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221、勇者もだったのか
期日はない。断ると失敗。そして、騎士団弱体化。もしかして、魔物の傷がハイポーションでは治り切れないほどひどいってことかな。それか十分に数が行きわたっていないとか。
そうでもないと、わざわざこんなところまで勇者が来たりしないよな。
そして相応のガルって。どれくらいで納品するかは、応相談ってことなのかな。
そんなしょぼいハイポーションしか入ってこないってことは、予算とかどうなってるんだろう。
そこらへんは確認したほうがいいのかな。
クエスト欄を閉じて、お菓子を少しずつ味わっている勇者に向き直ると、勇者も手を止めて俺をまっすぐ見た。
ホントこの人目を逸らさないよな。前に会った時も、俺を認識してからずっとまっすぐ見ていて、ちょっと居たたまれなかった。
「どうだろうか。無理を承知で言っているのはわかっている。だから断られることも視野に入れている。その時はクラッシュ経由で効果の高いハイポーションを購入していく予定だから、もし無理だと思ったら断ってくれてもいい。しかし、俺としては、ぜひ俺達に売って欲しい」
「そんなに辺境の騎士団って大変なんですか? 魔物が強いのはわかってるんですけど、だって騎士団って国の直属とかじゃ……」
俺の質問に、勇者は「そうだな」と頷いた。
「国の直属の騎士団だから、物資はセィで管理されている物を送られる。しかしな、国から出されるときはランクCのハイポーションが、なぜか辺境に着くときにはランクダウンしているんだ。恥ずかしい話、勇者とは名ばかりでな、俺達は国の上層部に煙たがられている。なまじ功績と力があるせいか、自分たちの立場を脅かされるとしか思っていないという頭の悪い奴が多いようでな。勝手にランクダウンするような変なハイポーションを渡されるんだ。辺境で強い魔物と命を懸けて戦っているこっちとしてはたまったもんじゃねえが」
そういえば、エミリさんの周りにもそんな人がいた。そのせいでクラッシュが命を落としかけたっていう。この間宰相の人が処分していた人は氷山の一角でしかないってことなんだろうなあ。
でも最前線の所にランクDって、遠回しに死ねって言ってるようなもんじゃないか。きっと辺境の騎士さんたちは強いだろうから、多分HP的な物も高いだろうし、だとしたら回復させるのは一本じゃ足りないだろうし。傷は治ってもHPは全回復しないからなあ。もしかして、傷だけ治してHPはそのままにまた魔物を退治に、とかやってたりして。自分のHPとか、全然見えないんだろうし。
納品したいなあ。数は取り揃えてるし。
一回勇者に待っててもらってジャル・ガーさんに訊いたほうがいいかな。ハイパーを世に出していいか。でも熊さんが俺を紹介したんだったら、いいってことかな。
「ちょっとこれをこっちの世界でも広めていいか、聞いてきてもいいですか?」
「では俺が馬でここから近い洞窟に連れて行こう」
「いえ、すぐに往復できるので大丈夫です。ちょっと待ってて下さい」
立ち上がって、すぐに転移の魔法陣を使う。
ジャル・ガーさんの部屋の二つ手前の所に、丁度人の目から隠れるように岩が突き出ているところがあるんだ。そこにピンポイントで跳ぶと人に見られることなく洞窟内に出れるっていう絶好のポイントが。そこを思い浮かべながら場所を描き入れて魔法陣を完成させると、視界が変わった。
そっと岩の陰から出て、辺りを見回すと、丁度何人かが洞窟入り口に向かって歩いていくところだった。
サッとジャル・ガーさんの部屋手前の広い所に進み、走る。
さっき人が行ったばっかりのせいか、魔物が湧き出る前だったらしい。ラッキー。
魔物に出遭うことなくジャル・ガーさんの部屋に辿り着き、ドアを開けて入って行く。
幸いにして、今は誰もいなかった。
獣人を守る会の誰かが立てた看板が観光名所っぽくて顔が綻ぶ。
