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224、『鍵ハ鍵ニ非ズ希望刺スモノ』
しおりを挟む「高橋が古代魔道語を覚えたいのか?」
話を聞いたセイジさんは、意外そうな顔をして雄太を見た。
「ってかなんで古代魔道語なんか覚えたいんだ?」
「だってここ、古代魔道語使った仕掛けが結構あるだろ。この間見つけたのに古代魔道語わからなかったから気になってよ」
雄太の言葉に、セイジさんが反応した。
「それがどこか案内してくれたら古代魔道語教えてやるよ」
「え、マジ? 勿論案内する!」
乗り気になった雄太は立ち上がってすぐに予備の鎧に着替えた。足元に古い鎧がガランと落ちる。ああ、もう耐久無くなってたんだ。ボロボロだったもんなあ。
慣れた仕草で落ちた鎧をカバンに詰め込む雄太と同じようなことを、周りの人たちがし始める。そしてみんな新品の様な鎧を身に着けていた。って、一体何個くらい鎧持ってるんだろう。俺、胸当ては今着けてるの一つだしローブはこれと前に着けてたのと、だいぶ前に使っていた性能がた落ちのやつだけなんだけど。武器とかもこういう人は何本もストックしてるんだろうなあ。インベントリの内容、きっと面白いくらい違うんだろうなあ。
「俺達も行ってみたいな。そのギミックの所に」
大穴の開いたローブを綺麗なダークグリーンのローブに変えたドレインさんがはいはーいと手を上げる。
え、『白金の獅子』も行くの? 俺も便乗したい。
ということで、俺もはーいと手を上げた。
「俺も行ってみたい」
「よし、回復担当マック」
即座に雄太が俺を指さし、連れて行ってくれること決定となった。
なんだかんだで『白金の獅子』もクラッシュも一緒に行くという話になって、大所帯で古代魔道語ギミック見学に行くことになった。
勇者が地図を広げて古代魔道語の書かれていた遺跡の様な場所を教えてくれたので、セイジさんの転移魔法陣で跳ぶことになった。
これだけの人数を引き連れて転移を使えるって、自分で出来るようになったからこそわかる。すごすぎる。そして気になるのがセイジさんのMP。下手したら四桁行くんじゃなかろうか、と勝手に推測している。多分セイジさんも自分の魔力を数値化したことはないだろうから「MPどれくらいですか」なんて訊かれても困るだろうけど。
皆で跳んだ場所は、辺境街のさらにずっと北に進んだ森のなかにぽっかり空いた小さな場所だった。中央にレンガが丸く敷かれていて、そのレンガの間からは雑草が生えている。その敷かれているレンガも、すでに色あせ、朽ちかけている。
他には何もない、ただそれだけの場所。普通に見たら「なんだ、何もないじゃん」で終わるその場所は、朽ちたレンガにうっすらと残る模様を読める人によっては大発見だと言えるかもしれない。まだどんな仕掛けがあるのかわからないけど。
「中央に鍵を刺せってよ」
「中央って、このレンガの間ですかね。鍵って何だろう。この形……細長い鍵……」
「あ、待ってセイジさん、ここに『鍵ハ鍵ニ非ズ希望刺スモノ』って書いてありますよ」
俺とクラッシュとセイジさんで早速そのレンガを覗き込む。
朽ちてボロボロだと思ってたレンガは、わざと中央をずらしてあり、そこに鍵になる物を刺さないといけないらしい。
鍵じゃない鍵。途方もないなあ。この「希望刺スモノ」の他にヒントないのかな。
首を傾げてると、後ろから覗き込んできた他の人たちがそのレンガの間を覗いて、「なんか剣でも刺せそうな形だな」と呟いた。
「剣……でもこの小ささと細さは、短剣? 短剣でも、ちょっと幅が太い様な……」
そう言ってガンツさんがカバンから手持ちの短剣を取り出した。
それは武骨で両刃でちょっと重そうな、結構ポピュラーな短剣だった。
ん? とその短剣を見て思う。
もっと細くて小さくて薄い短剣……。って、どこかで見たことあるような。
うんうん唸って、ハッとする。
そういえば前にこんなギミックの隠し部屋で、なんかあった気が。
