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319、上司と友人の邂逅
結局バイト日は減ることなくテストを受けた。ログインはほぼしていない。ヴィデロさんとのラブラブを励みに、頑張った俺。
そして、逆にバイト日を減らされた方がヤバいということに気付いたのは、次のバイト日に他の教科書を全てチェックされてから。
毎日会社に来るように言われて、一日30分ほどヴィルさんが、そしてたまに佐久間さんが俺の勉強を見てくれた。その間は毎日ちゃんとご飯を作ってたけどね。会えない分休憩時間にちょっとだけヴィデロさんと英語のメールのやり取りをしたのはこれまたいい勉強になった。英語が好きになった。それがなかったら、多分俺英語は赤点確実だった。
かなり埋まった答案用紙を見て、俺はぐっと手を握った。さすがヴィルさん。天才とはああいう人のことを言うのか。なにせ、ヴィルさんがチェックを入れてくれたのが、ほとんど外れることなく出てきたから。
ここまでスラスラ解けるとは思わなかった。勿論わからないのはあったし、ちょっと危なげな問題もあったけど、だいたい書き込めた。
そして、答案が返されると、あとは夏休みである。
今までの答案よりも確実に10点近くずつ上がった点数に、俺はわが目を疑った。
つまり、赤点ギリギリどころか、平均点が10点くらい上がったことになる。ヤバすぎだろ俺。いや、こんな俺に勉強を教えたヴィルさんと佐久間さん。
その答案用紙を後ろから覗き込んできた雄太が、俺の点数よりさらに高い点数の答案用紙をチラ見せして来ても全然平気! ほんとヴィル様様だよ!
もちろん、テストが終わったその日はダッシュで帰って即ログインして門に突進していったのは言うまでもない。
そして終業式の日。やり終えた俺は、清々しい気持ちで立ち上がった。
先生の「羽目外しすぎんなよ。あと、ゲームはほどほどでしっかり課題しろよ」というありがたい言葉と共に、俺たちは教室から解放された。
「よっしゃ、これで心置きなく夏休み……!」
誰かがそう叫び、教室内がその言葉に賛同する。
夏休み……。最後の夏休み。色んな事が待っている。15人でクエスト、ヴィデロさんとデート、そして、バイト。
転移研究の方が落ち着いたからか、そっちは研究所のスタッフに任せて会社の方に顔を出し始めたヴィルさんは、やっぱり時間を取ってはレベル上げにいそしんでいるらしい。
たまにログインするとヴィルさんが工房にいなかったりする。あの人はいったいいつ寝てるんだろう。
そんなことを思いながら、雄太と増田と並んで昇降口に向かう。
例のクエストは、皆の都合を合わせるために、一度メンバーで顔合わせをしようってことになった。だからそのことをヴィルさんに伝えないと。
でも辺境とトレだから、多分クラッシュか俺の転移で辺境に移動することになるんだと思う。俺の場合は、何人も連れてると何回補給しないといけないかわからないけど。でも、このクエストがクリアになれば、魔力ももっと増えて、移動も錬金も色々と楽になるのかな。
ワクワクしながら、今日は珍しく雄太と帰る。ユイたちは一足早く休みに入ってるから、迎えに行くことないんだって。マメだね雄太。
「ところでバイト先の上司って、どんなやつ?」
「一言で言うと、凄い人」
「わかんねえよ」
実は雄太にだけは就職が決まったことを言ったんだ。今バイトしてるところにそのまま就職するって。そしたら雄太、「お、それじゃ卒業まで心置きなくADOできんじゃん」なんてニヤリと笑っていた。ここで何でお前だけ、とか羨ましいとかそういうことを言わないからこそ雄太には何でも言えるんだけど。
でもヴィルさんに会ったら雄太どういう反応するのかな。そっくりだから実はヴィデロさんがプレイヤーだとか思っちゃったりするのかな。
なんて思いながら二人で自転車を走らせていると、ププッとクラクションの音がした。
そして、真横に見慣れた車が停まった。
「健吾。今終わりか? 早くないか?」
窓が開いて、中からヴィルさんが。
うーん。ナイスタイミングというか、なんというか。
自転車を止めた俺に合わせて、雄太も自転車を止める。
車の中までは見えないらしく、誰? って顔してるから、今のうちに紹介しておこうかな。
「今日は終業式だけだったので。あ、そうだヴィルさん。今となりにいるのが今度あの神殿に一緒に挑戦してくれる友達なんです」
「本当か? って、ここで話はよくないな。すぐそこにあるファーストフードに行かないか? お兄ちゃんが奢ってあげよう」
