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婚約者②
しおりを挟む「なんなんだよ!あのお人形様は!」
ふざけんなよ!とぼすんっぼすんっと自室の寝台の枕にやつ当たる。こうでもしておかないとムカムカとした気持ちが収まらない。
「み、みすぼらしいって?このおれが?……か、顔はまあそこまで良いとは自分でも、思ってはねぇけど?でも、清潔感とかならわりと自信あんのに!」
誰かここにツッコミ役が居たら〝そこかよ〟と言われてしまうところなのだろうが、どうにもさっきのことが、インパクトがあり過ぎておれの中での怒りが収まらない。
「ふっざけんなっつーの!」
最後にこれでもか!というくらいに手にしていた枕を適当に壁に放り投げる。
ドゴッ、ドシャンッ!!
「へ?」
怒りの一撃だ!と思っていたのは事実だったのだが放り投げたそれが何やら、おれの魔力の所為からかただの柔らかい枕だったものが、鉄と言えるほどの硬度に進化し、部屋の壁を破壊してしまったらしい。
おれの部屋の隣は執務室に繋がっていたものだからこれはもう、壁を破壊してしまった焦りだけではなく、別の焦りも生まれ始める。
(や、やっべぇ!!)
あまりの焦りに思考がちっとも回らず。もうこれはここに隠れるしかない!と、慌ててベッドの中に潜り込むも、やはりこんなところに隠れても何の意味もなさなかったらしく。隣の執務室からガタッと椅子の音を立てて、こちらにツカツカとやって来る足音が聞こえて来る。
(こ、これは半日、いや、一日中説教される奴なんじゃ!?)
執務室に今誰が居るのかは分かり切っていたこともあり。どんな顔して謝罪するべきなのかと掛け布団の中であたふたしていれば呆気なくも、それはガバッと取り上げられてしまう。
「おい、なんだ、今のは」
「い、いや、なんだと言われましても……見たまんまというか、そのー……」
焦りが極限になり過ぎてとんでもなくどもった声に右をチラチラ、左をチラチラと目線すら泳いでいれば、仁王立ちし見下ろして来ていたハインが何やら唐突に、わしっとおれの頭を掴んだ。
「えっ」
(何?おれ、これもしかして今からサッカーボールみたいに鷲掴みされてるけど、このままどこかに投げられちゃうやつ?)
ハインさん一体何をお考えで……とおれの中で一気に、そんなことが脳内でぐるぐるしていればそのまま、頭をくしゃくしゃと撫でられてしまう。
「は?」
一体、今、この瞬間、何が起きたと言うのだろうか。
思考が追いつけないと困惑していればそのうちストンと、おれの隣に腰掛けたハインがいつになく和らいだ声で、声を掛けてくる。
「待ち侘びていたのなら、こちらまで来て呼びに来れば良かっただろう」
(待ち侘びていた?ーーって……あ、)
あまりハインの笑顔なんて拝めない、いや、これまで一度も見たことがなかったわけだが、どうやらハインの中ではおれが、ハインがいつまでもここに来ないから、だだをこねた程度に受け取っていたらしく。
その解釈に至った途端、一気に顔が熱くなってしまう。
(やっべぇーー!)
なんだこれなんだこれと赤くなった顔を両手で覆ってはおれの中で、プチパニックが湧き起こる。
(それに……今、一瞬だけくしゃって笑ったようにも見えたのは……気の所為じゃねぇ、よな?)
