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278、さらに調薬クエスト発生
※虫注意。苦手な方はバックをお願いします。
これはあれだ。『耐久値上昇薬』と同じような作り方だ。
目で作り方を追っていると、そんな俺の様子をじっと見ていたおじいちゃんが「もしや」と恐る恐るといった感じで口を開いた。
「マック殿は、すでにこれを作れるだけの技術をお持ちでは……? もし、もしよろしければ、その技術もご教授いただけないでしょうか……! もちろんお礼は致します……!」
「おいおいウル老師。無理は言わねえって約束だっただろ」
縋りつこうとするおじいちゃんを止めるように、モントさんがおじいちゃんの肩に手を置く。ハッとしたおじいちゃんがしゅんとして「あの、申し訳ありませんでした」と頭を下げて、手に持っていたレシピを俺に差し出してきた。
これ、今の俺のレベルで作れるものなのかな。
「ええと、やり方を見せる分には問題ないんですけど、成功するとは限らないんです。まだまだ俺、実力不足で」
「マック殿の腕でもまだ実力不足とは……!」
だってまだ複合調薬のレベルは低いから。
「たとえ失敗したとしても、ただその過程を見るだけでも私にとってはとても尊きもの……!」
「マック。嫌なら断ってもいいぞ。どうする」
必死に頭を下げるおじいちゃんを見ながら呆れたような溜め息を吐くモントさんにそう言われた瞬間、ピロンとクエスト欄に通知が来た。
ちょっと失礼します、と断ってから、俺はクエスト欄を開いた。
『【NEW】複合調薬を成功させよう
手に入れたレシピを一度で成功させよう
老師に技術を披露しよう
タイムリミット:1時間
クリア報酬:世に出回る薬類のランクアップ 出回る調薬器具のランクアップ ??率上昇 素材
クエスト失敗:調薬に失敗した 老師崇拝度低下』
一回で成功とか。
過酷すぎる。でもこれ、失敗しても目の前のおじいちゃんが「なんだ、マック殿の腕はこんなもんだったのか」ってがっくりするだけなんじゃ?
この??率上昇って、もしかして蘇生薬成功率の事かな。ってことは、やらないって手はないよな。
一時間ってことは、レシピの素材を集めて出来上がるまでのギリギリの時間ってことかな。
幸い、薬草と月光草、そして他のメインになる素材はインベントリに詰め込んできた。
あと足りないのは。
「すいません、一つだけ持ってない材料があるんですけど、それを取ってきてもいいですか? あと、モントさん、その材料ってちょっとアレな物なので、俺が取りに行ってる間に農園に移動してもらってもいいですか?」
「アレってえと」
「成人男性のアレをアレするブツと同種のやつです。前にカイルさんから預かった」
「ああ、あれな。確かにここでおっぴろげるのはヤバいな。じゃあ俺の所の母屋で待ってるからよ」
「はい」
素材の中に、「虫草(壮)」っていうのがあったんだ。
一度も使わないで倉庫に眠っていたあのおぞましい物。
うわあこれ、ピンポイントで俺用のクエストだ。これ、転移の魔法陣がなかったら絶対に失敗しておじいちゃんに「なあんだ」って思われるってことだ。ちょっと悔しいくらいで特に不利がないのが逆にいやらしいよ。
あれを取りに行くために、俺はモントさんたちと別れて人のいない場所を探してから、トレに跳んだ。
倉庫から虫草を取り出す。
触りたくないから、鳥肌を立てながらすぐさまインベントリにしまう。
でも待って。調薬するってことは、これを何とかしないといけないってことだよな。
うん、考えない。無心で調薬しよう。これはお仕事これはお仕事。虫じゃない。
マジックハイパーポーションを一気飲みして、そう自分に言い聞かせながら俺はセィの農園に跳んだ。
母屋の目の前に出た俺は、ドアをトントンと叩いた。
モントさんの返事があったのでドアを開けると、さっき手伝いをしてくれてた農園の人たちが勢ぞろいしていた。プラスアルファで輪廻も。草花薬師になったから、農園関係者になったってことだよな。
「なんか、人が多くないですか?」
決して狭くないリビングも、大きな身体の人たちが何人もいるととても狭く感じて、思わず足を踏み入れるのをためらう。ああ、おじいちゃん埋もれちゃってるよ。
「気にすんな。あの虫を使うってんで皆興味津々なんだよ。最近全く虫草が見つからないらしくてよ」
「あ……そうなんですか……」
あの虫をすり潰してグルグル混ぜて液体にするのに興味があるって、農園の人たちは豪の者だな……。
少しだけ遠い目をしながら、俺はモントさんの家に足を踏み入れた。
ここを使え、と言って広いテーブルを明け渡されて、そこに座る。
