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232、一波乱の帰路
話しながらもしっかりと索敵するスノウグラスさんは、何でもそつなくこなすタイプに見えた。俺にはない器用さが光ってる。
大分目的地に近くなり、魔物がそろそろ強くなってくる場所に差し掛かっても、スノウグラスさんの索敵はとても冴えていた。ほんと俺、さっきから途中生えてる素材の採取しかしてないよ。でも今日はレアものが多かった。やった、今日はついてる。
「この素材は俺が採ると使い物にならないんだけどどうすればいいんだ?」
「それは根っこから手で優しく掘り起こすようにして、長く地面に刺さってる根を少しだけ残して採るんです。そうすると、その根が育ってまたそこにその素材が生えますから」
「ああ、わかったやってみる。って、採取レベルが上がった。マック君は凄いな」
「慣れです。俺、素材集めと生産しかしてないですから」
うまく採取できたものをそっとカバンにしまい込んだスノウグラスさんは、横にあった同じ素材をさらに練習とばかりに採っている。
魔物が強くなった辺りからは素材もいい物とかレア物に変わってくるから、採取してる人にはこの変化は楽しい。用心棒がいればだけど。
マルクスさんは俺達がしゃがみ込んで色々やってるのを暖かく見守りながら、来る魔物来る魔物をひたすら剣で切っていた。そして急かすようなことは一切言わなかった。
ようやく目的の花の場所に着くと、俺は持っていたハイパーポーションをマルクスさんに渡した。今はもうハイポーションはクラッシュの所に納品する分しか作ってないから。そしてマジックハイパーポーションをスノウグラスさんに渡す。二人とも味と回復量にひたすら驚いていたけど、だって薬師だからで押し通してみた。マルクスさんは「まあマックだしな」で済んだけれど、スノウグラスさんは笑顔で薬師を強調する俺の意を汲んだのか何なのか、突っ込まれることはなかった。何か言いたそうな顔をしていたのは見なかったことにした。さ、採取採取。
「この花は採取しちゃうと丸一日で枯れちゃうものなんです。だから今日の日没までっていう時間指定があるんです。俺もこの間採取した物をそれで数本ダメにしちゃったので。だから帰りは採取しないで全速力で帰りましょうね」
花の取り方を伝授しながらそう言うと、スノウグラスさんは神妙に頷いた。そして既定の本数分採取した花をしっかりとインベントリに入れてホッと息を吐いて、表情を緩めた。
「んじゃ、帰るか」
というマルクスさんの言葉を合図に帰路についた俺たちは、順調に足を進めていた。
そして少し進んだところで、マップのマークに異変が起きてることに気付いた。
ハッと顔をあげると、スノウグラスさんも気付いたらしく、俺と目を合わせた。
俺達が進む進路上の一か所に、異常に敵マークが集まっていた。まるで誰かがトレインしちゃったみたいなそんな感じの動きだった。
だって先頭はプレイヤーマーク。その後ろから魔物のマークが後を追うように動いている。
「トレインだ……」
「トレイン、か?」
俺とスノウグラスさんが同時に呟く。それを聞いたマルクスさんが顔を険しくした。手を腰の剣に伸ばしている。
「こっちに向かってんのか」
「来てます」
スノウグラスさんの返事に、マルクスさんは一歩俺たちの前に出た。
魔物の数は十を超えているのがわかる。位置的には弱い魔物を引き連れてるんだと思いたい。でも微妙な境界線なんだよなあ。姿が見えれば魔物のHPバーの色で弱いか強いかわかるのに。でもまあ強い魔物だったら、あんなふうになる前に死に戻ってる気がする。でも数が多いなあ。
俺もインベントリから目潰しを取り出して、すぐに投げられるようにした。
迂回するって手もないわけじゃないけど、今魔物から逃げてるプレイヤーの動きがかなり無軌道だからどこに進むのか読めないんだよな。地形的に酷いところでバッティングしたらヤバい。
「奥に眠りし力よ、目覚めろ、活力向上アクティブアップ。何事にも動じない精神になれ、胆力向上ブレイブアップ」
スノウグラスさんの呪文で、ステータスが底上げされる。そして威圧耐性が付いた。支援魔法すごい。
「うわ、やる気出てきた。とりあえずここら辺なら通れる道が決まってるから、魔物が多くても一気に囲まれることはねえな。うまいことこっちに逃げて来いよ」
舌なめずりしそうな勢いでマルクスさんが剣を構える。結構近い距離まで来ているトレインは、索敵がなくてもそろそろ俺達がマップに映り込む位置まで来ているみたいだった。迷わずにまっすぐこっちに向かい始めた。
