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281、過酷すぎる道
そんなこんなでそこまで苦労することなく、最終段階のフィールド手前まで辿り着いた俺たちは、最後の休憩、とまたもセーフティ影に入って休んだ。大分陽が上がってきて影が小さくなったから、結構辛い物があったけど。
ここから先は状態異常の攻撃をしてくる魔物が大量に出てくると雄太たちに教えて貰ったので、今度はキュアポーションを一応皆に渡していく。まあ、状態異常になったら俺がそこまで走って行って治すっていうスタイルはそのままなんだけどね。万が一ってこともあるし。それに数人が一気に状態異常に陥ったら一気には治せないから。
インベントリのアイテム整理をしていると、ブレイブがふと思い立ったように声をかけてきた。
「なあマック。さっきまで使ってた目潰し、何本か俺にくれないか?」
「目潰し? 取り扱い注意だけどブレイブならいいか。でもどうするの?」
『感覚機能破壊薬』を数個ブレイブに渡すと、ブレイブはインベントリから小さな取っ手のついている空瓶を取り出した。
それに入れ替えるんだそうだ。横で見ていると、器用に一滴も零さずにヤクを入れ替えたブレイブは、瓶を持ち上げてよし、と一言つぶやいた。
「これを矢にぶら下げて相手に打ち付けたらよくないか?」
「おおお! 確かに!」
俺が投げつけるのなんかより全然当たる率が上がったヤクは、その後ブレイブの手によってさらに悪魔の薬と化した。
必ず第一矢でぶち当たるので、魔物がほぼすべてじたばたするだけで終わるんだ。思わず拍手を送ってしまった。
取り敢えずあるだけの空瓶をブレイブから受け取り、俺は地面に座り込んでヤクの入れ替え作業を開始した。勿論苦しんでる魔物相手に皆が苦労するはずもなく、俺は何事もなくさらに追加の攻撃瓶を作ることができたのだった。
あの丘を越えたらエルフの里が見える、という場所まで俺たちは辿り着いた。
雄太はあまり傷のついていない鎧を見下ろしながら、解せぬ、という様に溜め息を吐いた。
「前あんだけぼろぼろになって死に戻ったのが嘘みてえ」
「だって今日は攻撃されないもんね」
ニコニコと首を傾げるユイの横で、ブレイブがまだ残っている『感覚機能破壊薬』攻撃瓶を覗き込んでいる。
「ほんとこの薬えげつないなあ。マック、良ければこれ、売ってもらえないか?」
少しだけ目を細めたブレイブが、その瓶を振りながら俺にそんな事を訊いた。
確かに俺が使うのよりもかなり有効に使ってもらえるから、売るのはやぶさかじゃないんだけど。でも錬金術で作った物って値段付かないんだよなあ。
「一応秘蔵のやばいやつだからいくらで売ればいいのか悩むんだよなあ」
「じゃあ一応エルフの里に着いたらこれを返すけど、考えておいてもらえると助かる。もちろん、他の人には横流しなんてしないし、悪用もしない。ただし勇者と『白金の獅子』には教えないと共闘出来ないからそこは納得してもらわないといけないけどな。きっとその内魔大陸に行くことになると思うから、その時にこれがあるのとないのとでは全然違うから」
「うん。それはもう」
確かにそうだよな、とブレイブの言葉に納得する。俺もそれに一緒に行くことになるとは思うんだけどね。きっとあっちでは錬金する時間もないだろうし。
ってことは、最初から攻撃瓶を買っておいてそれに入れて行けばいいかな。半分くらいはそういう形で作ってみようかな。
なんてことを考えている間にも、魔物はつぎつぎと襲ってきた。さすが最後の場所。ブレイブに『感覚機能破壊薬』を使ってもらっても最後の赤バーになると我に返って攻撃を開始する。何かしらのバッドステータスはついてるみたいだけど。目とかに来るならラッキーで、でももし味覚とか全然関係ない物が破壊されてたら攻撃の手は休まらないし、一段階上の戦闘力になっちゃうから、結構ギリギリになってきた。だんだんと倒す時間もかかり始めて、二匹目も戦闘に飛び込んでくることも多くなった。
雄太の鎧は耐久値が50%を切り、雄太に悲痛な声を上げさせている。聞いていてガチで笑えるのがまた辛い。
ヴィデロさんの鎧もグングン雷魔法をため込んでいて、そろそろ眩しいくらいになってる。隠密は消えていて、そっと鑑定したところ、もう87%になっていた。ここで雷魔法を打ったらどれくらい強力な魔法が飛び出すのか楽しみでならない。
ユイは俺からマジックハイパーポーションを沢山受け取り、ほぼ二回でMPが尽きるほどの特大魔法を連発している。恐ろしい子。既に俺をMP供給源にしか見てないよこの子。
