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332、も、もしかして……
光の上に立った瞬間、周りの景色が変わった。
目の前に映る景色は、いつも見慣れたもので。
「工房……?」
神殿内にいたはずの俺は、なぜかトレの工房内に立っていた。
テーブルの上には調薬キットがずらっと並んでいる。そして、素材も。
あの素材、獣人の村から採取してきた、蘇生薬の素材だ。
俺は視線を動かした。
調薬テーブルの所に、誰かが座っていたから。
髪の長い、女の人が。
その人の髪は薄いブルーにも見えるシルバーのストレートヘアで、腰のあたりまで伸びていた。さらりと髪が肩から落ちているのがとても綺麗だった。
身体の線は細く、ドレスなんか着たらすごく似合いそうなのに、その身を白のローブで包んで、飾りっけのない無骨なズボンを穿いていた。
その女性はゆったりと口元を緩めて、目元を細めて、俺を見ていた。薄幸美人っていう言葉がよく似合う、それはそれは綺麗な人だった。
『初めまして、私の後継者さん』
女性が口を開く。その声は、儚げな見た目に反して、しっかりとした声だった。
「後継者……?」
俺が女性の言葉に首を捻ると、女性は嬉しそうに『そうよ』と笑った。笑った瞬間、儚げな印象が一瞬で霧散し、周囲がふわっと暖かくなる錯覚に陥る。
その場に突っ立ったまま動けないでいると、女性が手招きして、俺を調薬テーブルに誘った。
ここへ、と手招きされるまま調薬テーブルのいつも調薬する椅子に座ると、目の前の女性が『ね、調薬してみて』と俺を促してきた。
『私ね、調薬する人の手つきを見るのがすごく好きなの。小さいころ一緒に遊んでた人が色々する人でね、一緒にたくさんのことをして遊んだわ。調薬、冒険、読書、勉強、魔法、剣、採取。中でも一番好きだったのは、その人が調薬をする姿だったの。だって、失敗するといつもは見せないような顔をするんだもの。その顔を見るのが楽しくて、たまにそっと邪魔してたのよ。ふふ、でもちゃんとお詫びに手料理を作って謝ってたからね』
まだ俺が固まっていると、女性は何かを思い出すように視線を落とし、ふわっと笑った。そして、ふと、その笑顔に影が差し……。と思った瞬間、またふわっとした笑顔に戻った。
『ねえ、そこの素材を使って調薬してみて』
「え、でもこれは……」
『出来ないの? あなたなら出来るはずよ。ねえ、調薬してみて』
これが、最終試練なのかな。とふと思った。
景色が我が家だからつい忘れそうになるけど、これは限界突破のクエストの神殿だから。
もしかして、ここで蘇生薬を作ってみるのが、試練になるのかな。
俺、今蘇生薬の成功率どれくらいだったっけ。
ふと気になってステータス欄を開こうとしたら、ステータス欄自体が表されなかった。HPもMPも見れないし、クエスト欄ももちろん見ることもできない。ってことは、レシピを確認できないってことだ。
ちょっとだけ焦っていると、女性が『ねえ、お願い』と俺を促してきた。
「この素材は、失敗したらこの世界が終わっちゃうかもしれない物を作る素材なんです」
『出来るでしょ。作り方は、覚えてるわよね』
「それは、何度も何度も見たから、覚えてはいるけど、成功率ってものがあって」
『大丈夫。出来ると思えば成功率なんて上がるものよ』
女性のその言葉を聞くと、なんだか本当に大丈夫な気がしてきた。
それに、現実のトレの工房じゃないはずだから、これは本物の素材じゃないのかもしれない。
あまりにもそのまんまの工房の中にその女性がいるっていうだけで、これは本当の工房じゃなくて幻覚なんだということがはっきりとわかる。
『時間は有限よ。ねえ、作ってみて』
「……わかりました」
クエスト開始から既にどれくらいの時間が過ぎたのか、確認を怠っていたのでわからないけど、確かに時間は有限だった。
この場所が通常通りの時間が流れるかどうかもわからないし、このままぼんやりしていても確かにただ時間が過ぎていくだけだ。
