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250、形見の剣
門を潜って街の外に出る。
道はあるけれど、この先は街がないはず。どこに続いてるんだろう。壁かな。
二人で森を歩いてみると、まだ門から十メートルくらいの場所にも拘わらず魔物が飛び出してきた。
ヴィデロさんは慌てずサッと腰の剣を抜き、そのまま横に振る。
魔物の腹を切ったはずなのに、HPゲージはそこまで減っていなかった。
よし、目潰し。
転がったところに目潰しを投げると、魔物はそのまま苦しみ始めた。
好機とばかりにヴィデロさんが攻めていく。数度の攻撃で魔物は光となって消えていった。
ヴィデロさん、辺境の魔物ともやりあえるんだね! かっこいい!
大興奮していると、門の方から声が掛かった。
「その剣、ここらへんで使うのはちょっとばかし辛いんじゃないか? なまくらとは言わねえがな」
その言葉に、ヴィデロさんが手元の剣を見下ろした。
その剣は、俺たちが二人で出るようになってからずっとヴィデロさんが使っている愛用の剣で、いつもピカピカに手入れされているようだった。門に立ってる時は槍を持ってるから、完全プライベートな剣。
ヴィデロさんは鎧の手甲を着けた手で剣をひと撫ですると、門番さんを振り返った。
「ありがとう。でもこれは父の形見なんだ。交換しようとは思ったこともなくてな」
「そうなのか。そいつぁ……じゃあせめてもう一本剣を持ったらどうだ」
「いや……父はこの剣で辺境の魔物と対峙したと聞いた。挑戦、というわけじゃないが、俺もこの剣でどこまでやれるか少し試してみたいんだ」
「そうか。余計なお世話だったな。しかしよ、無理だと思ったらすぐ剣を買い替えるこった。その剣を使ってて大けがでもしたら、親父さんが悲しむんじゃねえか? ここら辺では、そういうこだわりはすぐに甘さに変わるからよ」
「わかった。忠告ありがとう」
お互いが手を挙げているのを見て、俺はヴィデロさんの手に持った剣に視線を向けた。
お父さんの形見だったんだ、この剣。知らなかった。
じゃあ、この剣が強くなる、なんてことは出来ないのかな。他のを買おうよ、なんて簡単に言えなくなっちゃったし。
攻撃力をあげる、防御力をあげる何かを見たことが……。
うーんと唸って、ふと思い出す。魔法陣のテキストだ。
ケインさんから貰った魔法陣の本を取り出して、ページを繰る。
まだまだ未消化の魔法陣ばかりの中に、攻撃力をあげる魔法陣があった。
これを構築して、出来上がらせて、剣に使ったらどうなるんだろう。
初期の攻撃力上昇魔法陣は、まんなかに「攻撃力上昇」「スタミナ上昇」としか書かれておらず、これをどう構築すればいいか俺はあまり早く回らない頭をフル回転させた。
「攻撃力をあげるってことは、筋力……剣に筋力ってあるのかな。スタミナ上昇を外すとまずこの魔方陣が発動しない恐れがあるし。うう……耐久力も上げてみるか。でもって、そうなると魔力も入れないといけなくて。あと装飾語の方はどうすれば……攻撃力攻撃力……耐久値も上げたいし」
ぶつぶつと呟いて、頭の中で魔法陣を構築してみる。
「ヴィデロさん、ちょっと攻撃力上昇のバフ掛けしてみてもいい? 剣に。あと鑑定してみてもいい?」
「剣に? また面白いことをやりそうだなマック。もちろん、いくらでも」
楽しそうに顔を綻ばせて了承してくれたヴィデロさんにありがとうと返して、まずは剣を鑑定する。
『オブシディアンソード:攻撃力156 耐久値57 切ることに特化した黒曜石の剣 耐久値が低いため一定値以上の力を受けると折れる』
うわあ、黒曜石の剣だった。黒くないことにびっくりだ。
でも攻撃力は高くても耐久値が低いんだ。じゃあそこも踏まえて魔法陣を描いてみよう。
出来上がった魔法陣をヴィデロさんに飛ばすと、剣じゃなくてヴィデロさんに攻撃力上昇が付いちゃったみたいだった。
剣の鑑定内容は全く変わってなかった。
ってことは、剣に限定して、そしてもっと耐久値を上げてみて、硬さも足したほうがいいのかな。
