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240、ストーカーVSスノウグラスさん、じゃなくてマルクスさん
壁際を二人で進む。
あいつらが戻ってくる気配もないから、無事撒けたみたいだ。当たり前だけど。
「マック君、迷惑かけてごめん」
「迷惑じゃないですよこれくらい」
パーティーでの素材探しの冒険最後がこんな締めで、スノウグラスさんはすごく申し訳なさそうだった。
こういうときになんかかっこいい言葉を言えたらすごく頼れる男って感じなのに。
気の利いた言葉が思い浮かばないまま、俺達は門の見えるところまで来た。立っていたヴィデロさんがこっちを振り向く。そういえば索敵をマスターしてたんだった。
手を振ると、ヴィデロさんも手を振ってくれた。
「すっごく楽しかったです。一緒に素材を採って盛り上がってくれる人がいなかったから」
「それを言ったら俺もだ。皆魔物を狩る方に喜びを見出していたから。俺は、あんまり魔物を狩るのは好きじゃなくて」
「だからこそ職業ジョブおっさんはスノウグラスさんに支援魔導士を勧めたんですね。すごく合ってると思います」
「そうかな」
マルクスさんも俺たちの姿に気付いて、手を振ってくれた。
二人で門に駆け寄ると、顔が見えるようにと兜の面を上げてくれる。
「ようマック。剣はどうだった? 見た目みたいなへなちょこじゃなかったか?」
ニヤニヤしながら揶揄ってくるマルクスさんに俺もドヤ顔を返す。
「もちろん! 一撃で倒せるようになったけど何か?」
「マジか?!」
「支援魔法で底上げしてもらったからだけどね」
「マック君、そこは黙っておいてもいいと思う」
ネタばらしをした瞬間スノウグラスさんが笑う。
「でもマルクスさん、マック君は強いですよ。魔法と剣とアイテムを駆使して魔物を翻弄しますから」
すかさずフォローしてくれるスノウグラスさんは天使ですかそうですか。
感動していると、マルクスさんがスノウグラスさんの肩にポンと手を置いた。
「俺もマックの実力は認めてる。こいつはすげえやつだ。でもなあ……普段の雰囲気と言動がそのすごさをぶち壊してるのがなあ……まあだからこそマックなんだが」
「マルクス、マックはその雰囲気と言動を含めて、最高なんだ」
ヴィデロさん、それはアレですか、俺はダメっこじゃないよって否定しているんじゃなくて、ダメっこなのがいいっていうやつですか。う……嬉しくないけど嬉しい。複雑な気持ち。好き。
思わずヴィデロさんに抱き着くと、ヴィデロさんが抱きしめ返してくれた。
「でもこっちから帰ってきたってことは、昨日揉めていた奴らには会わなかったってことか」
もしかしてヴィデロさん、さっきの人たちが通るとき警戒でもしてたのかな。
俺は心配させないために首を振った。会ったわけじゃなくて見かけて逃げただけだから。
「大丈夫だったよ」
「ならいいけど」
ヴィデロさんはくっついたままの俺の髪をそっと撫でた。
ヴィデロさんを堪能して俺が離れると、マルクスさんと話をしていたスノウグラスさんが俺の方を向いた。
「じゃあ、パーティー解除しようか。ありがとう。マック君のおかげで楽しかった」
「俺も楽しかったです。パーティーは組まなくてもいいんで、また素材探しに一緒に行きませんか? もし暇なときは誘うんで!」
「もちろん。是非誘ってくれ」
スノウグラスさんに了承を貰って小さくガッツポーズをする。
そして、一日限りのパーティーを解除した。また一人に戻っちゃったステータス欄を見て、ちょっとだけ寂しいなと思う。
でもフレンドは登録したままだし、また誘ってもいいって言ってくれたから、それで満足しておこう。ヴィデロさんと二人旅をしてから、ほんと一人でのフィールドワークがちょっと味気なかったんだ。もちろん調薬とか錬金とかしてる時はそんなこと感じないんだけど。
