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178、たった一歩の距離が
目の前に立つユキヒラに驚いていると、ユキヒラはニヤリと笑って俺とヴィデロさんを交互に見た。
今日は王宮クエストなのかな、なんて思いながら俺も挨拶を返す。
「ってことで、俺が宰相様の所に連れてくぜ。でも幸運は悪いが隣の控室にいてもらうことになる。マック一人だとよ。わかったら着いて来い」
カツン、と足音を響かせて、ユキヒラが踵を返す。
ユキヒラの後を追うと、ユキヒラが案内がてらゆっくり目に進んでくれた。
「ここから曲がると食堂に着く。飯はまあ豪華だ。金もとられねえから関係者には嬉しい。そこから先は官僚たちが住む部屋がある。要するに裏方だな。入るなよ。気難しい奴に切り捨てられるぞ。でもって、そっちには外に抜ける階段がある。覚えて置けよ。非常口だ。何か所か非常口みたいなのはあるが、ここに勤めてる奴の方がそこらへん詳しいから、もし追われたら非常口はまず封鎖されてると見ていい。正面から堂々と逃げろ。でもって、この奥を曲がるとほんとの裏方っていうかここで下仕事してる奴らの居住区。三階から上は貴族系の奴らの居住区がある。王様に御目通りしたい場合はこっちじゃなくて正面にあったデカい階段から上がっていくが、何回か尋問がある。アポなしじゃまず上まではたどり着けねえってことは覚えておけ」
ひたすら道を説明していくユキヒラに、ピンとくる。ユキヒラもユキヒラで何かクエストを受けてるんだ。きっと道案内もクエストの一つなんじゃないかな。そこまで矢継ぎ早に言われても、覚えるの辛いよ。マップ機能は生きてるから来た道だけはしっかりとマッピングされてるのが救いってところだ。
「お綺麗な服を着てる奴が通るときは、ちょっと頭を下げて避ける。目を合わせない方がいい。目があっただけでいちゃもんつけてくるめんどくさい奴もいるからな。それと、ちゃんとセキュリティみたいな物が城にはかかってるから、外に面した窓とかを割ったら近衛騎士が来る。よほどの理由がないと拘束が解けないから気を付けろ」
「うええ、お城ってめんどくさい……」
ユキヒラの説明を聞いていて、段々としかめっ面になっていく。よくまあそんなところで活動してるよなユキヒラは。俺だったら遠慮したい。
「まあそういうな。それに見合ったレア報酬とかもここなら結構ゲットできるんだよ」
「ユキヒラは今レア報酬付きのクエスト中なのか?」
「まあな」
軽く答えたユキヒラは、これ以上訊くなと言っているようだった。
ヴィデロさんはただ黙ってユキヒラの説明を聞いている。
何度目かの角を曲がり、階段を上り、たまに壁際に寄って頭を下げて貴族をやり過ごし、だいぶ歩いたところで、ユキヒラが足を止めた。
「マック、大分城のマップは埋まったか?」
「結構埋まった。……もしかして、マッピングさせてくれてたの?」
「さてな。ちょっとここの部屋に寄るぞ」
俺の疑問を軽く流し、ユキヒラは真横のドアを指さした。今まではずっと廊下を進んでいたから、部屋に入るのは初めてだった。
「ここにな、近衛騎士団の鎧が置いてあるわけよ。いいか、幸運はこれを着ろ。城の中が格段に歩きやすくなる。どこにいてもおかしくねえからな。マック、何で俺がお前らの案内をしてるかわかるか?」
「内部にも色々勢力があるから?」
「半分正解ってところだな。いつもは引きこもってる教皇ってやつが、今日に限って元気なのが気になるって宰相が騒いでてよ。そんな中のマックのアポイントだろ。マックが何かヤバいもんを作ったんだと当たりをつけて俺を使いに出したわけよ。俺は『聖騎士』特性で本質をある程度見極められるっていうのがあるからな。何かに惑わされることだけはねえんだ。知らずに悪に加担する、とかな」
教皇が動いてるって、やっぱりどこかから情報が漏れたんだ。でも教会が動くって、結構詳しい内容まで洩れちゃったってことかな。俺が明かしたのは信頼できる人だけのはずなんだけど。まあ、今そこを気にするのはやめにして、なんとしても宰相の人にレシピと現物を伝えないといけない。
ヴィデロさんが近衛騎士の鎧を身にまとっている間、そんなことを考えて唸っていた俺は、ふと顔を上げた瞬間目に入った光景に、思わず声をなくした。
