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291、繋がった……
アリッサさんはその日は来れないということなので、俺は通常通りバイトを終えて家に帰ってきた。
家に持ち帰って携帯端末を弄ってみたけれど、通信エラーになってメールが返ってきた。
やっぱり家じゃダメなのかとがっくりする。じゃあやっぱりヴィルさんの会社で通信させてもらうか。ってことは、この端末は家に置いてちゃダメってことだ。
明日はバイトがないけれど、一度ヴィルさんの所にこれを置きに行こうと決めて、ギアを被った。
ログインすると、すぐさま門に走る。
立っていたヴィデロさんは、俺に気付くと下げていた面を上げて笑顔を見せてくれた。
そのままくっついていくと、危なげなく俺の身体を受け止めてくれる。
「ヴィデロさん、あのね、ヴィルさんから、ヴィデロさんの持ってる携帯端末と通信できる端末を借りたんだ。だから、通信方法を教えるから、明日の夜、テストに付き合ってもらってもいい?」
「端末……? あの魔道具か?」
「うん」
もちろん、と快諾してもらって、ホッとする。
もうすぐ交代のヴィデロさんをそのまま待って、一緒に工房に移動した。
お茶とご飯を出して、一息ついたところで携帯端末の扱い方を教える。
ある程度はアリッサさんから教えてもらったみたいなので、とりあえずメールの送り方のレクチャーをすることにした。
「文字は……こっちの文字じゃないんだよなあ」
メールを開いたところで、文字が俺たちの世界の物しか打てないことに気付いた俺は、手を止めた。
「文字なら少しはわかるぞ」
どうしようと悩んでいた俺の目の前で、ヴィデロさんが考えながら、英語で文字を打ち始めた。
『愛してる』
そう打って画面を俺に見せてくれたんだけど。意味、分かってるのかな。わかってるんだよね。
お母さんに英語を習ってたんだっけ。ええと……。
ヴィデロさんが打った文字の下に俺も文字を打ってみる。これの反応で、意味が分かってるかどうか判断しよう。
『俺も』
短い文を打った瞬間、ヴィデロさんの顔が満面の笑みを乗せた。うん。ヴィデロさんは英語を理解してる。
「やり取りは、問題ないね。問題なのは……」
「何か他に問題あるのか?」
「ある……! 俺の、英語力……! 勉強しよう。そうしないとヴィデロさんとメールやり取りできないかも……」
こんなところで学習をサボったツケが払わされるとは……! 英語、英語を頑張ろう……!
握り拳を握って気合いを入れていると、ヴィデロさんが「俺も」と呟いた。
「俺も、マック……ケンゴとこうやって直接やり取りできるなら、母の母国の言語をもう少し学習しないとな。それと、ケンゴの母国語を覚えたい」
「ヴィデロさん……今、俺を、健吾って……」
「マックの本当の名前は、ケンゴというんだろ。だったら、この『メール』? という物には、本当の名前を書きたい」
「ヴィデロさん……」
いいか、なんて微笑んで確認してくるヴィデロさんに感動した俺は、一も二もなくうんと頷いた。
その後は滞りなくメールの送り方を教え、ちゃっかり画像添付の仕方も教えて、満足した。その際、実際の俺の顔を見たいというヴィデロさんに俺の画像も送る約束をして、携帯端末は無事ヴィデロさんのカバンの中に納まった。
ヴィルさんから借りた古い携帯端末を手に、俺はバイト先に向かっていた。今日はバイトはない。なので、ちょっと後ろめたい俺は、差し入れを手に自転車を急がせた。
いったん学校から帰ってきた俺は、途中買ってきた物を使って簡単サンドイッチを作り、それを包んで適当にビニール袋に放り込んで、それを持って即家を出た。急いで作ってはいるけど味は保証付き、だと思う。
