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214、雄太と友達でよかったなってたまに、すごく思うんだ
「それよりも気になるのは、どうして異邦人が幻の獣人の側にいるのかってことだ。命を救ったってなんだ? 俺はお前を見たことがあるが、それは砂漠都市の北にある石像としてだ。お前も熊の獣人の様に呪いが掛かるのか」
勇者はオランさんから視線を外さずに、まっすぐ質問していた。知ってたんだ、オランさんのこと。しかも壊される前のオランさんの事。そっか。勇者たちがまだ勇者とは呼ばれてなくて、魔王を倒しに行く旅の途中にあの洞窟に寄ったんだとしたら、オランさんはまだ砕かれていなかったんだ。だって、魔王がいなくなってからあの教皇が色々やらかしてたはずだから。
勇者の質問に、オランさんは少しだけ苦笑して、首を横に振った。
「いや、今の俺に触っても呪いはかからない。それに、今は呪いは怖い物ではないのだろう? ここにいるマックが呪いを解く薬を世に広めたのを、俺は知っている」
お前は知らないのか、とでも言うように、オランさんが俺の肩にポンと手を置いた。
そっか。あの状態でも、周りがどうなっているのかはわかってたのか。じゃあ、オランさんは余計に辛かったんじゃないのかな。理性を持ちながら自分の身体を利用されて、そして挙句にはバラバラにされて、あんなところにしまい込まれて。それでも周りの状況を理解できるだけの理性が残っていて。
勇者はオランさんの言葉で、初めて俺の方を向いた。カチリと目が合うと、勇者はニヤリと笑って俺に一歩近付いた。うん、ちょっと逃げたい気分。
「お前が、クラッシュの友達か。エミリは元気か? セイジとも仲良くしてるんだって?」
「は、はい。皆元気です」
震えていたユイルの気持ちがすごくわかる。やっぱりこの状態で普通に接する雄太たちは化け物に近い気がする。
「あいつらがお前を認めてるなら、俺にとっても仲間だ。よろしくな。俺はアルフォード。昔は勇者なんて呼ばれてたが、しがない辺境の愛妻家だ」
「俺、マックです。クラッシュの店専属の薬師ってことになってます。あと、そこにいる高橋の親友です」
それにしても、愛妻家って名乗るんですね。潔い。騎士団長とかそっちの方がビシッと締まるのに。雄太が砂吐きそうって言ってたのの片鱗が見えた。
「それにしても、クラッシュ専属の薬師がディスペルハイポーションの発案者なあ。ってことは教皇を引き摺り落としたのもお前か」
目をギラリと光らせて、頭上から勇者が俺を見下ろす。うわあ、さっきより威嚇されてる気がする。
雄太にちらりと助けを求めると、雄太は呑気に「マックも気に入られやがったな」と笑っていた。裏フレンドリストの所にマークがついているから、絶対に勇者の名前が登録されたよ。恐れ多い。
「どうやって引き摺り落としたんだ? ぜひとも詳しく訊きてえなあ。お前、自覚してるか? この世界を、お前は根底から叩きのめそうとしてるんだぜ」
「……わかってる、つもりです。っていうかそういう情報、辺境にいても入ってくるものなんですか?」
「そこはそれ、色々やり様はあるんだよ。それよりもお前のことだっつうの。幻の獣人と仲良くやってるなんて、俺からしたらそれこそありえねえ。なあ、ギルドから販売された獣人の本、俺も読んだぜ。お前は読んだか?」
読んだもなにも原本は俺の所有物です。とか言ったらもっと興味をひかれそう。怖い。思わずそっと一歩脚を引いた瞬間、勇者が豪快に笑い始めた。腕の中のユイルがビクンと震えて、顔を俺のローブに埋めた。
そして不意にサッとヴィデロさんの腕が俺の前に差し出された。
勇者の威圧にも屈しない顔で、そっと俺を背中に隠す。
「そこまでで勘弁願いたい。それとも勇者は怖がらせるのを楽しんでいるのか。その気を纏った状態で対峙するのは勘弁してほしいんだが」
俺がびくついているのを察したのか、ヴィデロさんが庇う様に話に口を出してきた。ちょっとだけホッとする。
ちらりとヴィデロさんの腕の横から勇者を見ると、勇者はやっぱりまっすぐ俺を見ていた。
「マック何怖がってんだよ」
俺のビクビク加減が珍しかったのか、雄太も俺に近付いてヴィデロさんの横から覗き込んでくる。
「だってずっと威圧使ってるんだもん。よく高橋はあんな威圧の横で普通にしてられるよな」
「威圧? 何だそりゃ」
キョトンとする雄太に、こっちが驚く。え、あ、感じてなかったの? 何も?