さっきの講座より緊張するのは何でかな。失敗できないからかな。違うな、皆が馬鹿高い虫に注目してるからだ。
調薬キットを全てテーブルに取り出して、並べていくと、おじいちゃんが上級キットをまじまじと見つめて「ほうほう……これは……」と目をキラキラさせながら観察していた。もしかして、成功したら世に出回るキットを売り出すのって、このおじいちゃんとか? まさかね。でも現地薬師の人たちの中では頂点に立つくらいに偉い人なんだよな。だったら器具を開発して皆に伝えるのは難しくないのか。クラッシュの店とかにも出回るようになるのかな、上級調薬キット。それはそれで面白いから、ますます失敗できないよね。
キットを並べ終えた俺は、次は素材を並べ始めた。下の方に表示している時間は、残り45分ほどを指している。
素材を混ぜやすくするために処理するのに時間がかかりそうなんだけど、これって周りでガン見している人たちに手伝ってもらってもいいのかな。一発で成功しろってしか書かれてないから大丈夫だよな。
「カイルさん、月光草を磨ってもらってもいい? あと、輪廻、この薬草、さっき教えた要領で磨ってもらえる? モントさんは……」
必要素材の処理を次々人に割り振っていく。
そして最後に例のブツを取り出す。
でんと机に鎮座したそのブツは、いつ見ても鳥肌物だった。
「何だそれ……」
輪廻も虫草を見て顔を顰めていた。だよな、その反応が普通だよな。でも周りにいる農園関係者たちは、楽しそうにそのブツを見ていた。
がしっと掴んで持ち上げては、下の方や背中の割れた辺りをしげしげと観察して、感嘆の声を上げている。
「こりゃあ立派な虫草だ」なんて、ナニが立派なんですか。俺にはその感想がわかりません。
返してもらったブツを、遠くを見ながら潰していく。
これは素材、これは素材。ぶつぶつ言いながら必死で虫草を処理していると、耐えられなくなったらしいカイルさんが声を出して大笑いし始めた。
笑い事じゃないよ! 俺は必死なんだよ! ううう、この手の感触が、泣きそう……。これが普通の硬い甲殻類系とか成体とかなら全然平気なのに。幼虫系無理。
涙目でブツの処理を終えた俺は、それぞれに作業してもらった素材を並べた。
レシピを横に置いて、確認する。素材は全部で15種類。多いな。
手順を確認してから、よし、と気合を入れた。目の前の一番っていう席では、おじいちゃんがワクワクした顔をしてじっと俺の手元を見ている。
全ての器具を駆使して、必死で手順を追う。
簡易キットで出来上がった物を上級キットに流し入れて、沸騰し始めたら火を弱めて、数分放置。その間に通常のキットで作っていた魔力系のメインの混合物に追加の素材を投入して、状態が変わったらそれを上級キットの混合物に少しずつ溶かし合わせる。火は弱めたままグルグルと掻き混ぜて、下に沈殿したものがすべて溶けて、液体がさらさらになったら、出来上がり。
今はドロドロしてるけど、これがさらさらになるのか。面白い。
優しくグルグル掻き混ぜながら、俺は目の前の上級調薬キットをひたすら観察していた。
沈殿物が溶けていくにしたがって、棒の抵抗力がなくなっていく。ほんとにサラサラし始めた。楽しくなってさらに掻き混ぜていくと、とうとう沈殿物が溶け切った。そのころには水を掻き混ぜているような感じになる。
さらさらだ。出来上がりだ。
あのブツが混ざっているとは到底思えない、薄緑色の液体が出来上がった。
空き瓶に流し入れて、鑑定をしてみる。
『魔力増強薬:ランクC 飲んだ者の魔法攻撃力を一定時間増強させる その分消費MPが上がる』
よし。出来上がった。一発成功。
ホッと息を吐いて、ふとスキル欄を見ると、複合調薬のレベルが上がっていた。よかった。
「これが、レシピに書かれていた物です」
一回の調薬で出来たのは、瓶三本分。あれだけの素材を使って三本っていうのは、多いのか少ないのかちょっと考えちゃうよね。でもそれだけの価値があると思う。魔法攻撃ブースター的なモノだし。その分MPの減りも早くなっちゃうみたいだけどね。これとセットでマジックハイパーポーションを持ってればかなり凄いと思う。ユイに飲ませてみたい。
「……まだまだ、私はひよっ子ということが、わかりました……」
瓶を一つ手に取って、おじいちゃんが厳かにそんなことを言って深々と頭を下げた。そしてその瓶をそっと戻す。
「その大きな調薬器具も素晴らしい。ぜひ参考にさせていただきたいのですが、よろしいですかな?」
「よろしいも何も、昔の薬師の人たちはこれを使ってたみたいですよ。だから、俺が発案したわけじゃないんで、勝手に広めちゃっていいと思います」
「ありがたいお言葉」
ピロン、とクエスト欄に通知が来る。残り時間はまだ余裕があったから、クリアのお知らせだ。