自転車をヴィルさんの会社のあるビルの横にある駐輪場に止め、カギを掛けてビルに入って行く。
ドアの横のインターフォンを鳴らすと、「はーい、どちらさん?」という声が聞こえてきた。これでいいのか会社。そう思わなくもなかったけれど、俺は「郷野です」と名乗った。
「何かしこまってんだよ。入って来いよ」という佐久間さんの言葉に苦笑しながらフロアの中に入って行くと、ギアを脇に抱えた佐久間さんが「よ」と奥から顔を出した。
「何、なんだよ。臨時バイト?」
「違います。個人的用事なので、ちょっと勝手に入るのを躊躇ったんです」
目を輝かせた佐久間さんに言い訳すると、佐久間さんは呆れたように半眼になった。
「健吾なら勝手知ったるだろ。んな遠慮すんなよ。今ちょっとヴィルの奴は席を外してるけど。まあゆっくりしてけよ」
そのゆっくりしてけよの所に「飯でも作って」というニュアンスが隠れていることに気付いた俺は、手に持ったビニール袋を佐久間さんに掲げた。
「これ、差し入れのサンドイッチです。沢山作ってはみたけど、足ります?」
これでもかと野菜と鶏肉を挟んでひたすら包んできた、袋一杯のサンドイッチを見た佐久間さんは、それを受け取りながらうーんと唸った。
「俺の分なら充分だ。が、ヴィルの分はわからねえな。よし、いないうちに食っちまうか」
そういうや否や、佐久間さんは手近な机にギアを置いて、さっさと奥のキッチンスペースに向かって行った。俺もそれに付いていく。そして勝手知ったるキッチンでお茶を淹れた。
「ヴィルさんがいないなんて珍しいですね」
「ああ。社長の所に行ってる。たまに打ち合わせに行くんだ。大抵は健吾のバイトがない時に行くんだけど。今日はまあ不意打ち成功だな健吾」
早速たくさんの包みを取り出しながらそんなことを言う佐久間さんに「不意打ちって何ですか」と突っ込んでおく。
今日はちょっとヴィデロさんからメールの送信ができるか確認してもらおうと思って来たんだと説明すると、佐久間さんは口をもぐもぐさせながら器用にニヤリと笑った。
「じゃあなんかあったらここのギアを使えばいい。窓際に置いてあるやつ、一応健吾専用にすることにしたから」
「お、俺専用……?」
「ああ。ADOだけじゃなくて、ギアを使った色々な業務があるわけだ。それを追い追い今年中に教え込んでおいて、来年には即戦力になる様にしようと俺とヴィルで計画しててな。いやあ、いい人材が手に入ったもんだ。頑張れ健吾」
「うわあ、責任重大ですね」
「こんな業務内容だからな。信頼できる奴じゃねえとバイト一人ですら使うことが出来ねえんだ。だからヴィルも、手伝ってもらうには社長の信頼してる奴をこっちに引っ張ってくるようにしてるんだ。まあ、あいつは変に人を見る目があるからな。間違ってもやべえ奴は連れてこねえだろとは思うけど」
佐久間さんの言葉に、思わず納得してしまった。確かに異世界間を繋ぐ研究をするなんて、実際に説明されても怪しいと思うもんなあ。しかもヴィルさんの感知能力はこっちでも発動してるみたいだから、確かに変な人は入ってこないとは思うけど。
「たった二回偶然会っただけの俺をバイトに誘った人のことだとは思えないですけどね……」
「そりゃああれだ。ピンと来たんだろ。実際に大当たりだったわけだし」
大当たり。探していた弟と仲良しで、必要だった調整が出来る獣人さんとも仲がいい俺。確かに大当たりなのかもしれない。けど。
「でももしヴィルさんが俺の性格を気に入らなかったとしても採用してたんですかね」
