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269、魔物狩り!
森に出現している魔物は、確かにいつもより強かった。
いつもトレの森にいる獣型魔物じゃなくて、普段だったら砂漠都市付近で出てくる魔物がトレの森に出現している。そしてその数はかなり多い。
それでもヴィデロさんは難なく魔物を屠っていき、俺もある程度なら風魔法とヘッポコ剣で何とかなった。『感覚機能破壊薬』はちょっと怖くてまだ出していない。だってプレイヤーさんも結構周りにいるから。少しずつ散ってはいるんだけどね。
「物騒なんてもんじゃないな。砂漠の魔物がここまで来てるみたいだな」
「うん、何かあったのかな。各街ってギルドの人が言ってたから、全体的に魔物が増えたみたいなんだけど」
「ってことは、何かあるとしたら、辺境の方……?」
「ちょっと高橋に訊いてみる」
出てくる魔物をヴィデロさんに任せて、俺はチャット欄を開いた。
雄太に『そっちの方でなんかあった?』と一言送ってみる。
そしてまたヴィデロさんと共に湧き出てくる魔物を消しにかかった。
「ブロッサムさんたち大丈夫かな」
「あいつらなら大丈夫だろ。でも、合流出来ればいいんだが」
「うん。でも時間的にもっと先に行っちゃってるかもね」
ブロッサムさんたちが出ていってからかなり時間が経っちゃってるから。
プレイヤーたちはまだいいんだけど、ブロッサムさんたちがもし万が一があったら、大変だから。
「あいつらがいつも見回るルートは、向こうから森に入って行ってこう、ぐるっと回るんだ。今日は魔物の数が多いからもしかしたらルートを多少外れるかもしれないが、後発の奴らと落ち合えるように、大抵は決められたルートを辿ってるはずなんだ。だから、ここからまっすぐ進めば、うまくいけば合流できる。行くか?」
「そうなんだ。行こう!」
砂漠に出てくるはずのでっかい蟻の魔物を蹴散らしながら、俺たちはヴィデロさんの指さしたほうを目指した。
砂漠の上に出てくる蟻は見つけやすくて倒しやすいのに、草が生えた森の中に出てくる蟻は、背の高い草の間なんかだと隠れちゃってなかなか見えない厄介な魔物と化す。大きいって言ってもひざ丈くらいだからね。ガチガチ言ってる口に噛まれたら絶対に痛いから遠慮したいけど。至る所で「いてえ! また蟻出やがった!」とかいう悲鳴が聞こえてくるから、結構皆が蟻に苦戦してるみたいだった。鎧の人にとっては脅威でも何でもないみたいだけどね。
魔物を警戒しつつ、足を進める。
ヴィデロさんは後ろから襲ってくる魔物も危なげなく倒していく。精度抜群だ。カッコいい。
俺も剣を抜き身のまま手に走っているからか、魔物は確実に俺に向かってくる。それを片っ端からヴィデロさんが切っていくから、連携はバッチリだった。
樹の間を走り、木の上から攻撃してくる魔物を躱したところで、チャット欄にピロンと通知が来た。
早速開いてみる。
『なんか壁の向こうにユニークボスが出現したみたいだ。それで、壁向こうの雑魚が壁のこっち側まで逃げてきてる。いつもの雑魚は出てこねえ。皆クエストクエストって騒いでるけど、マックはクエスト来たか? 俺は来てない』
雄太たちは冒険者ギルドに行かなかったみたいだった。それにしてもユニークボスから逃げてるって。だから少し先の魔物が出てきてるのか。
とりあえずクエスト受注方法を教えるために指を動かそうとしたところで、身体がふわっと浮いた。
そして気付いたらヴィデロさんの腕の中。
足元ではヴィデロさんに踏みつぶされた蟻がギーギー声を上げながら光と化していった。
「マック、怪我はないか?」
俺を子供にするように片手で抱いたまま、ヴィデロさんが顔を覗き込んでくる。
「あ、うん。大丈夫。ありがとうヴィデロさん」
一応成人手前の俺をこんなに軽々持ち上げるヴィデロさんかっこいい。でもこの抱っこ、まるで、親子……?