ステータス欄自体が開けないってことは、インベントリも使えないってことで、ってことは工房のインベントリも開けないってこと。
だったら、調薬出来るのはこの素材だけ。
俺は一度大きく深呼吸すると、調薬キットを使いやすいように並べ直した。
目の前の女性は、頬杖をつきながら楽しそうな目つきで俺を見ている。
必死で頭を回転して蘇生薬のレシピを思い出して、素材に手を伸ばす。
最後に確認したときは、90%近かった。だから、大丈夫。残りの10%は、何とか気合いで頑張る。今見ている物は違っても、きっと同じフロアにヴィデロさんがいるんだ。だから、頑張れる。ヴィデロさんは辛い思いをしてないといいな。危なくないといいな。戦闘じゃないといいんだけど。一人一人ってことは、雄太もヴィデロさんを守ることが出来ないってことだ。
ってことは、さっさとこの依頼をクリアして、さっさとあのフロアに戻った方がいいってことだ。
頑張ろう。
素材一つ一つ丁寧に、かつ素早く。でも大雑把にはならずに。
磨ってまとめて横に置き、次々素材の前準備をする。
記憶をフル回転させて、最適な場所に素材を置いていく。
上級キットに火をつけて、素材投下。それがグツグツする前に、簡易キットに素材を入れる。
軽く掻き混ぜながら、横に置いた普通のキットに素材を入れる。
覚え込んだレシピをなぞりながら、俺は必死で手を動かして、目を動かした。獣人さんは鼻が利くからちょっとした違いでも分かるっていうけど、俺にはそんなことできないから、何か変化はないか目で追う。
いい感じになった簡易キットを火からおろして上級キットに少しずつ入れながら、たまに手を止めて普通のキットを混ぜる。その時一つまみずつ素材を入れるのを忘れない。
ここまではいい感じだ。
かるく詰めていた息をちょっとだけ吐いて、瞬きする。
ここで気を抜くと失敗するのはわかってるから、「よし」と呟き、自分に活を入れる。
獣人の村からしか手に入らない果実の絞り汁を一滴ずつそっと垂らして状態を見ながら、上級キットに普通のキットの中身を流し入れた。
あとは掻き混ぜて、掻き混ぜて、残った一つの素材を気泡が出来てきた瞬間に投入。
頭の中で、蘇生薬レシピの文字が浮き上がっている。あとは、香りが甘くなって色が変わるまで、丁寧に混ぜるだけ。
グルグル。グルグル。
一定の速度で掻き混ぜていると、ふわっと甘い花の香りがした、ような気がした。ハッとすると、目の前の上級キットの中身が、スッ……と綺麗なはちみつ色に変わり、その液体が輝き始めた。
火を止めて、出来上がった液体を、濾過器を通してキットの横に置かれていた瓶に注ぐ。
蓋を閉めて、温かい瓶を持ち上げてその黄金色に光り輝いているアイテムをしげしげと見ていると、いきなり拍手が鳴り、俺はハッと意識をそっちに向けた。
目の前の女性が、嬉しそうに拍手をしていた。
『素敵な物が出来たわね』
「はい」
拍手をされるまで、彼女の存在を忘れてた。いつも集中しちゃうと周りが見えなくなるんだよな。
でも、これ本当に蘇生薬なのかな。そして今、鑑定は使えるのかな。
「鑑定」
呟いてみると、スッと瓶に説明書きが浮かんできて、ちゃんと鑑定が出来ていることがわかる。
「蘇生薬。生命維持が限界を迎えた者を蘇生させる薬。ただし生命維持活動停止後一定時間が経過していると効果は出ない」
現れた文字を読むと、目の前の女性がにっこり笑った。
『作ってくれてありがとう。それがないと、ルークが大変なことになるのよ』
女性の言った言葉に、俺は動きを止めた。
「ルーク?」
『ええ。……って呼ばれてる人。でも本当はそんなじゃなくて、もっと悪ガキで子供っぽい人だったの。あなたはルークの力になってね』
女性の言葉に雑音が混じって、一部聞き取れなかった。
でも、俺は目の前の人をじっと見つめた。
「もしかして」
ふと確信を持った。彼女は。
「サラさん、ですか?」