開いてみようかなと思っていたら、輪廻が「え、嘘?!」と声を上げた。
「ちょ、マジかよ。複合調薬ってなんだよ」
「輪廻? なに、輪廻も複合調薬スキル覚えたの?」
「何か、スキル欄に新しく出てた。すげえこれ。今マックの作業見たから? ラッキー」
ガッツポーズをする輪廻も、新しくスキルをゲットしたらしい。俺はヒイロさんに有無を言わせずやらされて覚えたけど、手順を見ていただけでも覚えるなんて、実は輪廻俺より薬師の才能あるんじゃないかな。
お祝いに上級調薬キットを手に入れたらレシピを教える約束をして、テーブルの上の物をインベントリにしまい込んだ。
そして改めて自分のクエスト欄を開く。
『複合調薬を成功させよう
手に入れたレシピを一度で成功させよう
老師に技術を披露しよう
タイムリミット:1時間
クリア報酬:世に出回る薬類のランクアップ 出回る調薬器具のランクアップ ??率上昇 素材
クエスト失敗:調薬に失敗した 老師崇拝度低下
【クエストクリア!】
手に入れたレシピを一度で成功させた
クリアランク:A
クリア報酬:世に出回る薬類のランクアップ 出回る調薬器具のランクアップ 蘇生薬成功率上昇5% 素材各種』
わ、5%も増えた。そしてレベルも上がったから、全部で6%も一気に増えたってことか。蘇生薬にまた一歩近づいたよ。やった。
思わずにやけながら画面を閉じて、そばにいた輪廻とハイタッチする。
「じゃあ俺はそろそろトレに戻りますね。カイルさんも一緒に帰る?」
「何、連れ帰ってくれんのか?」
「勿論。ところでカイルさんの所でも月光薬草育てないの?」
「需要はありそうだなあ。考えとくよ」
席を立ってカイルさんの所に行くと、モントさんが近寄ってきた。
そして俺の頭をひと撫でして、今日はありがとな。と渋カッコいい顔に笑みを乗せた。
「なかなか面白い体験でしたし、俺も有意義でしたから」
「またいつでも来い。歓迎するぜ」
「はい。また近いうちに」
頷くと、モントさんが新鮮な月光薬草とその他数点の素材を持たせてくれた。ちゃんと講師代は貰ったよと言うと、気持ちだと苦笑した。
ありがたく貰おう。
皆が見守る中、カイルさんの手を取った俺は、目標砂漠都市の農園指定をして、転移の魔法陣を描いた。
一度MP補給をして、今度こそトレの農園に跳ぶ。
カイルさんは苦笑しながら「移動が楽過ぎて次から馬車が使えねえ」と呟いていた。でもクラッシュの方が凄いよ。俺たち何人も連れて一気に辺境とかまで普通に跳べるから。あれはもうセイジさん並だと思う。もしかしたら、クラッシュだったら魔大陸に行けそうな気がするよ。行って欲しくはないけど。
ついでにカイルさんの所から何個か素材を手に入れてから、俺は自分の工房に帰った。
明日はとうとうエルフの里。楽しみ。
これはあれだ。『耐久値上昇薬』と同じような作り方だ。
目で作り方を追っていると、そんな俺の様子をじっと見ていたおじいちゃんが「もしや」と恐る恐るといった感じで口を開いた。
「マック殿は、すでにこれを作れるだけの技術をお持ちでは……? もし、もしよろしければ、その技術もご教授いただけないでしょうか……! もちろんお礼は致します……!」
「おいおいウル老師。無理は言わねえって約束だっただろ」
縋りつこうとするおじいちゃんを止めるように、モントさんがおじいちゃんの肩に手を置く。ハッとしたおじいちゃんがしゅんとして「あの、申し訳ありませんでした」と頭を下げて、手に持っていたレシピを俺に差し出してきた。
これ、今の俺のレベルで作れるものなのかな。
「ええと、やり方を見せる分には問題ないんですけど、成功するとは限らないんです。まだまだ俺、実力不足で」
「マック殿の腕でもまだ実力不足とは……!」
だってまだ複合調薬のレベルは低いから。
「たとえ失敗したとしても、ただその過程を見るだけでも私にとってはとても尊きもの……!」
「マック。嫌なら断ってもいいぞ。どうする」
必死に頭を下げるおじいちゃんを見ながら呆れたような溜め息を吐くモントさんにそう言われた瞬間、ピロンとクエスト欄に通知が来た。
ちょっと失礼します、と断ってから、俺はクエスト欄を開いた。
『【NEW】複合調薬を成功させよう
手に入れたレシピを一度で成功させよう
老師に技術を披露しよう
タイムリミット:1時間
クリア報酬:世に出回る薬類のランクアップ 出回る調薬器具のランクアップ ??率上昇 素材
クエスト失敗:調薬に失敗した 老師崇拝度低下』
一回で成功とか。
過酷すぎる。でもこれ、失敗しても目の前のおじいちゃんが「なんだ、マック殿の腕はこんなもんだったのか」ってがっくりするだけなんじゃ?