海里はとうとう新しい双剣を取り出して、足元には今まで使っていた双剣を捨てた。ヒビが入ってところどころ欠けていて、もう使い物にならないらしい。
ブレイブの背中に背負われた矢筒はすっかり空で、今度は魔法の矢で次々魔物を攻撃している。でも弱点属性じゃない限り、本当は背中に背負った特製の矢の方が攻撃力が高かったんだとぼやいていた。
俺はと言うと。
ユイとブレイブに次々マジックハイパーポーションを渡しつつ、さっきブレイブから貰っておいた空瓶を使って、ハイパーポーションをその瓶に詰め替えていたりする。
ブレイブに頼んで回復薬を回復の魔法で作った矢でぶら下げて前衛たちに飛ばしてもらってるんだ。二重回復って感じで。魔法の矢でも瓶がぶら下げられるのに驚いて、回復系の魔法でも矢が打てることに驚いた俺は、早速ブレイブに提案して二重回復をしてもらうことにしたんだ。下手に前衛の所に走ると、回復する前に魔物が皆のHPをさらに減らしにかかってくるから、俺だけでは回復が間に合わなくなってきたんだ。薬師、ほんとに薬以外役立たない。
ブレイブの攻撃が減るのは痛いけど、誰か一人でも死に戻ったらきっとこれ以上進めなくなるのはわかってるから。そしてヴィデロさんは死に戻りすらできないから。本当は少し下がって欲しいけど、でもそれは言えないのがかなりのジレンマ。だから俺は誰も死なないように必死で回復する術を模索し続ける。
「ダメだ、もう一匹きやがった! HP削り切れてねえよ!」
大剣を振り回しながら雄太が叫ぶ。現れた魔物は、木から飛び降りてくるとともに俺たちに魔法を放ち、前衛が違う魔物に向かってる横で構えた。後ろから攻撃するつもりのようだった。
「ごめんブレイブ! 例のブツ!」
「わかった!」
俺の一言で、ブレイブが『感覚機能破壊薬』を魔法の矢にぶら下げ、射る。ブレイブの放った矢は新しい魔物にしっかりと命中した。そしてもう一匹は新しく出てきた魔物の咆哮によって気を取られ、その時できた隙に海里が雄太の肩を足場にして背中の中心をクロス型に切り裂き、光となっていった。
今度は苦しんでいる魔物を攻撃し始めた雄太たちは、その勢いのまま新しい魔物のHPを赤まで削り切った。
痛みが治まっただろう魔物は、立ち上がった瞬間頭を垂れて、弱々しくなった。
なんか猛毒を受けたみたいだ。ここにきてそのバッドステータスは助かったよ。
攻撃するたびにゼーゼーしている魔物は、すぐさま消されていった。
次の魔物が来るまで十数秒の時間が出来たから、前線に走ってハイパーポーションを皆に次々掛けていく。そして手渡して、すぐに飲むよう指示する。皆、その間足をしっかりと前に進めている。
回復した直後にまた新しい魔物が現れた。
足を止めながら戦闘をするとその場所に釘付けになるってここの区域に入った時に雄太が言っていたけど、本当だよ。さっきからあんまり先に進んでない。倒して次が来るほんの一分未満の間に先に向かって走らないと、同じ場所で延々戦闘しないといけなくなるんだ。辛い。
でも後は距離的にはそこまで遠くないらしいから、あとひと頑張りだ。
「あのオレンジ色の樹が並んでるところを抜けたら、エルフの里だ! 気合い入れろ!」
雄太の活で皆のテンションが上がる。
魔物の襲撃はさらに激化の一途をたどり、皆が状態異常になりながらも必死で戦闘し、俺は必死でそれを回復し続けるため、前衛と後衛間を走り回る。
たまに俺まで毒を食らったり痺れたりするけど、即キュアポーションで復活。全身の麻痺だったらアウトだけど。
辺りには爪と剣が交錯する金属音が響き渡り、魔物の咆哮が木を揺らす。
矢の飛ぶ音、魔法の呪文を唱える声、誰かの呻き声、すべてが詳細に耳に入って来る。
「きゃ……っ!」
海里の短い悲鳴が上がり、海里が魔物に押さえつけられたのが見えた。容赦なく魔物の牙が海里の肩に食い込む。
「海里!」
ブレイブの顔が険しくなり、弓を引く手が震える。それでも狙いを外すことなく、つぎつぎ海里に牙を立てる魔物の眉間に矢を放つ。
両脇から雄太の剣とヴィデロさんの剣が魔物を貫くも、致命傷には程遠く、海里が逃げ出すことは出来なかった。
続けざまに魔物の額に矢が刺さり、消えていく。魔法も被弾するが、海里が巻き込まれないように大きなものは打てないようで、ユイから「やめて」と小さな声が俺の耳に届く。
「くそ、海里を離せ……!」
大剣で胴体を攻撃しようとした雄太に、魔物の尻尾の鋭い一撃が入る。
