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287、対面
宰相の人にそっと教えて貰った、ヴィデロさんのお母さんと会う日。
俺とヴィデロさんはセィ城下街に来ていた。
ヴィデロさん本当は仕事だったらしいんだけど、ブロッサムさんに交代してもらったんだって。今日は逃せないって。だから後でブロッサムさんに何かお土産を買って帰らないといけないとヴィデロさんは笑ってた。
宰相の人のフリーパスを門で見せて、ヴィデロさんは門番さんと軽く挨拶して、俺たちは王宮に向かった。
王宮の入り口で宰相の人と約束があるということを伝えると、中に立っていた一人が約束の確認をするために奥に向かって行った。書庫に行くだけの場合はここで留められたりしないんだけどね。さすがに一国の宰相に会うのは結構大変だ。いつもは何も考えずに会えるんだけど。
ヴィデロさんと二人待合室の様なところで待っていると、さっき奥に向かった一人の騎士さんが俺たちに付いてくるように言った。
いつもは上に行く階段を迂回し、奥に案内される。
赤い絨毯の引かれた廊下から外れて、細い通路を進む。角を何度か曲がると、暗い廊下の突き当りにドアがあった。
「ここから先は完全に宰相閣下の管理下にあるため、私は足を踏み入れることができません。通りを進んだ先に幾つかあるドアのうち、白いドアの先に宰相閣下がおりますので、そちらにお声がけ下さい」
「ありがとうございます」
ヴィデロさんと二人、案内してくれた騎士さんにお礼を言って、俺たちは二人で先に進んだ。通路はところどころ明かりがともされているけれど、窓はなく、薄暗かった。
歩くとカツカツ音が響く廊下をヴィデロさんと二人無言で進む。
着いた先は、T字の廊下になっていて、廊下の片側に、ドアが数個並んでいた。違う建物に来たのかな。
騎士さんの言う白いドアは一つだけだったので、迷わずそのドアの前に足を進める。
ドアの前で足を止めて、ヴィデロさんと顔を見合わせてから、ドアをノックした。
「緊張してきた……」
返答を待つ間、ついついドキドキしてそう呟くと、ヴィデロさんがくすっと笑った。
「一国の宰相閣下と対等に話をできるマックが緊張するなんてな」
「だって、実際にヴィデロさんのお母さんに会ったの、一回だけだし。その時は俺、子供に間違えられてたし。なんか、なんていうか、ヴィデロさんのお母さん、雰囲気がすごくバリバリできる系のかっこいい人だったし。実際そうっぽいし、ヴィデロさんのお母さんとして会うのは、今回が初めてなんだよ。どう挨拶すればいいんだろう。ええと、息子さんを俺にください? 恋人って言って、ドン引かれない? だって俺、ヴィデロさんみたくかっこよくも爽やかでもムキムキでもないし」
「ムキムキは関係ないだろ。大丈夫、マックは可愛くて、かっこいいから。普通にしてろよ。多分母もとって食いはしないだろうしな」
「ヴィデロさん……好き」
いつもと変わらない態度のヴィデロさんに少しだけ緊張を緩和させて、思わずにへらっと笑う。
気分はすごく「息子さんを俺にください!」な感じだったんだ。でも、そうか、今回はヴィデロさんがお母さんに会うのがメインだった。
でも、じゃあ。
「……もしかして、俺がいない方がいい? 親子水入らずで話したほうがいいんじゃ」
そう呟いた瞬間、中からギィ……とドアが開いた。
ドアを開けてくれた人は。
ゲームフェスタで見かけた、俺に撮影券をくれた女性、その人だった。
「ヴィデロ……」
「母さん……」
ドアの前に立っていたヴィデロさんを見たお母さんは、ドアの取っ手を掴んだまま、呆然とヴィデロさんの顔を見上げていた。
服装はスーツ。この建物、この世界には激しく違和感のある格好だった。
対する俺とヴィデロさんの格好は、いつもデートするときの冒険者風な格好。ここだけでも違和感バリバリ。
相変わらず美人なヴィデロさんのお母さんは、「嘘……」と呟くと口元を手で覆った。
そして振り返って、奥に声を掛けた。
「アンドルース、これはどういうことなの?!」
「先程、今日は来訪者がある、と伝えたでしょう?」
「聞いたわ。けど、その来訪者がヴィデロだなんて聞いてないわ! やだ、嘘、ほんとに……?」
「アリッサ殿。そこで錯乱していないで、入ってもらったらいかがですか?」
