。ヴァルチザンの連中とも連絡は取った。明日の朝、襲撃をかけるぞ」

「ヴァルチザン帝国の人間と協力するのはいかがなものかと思いますが……」

「君は私を責めたいのかね?」



 眉根を寄せて不機嫌そうに睨んできたベルードにマークはしどろもどろになりながら「い、いえ」と答える。



「ただ日が昇っている時間に襲撃をかけるとこの町の一般人にも被害が出るのでは……と思いまして……」

「仕方があるまい。本来なら今晩に襲撃をかけたかったが、ヴァルチザンの連中と来たら到着は早くても明日になるという。ドラセナ・エリアスや桜の勇者は明日にはこの町を出ていくかもしれない。明日、襲撃をかけるしかないのだ」



 そのためにも、とベルードは巨大ゴーレムを眺める。



「この試作型のゴーレムの力はアテにさせてもらうよ。マーク研究員。報告通りのスペックは発揮できるのであろう?」

「そ、それは勿論……。我々研究員たちが夜も徹して作りましたから」

「うむ。それなら結構」



 いまだ戸惑った表情を見せるマークに対し、ベルードは毅然として言い切ってみせる。



「これも全てはこの国のため、リアライドのためなのだ。何も後ろめたいことを思う必要はない」



 ベルードの言葉に本当にそうなのだろうか、と疑問に思ったマークだったが、それを表に出せるはずもなく、はい、と頷いておいた。









 トレリカの町を目指し、夜を徹した行軍を行っている集団がいた。

 ルゼとリリアーヌ、そして、メリクリウス率いるヴァルチザン、ゴルドニアース傭兵団の軍団だ。本来ならばこんな大人数の人間がリアライド王国の国境内に侵入することなどできないのだが、そこはリアライドの貴族、ベルードが手引きをすることで解決した。