この??率上昇って、もしかして蘇生薬成功率の事かな。ってことは、やらないって手はないよな。
一時間ってことは、レシピの素材を集めて出来上がるまでのギリギリの時間ってことかな。
幸い、薬草と月光草、そして他のメインになる素材はインベントリに詰め込んできた。
あと足りないのは。
「すいません、一つだけ持ってない材料があるんですけど、それを取ってきてもいいですか? あと、モントさん、その材料ってちょっとアレな物なので、俺が取りに行ってる間に農園に移動してもらってもいいですか?」
「アレってえと」
「成人男性のアレをアレするブツと同種のやつです。前にカイルさんから預かった」
「ああ、あれな。確かにここでおっぴろげるのはヤバいな。じゃあ俺の所の母屋で待ってるからよ」
「はい」
素材の中に、「虫草(壮)」っていうのがあったんだ。
一度も使わないで倉庫に眠っていたあのおぞましい物。
うわあこれ、ピンポイントで俺用のクエストだ。これ、転移の魔法陣がなかったら絶対に失敗しておじいちゃんに「なあんだ」って思われるってことだ。ちょっと悔しいくらいで特に不利がないのが逆にいやらしいよ。
あれを取りに行くために、俺はモントさんたちと別れて人のいない場所を探してから、トレに跳んだ。
倉庫から虫草を取り出す。
触りたくないから、鳥肌を立てながらすぐさまインベントリにしまう。
でも待って。調薬するってことは、これを何とかしないといけないってことだよな。
うん、考えない。無心で調薬しよう。これはお仕事これはお仕事。虫じゃない。
マジックハイパーポーションを一気飲みして、そう自分に言い聞かせながら俺はセィの農園に跳んだ。
母屋の目の前に出た俺は、ドアをトントンと叩いた。
モントさんの返事があったのでドアを開けると、さっき手伝いをしてくれてた農園の人たちが勢ぞろいしていた。プラスアルファで輪廻も。草花薬師になったから、農園関係者になったってことだよな。
「なんか、人が多くないですか?」
決して狭くないリビングも、大きな身体の人たちが何人もいるととても狭く感じて、思わず足を踏み入れるのをためらう。ああ、おじいちゃん埋もれちゃってるよ。
「気にすんな。あの虫を使うってんで皆興味津々なんだよ。最近全く虫草が見つからないらしくてよ」
「あ……そうなんですか……」
あの虫をすり潰してグルグル混ぜて液体にするのに興味があるって、農園の人たちは豪の者だな……。
少しだけ遠い目をしながら、俺はモントさんの家に足を踏み入れた。
ここを使え、と言って広いテーブルを明け渡されて、そこに座る。
さっきの講座より緊張するのは何でかな。失敗できないからかな。違うな、皆が馬鹿高い虫に注目してるからだ。
調薬キットを全てテーブルに取り出して、並べていくと、おじいちゃんが上級キットをまじまじと見つめて「ほうほう……これは……」と目をキラキラさせながら観察していた。もしかして、成功したら世に出回るキットを売り出すのって、このおじいちゃんとか? まさかね。でも現地薬師の人たちの中では頂点に立つくらいに偉い人なんだよな。だったら器具を開発して皆に伝えるのは難しくないのか。クラッシュの店とかにも出回るようになるのかな、上級調薬キット。それはそれで面白いから、ますます失敗できないよね。
キットを並べ終えた俺は、次は素材を並べ始めた。下の方に表示している時間は、残り45分ほどを指している。
素材を混ぜやすくするために処理するのに時間がかかりそうなんだけど、これって周りでガン見している人たちに手伝ってもらってもいいのかな。一発で成功しろってしか書かれてないから大丈夫だよな。
「カイルさん、月光草を磨ってもらってもいい? あと、輪廻、この薬草、さっき教えた要領で磨ってもらえる? モントさんは……」
必要素材の処理を次々人に割り振っていく。
そして最後に例のブツを取り出す。