「鈍感にも程がある……」
「お前が気にしすぎなんじゃねえ?」
ヴィデロさんの後ろで会話してると、くく、と笑い声が聞こえた。
「この先が楽しみなやつがもう一人増えたってことか。よろしくな、マック。辺境に来たら顔を出せよ。もてなしてやるよ」
「はい。あの、まだ実力が追い付いてないので、行ける様になったらぜひ、お邪魔させてもらいます」
尻すぼみな返答に、勇者の顔が面白そうに緩む。
「高橋、ブレイブ、海里、ユイ、こいつは使えるな」
そう勇者が言った瞬間、雄太の顔つきが少しだけ引き締まった。
「勇者、俺は友達を使えるやつ、で括る気はないからな。こいつを使い捨てにしようとするんだったら、俺はここで抜ける」
俺を使える、と言ったことにカチンときたのか、雄太が勇者に食って掛かっていった。あ、今ちょっと胸が熱くなった。雄太のこういうところが敵わないって思うんだよな。男前。
そんな雄太の反撃に、勇者がさらに楽しそうに口元を持ち上げた。勇者もきっと雄太のそういうところを気に入ってるんだなっていうのがわかる顔だった。
勇者はニヤリと笑ったまま、「阿呆」と雄太の頭に拳を落とした。
ゴン、と凄い音がして、一気に雄太のHPが削れる。残り1のHPバーが雄太の頭上に現れて、思わずあんぐりと口を開けた。
容赦ないな勇者。っていうか1だけ残すその匙加減がすごくプロフェッショナル。
でもみんなもう慣れたものなのか、慌てることなく雄太を見下ろしてる。
俺はカバンからごそごそとハイパーポーションを取り出して、雄太の前にしゃがみ込んだ。
「高橋大丈夫か?」
覗き込むと、頭を押さえた雄太がちょっとだけ目に涙をためてじろっと俺を見た。
「大丈夫そうに見えるのかよ」
「結構見える。でもこうやって毎日勇者に鍛えられてるんだなって思うと笑いが」
「何で笑いが起こるんだよ」
「だって誰も気にしてないんだもん。皆またか、っていう顔してる。でもサンキュ。俺だって大人しく使われるだけの人になる気はないよ」
そう言いながら手に持っていた瓶を雄太に差し出すと、雄太は何気なくそれを受け取って呷った。
そして、「うっま」と呟いた後に「はぁ⁈」と変な声を出した。
「何だこれ。一本で全回復しやがった……!」
雄太の声に、勇者陣営がざわ、となる。
そっかそっか。雄太のHPでも全回復できるのか。よし。
さっき、相手は勇者なのに俺の事庇ってくれたお礼。だってすごく嬉しかったから。
雄太にそっと「新しく作れるようになった、獣人から教わったポーション」と耳打ちすると、雄太は驚いた顔をした。
そんな雄太に満足して立ち上がると、俺はヴィデロさんの横から勇者に視線を向けた。すると、勇者がふっと圧を和らげる。
「誤解があるみたいだから言っとくけどよ。エミリとクラッシュの友人を使い捨てにするほど俺は人生捨ててるわけじゃねえぞ。エミリなんか特に怒らせてみろ、最悪だ。マックも気を付けろよ。あいつが本気を出したら、この国なんざ5秒で焦土と化す。あいつが魔王みたいなものだからな」
「エミリさんはすごく優しいですよ」
勇者が身震いするマネをしたのを見て、思わず顔が綻ぶ。さっきまでの威圧は大分弱まって、何とか後ろに逃げなくても立っていられるのがホッとする。
ヴィデロさんが俺の方を向いて大丈夫かって聞いてくれるのが嬉しくて、思わずニヤける。好き。
多分、ヴィデロさんも何かしら勇者から感じ取ってる気がするんだよ。だって俺を庇うその腕が力強かったから。すごく、その背中が本気だったから。
ってこんなところで立ち話もどうかとふと気付く。
腕の中で何とかユイルは落ち着いてきたけど、この子を村に連れて行って初めて今回のクエストがクリアなわけだし。
「あの、この子を親元に連れて行ってあげたいので、もう行ってもいいですか? 高橋たちも連絡くれてありがとう。今日は助かったよ」
そう俺が断ると、勇者は「わかった」と頷いた。そして、雄太たちに顎をしゃくる。
「んじゃ、進むか。俺らもちょうど熊の所に酒盛りに行くところだったんだしよ」
勇者の言葉に動きが止まる。あれ、待って。帰るんじゃなくて俺達と一緒に洞窟に向かうってこと?
驚いてると、勇者は「そういえば」と口を開いた。
「石像に酒を掛けると話し出すっていう話の出どころもマックだったよな、高橋。マックお前、賢者でも目指してるのか……?」
そういえば前にも誰かに「賢者か」って聞かれたことがある気がする。
でも賢者ってセイジさんの事だろ。俺なんか太刀打ちできないって。
そっと首を横に振ると、俺はヴィデロさんとオランさんにユイルを連れ帰らないと、と促した。
俺達の移動開始とともにぞろぞろと付いてくる勇者たちはやっぱり熊さんの所に行く気満々なのか、ためらいなく足を動かしていた。日を改めて、なんてことは考える気もないんだろうなあ。
「オランさん、熊さん、石像解除されたままですよね」
「そうだな。今は村への道が開いてる状態だな」
「……転移の魔法陣が使えないから、村には行けないですよね……」
そっと小声でオランさんに確認する。
このまま流れで獣人の村に、なんて勇者が言い出したら、村はパニックに陥りそうだよ。オランさんもずっと勇者に警戒してるし。野生の勘的なアレが働いてるっぽいし。ユイルまで震えるってことはほぼすべての獣人が勇者の威圧的な空気を嗅ぎ取れるってことだろ。
「……いや、あいつは驚くほどに強い力を持っているから、もし無理やり通ろうとすれば、魔力が干渉して何らかの作用が起きるかもしれない。そこらへんは鳥族のやつが詳しいんだが、あそこまで体内魔力が高いと何が起きるのかわからないのが怖いところだ。だからもしかしたら、村にも押し通ることが出来ないとも限らない」
「……」
このまま行っていいのかな。とちょっとだけ不安になる。
そんな不安をよそに、後ろの勇者はいたって気楽に洞窟に向かっていた。
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※本作にはボーイズラブ要素およびオメガバース設定(α、β、Ωの概念やフェロモンに関する描写)が含まれています。苦手な方は閲覧にご注意ください。