『あら。ふふ、……ちゃった。私ね、ひとつマイルールを設定していたの。あなたはそれをクリアしたから、教えてあげるわ。本当はここに現れるのは、私じゃなかったの。でも今の私はちょっとだけ地脈に干渉出来て、条件も揃っていたからここに来ちゃった。これは内緒よ。こっそり来てるから。ちょっとだけ『エッジラック』と『デプスシーカー』の力を借りちゃったのよ、だってすぐ近くにいるんですもの』
推定サラさんは、肩を竦めて俺の横に視線を向けた。本来ならヴィデロさんが立っていた場所。
もしかして、闇に呑まれたままの場所にいるのなら、ここに、今もヴィデロさんがいるってことかな。
俺もサラさんの視線を追うようにして、自分の横に視線を移動した。
ヴィデロさんのスキルって『幸運』じゃなくて、『エッジラック』っていうのかな。どんなスキルなんだろう。
今は見えないヴィデロさんの温もりを探すように、無意識に手であの力強い腕を探す。
そこでサラさんがポン、と手を叩いたことで、俺は宙に浮いた手を慌てて下げた。
『そうそう、本題よね。ほんとなら古代の巫女が現れて、あなたに力を授ける試練を出すはずだったんだけど、お願いして代わってもらったの。だってあなたに会いたかったから。そして本当なら、ここに出てくる試練の内容は、錬金術だったの。あなたの職が「錬金術師」だから。でも曲げちゃった。本来の試験もする? 私が監督になるわ。だって、私も……だから』
なんか、言ってることがちょっとすごい。何せ古代神殿の巫女にお願いして無理やりここに来たってことでしょ。その無理やりがどんなものなのかは想像するのやめとこう。
さすがエミリさんの親友で、セイジさんを振り回してクラッシュを物理的に振り回す人だ……。
でも本来の試験をしないと、あとでだめだったとかなった時に一人だけ限界突破できないんじゃないのかな。何せ予想外の干渉みたいだから。
「受けます」
『真面目ね。じゃあこれをあげるわ。素材は……』
椅子にずっと座っていたサラさんが、初めて立ち上がった。その拍子に長い真っすぐの綺麗な髪がサラリと揺れる。ああ、儚い、と錯覚させられる動きを見ていると、サラさんは隣の部屋のドアを開けた。
『こっちよ』と我が家の様に躊躇いなく進んでいくサラさんの後を付いていくと、サラさんは第二工房の壁一面の収納を開けていって、素材を何個か取り出した。ほんと勝手知ったる、っていう躊躇いのない動きだった。
『これとこれとこれとこれを、適当に釜に入れて混ぜれば出来上がりよ。頑張って』
そう言って素材を並べている先の床には、しっかりと錬金釜がしつらえられていた。
それにしても説明が大雑把。しかも素材はこの間エルフの里で初めて手に入れた物。まだ使ったことがない素材もある。
適当に混ぜて出来上がりって。もしかしてサラさんはそうやって適当に錬金してたのかな。
恐れ慄きながらそっと素材に手を伸ばすと、サラさんは『あ、そうそう。これがないと、あなたはきっと最後まで作れないから、敷いてね。回復できるならしておいた方がいいわ。これ、簡単な割に結構魔力を取られるから』とどこかからドイリーを取り出した。それ、インベントリ内に入ってたやつなのにいつの間に。って釜も調薬キットもそうだった。
試練だからこういうことも当たり前、なのかな。
カバンの中に詰め込んでいた回復薬を呷りながら、目の前のサラさんの不思議さに改めて恐ろしさを感じる。段々と人間じゃないんじゃないか、なんて考えも浮かんでくる。
回復薬を飲んでも回復してるかわからない状態で、俺は錬金釜にMPを注いで謎液体で満たした。もう一度回復してるかわからないままマジックハイパーポーションを飲む。
よし、適当に混ぜればいいんだね。
サラさんの言葉を信じて、俺は錬金釜と向き合った。
目の前に映る景色は、いつも見慣れたもので。
「工房……?」
神殿内にいたはずの俺は、なぜかトレの工房内に立っていた。
テーブルの上には調薬キットがずらっと並んでいる。そして、素材も。