 ルゼもメリクリウスもこれまでの戦いで負った傷は癒えている。万全の体制でドラセナ・エリアスの拉致に望めるものだった。

 先頭を歩くルゼの不機嫌そうな顔に気付き、リリアーヌが訊ねる。



「どうしました、ルゼ? 機嫌が悪いようですが」

「フン」



 ルゼは鼻を鳴らして答える。



「トレリカのゴーレム集団の力を借りるというのが気に食わん。そんなヤツらの力など借りずともオレたちだけでドラセナ・エリアスの拉致は……桜の勇者を倒すことはできる」

「ですが、マインダースの町での戦いでは貴方は敗北を喫しています」



 ルゼがリリアーヌを睨んだ。しかし、それは事実だ。



「確実にドラセナ・エリアスの身柄を確保するためにも、リアライドのベルード伯爵の力を借りることは必要でしょう」

「そうですね、わたしとしても少し不本意なことですが」



 リリアーヌの言葉にメリクリウスが声を重ねる。

 メリクリウスとて本来はトレリカのゴーレム集団の力を借りることなど不本意なことだった。

 自分自身の力で桜の勇者を打ち倒す。そうしたいと思っている。ルゼと同様に。

 それでもメリクリウスは聖桜剣のさらなる力を引き出した桜の勇者に完敗したのだ。

 自分一人の力だけで桜の勇者を倒し、ドラセナ・エリアスを手に入れるなどとは言えなかった。

 ルゼはさらに不機嫌そうに鼻を鳴らす。



「まぁ、いい。オレは楽しい戦いができればそれでいいんだ。ゴーレムの軍団が戦いに紛れ込もうともオレの邪魔をしないのであればそれでいい」



 本当にこの男は……という目でリリアーヌはルゼを見る。味方のはずのゴーレムでさえ、邪魔だと言って斬り捨てかねないな、と思う。

 しかし、と思い直す。今回こそはドラセナ・エリアスを手に入れる。

 その算段でリリアーヌたちは動いている。トレリカの町のゴーレム、その中でも戦闘用のゴーレムの力を借りての襲撃。

 いかに桜の勇者といえどもこれを防ぐのは難しいはずだ。ゴーレムだけでも大事だと言うのに、そこにゴルドニアース傭兵団も、ルゼも、メリクリウスも加わるというのだ。

 報告を聞く限り、ドラセナ・エリアスと桜の勇者一行の中でルゼやメリクリウスに対抗し得るのは桜の勇者一人だけと聞く。

 ゴーレムたちが襲撃をかけている隙に主戦力のルゼとメリクリウスがドラセナ・エリアスを狙う。数の面でも、質の面でも、これまでにない大規模な襲撃になるだろう。

 なんとしてもドラセナ・エリアスを手に入れて見せるという思いを現れでもある。



「さあ、桜の勇者、この襲撃からドラセナ・エリアスを守り切れますか……?」



 リリアーヌは虚空に向けて訊ねる。流石の桜の勇者と言えども、今回こそは無理だろう。

 その思いを抱きながらも決して慢心しない。全力をもって事に当たるのだ。リリアーヌたちはトレリカの町を目指して足を進めるのであった。







 翌日。ナハトは自分に割り当てられた部屋で目を覚ました。部屋のベッドはペルトーセのベネディクトゥス家の屋敷の客間やアインクラフトの王城の客間と比べれば安物ではあったが、それでも、グッスリと熟睡することができた。

 朝日差し込む窓際に立つと背中をグッと伸ばしてみせる。両腕を上に突き上げ、背筋を伸ばす。強張っていた筋肉がほぐれ、一気に快感がナハトの中を湧き上がる。

 立て掛けていた聖桜剣をベルトで腰に止めるとナハトは部屋を出た。

 今日にはこのトレリカの町を出ることになっている。人々の生活を支えるゴーレムたちやその研究所など見るべきところは多い町だったが、リアライドの王都を目指している身、あまり長居もできない。

 朝食を食べたらすぐに出発する。そういう風に昨夜、みんなで決めたことだった。

 この町のゴーレム研究にいたく好奇心を刺激されたらしいイーニッドは少し残念そうな顔をしていたが。

 食堂にみんなして集まり、他愛のない話をしながら、朝食を食べる。みんな異常はなさそうでこれから旅立つにあたって問題はなさそうであった。

 そんな風にして朝食を食べ終わり、食後のコーヒーを飲んでいた時だった。



「た、大変だーーーっ!」



 素っ頓狂な叫び声を上げて、宿屋の外から男が入ってくる。何事かとナハトたちは身構えて、その男に視線を向けた。



「どうかしましたか?」

「あ、ああ……ゴーレムが……戦闘用のゴーレムが暴走している!」



 ナハトの問いかけに男は答える。戦闘用のゴーレムが暴走? それは一大事ではないのか? そう思い、ナハトたち一同の間に緊張が走る。



「どういことですか?」

「なんでか分からないけど、研究所に大量に保管されていたゴーレムたちが一斉に町を襲いだして……アンタら強いんだろ? なんとか止めてくれよ!」



 何故、この男がナハトたちの強さのことを知っているのか。それを疑問に思う暇はなく「わかりました」とナハトは答える。

 戦闘用のゴーレムはこの町に来る途中の森の中で戦ったことがあるが、一般人に相手が務まる強さではない。自分たちが止めないと、その思いでナハトたちは各々の武器を手に宿屋を飛び出した。

 平和なはずのトレリカの町が大混乱に陥っていた。戦闘用ゴーレムたちは好き勝手町を襲っているらしく、住宅も商店も見境なしだ。その内、一体のゴーレムに子供が追いかけられていた。

 まずい! ナハトはそう思い聖桜剣を抜き放ち、前に飛び出す。ゴーレムが振り上げた腕が子供に振り下ろされる……といったところで聖桜剣を突き出し、その刀身でゴーレムの腕を受け止める。「早く逃げるんだ!」と子供に声をかけ、ゴーレムが腕を引いたのを見る。

 敵対対象として認識されたのであろう。ゴーレムがナハトに向けて攻撃を仕掛けてくる。ナハトは聖桜剣の想力を解放した。薄紅色の刀身が黄金の光刃と化し、ゴーレムに立ち向かう。

 この戦闘用ゴーレムの暴走に端を発した陰謀に満ちた長い戦いの一日が始まったことにナハトたちはまだ気付いていなかった。

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