「それくらい自分で出します。……って言ってるけど、どうする雄太」
「あ? 俺もか?」
「うん。事前顔合わせって感じで」
「神殿の話をしよう。せっかくこれも何かの縁だ。君も一緒に来てくれると嬉しい」
「はあ……」
知らない人に奢られるということで乗り気じゃない雄太にごり押しするようにそう言うと、ヴィルさんは先に車を出して、ファーストフード店のある方に曲がっていった。
雄太はヴィルさんの消えていった方を指さして、訊いてきた。
「なあ健吾。アレが上司?」
「うん」
俺の頷きに、雄太は「ふうん」とあいまいな言葉を残して、俺と一緒にヴィルさんの消えた方に曲がってくれた。
店内は、昼過ぎで結構混んでいた。学生が多いのは、皆半日で学校が終わったから打ち上げみたいな気分で来てるからなんだろうなあ。
そしてその中に、異色の人が一人。
ラフなシャツとスラックスで胸元にサングラスを下げて、金髪を惜しげもなくさらした長身の人、ヴィルさん。見た目もスタイルも抜群だから、周りの女子高生から注目しまくられている。
雄太と共にドアを潜ると、ヴィルさんはすぐに俺たちに気付いて、サッと手を挙げた。
「悪かったな、強引に誘って。注文しておくから、席を取っておいてくれないか? 何がいい?」
列に並んだまま、ヴィルさんがそう訊いてくる。
いつも食べてるセットを答えて雄太を見上げると、雄太は無言でじっとヴィルさんを見つめていた。
「雄太?」
「健吾、あの人、門番さんか?」
そう呟いた雄太の顔は、何かを考えている顔で。
「俺、どこかで見たことある、かも……」
なんていう言葉に、心当たりが一つ。ゲームフェスタだよ。あの時も雄太は似たような質問をしてた気がする。
「ヴィデロさんじゃないよ。注文決めないなら勝手に好きなの選んでお願いするけど」
「あ、トリプルのLLセット。健吾金貸して。今日油断してて財布持ってきてねえ」
「いいよ」
雄太は席を見つけて、とお願いして、俺はヴィルさんの近くに行った。
そして雄太の注文も伝えて、財布を出す。すると、やんわりとヴィルさんが俺の手を抑えた。
「お兄ちゃんが奢るって言っただろ。健吾は向こうで待っていてくれ」
「でも」
「健吾。年上に花を持たせてくれないか?」
ヴィルさんは絶対に俺からお金を受け取ろうとせずに、にこやかに財布をしまう様に指示してきた。なんかここに来るとヴィルさんに奢ってもらってばっかりな気がする。
じゃあありがたく奢られて、今度夜飯一品追加でお礼しよう。
そう心に決めて人ごみの中を雄太目がけて移動する。
中央付近で雄太は無事席を確保できたらしい。帰る人がいたから、すかさず次に座ってもいいか訊いて、即座にゲットできたらしい。雄太さすが。
ほどなくして、ヴィルさんも両手にトレイを持ってやってきた。
それにしても学生の中のヴィルさん。目立つことこの上ない。
「お待たせ。さ、腹が減ってはなんとやらだ。食べよう。健吾も、健吾の友達も」
「あ、ヴィルさん。こっちが今度一緒に行ってくれることになった『高橋と愉快な仲間たち』の高橋です」
「ども。高橋です。えっと、門番さんの中の人……?」
「だからヴィデロさんじゃないよって。雄太、この人が俺のバイト先の上司、ヴィルさん」
「初めまして……ではないかな。健吾と一緒にゲームフェスタに来ていなかったか? 見かけた気がする」
「あぁ!」
ヴィルさんの言葉に、思わずと言ったように声を上げた雄太。ヴィルさんがADOブースにいたことを思いだしたらしい。
ハッと我に返って、俺を振り返る。
「健吾お前、運営側になるのか?」
「ならないから。ヴィルさんの会社は、運営とは別会社だよ」
「俺は通信設備の担当をしているんだ。管理運営はまた別だな。だから安心して色んな話をして欲しい」
「っつうか、やっぱ門番さんの中の人で、健吾と付き合ってたり……」
「ないない」
やっぱり顔がそっくりなのが誤解の元なのかな。でもここまで似てる兄弟も結構珍しいとは思うけど。表情とか一つ一つ見ると全然違うんだけどね。
冷めないうちにと勧められたハンバーガーに手を伸ばしながら苦笑する。でもここで兄弟だよって言っても不審がられるだけだし。
そろそろ、雄太には説明しといたほうがいいのかな。信じてもらえるかどうかは別として。
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※本作にはボーイズラブ要素およびオメガバース設定(α、β、Ωの概念やフェロモンに関する描写)が含まれています。苦手な方は閲覧にご注意ください。