もう一度魔法陣を描いて、しっかりと外円に剣限定と描いて、魔法陣を飛ばす。
今度こそ剣に魔法陣が飛んで行った。
魔法陣が剣を包み込み、剣がふわっと光る。
ヴィデロさんが剣の変化に驚いているようだった。
耐久値も上げて、攻撃力を上げて、そして丈夫にして、色々詰め込んだ魔法陣を受けたからね。
無事剣にバフが掛かったのか確認のためにもう一度鑑定すると、攻撃力が二割増えて、耐久値が100に戻っていて、剣の説明が変わっていた。硬度が増したため、ある程度の攻撃なら耐えることが出来るってなってる。
ヴィデロさんが剣を振ってみている。
「軽くなった……? それに、これ」
そう呟いて、剣の柄を俺に見せてくれた。
俺の描いた魔法陣が、剣の柄に彫り込まれるように入っていた。
「え、嘘、落書きみたくなっちゃった……! け、消せる? ごめんなさいヴィデロさん……!」
慌ててその魔法陣を擦ると、ヴィデロさんは「違うよ、大丈夫」と俺の手を止めた。
「ありがとうマック。すごく軽くて振りやすくなったよ。それにこれは、マックが俺のために強化してくれた証だ。嬉しいよ」
「ヴィデロさん……」
俺を安心させるためなのか、魔法陣の描かれた柄にちゅ、とヴィデロさんがキスをした。大事なお父さんの剣に落書きしちゃった気分なのに、なんて心が広いんだヴィデロさん、好き。
「もう一度、今度はこの剣の性能を試してみようか」
「うん。あ、でも待って」
今の魔法陣で魔力節約するの忘れてたから、MPがごっそりなくなってるんだ。MPを回復させるためにマジックハイパーポーションを一気飲みする。俺の魔力をひたすら込めた魔法陣、ちゃんと威力を発揮するのか心配だ……。
さらに街を離れてみる。
ここの魔物は俺のへなちょこ剣なんて全く効かないとみていいから、俺の剣は腰にぶら下げたまま。
鎧を着たヴィデロさんは、森の木陰に入ると、途端に存在感が薄くなる気がする。まあまだ目で追えるけど。
これが隠密作用か。すごいなあ。でも。
と俺は剣をちらりと見る。
剣の柄、手で隠れない場所に描かれちゃった魔法陣が、木陰に入ってもなんかライトがついてるみたいに青白く光ってるんだよなあ。どうしてだろう。魔法陣にも隠密を入れた方がよかったのかな。
あああアレが光ってる限り、お父さんの剣に落書きしちゃったっていう想いが消えない……!
そんな俺を苦笑して見ているヴィデロさんは、マップに魔物の点が見えた時点でフッと顔をそっちの方に向けた。俺と同じ範囲索敵してるってことだよな。すごい。
それにしても、ここら辺の魔物はかなり速い。
マップに映ったと思ったら、すぐに近付いてくるんだ。トレ付近だと、この範囲の索敵だったら結構悠長に構えてられるんだけど、ここはほぼ一瞬、と言ったら言い過ぎかもだけど、そんな感じで近付いてくるんだ。
ヴィデロさんは剣を構え、魔物が木の間から飛び出してきた瞬間、自分も飛び出していった。
心なしか、ヴィデロさんが剣を振る速度が上がった気がする。
攻撃を真正面から受けた魔物はそれほど身体が大きくなかったせいか、剣を受けて横によろめき、その隙にヴィデロさんがもう一度剣を揮った。
地面にガツンと倒れた魔物に、とどめ、と剣を突き刺すヴィデロさんを、ただただ見ていた俺。
どうしよう……今まさに最高速で惚れ直し中。なんかもう、何かのゲームに出てくる主人公って感じの強さだ。心臓がバクバクする。
魔物が光と化すと、地面にまで突き刺さった剣をゆっくりと抜いたヴィデロさんは、全く汚れていない剣をまじまじと見て、もう一度軽くブンと剣を振った。
「マック、この剣……」
「ふ、不具合あった? アフターサービス頑張るよ……! 魔改造になっちゃうかもしれないけど……!」
ヴィデロさんの呟きにいきなり現実に帰ってきた俺は、失敗だったのかな……! とドキドキしながらギュッと目を閉じておとがめを待った。だって目を開けると見惚れちゃって反省にならないから。
しばらく待ってみても、一向に文句は来ない。アレ? お父さんの剣を返せとか元に戻せとか、言わない?