でんと机に鎮座したそのブツは、いつ見ても鳥肌物だった。
「何だそれ……」
輪廻も虫草を見て顔を顰めていた。だよな、その反応が普通だよな。でも周りにいる農園関係者たちは、楽しそうにそのブツを見ていた。
がしっと掴んで持ち上げては、下の方や背中の割れた辺りをしげしげと観察して、感嘆の声を上げている。
「こりゃあ立派な虫草だ」なんて、ナニが立派なんですか。俺にはその感想がわかりません。
返してもらったブツを、遠くを見ながら潰していく。
これは素材、これは素材。ぶつぶつ言いながら必死で虫草を処理していると、耐えられなくなったらしいカイルさんが声を出して大笑いし始めた。
笑い事じゃないよ! 俺は必死なんだよ! ううう、この手の感触が、泣きそう……。これが普通の硬い甲殻類系とか成体とかなら全然平気なのに。幼虫系無理。
涙目でブツの処理を終えた俺は、それぞれに作業してもらった素材を並べた。
レシピを横に置いて、確認する。素材は全部で15種類。多いな。
手順を確認してから、よし、と気合を入れた。目の前の一番っていう席では、おじいちゃんがワクワクした顔をしてじっと俺の手元を見ている。
全ての器具を駆使して、必死で手順を追う。
簡易キットで出来上がった物を上級キットに流し入れて、沸騰し始めたら火を弱めて、数分放置。その間に通常のキットで作っていた魔力系のメインの混合物に追加の素材を投入して、状態が変わったらそれを上級キットの混合物に少しずつ溶かし合わせる。火は弱めたままグルグルと掻き混ぜて、下に沈殿したものがすべて溶けて、液体がさらさらになったら、出来上がり。
今はドロドロしてるけど、これがさらさらになるのか。面白い。
優しくグルグル掻き混ぜながら、俺は目の前の上級調薬キットをひたすら観察していた。
沈殿物が溶けていくにしたがって、棒の抵抗力がなくなっていく。ほんとにサラサラし始めた。楽しくなってさらに掻き混ぜていくと、とうとう沈殿物が溶け切った。そのころには水を掻き混ぜているような感じになる。
さらさらだ。出来上がりだ。
あのブツが混ざっているとは到底思えない、薄緑色の液体が出来上がった。
空き瓶に流し入れて、鑑定をしてみる。
『魔力増強薬:ランクC 飲んだ者の魔法攻撃力を一定時間増強させる その分消費MPが上がる』
よし。出来上がった。一発成功。
ホッと息を吐いて、ふとスキル欄を見ると、複合調薬のレベルが上がっていた。よかった。
「これが、レシピに書かれていた物です」
一回の調薬で出来たのは、瓶三本分。あれだけの素材を使って三本っていうのは、多いのか少ないのかちょっと考えちゃうよね。でもそれだけの価値があると思う。魔法攻撃ブースター的なモノだし。その分MPの減りも早くなっちゃうみたいだけどね。これとセットでマジックハイパーポーションを持ってればかなり凄いと思う。ユイに飲ませてみたい。
「……まだまだ、私はひよっ子ということが、わかりました……」
瓶を一つ手に取って、おじいちゃんが厳かにそんなことを言って深々と頭を下げた。そしてその瓶をそっと戻す。
「その大きな調薬器具も素晴らしい。ぜひ参考にさせていただきたいのですが、よろしいですかな?」
「よろしいも何も、昔の薬師の人たちはこれを使ってたみたいですよ。だから、俺が発案したわけじゃないんで、勝手に広めちゃっていいと思います」
「ありがたいお言葉」
ピロン、とクエスト欄に通知が来る。残り時間はまだ余裕があったから、クリアのお知らせだ。
開いてみようかなと思っていたら、輪廻が「え、嘘?!」と声を上げた。
「ちょ、マジかよ。複合調薬ってなんだよ」
「輪廻? なに、輪廻も複合調薬スキル覚えたの?」
「何か、スキル欄に新しく出てた。すげえこれ。今マックの作業見たから? ラッキー」
