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342、検証開始
ああ、もしかして、だからこそアリッサさんも来て直接話を聞くことになったのか。しかも色々知り合いを総動員して神殿の検証をするみたいだし。今日からすでに運営の検証班が動き出すらしいし。ヴィルさんと佐久間さんは通常通りゆっくりと仕事をしてたけど。色々調べ終わったら公式のホームページで大々的に情報を発表するってことで落ち着いたはずだから。
検証急ぐはずだ。ひたすら盛り上がってる。
「ドレインさんが噂を流したのは最初の一回だけらしいから、そこから色々噂だけが広がってここまで大事になったらしい。読んでくと面白いぜ」
俺の方に画面を向けながら肩を竦める雄太は、その掲示板の盛り上がり具合に呆れた様な顔をしていた。
「何か、ダンジョンサーチャーのスレッドと似たような雰囲気があるんだよなここ。あっちもかなりこんな感じで噂だけが広がってってるから。まあ、あっちはセイジが派手に動いてるから当たり前って言えば当たり前なんだけどな」
「そっか。俺、ダンジョンサーチャーのスレッドってほとんど見たことないんだけど、そんななんだ」
「なんつうか。セイジのストーカーまで出そうな雰囲気だったこともある。でも一時だけで、あとはそこまでじゃなくなったな。そこで盛り上がってたやつらはことごとくダンジョンサーチャーに声をかけてもらえないってことに気付いた人が一人呟いたことでさ」
「何て呟いたか知ってるのか、雄太」
「もちろん。気になるから調べたし。「何か、ダンジョンサーチャーに誘われるやつって、このスレにいなくね……?」っていう何気ない一言で、ここにいちゃいけない雰囲気が出始めてかなり面白かったぜ」
「うわあ……」
一瞬でその掲示板に人がいなくなりそうな爆弾発言。
俺と雄太は一緒に遠い目をして、空笑いをした。
そして三人で掲示板を目で追っていく。
もしかしたらここじゃね、的な情報とか、発言者は嘘をついてるだとか。様々な意見が飛び交っていて、最終的には「皆をびっくりさせようとして何気なく書いた一言がひたすら炎上した眉唾物の話」だろうと結論付けられていた。もちろんそこから反論する人もいて、さらにヒートアップしていく気配を見せている。
中には「ここと違う大陸らしいから船が必要なのかも」なんて書かれていたりして。もしかして誰か現地の人と仲良くなって昔の言伝えを教えて貰ったりしたのかな。「東の果て」云々ってやつ。
「で、公式はいつ発表するんだって?」
「検証を重ねてからだって。ちょっとマッドライドに声をかけて検証を手伝ってもらうことにしたんだ」
「俺らは」
「しばらくあの神殿に入れないだろ。その時点でアウト」
雄太が真顔で舌打ちする。
もっと検証に参加したかったのかな。最初にちゃんと参加してるのに。
俺たちが入った時のデータ、しっかりとデータにされてるから。ってそれは最初にヴィルさんが皆に説明してたから知ってるはずなんだけど。
「もう一回入ったらまた違う限界突破が貰えるのかな」
「どうなんだろう。俺、また作らされるのかな。もう少しレベルが上がらないともう一回入る気がしない」
だって結晶を作った時はサラさんの手助けがなかったら失敗してたし。
身を震わせてそう言うと、雄太は「俺は楽しかったけどな」なんてあっけらかんと言い放った。でも雄太、入る度に鎧が一着消えていくんだからな。そこを考えての発言か?