「あれ、かなあ……」
思わず声に出したけど、でもここは辺境であそこはトレ付近。しかもあの短剣はかなり朽ちていて、何かの血痕が付いてたはずで……でも今見た短剣より細くて、薄くて、小さめの。
「何か心当たりあるのか?」
「前にセイジさんと一緒に行った場所にあった短剣なんですけど……」
セイジさんに訊かれて、俺は前に蘇生薬を研究していた人の所で拾った短剣のことを教えた。
すると、セイジさんはちょっとだけ目を細めて、口元を緩めた。
「こんな風に恩恵にあずかれるとは、な」
小さく呟いて、俺に手を差し出した。
トレまで連れて行ってくれるのかな。自分でも行けるんだけど、ここに戻ってくるのはちょっと出来なそうだからありがたい。
セイジさんの手に掴まった瞬間、クラッシュの店の中にいた。相変わらず手の動きが凄いなあ。
「ちょっと待っててくださいね」
ここだったらMPもほぼ消費しないからと早速工房に跳んで、倉庫のインベントリから古い短剣を取り出した。
ついでにハイパーポーションを取り出して、インベントリに放り込む。
他に必要な物はない、よな。でも一応あそこから持ってきた装備は詰め込んでみようかな。使えなそうだけど。
適当にポイポイ詰め込んでクラッシュの店に跳ぶ。短剣をセイジさんに見せると、セイジさんは「多分当たりだ」と短剣を手に取った。
「ルミエールダガー……光の剣か。ちょっと見た目があれだが、まあ何とかなるだろ」
まじまじと短剣を見てからそれを俺に返すと、サッと手を差し出す。
すぐに皆の所に跳ぶと、皆が見守る中早速俺はその短剣を隙間に刺し込んでみた。
誂えたように隙間と短剣の幅はぴったりだった。
少しの抵抗もなく刺さっていく短剣に、何が起きるのかという期待が高まる。
次の瞬間、その短剣が刺さったところからいきなりレンガの床がパカッと開いた。
足場がなくなり、身体が宙に投げ出される。
「うわっ!」
「マック?!」
皆の叫び声が井戸の様な縦長のこの場所に響く中、不快な浮遊感と共に俺の身体は下に落ちていた。
叩きつけられたら絶対に死に戻る、とパニックの中何とか思い至った俺は、慌てて指を動かした。
宙に必死で描く。転移の魔法陣の最後に「上、クラッシュ」と。
次の瞬間、下に下に落ちていた俺の身体は、クラッシュの上に落ちていた。
「ぅぐ……!」
苦しそうな超美形のハーフエルフの呻き声が尻の下から聞こえる。
何とか上に戻ってこれた。ほっとしながら尻に敷いてしまったクラッシュから降りると、全員が穴を覗き込んだ格好のまま、こっちを見ていた。
「マック……、う、げほ、酷い……」
「ごめん。一番古代魔道語で描き慣れてたのクラッシュの名前だったから」
「うぅ……まあ、無事だったからいいけどさ……」
クラッシュに手を差し出すと、素直にその手を取ったクラッシュは涙目で俺を見上げた。
改めてぽっかりと開いた穴を覗き込む。
幅はそんなに大きくはなかった。大きな身体の人が一人入るともう誰も通れないくらいの細さ。そして、下が見えない。
よく見ると、壁を覆っているレンガがところどころ飛び出していた。
「んじゃ、行くか」
気合いを入れて、『高橋と愉快な仲間たち』が先陣を切る。
お先、なんてユイが飛翔の魔法で穴に突っ込んでいった。ついで、ブレイブも。案外ブレイブも魔力高いのかも。
雄太も負けずにサッサと壁に足を掛けた。
「ためらいなく行ったなあいつら」
セイジさんが苦笑している。
「こんな楽しそうなことに躊躇うやつらじゃないですよ。いいなあ飛翔。楽チンそう。これ、降りるだけで結構骨が折れそう……」
下で誰かが明かりをともしているのか、素早く壁を伝って降りていく雄太が見える。
声が響くから下で「まだ下に着かないよー」「深いね」「ユイ、先に行きすぎるなよ」「お前ら待てこら!」という会話が繰り広げられているのがよく聞こえる。
「んじゃ、俺達も入ってみるか」
雄太たちの声に笑いながら、セイジさんも早速降りていった。
