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211、子狐拾いました
学年末テストが終わった。
結果は普通だった。一学年三百人くらいいる中、大体中間くらいだった。雄太はいつも五十番くらいにいて、増田はさらに上にいるらしい。あの二人はいつ勉強してるんだろう。でもギリギリはあったけど赤点を取ることもなく、下から数えた方が早いということもなく無事テストが終わってほっとした。これでまた心ゆくまでログインできる。
何せ明日の休みはヴィデロさんと一日デートなのだ。ワクワクする!
ウキウキしながら家に帰り、休みだった母さんにそのテンションでテスト結果を報告し、部屋に戻ってログイン。
ベッドから降り立った俺は、奥の部屋から工房に移動して、とりあえず上級調薬の練習をすることにした。ハイポーションを作っても上級調薬はほとんど経験値が入らないんだよ。だからハイパー系を作らないといけないんだけど、そろそろ量が笑えないことになってきた。こっちでは売れないのが辛いところだよな。ヒイロさんに相談してみようかな。獣人の村の店に卸せないかって。向こうで売ってるハイパーポーションはものすごく威力が高いから俺の作る物なんてまだまだお子様の練習レベルだけど。素材も手に入れたいなあ。獣人の村にしかない素材もそろそろなくなりかけてるんだよな。あっちでは腐るほどあるからと笑っちゃうほど安い素材なんだけど、ハイパー系には欠かせない奴なんだ。
手元にある素材をすべてハイパーポーションに変えると、俺は倉庫に詰め込まれていたものもインベントリに詰め込んで、獣人の村に行くことにした。
火酒も忘れずに。
ジャル・ガーさんの洞窟に跳び、ジャル・ガーさんに酒を掛けると、ジャル・ガーさんが目を開けて、ニヤリと口元を持ち上げた。
『ようマック。村に行くなら足元まで酒を掛けろよ』
獣人の村に行くには、石像になってる獣人さんに台座から降りてもらって初めて転移の魔法陣で移動できる、というのをこの間初めてジャル・ガーさんに教えて貰った。
俺はオランさんを助けたってことで、どの洞窟から行っても石像は道を開けてくれるらしい。ありがたい。今度虎さんの所にもお酒を持って行ってみよう。一度行ったから転移でも行けるしね。
すっかり台座から立ち上がったジャル・ガーさんは、モフモフの腕を組んで俺の横に降りてきた。台座の上に立ってるとすごく大きかったけど、実際に横に並ぶと、大きな人がいるなあ、くらいの大きさになるのがホッとする。とはいえ俺とは幼児と大人くらいの差があるんだけど!
「じゃあ行ってきます」
ジャル・ガーさんが見守る中、教えて貰った獣人の村の座標を転移の魔法陣に描き入れ、跳ぶ。うわ、やっぱり獣人の村に来るとMPがごそっと減るよ。セッテからトレに跳んだ時よりもさらに減ってるMPに戦慄しながら、マジックハイパーポーションを取り出して呷る。このMP量でも一本で事足りるのが凄い。レベル高くてHPがものすごい人からしたら、一番欲しい薬だよなあ。三桁台が一気に回復するんだから。
森を歩きながら獣人の村を目指す。これ、村に着く前に遭難したらどうするんだろう。奥に行くと魔物も出るってヒイロさんが言ってたし。魔物、強いんだろうなあ。
ガサガサと草をかき分けて足を進める。こっちでよかったんだよな。前はジャル・ガーさんに抱っこされて村に向かったから、ちょっと不安。でも一応地図は村に向かっていることを指し示していて、地図を頼りに森を進む。
ものすごい速さで走ったからすぐ着いたけど、歩くと結構かかるんだなあ。
なんて考えていたら、横の方でガサッと草が揺れた。
思わずびくっと身体を竦める。
魔物か?!
と視線を向けると、草の間から可愛い尻尾がひょこんと見えた。
え、これ、ケインさんの尻尾にそっくり。
そっと草の間を覗くと、うずくまって座っている子狐の獣人さんがいた。可愛い!