いやいやそんなことはない、はず。
こうやって抱っこされるのも悪くない、けど、これじゃヴィデロさん戦えないよね。
下ろしてもらおうとしても、ヴィデロさんは俺を片手で抱き上げたまま、おろしてくれない。
「ヴィデロさん、こんな状態じゃ戦えないよね」
「大丈夫。剣は振れる。それにマックは高橋たちに何か送るんだろ? そっちに集中しろよ。魔物は俺が何とかするから」
「この状態で?」
「勿論。この方が守りやすい」
いい笑顔で頷いたヴィデロさんは、俺を片手に抱いたまま飛び出してきた砂狼を一刀両断して見せた。確かに俺を抱っこしてても行動に支障はなさそう。力強い。好き。
お言葉に甘えて、俺はヴィデロさん抱っこ状態で雄太とメッセージやり取りをした。
これから雄太もギルドに走ってクエスト受注するって。今日は勇者は壁の外に出てユニークボスとその周辺の魔物を狩るらしい。勇者曰く、出てきた魔物は魔大陸に生息する魔物だって。強そう。
勇者の補助として、『白金の獅子』『高橋と愉快な仲間たち』は壁を出るみたい。あと、腕に自信のあるプレイヤーパーティーが何組か。レベルがパーティーメンバー全員150を超えてないと壁向こうに出る許可は出ないんだとか。だから壁の外に出れるパーティーはそれ程いないんだって。『マッドライド』も最近は辺境で活動していたけど、乙おつさんがレベル150に満たなくて壁外には出れないとか。だから辺境付近で魔物狩りをするんだって。
ちなみに、ギルドのクエストを受けた雄太たちは、もう一つ並行して『壁外の魔物を殲滅せよ』っていうクエストも発生したんだって。そっちのクリア報酬がよさげらしくてすごくヤル気を出していた。
以上が、ヴィデロさんに抱っこされた状態でやり取りした雄太とのメッセージ内容。
逐一ヴィデロさんに報告してたんだけど、近くにいたプレイヤーパーティーも寄ってきて聞いてたから、すぐに広まると思う。その人もメッセージやり取りしてたから。
「チャット閉じたからもう下ろしてヴィデロさん。疲れただろ」
「まさか。このまま一晩戦っても問題ない」
まさかの降車、じゃなくて降腕拒否。だめだって。強いのが出てきたら危ないから。
降りようともがき始めると、周りにいたプレイヤーたちが声を出して笑った。俺たちのやり取りに和んだそうだ。
「ここで噂のイチャイチャが見れるとは思わなかった」
「ほんとにね。でもなんか、お似合いよ」
「辺境の情報サンキュ」
すっかり緊張感のなくなった顔で、プレイヤーのパーティーが離れていく。
ヴィデロさんは剣を持ったままその人たちに手を上げて挨拶すると、俺の頬にチュッと一つキスをしてからようやく下ろしてくれた。
「マックと俺、お似合いだって」
ちょっとだけ得意そうにしてそんなことを呟くヴィデロさんに、俺は心臓を鷲掴まれたのだった。
ある程度の魔物を倒すと、その場所の魔物発生率は目に見えて減っていった。大量発生とは言っても、リポップまで大量にするわけじゃないらしい。
次々現れる魔物を蹴散らしながら先を走っていたヴィデロさんは、ふと足を止めて辺りを見回し始めた。
「予定ではブロッサムたちはここら辺を通ってるころなんだけどな」
「魔物が発生しすぎてまだここまで到達してないのかも」
俺のマップにも魔物とプレイヤーの表記しか現れてない。ブロッサムさんたちはまだ索敵範囲にはいないみたいだった。
こっちに行ってみようというヴィデロさんは、木々の間から見える星の位置と自分たちがいる位置を確認して、少しだけ顔を顰めた。
ブロッサムさんたち、道中手間取るような何かがあるってことかな。
見回る道順を逆走するようにして、俺たちは森の中を急いだ。
またしばらく魔物を倒しながら進むと、マップに現地人を表す色のマークが現れた。
「ヴィデロさん、向こうにいる! 4人! なんか混戦してる!」
マップには二つのマークしか表されてないけど、そんなわけはない。すぐに感知を使って調べると、ぞわっと鳥肌が立った。
マップに映らないほどの強さの魔物がいるよ。この先に。
「……どうしてこんな魔物が……!」
ヴィデロさんも感じてたらしく、走るスピードをさらに上げる。これ以上スピードを上げられたらついていけなそうな俺は、ヴィデロさんに「先に行って!」と声を掛けた。
だって、ブロッサムさんたちを表すマークの一つが全く動かないんだもん。プレイヤーもさっきより一つ表示が減って、死に戻ったことがわかる。
離れていくヴィデロさんの背中を必死で追いながら、俺はインベントリからスタミナポーションを取り出して呷り、置いていかれないよう、魔法陣で自分に筋力強化を掛けた。
件の場所に飛び出すと、目の前には砂漠の大物の魔物サンドワームがいた。
前にヴィデロさんと二人で対峙した時よりもかなり巨大な魔物は、尖った歯がみっちり生えた顔中の口を大きく開けて、そこから唾液を垂らしながらブロッサムさんたちを威嚇していた。
「ブロッサムさん!」
「お、マックか! ありがてえ! そっちで寝てるロイを頼む!」
門番さんたち三人と、プレイヤーの人が三人、そしてヴィデロさんが魔物に対峙している中、一人、茂みの方で倒れてる人がいた。
どきっとする。プレイヤーはやられたら光になるけど、こっちの人たちはそのまま身体は残ってるから。だから。
俺はインベントリからハイパーポーションを取り出しながらロイさんの元に走った。
「ロイさん!」
ロイさんはズタズタになった腕とお腹から大量の血を流していた。
でも胸が上下している。大丈夫、まだ生きてる!