もう今のは目にやきつけておこう!とさえ自分の中で決意表明が起こるもので。
ハイン相手に心臓がいくつあっても足りないとばかりに、ドキンッドキンッと一人騒がしくもあれば、ここでハインの顔が突然ドアップになる。
「うえっ!?」
さっきからずっと変な声を出してしまっているおれに対し、その辺りは特に何も気にしていないようで。
それよりも、と、ばかりにハインの口から思ってもいなかった言葉が告げられる。
「レオンハルト卿の婚約者というのは私の家とあちらの家が勝手に、決めていることだから気にするな」
「え?……あいつって本当にハインの婚約者だったわけ?」
「ああ」
なるほど、婚約者か、婚約者様ね、あのお人形様はハインの婚約者様だったわけか。
「婚約者ーー!?」
「うるさいぞ」
ハインの耳がキーンとなる程思わず叫んでしまったことから、慌てて謝るなりすぐに自分の中でまた反芻してしまう。
クロイツが以前、ハインは愛だとかそういうことに興味がないだとか、なんとか言っていたものだから、勝手にそんな存在も居ないとばかり思ってしまっていた。だがここでよくよく考えてみると、貴族の閣下で尚且つ王佐っていう立場上、居ないのも可笑しいのかもしれない。
けれどだ、相手は眉目淡麗と言えど上から下まで見返しても、れっきとした男だったものだからつくづくこの世界の当たり前に、今日も今日とて驚かされる。
「もしかして、魔族は男同士でも子供を作ることができたりしてーー」
「何を今ーー」
「あー!あー!今はそれは聞きたくないから今のはストップ!」
危ねぇ危ねぇ!ととりあえずハインの言葉を慌てて遮ることにする。
もし子供も作れるのも当たり前だと知ってしまったら色々と頭の中が、パンクしてしまいそうになるからだ。
(ん?でもさっきハインは家同士が決めたことだから気にするなとか、なんとか言ってたような)
おれの百面相をいつものことだと眺めてきてもいたハインを横目に、おれはもしかしてさっきのは気を遣ってくれたのかと思うと、なんだか胸の中が温かくなる。
以前よりは確実に縮まったハインとの距離。別に恋人だとかそういう関係ではないにしろ、おれがハインを特別に思っているのは、もうとっくに自覚してしまっているのだ。
とりあえずハインにはあの婚約者様とどうこうなるつもりはないのであれば、特に気にする必要もないのかもしれない。
そう思えれば少しもやもやしていた気持ちが晴れるというもので。今更になって隣に居合わせているハインを改めて意識してしまう。
(今日もするんだよな?)
最近、この時間が楽しみになってきている自分に複雑な心境ではあるが、さっきの婚約者の登場もあり、すっかりいつもの行為に至る時間よりもとっくに時間が経過してしまっていた。
自分からは中々上手く言い出せず。でも、ハインのいつもの手に触れてもらいたいと、思ってしまえばおれはさりげなく、とんっとハインのしっかりとした肩に頭を預けてみることにした。その直後ちらりと、ハインの視線が上からあてられたがここは恥ずかしがらずに、ハインがどう動くのかを様子見することにした。
するとだ、そのうちハインの手がするりとおれの腰に回ってくるなり、いつもの心地良い低音ボイスが、耳元でこう伝えてくる。
「待ち遠しかった」
それはもう告白なんじゃないのかなと思えてしまうほど、以前までのあの冷徹なハインと同一人物に思えないほどに、甘さをひしひしと宿しており。心がざわつきっぱなしのおれはというと、当然この身を預けてしまうことにした。
ーーーー
「毎日、ここを慣らしているだけあって抜き挿しだけでもう、気持ちが良さそうに伺えるな」
「ン……は、あ」
本当に以前まではもっと業務的に感じていた行為だったというのに、おれの胎内に指をつぽっつぽっと抜き挿し、してきているハインのその指の動きはとても優しく感じる。
それはおれがハインを特別視しているからそう思えるだけの可能性も、あるかもしれないが。
「そ、そういうことは言わなくて……いいってば」
「何故だ」
「そ、それも言いたくねぇの!」
「そうか」
少々堅物が過ぎるところがあるがいつだって真剣なハイン。そういうところが毎回おれをドキドキさせるんだと、ある意味恨めしくさえ思うがもっともっと、ハインに色んなものを与えられたいというのも事実。
はじめは一本の指しか出入りしていなかったおれの胎内も、今や日頃の成果が成してか二本三本とぎっちり咥え込んでいる。
指だけでまだ圧迫感を感じられることがあるというのに、もし今後もっと関係が発展してハインのものを受け入れることに、なるとしたらどうなってしまうのか。
きっと、見るからに大きそうなアレが容易く想像出来る。
「何やら、今日はやけに上の空になることが多いが?」
「へ?」
唐突なハインのその言葉に思わず口を閉じてしまう。だって、ぼうっとしてしまうのは大抵頭の中はハインのことで、いっぱいいっぱいになっているからだ。
だが、いかんせん流石に恥ずかし過ぎてそれは馬鹿正直には伝えられないわけで。ここはハインの機嫌を損なわないように、今日はおれからも何かひとつアクションを起こすことに決めた。
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