あの素材、獣人の村から採取してきた、蘇生薬の素材だ。
俺は視線を動かした。
調薬テーブルの所に、誰かが座っていたから。
髪の長い、女の人が。
その人の髪は薄いブルーにも見えるシルバーのストレートヘアで、腰のあたりまで伸びていた。さらりと髪が肩から落ちているのがとても綺麗だった。
身体の線は細く、ドレスなんか着たらすごく似合いそうなのに、その身を白のローブで包んで、飾りっけのない無骨なズボンを穿いていた。
その女性はゆったりと口元を緩めて、目元を細めて、俺を見ていた。薄幸美人っていう言葉がよく似合う、それはそれは綺麗な人だった。
『初めまして、私の後継者さん』
女性が口を開く。その声は、儚げな見た目に反して、しっかりとした声だった。
「後継者……?」
俺が女性の言葉に首を捻ると、女性は嬉しそうに『そうよ』と笑った。笑った瞬間、儚げな印象が一瞬で霧散し、周囲がふわっと暖かくなる錯覚に陥る。
その場に突っ立ったまま動けないでいると、女性が手招きして、俺を調薬テーブルに誘った。
ここへ、と手招きされるまま調薬テーブルのいつも調薬する椅子に座ると、目の前の女性が『ね、調薬してみて』と俺を促してきた。
『私ね、調薬する人の手つきを見るのがすごく好きなの。小さいころ一緒に遊んでた人が色々する人でね、一緒にたくさんのことをして遊んだわ。調薬、冒険、読書、勉強、魔法、剣、採取。中でも一番好きだったのは、その人が調薬をする姿だったの。だって、失敗するといつもは見せないような顔をするんだもの。その顔を見るのが楽しくて、たまにそっと邪魔してたのよ。ふふ、でもちゃんとお詫びに手料理を作って謝ってたからね』
まだ俺が固まっていると、女性は何かを思い出すように視線を落とし、ふわっと笑った。そして、ふと、その笑顔に影が差し……。と思った瞬間、またふわっとした笑顔に戻った。
『ねえ、そこの素材を使って調薬してみて』
「え、でもこれは……」
『出来ないの? あなたなら出来るはずよ。ねえ、調薬してみて』
これが、最終試練なのかな。とふと思った。
景色が我が家だからつい忘れそうになるけど、これは限界突破のクエストの神殿だから。
もしかして、ここで蘇生薬を作ってみるのが、試練になるのかな。
俺、今蘇生薬の成功率どれくらいだったっけ。
ふと気になってステータス欄を開こうとしたら、ステータス欄自体が表されなかった。HPもMPも見れないし、クエスト欄ももちろん見ることもできない。ってことは、レシピを確認できないってことだ。
ちょっとだけ焦っていると、女性が『ねえ、お願い』と俺を促してきた。
「この素材は、失敗したらこの世界が終わっちゃうかもしれない物を作る素材なんです」
『出来るでしょ。作り方は、覚えてるわよね』
「それは、何度も何度も見たから、覚えてはいるけど、成功率ってものがあって」
『大丈夫。出来ると思えば成功率なんて上がるものよ』
女性のその言葉を聞くと、なんだか本当に大丈夫な気がしてきた。
それに、現実のトレの工房じゃないはずだから、これは本物の素材じゃないのかもしれない。
あまりにもそのまんまの工房の中にその女性がいるっていうだけで、これは本当の工房じゃなくて幻覚なんだということがはっきりとわかる。
『時間は有限よ。ねえ、作ってみて』
「……わかりました」
クエスト開始から既にどれくらいの時間が過ぎたのか、確認を怠っていたのでわからないけど、確かに時間は有限だった。
この場所が通常通りの時間が流れるかどうかもわからないし、このままぼんやりしていても確かにただ時間が過ぎていくだけだ。
ステータス欄自体が開けないってことは、インベントリも使えないってことで、ってことは工房のインベントリも開けないってこと。
だったら、調薬出来るのはこの素材だけ。
俺は一度大きく深呼吸すると、調薬キットを使いやすいように並べ直した。
目の前の女性は、頬杖をつきながら楽しそうな目つきで俺を見ている。
