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ハインリヒ卿ヴァッハトという男②
しおりを挟む「ど……どうして説明なんかしなきゃいけねぇんだよ」
まだ、目覚めたばかりということもあり脳がはっきりと覚醒していない。だから視界に映るヴァッハトに対し、どうして魔王の寝室に入って来たのかだとか、どうしてそんな深刻な表情を浮かべているのかと、色々と問いただしたくなったところでヴァッハトからこう伝えられる。
「どうしてもこうしてもじゃない。新米魔王がこんな時間に魔力を部屋の外に漏らし、城内の家臣たちに不安を与えているからだ。お前は自分の魔力が他の魔族たちに、影響を与えてしまうということを自覚しろ」
「……は?魔力?」
思ってもいなかったヴァッハトのその発言におれは目をぱちくりとし、唖然とさえしてしまっていればあからさまな大きなため息が、目の前の男から浴びせられてしまう。
それにはムッとしキッと睨みつけようとしたところで突拍子もなく、顎をぐいっと掴まれてしまう始末。
「とにかくだ、そのだだ漏れの魔力を一旦私が吸収する」
魔力を吸収?といくつもの疑問符が頭上に浮かび上がったところで、目の前のヴァッハトがおれの思いもよらない行動を実行し始める。と、いうのもーー
「んんっ!?!?」
しっかりと顎を掴まれてしまっているものだからいきなり口を合わせられるーーもといキスされてしまっても、ろくに抵抗出来るわけもなく。どんどんどんとヴァッハトの分厚い胸板を叩くも、びくともしない。
(ありえねぇ!)
別にこれがファーストキスだとは言わないが男同士でのキスはこれが初めてには間違いなく。おれの黒い瞳が瞳孔まで、しっかりと開き切っても尚〝魔力の吸収〟は終わらない。
「む……新米魔王の癖に前の魔王よりも、魔力が膨大だとは」
何やら手こずってでもいるのか一旦口が離れたと思いきや、息継ぎなしにまたむちゅりと口を合わせられたものだから、それにはもうなんとも言えない気持ちになり。それに加えヴァッハトは〝手こずっている〟ことから、最終手段だとばかりに今度は無理矢理、おれの唇を舌でこじ開けてくるなりぬるりっと分厚い舌を入れ込んでくる。
「んンう!?」
本当にこんなのが魔力の吸収なのか!?と疑いの気持ちすら膨れ上がる中で、目的とは裏腹にこの場にぴちゃぴちゃと、やらしい水音が響き渡っていく。
それと同時に舌同士を絡められてしまっているものだから、相手が男で今のところ好印象なところがないヴァッハト相手であっても、おれのこの身体は欲に素直なことに、ピクンピクンと反応しており。
次第に下半身の中心が熱くさえなってくる。
「ふっ、う、く、ぁ」
はふっはふっと熱い吐息さえ漏れ始めたところでつうーっと、唾液の糸を引きながらもヴァッハトがゆっくりと口を引き離していけば、体温が上がってしまったおれとは違って、今の行為になんの影響も受けてないとばかりの余裕の表情に、おれの顔は忽ち、カッと熱くなってしまう。
「あ、アンタなぁ!」
一体何をしてくれてんだ!と悪態をつこうとしたところで、「これで先ほどよりかは城内に充満した魔力が落ち着いたな」と、任務を果たし切ったとばかりの表情さえ浮かべては、謝罪のひと言もなしに、カツカツとこの場から立ち去ってしまってしまう。
当然、おれの中でのハインリヒ卿ヴァッハトは今日をもって〝最悪の野郎〟というレッテルがはりついたのであった。
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