なんてほんわかと話をしていると、街の中から一つのパーティーが歩いてきた。
何となくそっちに目を向けて、思わず顔を顰める。
マルクスさんも、少しだけ警戒した様に目を細めて、口角を上げた。そして上げていた面をサッと下ろし、顔を隠す。
マルクスさんがさりげなく俺と自分の後ろにスノウグラスさんが来るように一歩だけ動く。
そのパーティーの中にトレイン君がいたのを、街の方を向いていた俺とマルクスさんが見つけちゃったから。
「よう、出掛けるのか? 気を付けろよ」
いつも道を行くプレイヤーに声を掛けるのと同じように声を掛けるマルクスさんは、自分の高い身長でスノウグラスさんを隠してるみたいだった。
「いつもご苦労様です」
きっちりと頭を下げて笑顔を見せたそのパーティーのリーダーは、すごく人好きのするような雰囲気でマルクスさんにそう声を掛けた。
その声に、スノウグラスさんがビクッと身体を揺らした。
さっきまで笑顔だったスノウグラスさんの顔が、険しく冷たい雰囲気になっている。
もしかして連絡が行っちゃったのかな、あいつらから。これから合流して探すところだったりして。タイミング悪かったなあ。
気付かないでくれ、と思う気持ちは天に通じなかったらしく、その男は俺たちの間からちらりと見えるスノウグラスさんのローブに視線を向けた。
そして、困ったような笑顔で口を開いた。
「少しいいでしょうか。門番さんの後ろにいるのは、うちのパーティーメンバーではないですか? ご迷惑を掛けたみたいで、本当にすいません」
まるで保護者の様な言い方で頭を下げるその男に、マルクスさんが「そんなやつはいねえよ」と返す。
「お前んところのパーティーメンバーなんてそこにいるやつら以外いねえだろ。誰かと間違えてねえか?」
あくまでしらばっくれた口調で答えるマルクスさんに、男は「いいえ、そいつは間違いなく俺の所のやつですよ」と返してきた。
「スノウグラス。そろそろいい加減機嫌を直して戻って来いよ。勝手に飛び出したことは怒ってないから」
笑顔でお前は悪くないよ、と諭すように語り掛けるけれど、なんかすごく目が怖い。
俺もちょっとだけ移動して、背が足りないけど背中にスノウグラスさんを隠すように立った。
「何寝言言ってるんだよ。スノウグラスさんは俺のパーティーメンバーだよ。勝手に俺のメンバーを自分のモノにするなよ」
俺の言葉に、男は視線を下げて、俺と視線を合わせてから、フッと笑った。
「君のことは知っているよ。とても高性能なハイポーションを作る薬師のマック君だろ。昨日、エイシンがお世話になったね」
「エイシンってトレイン君の事? めちゃくちゃ世話したよ。っていうかどうしてパーティーメンバーであるあんたたちがトレインを食い止めないんだ。ふざけてるだろ。ってことは昨日のことはトレイン君から聞いてるんだね。じゃあスノウグラスさんが俺のパーティーメンバーだってのもわかってるんだろ」
「それは単なるスノウグラスの気紛れだろ。それに、あのトレインの時はエイシンとはぐれてしまってね」
何とかしたかったけど参ったよ、なんて苦笑する男に嫌悪感が沸く。
「じゃあ今トレイン君の昨日の被害額を請求したら払ってくれるのか?」
「昨日もうエイシンが払ったはずだろう? 英雄の息子専属薬師は二重に請求するのか?」
「昨日払ってもらった額はディスペルハイポーションと剣のお金。俺が今言ってるのは昨日のトレインで傷ついた人たちの治療薬のお金と迷惑料だよ」
「へえ、想像以上に薬師殿は金にがめついんだな。失望したよ」
「あんたに失望されても痛くも痒くもないから別にいいよ」
ふん、と鼻を鳴らすと、俺のローブがくいっと引っ張られた。
「マック君」