白地に金と青の模様が入った鎧を身に着け、深紅のマントを羽織ったヴィデロさんは、とてもとても神々しくて。
「……かっこいい」
思わずつぶやいた言葉に、ヴィデロさんが苦笑した。
どんな鎧も似合うとは思っていたけれど、深い緑の瞳と綺麗な金髪が白い鎧によってとても引き立ち、この世の物とは思えない美しさを醸し出していた。流石美形。ほんとかっこいい。心臓止まりそう。好き。
「マックー? そろそろ戻って来いよ」
呆れたようなユキヒラの声でハッと我に返る。でもそっちに目を向けると途端に魅了される俺。だってほんとに素敵すぎるんだもん。抱いて。
「涎垂れそうな顔してるよな、マック」
「俺の鎧じゃないからなあ。今度こんな感じの鎧を買うかな」
「辺境に売ってたぜ、白基調の鎧。ここまで精密じゃねえけど。まあ、お高かったな」
「辺境か……馬で行ったらここからどれくらいかかるかな」
「マジで手に入れる気か?」
「だってあの顔、可愛いだろ。全身で「好き」って言われてるみたいですごくいい」
「あー、はいはい」
ユキヒラとヴィデロさんの言葉が耳に入り、俺はひそかに辺境に向かおうと心に決めたのは秘密だ。白い鎧を買ってプレゼントしよう。絶対に。
胸を高鳴らせている間に、ヴィデロさんは頭に兜を被り、面を下ろした。これで傍目では誰かわからなくなったけれど、面の間から見える深緑の瞳はしっかりとヴィデロさんでホッとする。
鎧を着て歩く二人の間を歩いて、またも廊下を進む。
宰相は毎日この長い道のりを歩いて仕事場に行くのかな。大変だな。それとも直通とかもあるのかな。
絨毯の敷かれた廊下は、金属性の鎧ですら足音を消してしまう。騒音緩和にはすごくいいけど、誰かが近付いても気付かないんじゃないかな。
なんて思った瞬間、足に何かが絡みついた気がした。
足元を見ても何もない。数歩進んでも違和感がないので遅れないように足を速める。
二人が廊下を曲がり、たった一歩だけ遅れて俺も曲がろうとした瞬間、誰かの声が微かに聞こえて、身体が壁に貼り付けられた。目の前に薄い膜のような物が張られている。
「……っ」
「闇の聖霊よ、このうるさい口を塞ぎその耳障りな甲高い声を黙らせろ、沈黙サイレント」
腕を抱き込まれ、口を押えられて、耳の真横で小さく呪文を唱えられる。
何かが身体の中を流れて、口を押えられていた手が静かに離される。プハッと息を吐いて、声を上げ……ようとして、全く自分の口から音が発せられてないことに気付いた、
目の前をユキヒラとヴィデロさんが俺の名前を呼びながら走っていく。
二人は真横に俺がいることに全然気付いていなかった。隠蔽系?
ここだよ! と声を出そうとしても全く声帯が反応しない。これは呪いで沈黙に掛かった時と同じような感じだった。
首を動かそうにも、がっしりした腕に掴まって身動きも取れず、足が太ももから足首まで何かに拘束されたみたいに動かない。もちろん腕で魔法陣を描くことなんてできない。
暴れようと力を入れてみても、全くびくともしなかった。
目の前の扉を開けて、ユキヒラが中を覗いている間、ヴィデロさんが廊下を警戒している。そして次の部屋を開けてユキヒラが中を覗いた瞬間、俺は後ろの奴にユキヒラが最初に確認した部屋に連れ込まれた。
「マック! どこだよ!」
「マック! 何でこんな一瞬にして……っ!」
「隠蔽とか使われてるんだよ! 畜生、まんまと出し抜かれたぜ……!」
廊下から二人の切羽詰まった声が聞こえて来る。
すぐ近くにいるよ! 叫んでも全く声にならないジレンマに、ギュッと手のひらを握りしめる。
こいつから離れたら少なくとも隠蔽は解けるはずだから、ユキヒラのマップに俺の表示が出るはず。
とにかく離れないと。と力の限り暴れ、拘束されたままの両足を振り回し、男の向こう脛を蹴ることに成功する。が、舌打ちと共に足を絡め捕った物と同じような目に見えない糸で手まで拘束されてしまった。しかも後ろ手。
バランスを崩して倒れ込んでも、下が柔らか絨毯のせいで音も立たない。倒れても隠蔽の範囲なのが悔やまれる。このまま転がって逃げれば何とか。と肩に力を入れた瞬間。
「闇の聖霊よ、眠りに見放されたこの者に深い深い眠りの慈悲を与えよ、深層睡眠」
あ、やばい、眠らされる。
