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310、俺の「感知」はパッシブスキルじゃありません
ヴィルさんが剣を振る姿は、なかなか様になっていた。
しかしいかんせん攻撃力が弱すぎるらしく、魔物に剣が当たってもHPがあんまり減らない。
まあ、トレの適正レベルは30前後だから、仕方ないんだけどね。ヴィルさんただいまレベル6だし。
ただ、索敵っていうか感知は俺よりよほど優秀らしく、俺とヴィデロさんが気付かない魔物を見つけては、「向こうにいた。リベンジだ!」と走り始め、俺たちが慌てて追う状態になることしばし。
途中素材を集めたりしながら進んだら、ヴィルさんに採取のスキルが付いたらしい。今度は魔物に走っていくんじゃなくて、素材に向かって突き進んでいった。ああ、この状態で研究を突き進んだんだな、ヴィルさん。
中には採取のレベルが高くないとゲットできない素材とかもある宝の山トレの森。ヴィルさんに採取の仕方を教えていると、ヴィルさんは器用な手つきで次々難しい素材をゲットしていった。
「採取スキルの方が上がりやすいんだな。そして健吾は詳しいな。さすが薬師だ。とれた素材もランクが全く違う」
「マックは採取する際の手つきが、凄く丁寧だから当たり前だ。お前のはブチブチ抜くだけだろう」
「君も同じようなものだと思う」
「俺は剣を扱うのが本業だからいいんだ」
同じ顔で同じような声で会話している兄弟を見るのが凄く楽しい。
足元に咲いていた白い花を摘んでヴィデロさんの髪に挿して大笑いするヴィルさんは、いつもよりも童心に返っているようだった。ヴィデロさんは迷惑そうな、困ったような顔ばっかりしてたけど、でも嫌とは言わず、ヴィルさんのやることを見守っている。どっちがお兄ちゃんなのかわからなくなるよ。
「よし、レベルが8になったぞ。それにしても君は本当に凄いな。剣を一振りで魔物を倒すなんて。コツでもあるのか?」
「狼系は腹と首が弱点だから、飛び掛かってきたら冷静に相手の力を利用して腹に剣を刺すと倒しやすい。虫は甲の接ぎ部分が弱いから、力が付いていないときはそこを狙うといい。虫の場合ほぼ腹を見せないから背中の羽根の隙間だな。蛇は頭を地面に縫い付けるとほぼ何も出来なくなるから、そのまま切り裂け。鳥は目を狙ってくるから、攻撃のパターンが読みやすい」
そう言いながら、タイムリーに出てきた鳥の魔物を剣で一振り。見てるとひょいサクッッて感じで本当に簡単に倒しちゃうんだ。うわあ、簡単なんだなあって思っちゃう。でもそんなことをすぐにできるようになる人なんて、あんまりいないんだけどね。ヴィデロさん、もしかしたら雄太くらい強いから、トレの魔物くらいじゃ腕慣らしにもならないんじゃないかな。
「そうか、軌道を読んで……ここか!」
教わった通りにヴィルさんが動く。口で言われただけで動けるって、ヴィルさん実は超人? 上から降下してきた鳥を避けて、攻撃をしっかりと当てていた。でも刈り取られたHPはわずか4分の1。見た目は凄く様になってるのに。攻撃力があればヴィルさんもサクサク攻撃できるのに見ててじれったい。
「あ、そうか、俺も魔法陣の練習すればいいのか」
早速魔法陣の魔導書を取り出して、攻撃力アップの所を開く。構築を考えて、考えて、組み立てて。
ちゃんと魔力消費を抑える言葉も繋ぎ部分に入れていく。
空の上には、同じ鳥の魔物があと2体こっちを狙っている。そこにヴィルさんに攻撃を受けた魔物が戻っていき、またも狙いを定める。
ヒュンと音を立てて、魔物がヴィルさんに向かって下降。
俺は手元に描き上げた魔法陣をヴィルさんに飛ばした。
ヴィルさんの身体が魔法陣に包まれ、魔法陣が消えていく。と同時にヴィルさんが鳥に一撃を加えた。
HP4分の3ほど残っていた魔物は、その一撃で地面に叩きつけられ、瀕死状態になった。
地面でバサバサしている魔物に、ヴィルさんが剣を突き立てる。魔物は光となって消えていった。
「健吾、今、何をした?」
「魔法陣でバフ掛けを」
ヴィルさんの問いに答えると、ヴィルさんが目を光らせた、気がした。
その間にも次の魔物が急降下してくる。魔物はヴィルさんばかりを狙ってくる。多分レベルが一番低いから。俺だってパーソナルレベルはかなり高いから。
ステータスにしたって、レベルまだ一桁台のヴィルさんからすると俺の方が高いし。トレの魔物くらいなら、もう簡単に倒せるんだよ。ティソナドスカラスがあるからね。ああ、俺も腕力付けよう。
「魔法陣か。面白いな。その言語は母が書く言語とはまた違うみたいだな。どうすれば読めるようになる?」
「俺はクラッシュに習いましたけど」
「天使か。よし。今度天使にお願いしてみよう」
いい笑顔でそう言ってるのはいいんだけど、魔物が狙ってるよヴィルさん。
攻撃される直前でヴィデロさんが叩き落して光にしてるけど。それが二回続いてすでに鳥の魔物はヴィデロさんの手によって全滅させられてる。
ヴィデロさんが魔物を倒しても俺たちに経験値が入ってくるから、それでもヴィルさんのレベル上げにはなってる、のかな。
