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206、『諧調を継ぐ者』って大げさすぎるよ
「錬金素材まで入ってる……」
『氷花の滴』を手に取って、俺は首を傾げた。
錬金素材ってことは、他の人にとっては『謎の素材』って出るはず。
どこで見つけてどうやって手に入れたんだろう。錬金術師のジョブをセットしておかないと魔物からは錬金素材は手に入らないはずなんだけど。そこら辺にあったら普通に手に入るのかな。たまたま変な素材を手に入れて、それを送ってくれたとか。
ドキドキしながら一つ一つを倉庫のインベントリに突っ込んでいく。
それにしても全部で20種類くらいあるんだけど、これ報酬過多じゃないかなあ。魔物の素材にしたって、見たこともない様な色合いのものだし、草も花も今まで見たことない物だし。
これはあれだ、一度は辺境付近に行ってみるしかないってことかな。白い鎧も手に入れたいし。
今の魔力だったら、街一つ分くらいは跳べるんじゃないかな。ってことはオットの街まではマジックハイパーポーションを飲み続ければ一日で行けるってことかな。その先はもう少し攻撃手段を手に入れてからじゃないとすごく難しいけど。魔法、覚えようかな。水魔法はかなりレベル上がったし。
そうと決まれば魔法を覚えられるところに行かないと。
と腰を上げたところで、アラームが鳴った。
続きは明日明日。
と奥の部屋に入ってログアウトした。
学校で、俺は早速昼休みに増田にお礼を言った。
「昨日ようやく海里から届いた荷物を受け取ったよ。ありがとう」
「あ、届いてたんだ。よかった。たまに紛失するんだって話だったからもしかして今回は紛失しちゃったのかなって少し心配してたんだ。っていうか辺境街まで郷野の指名手配書来てたよ」
「指名手配じゃないよ」
「どっちも同じようなもんだろ」
増田につっこんだはずが雄太にそう返されて撃沈する。
本格的に捜索してくれてたんだ、エミリさんとクラッシュ。ありがたい。
「もしかして、雄太たちも探してくれた?」
「いや、俺達はその時丁度熊の所に遊びに行ってて、獣人の村にそっちから二人ほど来てるやつがいるって教えてもらってたから、まあそれが健吾だろうなと」
なんてことはなく答えた雄太に、さらに脱力する。そこで俺だって思うの、どうかと思う。ってその通りなんだけどさ。
「どうやって行ったのかは聞いてくれるなって熊が言ってたから聞かねえけど、獣人の村どうだったんだよ」
「俺ほとんど調薬やってたからあんまり出歩いてはいないけど、ヴィデロさんが毎回遊ばれてたから、獣人ってすごく強いんだなって思ったよ。俺一撃で即死したもん」
「即死? 死に戻ったの?」
「うん。でもそのおかげでっていうか紆余曲折を経てMPが最大値になった」
「……健吾お前……裏取引にいくらかけた」
かけてないから。裏取引なんてしてないから。おかしいだろなんて言うけど、勇者に剣を習う雄太たちも他からしたらおかしいから。
お互いちょっとだけ睨み合って、その顔がおかしくて思わず吹いたら、雄太も同じことをしていた。にらみ合いってよりにらめっこだよこれじゃ。
気を取り直して、俺は増田の方を改めて見た。
「そういえば荷物に変な物が入ってたんだけど」
「あ、あの謎素材? すごく綺麗だろ。あれ、たまたま勇者と武者修行に北の方の森に入った時に見つけたんだ。勇者がさ「こういう変なのを集めてる仲間がいたぞ」って教えてくれたから、面白いと思って荷物に追加してみたんだ。使えないかもしれないけど、その時は部屋にでも飾っておいてよ」
「あ、うん。ありがとう」
そういえば錬金術のことは雄太にも教えてないんだった。
あの素材はちゃんとわかるから大丈夫って。
「何でもね、その仲間が変な釜に変な素材をぶち込んで怪しげにグルグル回しては変な物を作ってたって勇者が言っててさ。もしかしてそれが帰ってこなかった魔法使いの人なんじゃないかってあとで盛り上がってたんだ」
ご名答。まさにそれがサラさんです。
セイジさんが必死で助けようとしている人です。