「どうしたの?」
そっと声を掛けると、その子は一度ビクッと身体を揺らしてから、目をウルウルさせて俺を見上げた。
「……耳がない。魔物……?」
魔物だったらそれを訊いてる時点でやられちゃうよ。
とよく見ると、毛皮に隠れた足に怪我をしてるのが目に入った。
「大丈夫、魔物じゃないよ。足怪我しちゃったの? 待ってね、今治してあげるから」
たんと持ち込んだハイパーポーションを一つ取り出して、子狐の足に掛けると、スッと傷が消えていく。
震えながらそれをただ見ていて子狐は、足の怪我が治った瞬間、潤んでいた瞳から大粒の涙をこぼした。
「あのね、僕森の奥には行っちゃダメだって言われてたの。でもえいゆうに会いたかったから行っちゃったの。でもね、迷子になって、ガオーって魔物が出てきて、怖くて逃げたんだけど、足をがりってされて、でも走って、逃げて、それでね、足が痛くて歩けなくなっちゃったの。でも、痛くない」
そっか。魔物に襲われたんだ。よくここまで逃げてこれたなあ。
気が抜けたのかぽろぽろ泣き始めた子狐の頭をそっと撫でて、失礼を承知で抱き上げた。あああ可愛い。
子狐は俺のローブをギュッと握って、スンスン鼻を鳴らしながら泣いていた。
「よく頑張ったね。村に帰ろう。もう足、痛くない?」
「……痛くない。ありがとう、おにいちゃん」
そのまま子狐を抱っこして村へ進む。軽いなあ。そしてふわふわで可愛いなあ。
思わずデレデレしながら村に着くと、村ではちょっとした騒ぎになっていた。
「こっちの森にはいなかった! どこ行ったんだ、ユイルのやつは」
「魔物に食われてなきゃいいが」
「そんなこと冗談でもいうんじゃねえよ!」
「冗談なんかじゃねえよ」
屈強な獣人さんたちが村の端の森への入り口でそんな話をしていた。
皆ヴィデロさんと一緒に鍛錬をしていた、顔見知りの獣人さんたちだった。
「ユイル?」
「ユイル、僕」
腕の中の子狐が小さな手をはい、とあげた。あ、この子を皆が探してたんだ。
ユイルの声が聞こえたのか、犬の獣人さんの耳がピクッとする。そして、一斉にこっちに視線が注がれた。
「ユイル! マック!」
集まっていた皆は、俺とユイルを即座に見つけて、一瞬にして駆けつけた。
「ユイル! お前、よく無事で……!」
「村は出ちゃダメだっていつも言ってるだろ!」
まさに咆えんばかりの勢いで捲し立てられたユイルは、ようやく引っ込んでいた涙が驚きによってまた目に溜まった。
「ごめんなしゃい……あのね、えいゆうに会いたくて、でも魔物ががうって、痛いの、治ったの……」
目をウルウルさせながら必死で説明するユイルがとてつもなく可愛くて、思わずギュッとしてスリスリする。
すると、ユイルもふさふさの毛を俺の頬にスリスリしてきた。可愛い!