草を掻き分ける音が聞こえてくる。俺たちは足を止めて逃げているプレイヤーと魔物を待った。
そう間を置かずに、結構ボロボロになった鎧姿の人が木の間から飛び出してきた。そして魔物の群れも。鎧の人が俺たちの間を抜けた瞬間、マルクスさんは剣を薙ぎ、俺は目潰しを投げた。
魔物の阿鼻叫喚が聞こえる。それをマルクスさんが難なく葬っていく。
横からくる魔物も、マルクスさんは危なげなく剣で切り捨てた。
「お前は……!」
後ろでスノウグラスさんの険のある声が聞こえてきたけど、まだ魔物はいるから振り向いていられない。
トレ周辺にいる弱い魔物だから、俺でも対処できるのが救いだよ。
未だ下手くそな剣を振るいながら目潰しで弱らせ、消した魔物が十を数えたころに、新たな魔物が飛び出してきた。トレ周辺の魔物のHPバーは赤、もしくは黄色なんだけど、その魔物の頭上には緑色のバーが見える。
弱い中に強い魔物も入ってたのか。
残り魔物四体。これが全部強い方だったらちょっと危ないかも。
「なあマック」
剣で魔物を切り付けながら、マルクスさんが口を開いた。
「ヴィデロはこの魔物、瞬殺してたか?」
「さっきまでのなら出来たけど、流石にこれを一撃では倒せなかったよ」
「そうか。最近訓練であいつに負けっぱなしで、な!」
だってヴィデロさん、獣人さんたち相手にすごく鍛えてたもん。人族と獣人じゃ身体能力が全然違うから、まさにレベルの違う訓練をしていたってことだよ。
魔物の牙を剣で押さえ、そのまま下あごを切り裂いたマルクスさんは、一瞬だけ俺に視線を向けた。
何か言いたげだったけれど、魔物に集中することにしたらしいマルクスさんは、その後は口を開かず、ただ剣を揮った。
ふと後ろから揉める声が聞こえてきたので、後ろを向くと、逃げてきた鎧の人がスノウグラスさんに掴みかかっていた。
と同時に魔物が二体横から出てきた。
必死で魔法陣を描いて、魔力を凝縮したファイアーボールを飛ばす。そしてもう一体に目潰しを投げる。
先に戦っていた魔物に止めを刺したマルクスさんは、「くそ!」と舌打ちしながら目潰しでもがいてる魔物に向かった。
「ちょっとそこ! 何してるんだよ!」
魔法陣を描きながらスノウグラスさんに掴みかかっている人に怒鳴ると、その鎧の人は「うるせえ!」と怒鳴り返してきた。
違うことをしながら魔法陣を描くと入れ忘れるワードとか出てくるから効果が低くなっちゃうんだよ! まだ初心者だから!
「まずこの魔物を何とかしろよ! あんたが連れて来たんだろ!」
そう叫んでる間にも、マルクスさんの腕を魔物の爪が掠る。
それを見たスノウグラスさんが息を呑んで、自分を掴んでいる鎧の人にガン! と蹴りを入れた。
「まず状況を読めよ! エイシンが連れて来た魔物だろ! 俺にこんなことしてる前に、まずは向こうを何とかする方が先だろうが!」
スノウグラスさんのもっともな言葉に、鎧の人が舌打ちして手を離した。
自由になったスノウグラスさんはこっちに走り寄ってきて、俺とマルクスさんにまた支援魔法を掛けた。今度は魔力アップのやつだ。助かる。
「魔力アップ嬉しい! 自由な風よ、そこに集まり形と成し、標的を押しつぶせ! ストムプレス!」
効果アップの風魔法は、さっきのファイアーボールよりよほどHPを削った。まだまだ改善の余地ありだよ魔法陣魔法。
「サンキュ! でもスノウグラスは前に出て来るな! こいつら、さっきの所に出た強さの魔物だ!」
「でもマルクスさん傷が!」
「これくらいなんでもねえよ!」
マルクスさんが身体を動かし、魔物とスノウグラスさんの間の軌道に入るところに移動する。
手からは血が流れているけど、もう一体俺が必死に魔法で抑えてる状態だから回復が難しい。全然削れないよ、魔法陣魔法! レベル低いからかな! それとも構築が悪いのかな!
「エイシン! 何でそこで突っ立ってるんだよ!」
魔物にデバフの魔法を掛けながらスノウグラスさんが叫ぶ。やっぱり知り合いだったんだ。でもその人、立派な鎧を着てるくせに武器持ってない。
顔をゆがませてるから、きっと武器がなくなったんだろうなと思う。
「武器が耐久値なくなって使えなくなったんだよ! そんな状態で戦えるわけねえだろ!」
ああ、やっぱり。それを聞いていたらしいマルクスさんも、呆れたような表情を一瞬だけ浮かべた。
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