今度は俺が庇われるような形になって、スノウグラスさんが前に出てきた。マルクスさんの横に並んで、真正面からやつと対峙した。隠れてたらいいのに。俺がコテンパンに。と意気込んでいると、スノウグラスさんがまっすぐ男を見た。
「いい加減にしてくれ。俺はお前の持ち物でもないし、ここでまでお前と一緒にいたくもない。気紛れとかそんなんじゃないしずっと考えていた。二度と話しかけるな」
「お前はそんなことが言える立場だと思っているのか?」
「勿論。俺はもう絶縁したと思ってくれていい。二度と本家の集まりに顔を出す気はないし、家に縛られるつもりもない」
きっぱりと言い切ったスノウグラスさんに、男は口元だけを上げたスマイルを向けた。
「支援を打ち切ったら、お前だってぬくぬくと大学になんか通えなくなるんだぞ」
「別にいい。勝手に打ち切れよ」
「あの夫婦に恨まれるんじゃないか? あいつらが本家からの支援のためにお前を俺に差し出したようなもんだからな」
「別にいい。育てては貰ったが、俺はあの両親の駒じゃないからな」
「お前は情という物がないのか」
「この血筋に関しては、情なんてわかない。吐き気がする」
あくまで上からの男に対して、スノウグラスさんは淡々と答えていた。家族の情が沸かないというスノウグラスさんの顔は、すべてを諦めきったような顔をしていて、見ているだけの俺の方が胸が痛かった。
男もスノウグラスさんの本気を感じ取ったのか、口元の笑みを消した。
「門番さんは、俺達プレイヤー間の揉め事には口を出さないでくださいね。あくまでこれはプレイヤー間の事なので」
真顔になった男が、腰の剣に手を添えようとする。
ここで剣を抜いても意味ないのに、スノウグラスさんの反応が男の中の何かに触れたようだった。
「さてな。それはお前の決めることじゃねえな」
「門番さんの出番は、街に入ろうとする魔物を止めることでしょう」
「だからそれも、お前が決めることじゃねえ」
「俺達の事には口出ししないでくださいね」
マルクスさんの返答にもイラっとしたらしい男は、最後奥歯を噛みしめるように声を絞り出してマルクスさんを睨んだ。
「お前は一度死に戻って頭を冷やしたらどうだ?」
「遠慮する。どうしてお前に殺されないといけないんだ」
「それは、お前が我が儘だからだろう?」
剣を腰から抜き、男がスノウグラスさんに向けて構えた。
瞬間、マルクスさんの持つ槍が勢いよく男の剣を弾いた。
男の手から剣が飛んでいく。
痺れたのか、男は手を押さえて、く、と呻いた。
「邪魔するなって言っただろ!」
「俺は邪魔しねえとは言ってねえだろ。何こいつに剣を向けてるんだよ。俺とやるか? ほら、剣拾ってきて構えろよ。相手してやるよ。こいつはな、俺の大事な友人ダチなんだよ。友人に剣を向けるのを阻止して何が悪い。っつうかお前、こいつの言葉を聞いたことあるか? 何独りよがり決め込んでるんだよ。お前、他の奴らを見下すのも大概にしろよ。こいつは、お前の物なんかじゃねえ。好き勝手していい奴でもねえ」
槍を突き出し、ほら来い。と男を挑発するマルクスさんを、ヴィデロさんは止めずに見ていた。
スノウグラスさんはマルクスさんの言葉に、唇を噛んで目を伏せている。
「スノウグラス。この状況で俺が衛兵に連絡したら、お前を庇っているこの門番がどうなるのかわかるか? プレイヤーに槍を向けているこいつがどうなるか」
スッと声のトーンを落として、男がスノウグラスさんに話しかけてきた。
ハッとしてスノウグラスさんが顔を上げる。
さっきまでの苛ついた顔がなりを潜め、薄く笑みを乗せたその顔は、勝ち誇ったような顔つきだった。
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※本作にはボーイズラブ要素およびオメガバース設定(α、β、Ωの概念やフェロモンに関する描写)が含まれています。苦手な方は閲覧にご注意ください。