ガッツポーズをする輪廻も、新しくスキルをゲットしたらしい。俺はヒイロさんに有無を言わせずやらされて覚えたけど、手順を見ていただけでも覚えるなんて、実は輪廻俺より薬師の才能あるんじゃないかな。
お祝いに上級調薬キットを手に入れたらレシピを教える約束をして、テーブルの上の物をインベントリにしまい込んだ。
そして改めて自分のクエスト欄を開く。
『複合調薬を成功させよう
手に入れたレシピを一度で成功させよう
老師に技術を披露しよう
タイムリミット:1時間
クリア報酬:世に出回る薬類のランクアップ 出回る調薬器具のランクアップ ??率上昇 素材
クエスト失敗:調薬に失敗した 老師崇拝度低下
【クエストクリア!】
手に入れたレシピを一度で成功させた
クリアランク:A
クリア報酬:世に出回る薬類のランクアップ 出回る調薬器具のランクアップ 蘇生薬成功率上昇5% 素材各種』
わ、5%も増えた。そしてレベルも上がったから、全部で6%も一気に増えたってことか。蘇生薬にまた一歩近づいたよ。やった。
思わずにやけながら画面を閉じて、そばにいた輪廻とハイタッチする。
「じゃあ俺はそろそろトレに戻りますね。カイルさんも一緒に帰る?」
「何、連れ帰ってくれんのか?」
「勿論。ところでカイルさんの所でも月光薬草育てないの?」
「需要はありそうだなあ。考えとくよ」
席を立ってカイルさんの所に行くと、モントさんが近寄ってきた。
そして俺の頭をひと撫でして、今日はありがとな。と渋カッコいい顔に笑みを乗せた。
「なかなか面白い体験でしたし、俺も有意義でしたから」
「またいつでも来い。歓迎するぜ」
「はい。また近いうちに」
頷くと、モントさんが新鮮な月光薬草とその他数点の素材を持たせてくれた。ちゃんと講師代は貰ったよと言うと、気持ちだと苦笑した。
ありがたく貰おう。
皆が見守る中、カイルさんの手を取った俺は、目標砂漠都市の農園指定をして、転移の魔法陣を描いた。
一度MP補給をして、今度こそトレの農園に跳ぶ。
カイルさんは苦笑しながら「移動が楽過ぎて次から馬車が使えねえ」と呟いていた。でもクラッシュの方が凄いよ。俺たち何人も連れて一気に辺境とかまで普通に跳べるから。あれはもうセイジさん並だと思う。もしかしたら、クラッシュだったら魔大陸に行けそうな気がするよ。行って欲しくはないけど。
ついでにカイルさんの所から何個か素材を手に入れてから、俺は自分の工房に帰った。
明日はとうとうエルフの里。楽しみ。
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どんなトラブルも二人なら大丈夫!
過保護で執着強めなスパダリ幼馴染攻め(α) × ポジティブで男前な元ベータ受け(β→Ω)
明るくて幸せいっぱいオメガバース!
私の大好きなオメガバース。
愛をたくさん詰め込んだので、みなさまにも楽しんでいただけますように。
辺境食堂の隠れΩなのに、拾った皇帝陛下が嫁になれと迫ってくる
元宮廷料理人で隠れΩの青年レオは、帝国の辺境で小さな食堂兼農園を営みながら、誰にも縛られない平穏なスローライフを送っていた。
ある日、レオは裏庭の不思議な洞窟で、血まみれになって倒れていた大柄な青年アレクを拾う。
彼の正体は、お忍びで辺境を訪れていた帝国最強のα皇帝だった。
身分を隠してレオの家に居候することになったアレクは、レオの作る絶品の手料理と、彼から漂う穏やかな香りに冷え切った心を溶かされていく。
一緒に土を耕し、美味しいご飯を分け合ううちに、相反するはずの二人のフェロモンは心地よく調和していくが、やがて帝都からの追手が迫り……。
手料理が繋ぐ心と体。身分差を越えた、最強α皇帝と隠れΩ料理人の美味しくて甘い辺境スローライフが幕を開ける!
※本作にはボーイズラブ要素およびオメガバース設定(α、β、Ωの概念やフェロモンに関する描写)が含まれています。苦手な方は閲覧にご注意ください。