とちらりと片目を開けると、間近にヴィデロさんの顔があって、ちゅ、と軽くキスされた。
驚いて目を全開にすると、ヴィデロさんの苦笑が目に入る。
「そんな不具合なんてあるはずないだろ。その逆。すごく軽いのに、切れ味が今までと全く違うのに驚いていたんだ。しかも、いつもなら結構傷つくはずの刃が全くの無傷だから驚いたんだ」
「じゃあ、成功、なのかな?」
確かにさっきの一撃と今の戦闘の一撃では魔物のHPの減りは全く違っていたけど。
それが見えないヴィデロさんがそういうなら、間違いないってことかな。
もう一度インベントリから魔法陣テキストを取り出して攻撃力アップの所を見ると、俺が描いた魔法陣がそのまま載っていて、載っているってことはまだ改良の余地ありなんだということを知らしめていた。
ヴィデロさんこの魔法陣の改良に付き合ってくれるかな。門番さんたちにお願いしてみようかな、色々と。
本をしまってよし、と気合を入れる。
でも魔法陣魔法ってやっぱり面白い。自分の好きに弄れるっていうのがすごく。難しいけどね。
道をまっすぐ進んでみる。
道があるってことは人の行き来もあるってことで。
レベル帯の高すぎるプレイヤーも、かなり行き来している。
ここらへんでレベル上げしてるってことかな。雄太たちは勇者に鍛えられてるのかな。そろそろ化け物並みのレベルに達したんじゃなかろうか。俺、雄太にとってはありんこくらいの脅威だよなきっと。
こんな風に道を歩いていても魔物は出てくるわけで。魔物が出てくると、そこら辺を歩いているプレイヤーが軽く魔物を光に変えていく。
こんな日の光の下、誰もヴィデロさんに目を向けないのは、隠密が働いているせいか周りのプレイヤーの鎧がとてつもなく目立つせいか。
中には肩にめっちゃでっかい角を付けている鎧を着た人もいる。あれ、雄太の鎧ってもっとスマートだったような。シルバーのシンプルな鎧だったような。ああいうのが普通かと思ってたけど、あれは地味な方だったんだ。鎧のバリエーション恐ろしいね。
でも一番カッコいいのはヴィデロさんの黒い鎧だけど。
「人が一杯いるから魔物倒せないね」
「でも、魔物を倒すのが目的じゃなくて、マックと歩くのが目的だからいいんじゃないか?」
そんなことをのたまったヴィデロさんは、ぽかんと自分を見上げている俺の間抜け顔を覗き込んで、くすっと笑った。
そうだった。魔物を倒すことが目的じゃなくて、辺境デートが目的だった! 俺が目的を見失ってた! だって戦うヴィデロさんがかっこよすぎて……! でもこうやって笑ってるヴィデロさんもまたいい!
「あの壁は、上にも登れるらしいから、登って、向こうの大陸を見てみないか?」
「見たい! 魔大陸、見たい!」
気合いを入れた俺たちは、少しだけ足を速めて、壁に向かって進んでいった。
ちなみに、辺境での俺自身の戦闘はと言うと。
俺が剣を抜いて構えた瞬間、唸っていた魔物がそれを見て、唸りを挑発に変えて目の前をうろうろし始めた。確実に魔物にも『衰威』が発動したと思われ、その魔物の動きは俺の心にちょっとした傷を残したのだった。
だって、魔物、明らかに俺を馬鹿にしてた……! 低く構えてグルルルルしてたはずなのに、いきなり立ち上がって顔を上げて、空に向かって遠吠えしてみたり、こっちをじっと見てウーウー言ってみたり。くるりと回って「おら、攻撃してみろよ。お前の剣なんて俺にゃ通じねえぜ」みたいに尻尾を振ってみたり。
もちろんヴィデロさんにさくっと消されたけどね。
俺の心の傷はそうそう簡単には消えないぜ……。周りで見ていたプレイヤーも、笑ってるんじゃねえよ! くそお!
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※本作にはボーイズラブ要素およびオメガバース設定(α、β、Ωの概念やフェロモンに関する描写)が含まれています。苦手な方は閲覧にご注意ください。