必死で頭を回転して蘇生薬のレシピを思い出して、素材に手を伸ばす。
最後に確認したときは、90%近かった。だから、大丈夫。残りの10%は、何とか気合いで頑張る。今見ている物は違っても、きっと同じフロアにヴィデロさんがいるんだ。だから、頑張れる。ヴィデロさんは辛い思いをしてないといいな。危なくないといいな。戦闘じゃないといいんだけど。一人一人ってことは、雄太もヴィデロさんを守ることが出来ないってことだ。
ってことは、さっさとこの依頼をクリアして、さっさとあのフロアに戻った方がいいってことだ。
頑張ろう。
素材一つ一つ丁寧に、かつ素早く。でも大雑把にはならずに。
磨ってまとめて横に置き、次々素材の前準備をする。
記憶をフル回転させて、最適な場所に素材を置いていく。
上級キットに火をつけて、素材投下。それがグツグツする前に、簡易キットに素材を入れる。
軽く掻き混ぜながら、横に置いた普通のキットに素材を入れる。
覚え込んだレシピをなぞりながら、俺は必死で手を動かして、目を動かした。獣人さんは鼻が利くからちょっとした違いでも分かるっていうけど、俺にはそんなことできないから、何か変化はないか目で追う。
いい感じになった簡易キットを火からおろして上級キットに少しずつ入れながら、たまに手を止めて普通のキットを混ぜる。その時一つまみずつ素材を入れるのを忘れない。
ここまではいい感じだ。
かるく詰めていた息をちょっとだけ吐いて、瞬きする。
ここで気を抜くと失敗するのはわかってるから、「よし」と呟き、自分に活を入れる。
獣人の村からしか手に入らない果実の絞り汁を一滴ずつそっと垂らして状態を見ながら、上級キットに普通のキットの中身を流し入れた。
あとは掻き混ぜて、掻き混ぜて、残った一つの素材を気泡が出来てきた瞬間に投入。
頭の中で、蘇生薬レシピの文字が浮き上がっている。あとは、香りが甘くなって色が変わるまで、丁寧に混ぜるだけ。
グルグル。グルグル。
一定の速度で掻き混ぜていると、ふわっと甘い花の香りがした、ような気がした。ハッとすると、目の前の上級キットの中身が、スッ……と綺麗なはちみつ色に変わり、その液体が輝き始めた。
火を止めて、出来上がった液体を、濾過器を通してキットの横に置かれていた瓶に注ぐ。
蓋を閉めて、温かい瓶を持ち上げてその黄金色に光り輝いているアイテムをしげしげと見ていると、いきなり拍手が鳴り、俺はハッと意識をそっちに向けた。
目の前の女性が、嬉しそうに拍手をしていた。
『素敵な物が出来たわね』
「はい」
拍手をされるまで、彼女の存在を忘れてた。いつも集中しちゃうと周りが見えなくなるんだよな。
でも、これ本当に蘇生薬なのかな。そして今、鑑定は使えるのかな。
「鑑定」
呟いてみると、スッと瓶に説明書きが浮かんできて、ちゃんと鑑定が出来ていることがわかる。
「蘇生薬。生命維持が限界を迎えた者を蘇生させる薬。ただし生命維持活動停止後一定時間が経過していると効果は出ない」
現れた文字を読むと、目の前の女性がにっこり笑った。
『作ってくれてありがとう。それがないと、ルークが大変なことになるのよ』
女性の言った言葉に、俺は動きを止めた。
「ルーク?」
『ええ。……って呼ばれてる人。でも本当はそんなじゃなくて、もっと悪ガキで子供っぽい人だったの。あなたはルークの力になってね』
女性の言葉に雑音が混じって、一部聞き取れなかった。
でも、俺は目の前の人をじっと見つめた。
「もしかして」
ふと確信を持った。彼女は。
「サラさん、ですか?」
『あら。ふふ、……ちゃった。私ね、ひとつマイルールを設定していたの。あなたはそれをクリアしたから、教えてあげるわ。本当はここに現れるのは、私じゃなかったの。でも今の私はちょっとだけ地脈に干渉出来て、条件も揃っていたからここに来ちゃった。これは内緒よ。こっそり来てるから。ちょっとだけ『エッジラック』と『デプスシーカー』の力を借りちゃったのよ、だってすぐ近くにいるんですもの』