宰相の人に苦笑されて、アリッサさんは我に返って俺たちを部屋の中に招き入れてくれた。
その部屋は、中央に応接セットがあるほかは、変な機械のような物や金属の何かが所狭しと転がっているまるで何かの技術系工房のような部屋だった。
俺たちを部屋に招き入れ、ドアを閉めたところで、ヴィデロさんの正面に立ったアリッサさんがヴィデロさんにハグをした。
「元気そうね。ヴィルには聞いていたけれど、本当に顔を見れるとは思わなかったわ」
ヴィデロさんも軽くアリッサさんの背に腕を回してハグをする。
「俺も、母さんには二度と会えないと思ってた。母さんも元気そうで何よりだよ」
「元気なあなたの顔が見れて、嬉しいわ」
アリッサさんの目は潤んで、ヴィデロさんに会えたことに感動しているようだった。対するヴィデロさんは複雑そうな顔をしている。今までの経緯が経緯だから、単純に会えて嬉しい、とはいかないのかな。やっぱり俺、ちょっと席を外したほうがいいのかも。
そう思うと同時に、奥にいた宰相の人が顔を出して、ハグしている親子に目を細めた。
「マック殿。少しあなたに話があるのですが、隣の部屋に行きませんか。きっと彼女たちは二人で話をした方がいいと思われますし」
そっと近寄ってきた宰相の人が小声で打診する。頷いて顔を上げた瞬間、アリッサさんから離れたヴィデロさんの手が俺の腰に回った。
ぐいっと引かれてヴィデロさんに身体が密着する。驚いてヴィデロさんを見上げると、ヴィデロさんはそんな俺の顔を見てフッと優しく笑ってから、アリッサさんに視線を戻した。
「母さんに紹介したい人がいたから、今日、我が儘を言ってここに顔を出させてもらったんだ。俺がここに入れたのも、このマックのおかげなんだ。俺の、今一番大切な人」
ヴィデロさんがアリッサさんに俺を紹介してくれる。大事な人って。すごく嬉しくて思わず顔がニヤけそうになる。変な顔をアリッサさんに見せたくないんだけど、ダメだ、頬が緩む。
アリッサさんはそんな変な顔をした俺を見て少しだけ口元を緩めると、そうなの、と頷いた。
「ヴィルから色々と聞いているわ。あなたがマック君ね。向こうでは健吾君かしら」
どこまでヴィルさんから聞いているのかわからないけれど、俺はアリッサさんの言葉に「はい」と返事をした。健吾っていう名前を知ってるってことは、俺がヴィルさんの会社に採用されたとかそういうことも知ってるってことだよな。
ヴィデロさんの腕が離れると、ちょっとだけ名残惜しく思いながら、「あとでお話ししましょう」というアリッサさんに頷いて宰相の人の後に続いた。
二人に見送られながら、白いドアを閉める。
宰相の人の後をついて隣の部屋に入ると、そこはさっきの部屋にあったようなわけのわからない機械ではなく、書類の山が所狭しと置かれた部屋だった。中央に応接セットがあるところだけは同じだけれども。
どうぞとソファを勧められて、落ち着かないまま腰を下ろす。
「散らかったところで申し訳ありません。ここの建物は完全に私の個人的持ち物なので、片付ける暇がないのですよ」
そう言って宰相の人は応接セットの上にあった書類の束を横にずらした。
「先ほどの部屋は、アリッサ殿が魔道具の製作や調整をするところなのですよ。ここの書類は主にアリッサ殿との会合内容が記されている物です。中には魔道具の製作技術もあるので、掃除を頼もうにもなかなか誰も入れることができないのですよ。たまにユキヒラ君に頼むのですが、すごく嫌そうな顔をされます。彼は掃除が苦手なんだそうですよ」
「そうなんですか……」
5年の間にこれだけの紙の束が溜まるほどに話し合いをしているなんて。やっぱりそこまで細部にわたって話し合わないと色々と問題が起こるんだろうなあ。
周りの紙の山を遠い目で見ながら、俺はそんなことを思った。
でも俺が入っていいのかな。ユキヒラが入ってるくらいだから、いいのかなあ。
内容とか丸見えなんだけど。
横の束をチラ見していた俺に、宰相の人が苦笑した。
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※本作にはボーイズラブ要素およびオメガバース設定(α、β、Ωの概念やフェロモンに関する描写)が含まれています。苦手な方は閲覧にご注意ください。