「皆が夢中になるのもわかる気がするな。全てが楽しい。もちろん、研究には負けるんだけどな」
剣を鞘に納めながら、ヴィルさんが呟く。今までこういう娯楽に手を出さなかったんだろうな。研究一筋って感じだったんだろうし。
「それに、弟と一緒になってゲームをする、という感覚なのもいいな、健吾」
な、弟、と俺を見るヴィルさんに、「弟は俺じゃなくてヴィデロさんでしょ」と突っ込みつつ、止まっていた足を進め始める。
向かっているのは北。ヴィルさんがこっちに進んでみたいと言う方向に進んでいる俺たちは、着々と北の山に向かっていた。
「こっちに何かがあると俺の勘が告げているんだ。ログインしてから、なんか前よりも勘が冴えるんだよ。面白いな。感知のレベルが上がったからかな」
「感知って。レベル幾つなんですか?」
「感知は18になった。よくわからないのに上がっていくんだ。こういう物なのか?」
首を傾げるヴィルさんにつられて、俺も首を傾げる。
俺の場合は感知を使わないと周囲の状況がわからないからそこまで頻繁にレベルが上がらないけど。その感知のレベルちょっとおかしい。
「どんな時に感知を使ってるんですか?」
「使ってるって? 感知は使う物なのか?」
ヴィルさんのその言葉に、俺は戦慄した。
もしかして、ヴィルさんの感知はパッシブスキルに分類されてる、とか。俺の場合は自分で感知を使わないといけないアクティブスキルなんだけど。感知がパッシブって……。そんなこともあるのかな。俺が使うとMP減るんだけど、ヴィルさんの場合どうなんだろう。
「感知でMPって減りますか?」
「MPはそうだな、トレの街からここまで歩いて、10くらい減ってるな。いつも微妙に減るから、そんなものだと思ってたけど、健吾のその様子を見ると、違うようだな」
「違います。MPは何もしてないと減りません」
しかもここまでで10とか。ヴィルさんの感知、めちゃくちゃ省エネだ。羨ましい。ずっと無意識で使ってるんならレベルも上がるよ。
「ジョブレベルは上がってるんですか? っていうか、職業何に就いたんですか?」
「俺は、『探究者シーカー』という物になったらしい。ちょくちょく出歩いては街のことを調べていたら、いつの間にやらそういうジョブが出ていたから、セットしてみた」
「アリッサさんは『魔道具技師』っていうレア職業でしたけど、ヴィルさんもレア職ですね」
「母にすごく合ってる職業だよな。最初に聞いた時ものすごく納得した」
俺も『錬金術師』っていうレア職をセットしてるけど。でも『探究者』って……すっごくヴィルさんにしっくりくる職業すぎて恐ろしい。
「オルランド卿は一時期近衛騎士にいたと聞いた。セィ城下街に住んでいたんだろ。どうしてトレへ?」
頭の上になっている木の実に手を伸ばしながら、ヴィルさんがヴィデロさんを振り返る。
そしてヴィデロさんの返事を待たずに手元の木の実を見て「これは疲労回復効果があるのか」なんて呟くヴィルさんは、しっかりと鑑定スキルもゲットしているみたいだった。
隣に立ったヴィデロさんが、ヴィルさんから視線をずらして、俺の方を向いた。
「父が亡くなってから、爵位を王に返上したんだ。もともと父一代限りの爵位のようなものだったから、返上はすんなりいった。母もいなくなり、父も亡くなり、当時騎士の宿舎に住んでいた俺は、貴族籍じゃなくなったことで、所属していた騎士団から外れることになった。もともと貴族籍の者しか入れない騎士団だったからな。家も手放し、何も残っていなかった俺が自暴自棄になりかけてた時に、よく俺と遊んでくれた父の部下に、トレの街の騎士団に入らないかと打診されたんだ。城下街にいるのが苦しかった俺は、すぐさまその話に飛びついた。それからすぐにトレに移動して、街門騎士団に入団したんだ」
「そうだったのか……」
静かに語るヴィデロさんの話を、ヴィルさんは真剣に聞いているみたいだった。
「辛い時に近くにいてあげられなくてごめん」
「……」
「母は、オルランド卿が亡くなったと知った時、そう言って涙をこぼした。ずっと君を心配してたよ」
「お前は……」
飛び出してきた魔物を無造作に屠って、ヴィデロさんがヴィルさんを見つめる。
穏やかな顔をしたヴィルさんと、少しだけ辛そうなヴィデロさん。
俺は、ただ黙って二人の会話を聞いていた。でも、俺がこの会話を聞いてもいいのかな。
「お前は、母がこっちに来てからずっと一人だったんだろう。俺が、母を占領していたことは、何とも思わないのか……?」
「それな。思うに決まってるだろ。ずっとずっと言いたかったことがあるんだ」
ヴィルさんはひと呼吸おいて、ニッと口元を緩めた。
「俺も、君たちの家族の仲間入りをしたかったんだ。ずっと羨ましかった」
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※本作にはボーイズラブ要素およびオメガバース設定(α、β、Ωの概念やフェロモンに関する描写)が含まれています。苦手な方は閲覧にご注意ください。