推定サラさんは、肩を竦めて俺の横に視線を向けた。本来ならヴィデロさんが立っていた場所。
もしかして、闇に呑まれたままの場所にいるのなら、ここに、今もヴィデロさんがいるってことかな。
俺もサラさんの視線を追うようにして、自分の横に視線を移動した。
ヴィデロさんのスキルって『幸運』じゃなくて、『エッジラック』っていうのかな。どんなスキルなんだろう。
今は見えないヴィデロさんの温もりを探すように、無意識に手であの力強い腕を探す。
そこでサラさんがポン、と手を叩いたことで、俺は宙に浮いた手を慌てて下げた。
『そうそう、本題よね。ほんとなら古代の巫女が現れて、あなたに力を授ける試練を出すはずだったんだけど、お願いして代わってもらったの。だってあなたに会いたかったから。そして本当なら、ここに出てくる試練の内容は、錬金術だったの。あなたの職が「錬金術師」だから。でも曲げちゃった。本来の試験もする? 私が監督になるわ。だって、私も……だから』
なんか、言ってることがちょっとすごい。何せ古代神殿の巫女にお願いして無理やりここに来たってことでしょ。その無理やりがどんなものなのかは想像するのやめとこう。
さすがエミリさんの親友で、セイジさんを振り回してクラッシュを物理的に振り回す人だ……。
でも本来の試験をしないと、あとでだめだったとかなった時に一人だけ限界突破できないんじゃないのかな。何せ予想外の干渉みたいだから。
「受けます」
『真面目ね。じゃあこれをあげるわ。素材は……』
椅子にずっと座っていたサラさんが、初めて立ち上がった。その拍子に長い真っすぐの綺麗な髪がサラリと揺れる。ああ、儚い、と錯覚させられる動きを見ていると、サラさんは隣の部屋のドアを開けた。
『こっちよ』と我が家の様に躊躇いなく進んでいくサラさんの後を付いていくと、サラさんは第二工房の壁一面の収納を開けていって、素材を何個か取り出した。ほんと勝手知ったる、っていう躊躇いのない動きだった。
『これとこれとこれとこれを、適当に釜に入れて混ぜれば出来上がりよ。頑張って』
そう言って素材を並べている先の床には、しっかりと錬金釜がしつらえられていた。
それにしても説明が大雑把。しかも素材はこの間エルフの里で初めて手に入れた物。まだ使ったことがない素材もある。
適当に混ぜて出来上がりって。もしかしてサラさんはそうやって適当に錬金してたのかな。
恐れ慄きながらそっと素材に手を伸ばすと、サラさんは『あ、そうそう。これがないと、あなたはきっと最後まで作れないから、敷いてね。回復できるならしておいた方がいいわ。これ、簡単な割に結構魔力を取られるから』とどこかからドイリーを取り出した。それ、インベントリ内に入ってたやつなのにいつの間に。って釜も調薬キットもそうだった。
試練だからこういうことも当たり前、なのかな。
カバンの中に詰め込んでいた回復薬を呷りながら、目の前のサラさんの不思議さに改めて恐ろしさを感じる。段々と人間じゃないんじゃないか、なんて考えも浮かんでくる。
回復薬を飲んでも回復してるかわからない状態で、俺は錬金釜にMPを注いで謎液体で満たした。もう一度回復してるかわからないままマジックハイパーポーションを飲む。
よし、適当に混ぜればいいんだね。
サラさんの言葉を信じて、俺は錬金釜と向き合った。
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一緒に土を耕し、美味しいご飯を分け合ううちに、相反するはずの二人のフェロモンは心地よく調和していくが、やがて帝都からの追手が迫り……。
手料理が繋ぐ心と体。身分差を越えた、最強α皇帝と隠れΩ料理人の美味しくて甘い辺境スローライフが幕を開ける!
※本作にはボーイズラブ要素およびオメガバース設定(α、β、Ωの概念やフェロモンに関する描写)が含まれています。苦手な方は閲覧にご注意ください。