そういえば前にセイジさんに攻撃系の魔法陣を教えるって約束してもらったけど、いつ教えてくれるのかな、とふと思う。でもセイジさんもひたすら忙しそうだしそんな暇ないか。社交辞令って感じかな。
弁当の蓋を閉じて手を合わせながら、どうやって火力を増やそうかなと思案する。
素材があるんだったらやっぱり辺境街行きたい。もうヴィデロさんと馬を繰って行くのは無理だから、出来る限り短い期間で行きたいなあ。エルフの里にも行ってみたいし。余計に世界が広がっちゃった気がするよ。
でも、もしエルフの里まで行けるくらいになったら、きっとその時は蘇生薬も作れるのかな、なんて俺は思いを馳せるのだった。
ログインして部屋を出ると、違和感があった。
いつもと何かが違う。
首を傾げながら周りを見回すと、ヴィルさんアバターが隠れているはずの衝立がずれて、ヴィルさんアバターがいなくなっていた。
「え、ログインしてる……?」
慌ててフレンド欄を見ると、ヴィルさんの名前がしっかりと白くなってる。ログアウト中だと灰色の文字だから、ヴィルさんがログインしているってことだ。
何か緊急事態でもあったのかな、なんて思って、チャットを飛ばしてみる。
『ヴィルさんログインしてるんですね。何かあったんですか?』
何もないならいいんだけど、と思いながら、水魔法でティーポットに水をなみなみ入れて、火にかける。お茶ッ葉はなんとなくで綺麗な緑色になる物を選び、沸騰する間に祝詞を唱える。
聖水茶の出来上がり。
綺麗な緑色のお茶が、キラキラと光っているのがなかなかメルヘンで楽しいし美味しい。
カップ一杯分飲んで満足すると、ティーポット自体をインベントリにしまい込んだ。こうすると冷めないんだよ。便利。
ヴィルさんからの返事は来ないけど、まあ道を間違えることもないだろうと思って自分の行動を開始する。ちょっとね、確かめてみたいことがあるんだ。
一応ドイリーを腕に巻いて、俺は魔法陣を描いた。
次の瞬間出たのは、レガロさんの店の前。MPを見ると、あんまり減ってなかった。ってことは、ヴィデロさんと二人で来ても余裕ってことだ。やったね。乗合馬車も乗馬も楽しいんだけどね。次はどこまで跳んでみようかな、なんて考えていると、ギイ、と店のドアが開いた。
「いらっしゃいませ。店の前まで来たのにスルーする気満々なマック君はいけずですね。どうぞお入りください」
「え、あ、レガロさん?!」
いきなりのレガロさんの登場に驚いて、描き始めた魔法陣が霧散する。
確かにスルーする気満々だったけど。っていうかここを選んだのは、人がいなそうだったからっていう単純な理由だったんだけど。まあ、レガロさんだし、気付くよな。レガロさんだし。
誘われるままにお邪魔します、と店のドアを潜る。
でも今のところは必要な物がない気がするんだけど。さっき淹れたばっかりのお茶、レガロさん飲むかな。
テーブルに案内されたので、早速ティーポットを取り出してみる。
「淹れたばっかりのお茶、一杯分だけ飲んじゃったんですけど、まだまだ入ってるので一緒に飲みませんか」
「おや、ありがたいですね。聖水のお茶ですか」
見ただけでレガロさんにはわかったらしい。さすがレガロさん。俺の中でレガロさんの謎がだんだんと増えて行くけど、ほんとこの人、何者なんだろう。ハーフエルフって以外にも何か絶対やってそう。
って思ってると思考を読まれちゃうんだよね。だって俺を見て笑ってる。
「そういえば、最近何か新しいことを始められませんでしたか? 何かマック君の雰囲気がとても安定しているように見受けられます」
「新しいことっていうと、色々あるんですけど、雰囲気が安定しているってどういうことですか?」
質問に質問で返すのは悪いと思いつつ、ついつい訊き返してしまう。
ここと向こうの波長が安定していて雰囲気が、とかそういうことじゃないよな。
「そうですね、新しい職を手に入れたとか、新しい事業を始められたとか、そんな感じです。でもここまで安定しているのも珍しい」
レガロさんの言葉に、俺はびっくりして目を見開いた。ここの世界の人って、俺達の職業はわからないはずじゃなかったっけ。でもまあ、レガロさんだし。
