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本編
彼の変わった特技 #2
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*
手を繋いでいると、身長も異なれば歩幅も、歩くスピードも違うので、なんだか歩きづらい。だけどこれならシアンを置いて行ってしまうことはない。触れられ、ぎゅっと引き寄せられるだけでなんだか......いっぱいいっぱいになってしまうんだけど。
シアンが距離を縮めてくれるから、いつもこうしてくっついて居られるけど、俺からも勇気が出せたら。そう思ってしまう。
「シアン」
「ん?」
「ありがとうな」
黄色の目がしぱしぱと瞬きし、驚いたのかと思うとくすっと笑った。
「なんでよ。オレも行きたいって言ったろ?散歩しよ散歩」
「うん」
あぁ、その笑顔が眩しい。ずっと見ていたい。
*
「このあたりだ」
「......へぇ。空き家......にしてはきれい?」
「あいつは綺麗好きだからな」
狭いからと一旦手を離す。シアンは中に踏み込んで、ずんずん進んで行ってしまう。あっ、その先は......
「シアン、下見て......!」
「へぁっ!?」
聞いたこともないシアンの悲鳴。きゃうん、と悲しげな鳴き声。派手によろけるシアン。助けた方が......駆け寄るも間に合わない。
ぼすん。
「うぐぅ......」
凄惨な現場を目の当たりにする。下、と注意したのは他でもない、白い大犬が床で眠っていたからだ。その尻尾を踏んづけ、滑って転んだシアンは犬を下敷きに......
「シルフ、たすけて。起き上がれない」
下敷きに、というより犬に埋もれていた。
綿の山かと思うほどこんもりと大きな犬の白い毛並み。シアンの身体はそれを押しつぶすどころか、半分くらい毛並みと肉の間に埋もれて、むしろシアンの方が潰されている。......クッションよりも柔らかそうだ。
「うん......掴まって」
身体じゅうにくっ付いた毛を払い落とすシアンに、彼はわんわんと吠えて抗議している。
「尻尾が痛かったって。謝って」
「えっオレ?寝てたのが悪......ごめんね」
シアンは頭を撫でようとするが、やっぱり威嚇されてしまう。怯えるシアンを庇うように、俺が彼の前にしゃがんで顎を撫でる。
「なんだよ、せっかくまた会ったねって挨拶したかったのに。......それで大犬様は、どこまでが身体なの」
そうだった。それが本題だった。彼はシアンのクッションになった通り今や太りに太って大きな丸い塊と化しており、とても犬には見えない。そうなったのは多分、食べ物の取り過ぎだと思うのだが......
「全部が身体だ。......それで、誰に食べ物をもらったんだ?」
彼に問いかける。犬の言葉など知らないが、彼にはこれで伝わっているらしい。
「なぁ......そんな事を聞いてさ、分かるもんなの?」
「いつも言いたいことは分かるんだが......この質問にだけは、だんまりなんだ」
そう、『誰に食べ物をもらったのか』が分かれば太った原因も、と思ってこれまでも聞いてみたことはある。でもその度に......今のように彼は、尻尾をぱたんと下ろして、表情を無にしてしまう。まるで何も漏らさないと我慢しているように。
「うーん......確かに鳴き声もあげないね」
何か動きがあるのを待って、俺とシアンはその場に座った。シアンはさっき服についた毛を集めて球体に丸めている。一部を耳のように尖らせたりもして。まるで小さくなった彼のよう......
わん、わんわん!
そのとき、急に彼が吠え出した。一声で止まず、何度も。その目はシアンの手の中の毛玉に向いている。
「えっ......ええっ?またオレ?シルフぅ、なんて言ってるのよ」
「ええと......」
別に俺は吠えている声の意味がわかる訳ではない。ただ雰囲気で気持ちを察したりしているだけなのだ。これは......そう......
「子供が、盗まれたらしい」
手を繋いでいると、身長も異なれば歩幅も、歩くスピードも違うので、なんだか歩きづらい。だけどこれならシアンを置いて行ってしまうことはない。触れられ、ぎゅっと引き寄せられるだけでなんだか......いっぱいいっぱいになってしまうんだけど。
シアンが距離を縮めてくれるから、いつもこうしてくっついて居られるけど、俺からも勇気が出せたら。そう思ってしまう。
「シアン」
「ん?」
「ありがとうな」
黄色の目がしぱしぱと瞬きし、驚いたのかと思うとくすっと笑った。
「なんでよ。オレも行きたいって言ったろ?散歩しよ散歩」
「うん」
あぁ、その笑顔が眩しい。ずっと見ていたい。
*
「このあたりだ」
「......へぇ。空き家......にしてはきれい?」
「あいつは綺麗好きだからな」
狭いからと一旦手を離す。シアンは中に踏み込んで、ずんずん進んで行ってしまう。あっ、その先は......
「シアン、下見て......!」
「へぁっ!?」
聞いたこともないシアンの悲鳴。きゃうん、と悲しげな鳴き声。派手によろけるシアン。助けた方が......駆け寄るも間に合わない。
ぼすん。
「うぐぅ......」
凄惨な現場を目の当たりにする。下、と注意したのは他でもない、白い大犬が床で眠っていたからだ。その尻尾を踏んづけ、滑って転んだシアンは犬を下敷きに......
「シルフ、たすけて。起き上がれない」
下敷きに、というより犬に埋もれていた。
綿の山かと思うほどこんもりと大きな犬の白い毛並み。シアンの身体はそれを押しつぶすどころか、半分くらい毛並みと肉の間に埋もれて、むしろシアンの方が潰されている。......クッションよりも柔らかそうだ。
「うん......掴まって」
身体じゅうにくっ付いた毛を払い落とすシアンに、彼はわんわんと吠えて抗議している。
「尻尾が痛かったって。謝って」
「えっオレ?寝てたのが悪......ごめんね」
シアンは頭を撫でようとするが、やっぱり威嚇されてしまう。怯えるシアンを庇うように、俺が彼の前にしゃがんで顎を撫でる。
「なんだよ、せっかくまた会ったねって挨拶したかったのに。......それで大犬様は、どこまでが身体なの」
そうだった。それが本題だった。彼はシアンのクッションになった通り今や太りに太って大きな丸い塊と化しており、とても犬には見えない。そうなったのは多分、食べ物の取り過ぎだと思うのだが......
「全部が身体だ。......それで、誰に食べ物をもらったんだ?」
彼に問いかける。犬の言葉など知らないが、彼にはこれで伝わっているらしい。
「なぁ......そんな事を聞いてさ、分かるもんなの?」
「いつも言いたいことは分かるんだが......この質問にだけは、だんまりなんだ」
そう、『誰に食べ物をもらったのか』が分かれば太った原因も、と思ってこれまでも聞いてみたことはある。でもその度に......今のように彼は、尻尾をぱたんと下ろして、表情を無にしてしまう。まるで何も漏らさないと我慢しているように。
「うーん......確かに鳴き声もあげないね」
何か動きがあるのを待って、俺とシアンはその場に座った。シアンはさっき服についた毛を集めて球体に丸めている。一部を耳のように尖らせたりもして。まるで小さくなった彼のよう......
わん、わんわん!
そのとき、急に彼が吠え出した。一声で止まず、何度も。その目はシアンの手の中の毛玉に向いている。
「えっ......ええっ?またオレ?シルフぅ、なんて言ってるのよ」
「ええと......」
別に俺は吠えている声の意味がわかる訳ではない。ただ雰囲気で気持ちを察したりしているだけなのだ。これは......そう......
「子供が、盗まれたらしい」
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