呪文が耳に入った瞬間心の中で警鐘が鳴ったけれど、対抗する手立てを持たない俺は、ただただ薄れていく意識の中目の端に映ったボルドー色のローブを瞼に焼き付けるのだった。
今日は王宮クエストなのかな、なんて思いながら俺も挨拶を返す。
「ってことで、俺が宰相様の所に連れてくぜ。でも幸運は悪いが隣の控室にいてもらうことになる。マック一人だとよ。わかったら着いて来い」
カツン、と足音を響かせて、ユキヒラが踵を返す。
ユキヒラの後を追うと、ユキヒラが案内がてらゆっくり目に進んでくれた。
「ここから曲がると食堂に着く。飯はまあ豪華だ。金もとられねえから関係者には嬉しい。そこから先は官僚たちが住む部屋がある。要するに裏方だな。入るなよ。気難しい奴に切り捨てられるぞ。でもって、そっちには外に抜ける階段がある。覚えて置けよ。非常口だ。何か所か非常口みたいなのはあるが、ここに勤めてる奴の方がそこらへん詳しいから、もし追われたら非常口はまず封鎖されてると見ていい。正面から堂々と逃げろ。でもって、この奥を曲がるとほんとの裏方っていうかここで下仕事してる奴らの居住区。三階から上は貴族系の奴らの居住区がある。王様に御目通りしたい場合はこっちじゃなくて正面にあったデカい階段から上がっていくが、何回か尋問がある。アポなしじゃまず上まではたどり着けねえってことは覚えておけ」
ひたすら道を説明していくユキヒラに、ピンとくる。ユキヒラもユキヒラで何かクエストを受けてるんだ。きっと道案内もクエストの一つなんじゃないかな。そこまで矢継ぎ早に言われても、覚えるの辛いよ。マップ機能は生きてるから来た道だけはしっかりとマッピングされてるのが救いってところだ。
「お綺麗な服を着てる奴が通るときは、ちょっと頭を下げて避ける。目を合わせない方がいい。目があっただけでいちゃもんつけてくるめんどくさい奴もいるからな。それと、ちゃんとセキュリティみたいな物が城にはかかってるから、外に面した窓とかを割ったら近衛騎士が来る。よほどの理由がないと拘束が解けないから気を付けろ」
「うええ、お城ってめんどくさい……」
ユキヒラの説明を聞いていて、段々としかめっ面になっていく。よくまあそんなところで活動してるよなユキヒラは。俺だったら遠慮したい。
「まあそういうな。それに見合ったレア報酬とかもここなら結構ゲットできるんだよ」
「ユキヒラは今レア報酬付きのクエスト中なのか?」
「まあな」
軽く答えたユキヒラは、これ以上訊くなと言っているようだった。
ヴィデロさんはただ黙ってユキヒラの説明を聞いている。
何度目かの角を曲がり、階段を上り、たまに壁際に寄って頭を下げて貴族をやり過ごし、だいぶ歩いたところで、ユキヒラが足を止めた。
「マック、大分城のマップは埋まったか?」
「結構埋まった。……もしかして、マッピングさせてくれてたの?」
「さてな。ちょっとここの部屋に寄るぞ」
俺の疑問を軽く流し、ユキヒラは真横のドアを指さした。今まではずっと廊下を進んでいたから、部屋に入るのは初めてだった。
「ここにな、近衛騎士団の鎧が置いてあるわけよ。いいか、幸運はこれを着ろ。城の中が格段に歩きやすくなる。どこにいてもおかしくねえからな。マック、何で俺がお前らの案内をしてるかわかるか?」
「内部にも色々勢力があるから?」
「半分正解ってところだな。いつもは引きこもってる教皇ってやつが、今日に限って元気なのが気になるって宰相が騒いでてよ。そんな中のマックのアポイントだろ。マックが何かヤバいもんを作ったんだと当たりをつけて俺を使いに出したわけよ。俺は『聖騎士』特性で本質をある程度見極められるっていうのがあるからな。何かに惑わされることだけはねえんだ。知らずに悪に加担する、とかな」
教皇が動いてるって、やっぱりどこかから情報が漏れたんだ。でも教会が動くって、結構詳しい内容まで洩れちゃったってことかな。俺が明かしたのは信頼できる人だけのはずなんだけど。まあ、今そこを気にするのはやめにして、なんとしても宰相の人にレシピと現物を伝えないといけない。
ヴィデロさんが近衛騎士の鎧を身にまとっている間、そんなことを考えて唸っていた俺は、ふと顔を上げた瞬間目に入った光景に、思わず声をなくした。
白地に金と青の模様が入った鎧を身に着け、深紅のマントを羽織ったヴィデロさんは、とてもとても神々しくて。