ジャル・ガーさんの石化を解く魔法陣を描いて指で弾くと、それが当たったところから石化が解かれたジャル・ガーさんがゆっくりと元の毛並みに戻っていった。
「ようマック。最近ここに来ねえからどうしたのかと思ったよ」
「人が増えちゃったからね。でもユイルは相変わらず元気そうで何よりだね」
「ああ。あいつ、人族と獣人が仲良くなれば俺と一緒にいれるってわかってから、一生懸命仲良くなろうとしてるんだよ。ほんっと、可愛いよな……」
ユイル、流石だ。だからこそ一生懸命姿を見せてたのか。
ジャル・ガーさんの横に山積みにされた果物はきっとそれだけユイルが頑張ってる証拠なんだろうな。
なんてしみじみしてる場合じゃなかった。勇者を待たせてるんだった。
「ハイパーポーションを売ってくれって勇者がうちに来たんですけど、売っても大丈夫ですか? 熊さんが獣人からは売れないけど俺から売る分には、みたいなことを言ってたけど、ちょっと訊いたほうがいいと思って来たんですけど」
「俺らの所で作られた薬が出回るのはまだ時期尚早だから止めてるが、マックが人族の所で作った物はもう俺らの手は離れてるから、技術をどこで習得したっていう情報が流れなきゃ別に好きにしていいんだぜ。それにそのうち出回りそうだしな」
「出回る?」
「ああ。ついさっきまでユイルがここにいたんだが、ここに来るまでに魔物に怪我させられた人族がいてな。それを見たユイルがケインからハイパーポーションを貰って治してやってたから、そのことが広まれば作り方を教わりに来る奴もいるかもしれん。ここまで来てそういうことを秘匿するのはどうかと思うからな、そのうち信用できる奴に教えるかもしれん」
なるほど。ユイルも色々考えてるんだなあ。ジャル・ガーさんと会ってから、ユイルは一気に大人になっちゃったんだな。
「わかりました。ありがとうございます。勇者に売ることにしますね」
「好きにしろよ。あっちの魔物はそれこそ笑えない強さだろうからな。それと、長老のやつから伝言だ。「金も物資ももういらねえから、もう送ってくるのは勘弁してくれ」だそうだ。あそこは金の流通ってのがほぼねえから、溜まる一方らしいぞ。でもって定期的に農園から送られて来る果物ももう消化しきれねえらしい。最初に送られた果物に喜んで自分たちで畑を作っちまったからなあ。もう自給できるからってよ。あとはマックに金の保管頼むそうだ……という名目だが、好きに使えってことだ」
「え、でもアレフォリスさんの本だから、じゃあジャル・ガーさんにこれからは渡しますね」
「俺もいらねえよ。もともと本は既にマックの所有だっただろ。だからほんとならあの金はマックが使うもんなんだよ。村は十分らしいからもう金を送るの禁止な」
確かに、獣人の村は独立した村だから金の流通はほぼない様な感じだった。でもこれからこっちと段々交流を広げていくんだから、あって困る物じゃないよ。
フォリスさんの本なんだから、本来だったらジャル・ガーさんのお金になるのに。
ちょっと口を尖らすと、ジャル・ガーさんが笑って俺の頭にポフッと手を置いた。
「いいか、あれはマックの所有物だ。それは他の誰でもねえ、俺が決めたことだ」
わかったか、と言われ、渋々頷いた。じゃあ、次からは違うもので持って行こう。と考えたら、ジャル・ガーさんが何考えてんだ、と俺の髪をぐしゃぐしゃにした。
部屋を出て人がいないことを確認すると、俺はすぐに部屋に戻った。
思ったより話し込んじゃった。
「待たせてすいません」
「その前に、何でマックが魔法陣を使えるんだ」
いきなり目の前に現れた俺に、勇者は動揺するでもなく静かにそう訊いてきた。
「クラッシュに習いました」
「出所はセイジか。なるほどな」
「そうだ、ハイパーポーション、この場で渡したら受け取れますか?」
倉庫にたくさん入ってるから今納品しようと思ったら、勇者が「それは無理だな」と首を振った。
「俺はセイジとかお前らみたいなおかしなカバンを持ってないんだ。今渡されても辺境までは持ち帰ることが出来ない」