「お兄ちゃんが痛いの治してくれたの……ごめんなしゃい」
俺のローブを握っていた小さな手をそっと開いて、おずおずと目の前の獣人さんに差し出すと、すかさず獣人さんが俺からユイルを受け取って抱っこした。やっぱり頬をスリスリ。親愛の情なのかな。
「マックが見つけてくれたのか。助かった。二刻前から探していたんだ」
「俺も今さっきしゃがみ込んでるこの子を見つけただけなんだけどね」
「何にせよ、魔物に食われなくてよかった」
頑張って逃げたからね。狐って足速いんだなあ。
取り敢えずいたことを報告してくるという獣人さんの腕の中から一生懸命手を振るユイルに手を振り返して、俺はヒイロさんの所に向かうことにした。
慣れた道を進み、前に滞在していた家に向かう。
それにしても小さい獣人はほんと可愛い。これ、動物好きさんにとってはパラダイスだよなあ。
ニヤニヤしながら足を進めると、ほどなくしてヒイロさんの家に着いた。
ドアをノックすると、中から「開いてるよー」とゆったりとした返事が返ってきた。
「こんにちは」
「おや兄ちゃんどうしたんだい。今ねえ、ケインの子供のユイルって子が行方不明でちょっとてんやわんやしてるんだよ」
ユイルそっくりの顔をひょこっとのぞかせたヒイロさんが、あんまり困ってなさそうな顔で「困った困った」なんて呟いた。
「ここに来る途中で見つけたのでもう大丈夫ですよ」
見つかったことを報告しておくと、ヒイロさんが長めの口をあんぐり開けた。あ、可愛い。
「兄ちゃんが見つけてくれたのか。そりゃあ、ありがたい。いなくなってからケインがもう挙動不審でどうしようかと思ってたんだ」
「挙動不審……って、ケインさんの子だったんですか、ユイル。確かにそっくりだけど」
同じ種の獣人の顔を見分ける自信がないからなあ。だからケインさんもヒイロさんもユイルもみんなそっくり同じ顔に見える。
「見つかったんなら今頃ケインは狂喜乱舞してるね。一安心だ。で、兄ちゃんは今日はどうしたんだい?」
「ハイパーポーションがたまりにたまったので、売りに来ました。まだあっちでは買い取ってもらえる場所がないので」
「そうかあ。ここの治療院でも買い取るよ。安いけどねえ」
値段が問題じゃないんです。さすがに倉庫のインベントリを逼迫してるのが問題なんです。今も大量にインベントリを占領しているから。ざっと1000個くらいあるのかも。俺、どんだけ作ってるんだろう。
ここにいれて、というヒイロさんの指示に従って、在庫入れにインベントリから移していく。この在庫入れ、裏に空間拡張と時間停止か何かの魔法陣が描かれていて、俺達のインベントリと同じような性能を持ってるんだ。この村どれだけすごいんだ。って魔法陣でそこまで自由に出来るってある意味凄い。俺も色々勉強したい。
「うわあ、短期間でよくここまで作ったねえ。しかもちゃんと腕が上がってる。勤勉だね兄ちゃん。これで俺は手を抜けるよ。楽させてくれてありがとう」
悪びれることなくそんなことを言うヒイロさんに思わず笑う。さすが師匠。
流石に普通にハイパーポーションの出回っているこの村ではそこまで高値はつかなかったけど、その代わりと師匠にまた新たなレシピを教えて貰ったので俺的にはすごくいい取引だった。
新たなレシピのポイントを師匠に教えて貰っていると、家のドアがそっと開いた。
ひょこっと顔を出したのは、ユイルだった。
俺と目があった瞬間、ユイルは顔を輝かせてダッシュしてきた。うわ、めちゃくちゃ速い。
「おにいちゃん!」
その勢いで俺の膝に飛び乗ってきたユイルは、俺を見あげて、頬をスリスリとさせた。気持ちいい。
その後、ふと俺の手元を見て。
わけのわからない黒い物体を見て、首を傾げた。
今ので失敗作が出来上がったよ。ヒイロさんは俺の失敗作をひたすら面白そうにみていた。こんなの初めて見たって。ヒイロさん、失敗したことないんだ。面白いなら大量にある失敗作、あげますけど。本当に大量に眠っているから。倉庫に。
その後は、村を出るまでずっとユイルと一緒にいた。懐かれたらしい。嬉しい。隣を歩くユイルがニコニコとものすごく可愛かった。
一緒に素材を集めて、夜に合流したケインさんと4人でヒイロさんのご飯を食べて、狐さんを満喫した俺は、泊まってって、と目をウルウルさせるユイルを何とか宥めすかして獣人の村を後にした。だってそろそろアラームが鳴るから。そして明日はデートだからね。
工房に帰り着くと、俺は堪能しまくったユイルの毛並みを思い出して顔を緩めながらログアウトした。
アニマルセラピーって素晴らしい。
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※本作にはボーイズラブ要素およびオメガバース設定(α、β、Ωの概念やフェロモンに関する描写)が含まれています。苦手な方は閲覧にご注意ください。