「……かっこいい」
思わずつぶやいた言葉に、ヴィデロさんが苦笑した。
どんな鎧も似合うとは思っていたけれど、深い緑の瞳と綺麗な金髪が白い鎧によってとても引き立ち、この世の物とは思えない美しさを醸し出していた。流石美形。ほんとかっこいい。心臓止まりそう。好き。
「マックー? そろそろ戻って来いよ」
呆れたようなユキヒラの声でハッと我に返る。でもそっちに目を向けると途端に魅了される俺。だってほんとに素敵すぎるんだもん。抱いて。
「涎垂れそうな顔してるよな、マック」
「俺の鎧じゃないからなあ。今度こんな感じの鎧を買うかな」
「辺境に売ってたぜ、白基調の鎧。ここまで精密じゃねえけど。まあ、お高かったな」
「辺境か……馬で行ったらここからどれくらいかかるかな」
「マジで手に入れる気か?」
「だってあの顔、可愛いだろ。全身で「好き」って言われてるみたいですごくいい」
「あー、はいはい」
ユキヒラとヴィデロさんの言葉が耳に入り、俺はひそかに辺境に向かおうと心に決めたのは秘密だ。白い鎧を買ってプレゼントしよう。絶対に。
胸を高鳴らせている間に、ヴィデロさんは頭に兜を被り、面を下ろした。これで傍目では誰かわからなくなったけれど、面の間から見える深緑の瞳はしっかりとヴィデロさんでホッとする。
鎧を着て歩く二人の間を歩いて、またも廊下を進む。
宰相は毎日この長い道のりを歩いて仕事場に行くのかな。大変だな。それとも直通とかもあるのかな。
絨毯の敷かれた廊下は、金属性の鎧ですら足音を消してしまう。騒音緩和にはすごくいいけど、誰かが近付いても気付かないんじゃないかな。
なんて思った瞬間、足に何かが絡みついた気がした。
足元を見ても何もない。数歩進んでも違和感がないので遅れないように足を速める。
二人が廊下を曲がり、たった一歩だけ遅れて俺も曲がろうとした瞬間、誰かの声が微かに聞こえて、身体が壁に貼り付けられた。目の前に薄い膜のような物が張られている。
「……っ」
「闇の聖霊よ、このうるさい口を塞ぎその耳障りな甲高い声を黙らせろ、沈黙サイレント」
腕を抱き込まれ、口を押えられて、耳の真横で小さく呪文を唱えられる。
何かが身体の中を流れて、口を押えられていた手が静かに離される。プハッと息を吐いて、声を上げ……ようとして、全く自分の口から音が発せられてないことに気付いた、
目の前をユキヒラとヴィデロさんが俺の名前を呼びながら走っていく。
二人は真横に俺がいることに全然気付いていなかった。隠蔽系?
ここだよ! と声を出そうとしても全く声帯が反応しない。これは呪いで沈黙に掛かった時と同じような感じだった。
首を動かそうにも、がっしりした腕に掴まって身動きも取れず、足が太ももから足首まで何かに拘束されたみたいに動かない。もちろん腕で魔法陣を描くことなんてできない。
暴れようと力を入れてみても、全くびくともしなかった。
目の前の扉を開けて、ユキヒラが中を覗いている間、ヴィデロさんが廊下を警戒している。そして次の部屋を開けてユキヒラが中を覗いた瞬間、俺は後ろの奴にユキヒラが最初に確認した部屋に連れ込まれた。
「マック! どこだよ!」
「マック! 何でこんな一瞬にして……っ!」
「隠蔽とか使われてるんだよ! 畜生、まんまと出し抜かれたぜ……!」
廊下から二人の切羽詰まった声が聞こえて来る。
すぐ近くにいるよ! 叫んでも全く声にならないジレンマに、ギュッと手のひらを握りしめる。
こいつから離れたら少なくとも隠蔽は解けるはずだから、ユキヒラのマップに俺の表示が出るはず。
とにかく離れないと。と力の限り暴れ、拘束されたままの両足を振り回し、男の向こう脛を蹴ることに成功する。が、舌打ちと共に足を絡め捕った物と同じような目に見えない糸で手まで拘束されてしまった。しかも後ろ手。
バランスを崩して倒れ込んでも、下が柔らか絨毯のせいで音も立たない。倒れても隠蔽の範囲なのが悔やまれる。このまま転がって逃げれば何とか。と肩に力を入れた瞬間。
「闇の聖霊よ、眠りに見放されたこの者に深い深い眠りの慈悲を与えよ、深層睡眠」
あ、やばい、眠らされる。
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