「ありえねえな。ここに誘いもしなかっただろ。だから『大当たり』なんだよ。普通の当たりなんかじゃねえ。ピンポイントで大当たりだ」
そこまで言われてしまって、実際にこの会社に勤めるようになって足手まといになったらどうしよう。
ちょっとだけ重くなった肩に溜め息を吐くと、佐久間さんがワハハと笑った。
「心配すんなって。健吾ならやれるって」
「うう……頑張ります……」
頑張ることがいっぱいすぎる……と遠い目をしていると、ポケットに入れていた携帯端末が音を発した。
心臓がドキンと一つ高鳴る。俺の携帯端末じゃありえない音ってことは。
ゴソゴソとポケットから端末を取り出し、覗き込む。
そこには、メールが届いたことを知らせる通知が来ていた。
『母』
メールの送信者の名前は、そうなっていた。
「来た……」
ごくりと喉を鳴らして、『母』からのメールを開く。
そこには、英語で書かれた短いメッセージがあった。
『これが届くことを祈っている
ケンゴと繋がれることが夢のようだ
愛している』
俺も愛してる。
本文を読んで、ぽつりと呟いた。
嬉しくて鼻の奥がつんとした。
ホントに? ホントにこれ、ヴィデロさんから届いたの? 何かの夢じゃない? 本当に、夢のようだ。
「ほらな、大当たりだ」
サンドイッチを食べる手を止めて俺の横から覗き込んでいた佐久間さんは苦笑しながら、俯いてポツリと一粒テーブルに水滴を零す俺の頭をポンポンと手で優しく叩いた。
家に持ち帰って携帯端末を弄ってみたけれど、通信エラーになってメールが返ってきた。
やっぱり家じゃダメなのかとがっくりする。じゃあやっぱりヴィルさんの会社で通信させてもらうか。ってことは、この端末は家に置いてちゃダメってことだ。
明日はバイトがないけれど、一度ヴィルさんの所にこれを置きに行こうと決めて、ギアを被った。
ログインすると、すぐさま門に走る。
立っていたヴィデロさんは、俺に気付くと下げていた面を上げて笑顔を見せてくれた。
そのままくっついていくと、危なげなく俺の身体を受け止めてくれる。
「ヴィデロさん、あのね、ヴィルさんから、ヴィデロさんの持ってる携帯端末と通信できる端末を借りたんだ。だから、通信方法を教えるから、明日の夜、テストに付き合ってもらってもいい?」
「端末……? あの魔道具か?」
「うん」
もちろん、と快諾してもらって、ホッとする。
もうすぐ交代のヴィデロさんをそのまま待って、一緒に工房に移動した。
お茶とご飯を出して、一息ついたところで携帯端末の扱い方を教える。
ある程度はアリッサさんから教えてもらったみたいなので、とりあえずメールの送り方のレクチャーをすることにした。
「文字は……こっちの文字じゃないんだよなあ」
メールを開いたところで、文字が俺たちの世界の物しか打てないことに気付いた俺は、手を止めた。
「文字なら少しはわかるぞ」
どうしようと悩んでいた俺の目の前で、ヴィデロさんが考えながら、英語で文字を打ち始めた。
『愛してる』
そう打って画面を俺に見せてくれたんだけど。意味、分かってるのかな。わかってるんだよね。
お母さんに英語を習ってたんだっけ。ええと……。
ヴィデロさんが打った文字の下に俺も文字を打ってみる。これの反応で、意味が分かってるかどうか判断しよう。
『俺も』
短い文を打った瞬間、ヴィデロさんの顔が満面の笑みを乗せた。うん。ヴィデロさんは英語を理解してる。
「やり取りは、問題ないね。問題なのは……」
「何か他に問題あるのか?」
「ある……! 俺の、英語力……! 勉強しよう。そうしないとヴィデロさんとメールやり取りできないかも……」
こんなところで学習をサボったツケが払わされるとは……! 英語、英語を頑張ろう……!