海里の肩を千切り取った魔物が咆哮を上げ、再度その牙で海里を攻撃しようとした瞬間、剣を振り仰いだヴィデロさんの口から呪文が紡がれた。
「荒ぶる雷よこの剣に宿りその嵐のように荒れ狂った激情を敵に叩きつけろ、フォルゴレ・スパーダ!」
唱え終わった瞬間、鎧がビリビリと雷を帯び、その雷の光が一気にティソナドスカラスに集まった。
バチバチと激しい雷を帯びた剣を、ヴィデロさんが一気に魔物の胴体に振り下ろす。
ドーン! という落雷の様な音が辺りに響き渡り、一瞬目の前が真っ白になった。
視界が戻ってくると、そこには、漆黒の鎧を纏ったヴィデロさんが海里の身体を抱え上げている姿があった。その周りには魔物が消える時の光が宙を舞っている。
「このまま樹の向こう側まで走るぞ!」
ぐったりしている海里を抱えたまま、ヴィデロさんが叫ぶ。
その声に我に返ったように、皆が一斉に樹の間を目指して全速力で足を動かした。
次の魔物がすぐ後ろまで接近、というところで、俺たちは樹の間を抜けることができた。荒い息を何とか整えながら、マップ上にあった魔物のマークが散っていくのを確認する。見上げると、見たことのあるオレンジ色の葉が、ひらりと落ちてきた。これ、『破香の木』じゃん。だから里に魔物が入ってこないんだ。
目の前に落ちた葉を拾ってインベントリにしまってから、俺はヴィデロさんに抱えられたままぐったりとした海里に近寄った。
キュアポーションとハイパーポーションで何とか海里が復活すると、ブレイブは泣き笑いの表情で海里を抱きしめていた。
雄太とユイもホッとした表情でそれを見ていた。
「……着いたね、エルフの里」
「そうだな」
気が抜けた俺は、そこにへなへなと座り込んだ。なんかもう、足に力が入らないっていうか。
エルフの里まで来るのがこんなに大変だったなんて。雄太たちもヴィデロさんも強いから、そこまでは苦労しないだろって、心のどこかで思ってたんだ。
蓋を開けてみれば、ハイパーポーションはインベントリ一枠と半分すっかりなくなるし、マジックハイパーポーションも同じくらいなくなってる。『感覚機能破壊薬』もこんだけあれば大丈夫だろ、なんて用意した分がほぼ消えてなくなり、ユイとブレイブは最初に渡した『魔力増強薬マナエンハンスポーション』を使い切っていた。そしてヴィデロさんの鎧は漆黒に戻っており、俺の剣は耐久値が半分以下になっていた。海里はメインの武器を途中でだめにしているし、雄太の鎧もかなり凄いことになっている。海里の鎧に至っては、最後に押さえつけられた時にすっかり耐久値がなくなったらしい。皆かなりボロボロだ。
「でもまあ、誰も死に戻りしなかったってのは俺的に上出来だと思うぜ」
「そうだな。前の時は結構瞬殺されてたしな」
「魔物が速すぎて高橋は攻撃できなかったよな」
「ブレイブだって全然矢の攻撃通らなかったじゃねえか」
ニヤリと笑った二人が顔の高さで拳をぶつけ合う。
ユイは目に涙をためて、海里の両手を取ってぶんぶん振り回していた。
「ほんとよかったよ海里。もうダメかと思った」
「私もよ。全身麻痺しちゃってたし、出血でHPどんどん減ってたし、立てないし」
もう大丈夫、と海里は手足を動かして、にっこり笑っていた。
それをしゃがみ込みながら見ていると、横からスッと手が差し出された。
「立てるか? マック」
「ヴィデロさん……なんか安心したら気が抜けて」
ははは、と笑うと、ヴィデロさんが俺の足の下に腕を通して、ひょいと俺をお姫様抱っこしてしまった。
微笑む顔がすぐ近くにある。俺はヴィデロさんの首に腕を回しながら、その顔に見惚れた。
「……ヴィデロさん、最後のやつ、めちゃくちゃかっこよかった」
「そうか? 咄嗟にブロッサムの使う魔法を使ったんだ。でも、マックの剣が少し傷んでるかもしれない」
「それは鍛冶屋に出して直してもらえば大丈夫じゃないかな。壊れたわけじゃないし。でも、雷魔法、ちゃんと使えてる」
「そうだな」
蓄電率が一気になくなった鎧は、黒く落ち着いた様相を呈している。
ちょっと光ってるのもかっこよかったけど、黒いのもまたかっこいい。でもあの眩しいほどに光ってる鎧も凄くかっこいい。
俺は腕に力を込めて、ヴィデロさんに抱き着いた。
そんな俺たち二人の様子を『高橋と愉快な仲間たち』のメンバーが生暖かい目で見ていたけど、俺は気にせず元気なヴィデロさんを堪能したのだった。
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