「新しい職は手に入れました。どういう職なのかいまいちつかめないんですけどね」
「その職の名称をお聞きしてもよろしいですか?」
レガロさんにそう聞かれて、俺は頷いた。薬師ってつくから秘密にすることじゃないような気がするし、もしレガロさんがその職のことを知っているんだったら、こっちが教えて欲しいくらいだったし。
「『諧調薬師』っていうんですけど、いまいちどんな職なのかわからないんです」
「おや、『諧調薬師』これは珍しい職業を手に入れたようですね」
レガロさんが目を細めていつもより笑みを濃くする。
わかるのかな、この職業の事。
「どういう職なのかわかりますか?」
「言葉の通り、『世の調和を司る薬師』とでも言いましょうか。その腕で分断された世界を混じり合わせ、解け合わせ、ひとつにする者に与えられる職です。大昔『諧調騎士』という者がいたという話は何かの文献で読んだことがありますが、その者はこの大陸とその他の大陸を諧調し、国同士の戦をなくしたという伝説があるとかないとか。何分とてつもなく古い文献ですので、おとぎ話に近いのですが。職というより称号に近いのではないでしょうか」
レガロさんの話は、思った以上に壮大な内容だった。称号に近いってどういうことなんだろう。
「薬師の上位職っていうのではないんですね」
「薬師の上位職は、『草花薬師』という立派な物を持っているじゃないですか」
「そっかそうですよね。まだいまいちよくわからないけど、ありがとうございます」
その話が聞けただけでも大収穫だよ。でもこれって情報料とかどれくらいだろう。
なんて思っていると、レガロさんが俺の腕を見ていた。
それを追って視線を動かすと、そこにはレガロさんから貰ったドイリーが。
あ、こんな使い方して不快に思われるかな。
「あ、の、ええと、これは魔力消費量を減らすために」
慌てて言い訳を口にした途端、レガロさんがたまらないとでもいう様に笑い始めた。
「そんな使い方もあったのですね。目からウロコです。もしかして、マック君にはそういうドイリーの形よりもアクセサリーの方がよかったのでしょうか。私としたことが申し訳ありません」
「いえ! これだと物の下に敷いて使うこともここに結んで使うことも出来るので、汎用性があってすごく便利なんです! でもあの、本来の使い方とは、違いますよ、ね」
ごめんなさい。でも便利なんです。と続けると、レガロさんが肩を震わせながら俺の腕からドイリーを外した。
「もう少し使いやすいようにしてきますので少々お待ちください。これでは一人で結ぶのはなかなか大変でしょう」
ドイリーを手にしたままレガロさんが席を立ち、ドアの向こうに消えていった。しばらく待っていると、レガロさんが帰ってきた。手にしたドイリーはどこも変わっていないような綺麗なレース編みで、でもよく見ると、端の方に小さな白いボタンが付けられていた。レースの好きなところにそのボタンをはめ込むことで簡単に着脱可能らしい。手渡された物を早速片手で着けてみる。
「わあ、簡単に着けれます! ありがとうございます!」
「いいえ、こういう使い方を想定していなかった私の落ち度ですので。そして、美味しいお茶をありがとうございました。茶飲み話もとても楽しかったです」
笑顔でレガロさんにそう言われたことで、職業の話は情報料は発生しないんだと牽制されてしまった。鮮やかすぎる。
席を立って店を出るためドアを潜ると、後ろから声が掛かった。
「マック君が『諧調』を継ぐ者に選ばれて、嬉しく思います」
驚いて後ろを向いたときにはもうドアは閉まっていて、レガロさんの言葉だけが耳に残った。でも今はドアを開けるのはためらわれる雰囲気があって、俺は頭の中で何度もレガロさんの最後の言葉をグルグルと繰り返していた。
でもさ、『諧調』を継ぐ者に選ばれたなんて、大げさすぎるよ……。
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※本作にはボーイズラブ要素およびオメガバース設定(α、β、Ωの概念やフェロモンに関する描写)が含まれています。苦手な方は閲覧にご注意ください。