握り拳を握って気合いを入れていると、ヴィデロさんが「俺も」と呟いた。
「俺も、マック……ケンゴとこうやって直接やり取りできるなら、母の母国の言語をもう少し学習しないとな。それと、ケンゴの母国語を覚えたい」
「ヴィデロさん……今、俺を、健吾って……」
「マックの本当の名前は、ケンゴというんだろ。だったら、この『メール』? という物には、本当の名前を書きたい」
「ヴィデロさん……」
いいか、なんて微笑んで確認してくるヴィデロさんに感動した俺は、一も二もなくうんと頷いた。
その後は滞りなくメールの送り方を教え、ちゃっかり画像添付の仕方も教えて、満足した。その際、実際の俺の顔を見たいというヴィデロさんに俺の画像も送る約束をして、携帯端末は無事ヴィデロさんのカバンの中に納まった。
ヴィルさんから借りた古い携帯端末を手に、俺はバイト先に向かっていた。今日はバイトはない。なので、ちょっと後ろめたい俺は、差し入れを手に自転車を急がせた。
いったん学校から帰ってきた俺は、途中買ってきた物を使って簡単サンドイッチを作り、それを包んで適当にビニール袋に放り込んで、それを持って即家を出た。急いで作ってはいるけど味は保証付き、だと思う。
自転車をヴィルさんの会社のあるビルの横にある駐輪場に止め、カギを掛けてビルに入って行く。
ドアの横のインターフォンを鳴らすと、「はーい、どちらさん?」という声が聞こえてきた。これでいいのか会社。そう思わなくもなかったけれど、俺は「郷野です」と名乗った。
「何かしこまってんだよ。入って来いよ」という佐久間さんの言葉に苦笑しながらフロアの中に入って行くと、ギアを脇に抱えた佐久間さんが「よ」と奥から顔を出した。
「何、なんだよ。臨時バイト?」
「違います。個人的用事なので、ちょっと勝手に入るのを躊躇ったんです」
目を輝かせた佐久間さんに言い訳すると、佐久間さんは呆れたように半眼になった。
「健吾なら勝手知ったるだろ。んな遠慮すんなよ。今ちょっとヴィルの奴は席を外してるけど。まあゆっくりしてけよ」
そのゆっくりしてけよの所に「飯でも作って」というニュアンスが隠れていることに気付いた俺は、手に持ったビニール袋を佐久間さんに掲げた。
「これ、差し入れのサンドイッチです。沢山作ってはみたけど、足ります?」
これでもかと野菜と鶏肉を挟んでひたすら包んできた、袋一杯のサンドイッチを見た佐久間さんは、それを受け取りながらうーんと唸った。
「俺の分なら充分だ。が、ヴィルの分はわからねえな。よし、いないうちに食っちまうか」
そういうや否や、佐久間さんは手近な机にギアを置いて、さっさと奥のキッチンスペースに向かって行った。俺もそれに付いていく。そして勝手知ったるキッチンでお茶を淹れた。
「ヴィルさんがいないなんて珍しいですね」
「ああ。社長の所に行ってる。たまに打ち合わせに行くんだ。大抵は健吾のバイトがない時に行くんだけど。今日はまあ不意打ち成功だな健吾」
早速たくさんの包みを取り出しながらそんなことを言う佐久間さんに「不意打ちって何ですか」と突っ込んでおく。
今日はちょっとヴィデロさんからメールの送信ができるか確認してもらおうと思って来たんだと説明すると、佐久間さんは口をもぐもぐさせながら器用にニヤリと笑った。
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「お、俺専用……?」
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「たった二回偶然会っただけの俺をバイトに誘った人のことだとは思えないですけどね……」
「そりゃああれだ。ピンと来たんだろ。実際に大当たりだったわけだし」
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「でももしヴィルさんが俺の性格を気に入らなかったとしても採用してたんですかね」
「ありえねえな。ここに誘いもしなかっただろ。だから『大当たり』なんだよ。普通の当たりなんかじゃねえ。ピンポイントで大当たりだ」
そこまで言われてしまって、実際にこの会社に勤めるようになって足手まといになったらどうしよう。
ちょっとだけ重くなった肩に溜め息を吐くと、佐久間さんがワハハと笑った。
「心配すんなって。健吾ならやれるって」
「うう……頑張ります……」
頑張ることがいっぱいすぎる……と遠い目をしていると、ポケットに入れていた携帯端末が音を発した。
心臓がドキンと一つ高鳴る。俺の携帯端末じゃありえない音ってことは。
ゴソゴソとポケットから端末を取り出し、覗き込む。
そこには、メールが届いたことを知らせる通知が来ていた。
『母』
メールの送信者の名前は、そうなっていた。
「来た……」
ごくりと喉を鳴らして、『母』からのメールを開く。
そこには、英語で書かれた短いメッセージがあった。
『これが届くことを祈っている
ケンゴと繋がれることが夢のようだ
愛している』
俺も愛してる。
本文を読んで、ぽつりと呟いた。
嬉しくて鼻の奥がつんとした。
ホントに? ホントにこれ、ヴィデロさんから届いたの? 何かの夢じゃない? 本当に、夢のようだ。
「ほらな、大当たりだ」
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※本作にはボーイズラブ要素およびオメガバース設定(α、β、Ωの概念やフェロモンに関する描写)が含まれています。苦手な方は閲覧にご注意ください。