急いで手に持ったハイパーポーションを身体全体に掛けて、目の前でかぎ裂きだった肉が盛り上がっていくのを確認しながら、もう一本取り出した。
それを口に流し込む。半分以上零れたけれど、何とか少しだけ嚥下したのが喉の動きでわかって、安堵の息が洩れる。
「ロイさん!」
必死で声を掛けると、う……と唸ってロイさんが目を開けた。
そして、まだ魔物がいるのが視界に入ったのか、腕をついて身体を持ち上げた。
「マック……危ないから、離れとけ……」
起き上がりながらロイさんが俺を押しのけようとするのを止め、俺はハイパーポーションを渡した。
「これ、回復するから! 身体は? もう大丈夫?」
あれだけズタズタだった腕とお腹はもう傷がどこだったのかもわからないくらい綺麗に治っていた。とてつもなくボロボロの服だけがやられた怪我の酷さを物語っている。
でも流れた血は戻るわけじゃないから、今のロイさんは血が足りないはずだ。
「ああ、助かった。死ぬかと思った。でももう大丈夫。俺復活だ」
「かなり血が流れたから無理しないでこっちで休んでて。ヴィデロさんも合流したから」
「ヴィデロか……なら安心だな。でも俺も行かねえとブロッサムに怒られちまう」
まだくらっとするのか手でこめかみを押さえたロイさんは、大きく一つ息を吐くと横にあった剣を拾った。止めても止まらなそうなロイさんに仕方なくスタミナポーションを渡して先に魔物の元に戻った俺は、HPがいまだに緑色をしている魔物に向かって『感覚機能破壊薬センスブレイクドラッグ』を投げつけた。
身体にぶつけるつもりが、口が大きいからか口の中に放り込まれてしまったそれを瓶ごとガリガリと噛んで飲み込んだ魔物は、一瞬後に空気もビリビリと震わせるような咆哮を上げた。
プレイヤーたちは今の声で硬直したみたいだった。俺も一瞬足が止まった。さすがに門番さんたちは誰一人怯まなかったけど、でも顔つきがさらに厳しくなった。
「マックあいつに何食わせやがった?」
「感覚機能を破壊させるヤバい薬」
ギャー! ギャー! と凄い声を出しながら目の前で暴れ始めた魔物は、もうすっかり俺たちのことは目に入ってなそうだった。それを好機に、皆が一斉に攻撃を開始する。
暴れる軌道が読めないからたまに巻き込まれる人がいるけど、反撃のない魔物はそこまで苦戦することもなかったらしく、皆の一斉攻撃ですぐにHPは赤まで減った。
そしてやっぱり赤になるともう一度咆哮を放った魔物は、口からダラダラ唾液を垂らしながらボロボロになった身体を持ち上げて、暴れるのをやめた。激痛は治まったみたいだった。
ようやく反撃を開始した魔物は、でも俺たちがどこにいるのか判別できないようで、全く意味のない場所を攻撃し始めた。なんかのバッドステータスが付いたらしい。見えてないのか臭いがわからないのか、そこらへんなのかな。
見当違いの反撃しかしない魔物はもはや敵でも何でもなく、単なる大きな的と化していた。俺がHP下がった人の間を走り回っている間に、魔物は光となって消えていった。
目潰しなんかよりすごかった。完全版目潰し『感覚機能破壊薬』。これ、絶対に人に使っちゃダメなやつだ。苦しむ時間も前よりかなり長かったのは、体内に吸収させたからかな。うん我ながら恐ろしい。
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※本作にはボーイズラブ要素およびオメガバース設定(α、β、Ωの概念やフェロモンに関する描写)が含まれています。苦手な方は閲覧にご注意ください。