それに続くように『白金の獅子』のドレインさんもおりていってしまう。
そんなときに、俺のマップにある動きがあった。だから降りるのを躊躇ってる間に、残ったのは俺と月都さんだけになった。
「マック君は降りないのか?」
「降りますけど……でも、そこの樹の向こう辺りに魔物がいるんですよね。ここに来たら、中の人たち危なくないですか?」
「マック君も気になってたのか。あれは確実に俺達に気付いたよな」
「ですよね」
さっきから気になっていた魔物のマークが、ゆっくりとここに近付いてきている。
他の魔物はつかず離れずをうろうろしているから寄ってきてはいないんだけど、一匹だけ意識がこっちを向いているっぽいんだ。
さっきまでは他の魔物と同じような動きをしていたから、何かの拍子に気付いたらしい。
それを月都さんも気付いていたらしい。だからこそ残っていたようだ。
でも、ここは北の森の奥地。魔物一匹とはいえ、俺と月都さんだけで倒せるのかな。俺は確実に足手まといだろうし。
放っておいて進んじゃおうかとも思ったけど、魔物がこの穴に入ってきたら全員圧死とかもあり得るから、放置するのも難しい。
ためらってる間に、穴の中からは「ようやく下に着いたー」という雄太の声が聞こえて来て、樹の間からは熊くらいの大きさの魔物が現れた。
のそり……と鼻をヒクヒクさせながら姿を見せた魔物は、こっちを目視した瞬間飛び掛かってきた。
速過ぎて身構える間もなく身を固くすると、ガキン! と金属音が響く。
月都さんが咄嗟に剣で魔物の爪を防いだ音だった。あの速度で反応できる月都さんが凄すぎる。
でもただ見てるだけじゃだめだよな。と久しぶりに目潰しを取り出した。
魔物がザッと月都さんの剣から離れた瞬間、渾身の力を込めて目潰しを投げると、それが当たった瞬間、魔物が咆哮を上げた。
咆哮によって地面がビリビリと揺れる。
中に入った人も、こっちで何か異変があったのに気付いたのか、「大丈夫?!」というクラッシュの叫び声が響いてきた。
魔物は涎を垂らして俺達を無視して暴れ始めた。もう俺達になんか注意を向けることもせずにもがき苦しんでいる。ここの魔物でも効くんだ。よかった。
それをいいことに、月都さんがすぐに切りこんでいった。
流石勇者が弟子にしただけあり、すぐに魔物は光となって消えていった。
「魔物が出たんだけど、月都さんが倒してくれたから大丈夫ー」
中に向かって叫んでから、改めて月都さんにお礼を言った。
「助かりました。流石に強いですね。俺、反応すらできなかった」
「いや、薬師に反応で負けたら剣士の名が泣くだろ。あれくらいの雑魚ならいつも狩ってるから問題ない。それよりも、サポート助かった。ものすごく楽に攻撃が通ったよ。それに、索敵レベルが高いんだな」
「俺はあれくらいしかできないですから」
じゃあ中に入ろうか、と二人で穴に向かったところで、目の前にクラッシュが現れた。
下までついたから迎えに来たらしい。ありがたい。
「変な地響きはするし、咆哮は聞こえるし、かといってもうすぐ下ってところだったし、焦ったよ。でも高橋とか他の人はこの人がいるから大丈夫って言ってるし」
「うん。月都さんすごく強かったよ」
「ならいいんだけど! マックに何かあったら多分ヴィデロに殺されるの俺だよ⁈ そんなのやだからホント気を付けて!」
口を尖らせながらそんなことを言ってるけど、クラッシュが心配してくれたのはすごくわかる。
でもヴィデロさんが殺すって。そんなこと。
「絶対にあるから。寿命が縮むよ。俺の寿命どれくらいなのかまだわかんないけど」
「あ、そっか。それも大変だね」
「そうでもないけどね。長生き出来たらラッキーってくらい。だから、寿命が縮むようなことしないでよマック。じゃあ、下に行こっか」
クラッシュの腕が差し出されたので、苦笑して俺たちの会話を聞いていた月都さんと共にそれに掴まると、俺達はようやく下に向かった。
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