「ですよね。じゃあどうしようかな」
「辺境までは跳ばないのか?」
「俺、実はまだ辺境まで行ったことないんです。だから、無理です」
「そうか。セイジを見ていると便利だなと思ったけど、あれはセイジがこの世界を隈なく歩いたからこそできることだったんだな。辺境に来る予定は? 出来ればすぐに来て欲しいところなんだが」
そうだなあ。
って勇者は最初にクラッシュに許可を取りに行ったって言ってたよな。
「クラッシュに頼んでみたらダメでしょうか」
途中門を経由して馬を引き取ってから、二人でクラッシュの店に向かう。ヴィデロさんも立ってたけど、小さく手を振るくらいしかできなかった。くっつきたい。
そのまま並んで歩いていて、否応なく気付く。隣の勇者はとんでもなく存在感があるせいか、すごく視線を感じるんだよ。
オープニングムービー映像は全員が見てるから、この赤い髪でもしかしたら勇者って気付かれてるのかな。
周りの目なんか気にしないで「それにしてもトレは素朴でいい街だな」なんて観光気分で足を進める勇者をちらりと見上げながら、そっと溜め息を呑み込んだ。
クラッシュの店に着くと、クラッシュはいつもの笑顔で俺達を迎えてくれた。
「あれ、アルさん、マックに断られたんですか?」
「いや、納品してくれるというんだが、流石に数が多いと持ち帰れなくてな。マックがクラッシュに頼んだらどうかと」
「マックからのご指名ですか。わかりました。ちょっと待っていて下さい」
いきなり入ってきた赤髪の美丈夫をカウンターの前で目をまん丸にして見ていたプレイヤーにサッと物を売ってしまうと、クラッシュはその人を追い出すように店のドアまで案内し、そして外から勇者の馬を連れて入ってくると、店を閉めてしまった。
「マックってまだ辺境行ったことなかったんだっけ」
「ノヴェの近くの森の中には行ったことあるんだけど、正直一人であそこに出ても魔物を倒せる気がしない」
「魔法陣魔法練習してたんじゃなかったの?」
「そうなんだけどさ。魔物が速いと魔法陣が完成する前に飛び掛かられるから正直一人だと難しいんだよな。セイジさんの魔法陣がどれだけ常識外れかわかったよ。レベル上げよう」
魔法陣魔法の攻撃力は、構築と共にレベルにも関係してくるらしく、まだ倒せて砂漠都市付近の魔物がせいぜいなんだよ。目潰し投げて必死で剣を振り回すのと大差ないって感じなんだ。
レベルが上がればもっと殺傷能力も上がるのかなあ。期待しよう。
クラッシュの手に掴まりながら、俺は隣に立つ勇者を見上げた。
「結局辺境へは正規の道じゃないところからになっちゃいますね」
「まあ、それはもっと強くなってからの方がいいな。今のマックの強さはまだ辺境に来れる物じゃないから」
やっぱり見てわかるのかな。この二か月弱でパーソナルレベルは4つくらい上がったけど、まだ90には届かないし剣のスキルも全くないから、自力で辺境はさすがに行けない。
とりあえず行くよ、というクラッシュの声と共に、視界が変わった。
俺達が跳んだ場所は、殺伐とした街並みの、辺境街の入り口の門の前だった。
城塞と言っても過言じゃない街を囲む壁は、所々に大砲が設置されているようだし、壁の上には歩哨が見回るような場所がありそうな厚みがあった。
そして、街の外にも、遠くにとても高い壁が薄っすらと見える。
街並みは、軒並みレンガで出来ていて、木の家なんてどこにもなかった。
大通りには鎧を着た人たちが出歩いていて、町人、って感じの人がほぼ見えない。
トレでは女性の人たちが集まって立ち話とかも普通だったせいか、すごく辺境の街が異常に見えた。流石最前線。強者の街感をひしひしと感じた。
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※本作にはボーイズラブ要素およびオメガバース設定(α、β、Ωの概念やフェロモンに関する描写)が含まれています。苦手な方は閲覧にご注意ください。