「ってそこまで内情知ってて運営じゃないって、どこからどこまでを運営って言えばいいんだよ」
「ヴィルさんの会社はADOの製作会社とは全く関係ない会社だからね。あくまで通信関係のみ」
「基準がわからねえよ……」
雄太がしみじみとこぼす。確かに、とちょっと納得するところはあるけど、運営だなんて名乗っちゃったらもう純粋に向こうの世界を楽しめなくなる気がするのは気のせいかな。もしかして日暮さんたちってこんな気持ちでいるのかな。
運営って、何かのパワーワードみたいだ。うん、絶対運営にはならない。
雄太の家でご飯までごちそうになって、ユイを送っていくという雄太たちと共に外に出た。すでに夜の帳が落ちている。
聞くところによると、雄太は最寄り駅まで送っていくんじゃなくて、ちゃんとユイの家まで送っていくらしい。電車に乗って。なかなか紳士だね雄太。
俺の家の前で二人を見送ってから家に入る。
キッチンに行くと、丁度母さんが夕食の支度をしていた。
すごくいい香りがキッチンに漂っている。
「あ、おかえり健吾」
「ただいま。俺、雄太んちでご飯ごちそうになっちゃった」
「あら。じゃあ今度お礼しないとね。それより聞いて健吾。今日行った定食屋さんで食べたのがすごく美味しかったのよ」
「え、マジ? どんなの」
「シイタケとタケノコの煮物だったんだけどね、すっごく味が良くて。味付けを訊いてきちゃったのよ。それを今再現しようとしてて」
「マジで? 教えてくれたんだ。俺も教えて欲しい」
なるほどそれでこの匂いなのか。と納得しつつ、母さんの手元を覗き込む。
どうやって作るのかを詳しくレクチャーされた俺は、味見してその美味さに感動しつつ、今度会社で作ってあわよくばヴィデロさんに送ってもらいたい、とちょっとだけ野望を持ったのだった。
あとは寝るだけ状態になった俺は、ふと携帯端末にメッセージが届いていることに気付いた。
ヴィルさんからだった。
もしログインできるならして欲しいと書かれたメッセージを見た俺は、了解の返事を出すと、ログインした。
工房の寝室から顔を出すと、キッチンにヴィルさんが立っていた。
「悪かったな、いきなり呼び出して」
「いえ、何かあったんですか?」
ヴィルさんは申し訳なさそうに頭を下げると、俺の質問に肩を竦めた。
「実は、健吾のハイパーポーションを売って欲しいんだ。今回神殿に入る人に渡したくて。皆、それぞれかなりの高レベル者だから、ハイポーション一本じゃ回復が追い付かないんだ。しかもインベントリが開けないだろ。だから、前のことを踏まえての対策として、腰やどこかに括り付けて、且つすぐに回復できるものがいいってことになったんだ」
ちゃんと言い値で払うから、と頭を下げられて、俺は何人くらいいるのか訊いてみた。
「今日入ってみるのは六人。三人三人で別に入ってみるらしい。時間差であの神殿に来ると言っていた。先陣はすでに洞窟で待機している」
ハルポンさんたちは今週末に参加するらしい。その時に合わせてまたも運営の人たちが数人ずつ組んで入ってみるとか。もうすでにそこら辺の説明はハルポンさんたちにしているそうだ。
「売るのはいいですけど。もう神殿の所にいるんですか……はやい」
「そうでもない。丁度ここら辺近辺にいたのが六人しかいなかったらしいんだ。母は少ないとぼやいていたな。検証ってものはやればやるほど精度は高くなるから」
ハイパーポーションをヴィルさんに渡しつつ、もうすでに洞窟で待機しているという先陣組を待たせるのもあれだからと、俺がヴィルさんを現地まで連れていくことにした。
魔法陣で神殿近くまで跳ぶと、岩の上に人の気配がした。
「一旦降りてきてくれないか?」
ヴィルさんが上にいる人に声を掛けると、一人が岩肌をザザザ―っと滑り降りてきた。
そして俺の目の前に立つ。
見るからに前衛っぽい出で立ちのその人もまた、運営に携わる人の一人らしい。
「ようヴィル。待ってたぜ。しっかし面白い物が見つかったな」
「だろ。中はもっと面白いから、母に付き合ってやってくれ」
言いながら、インベントリからハイパーポーションを取り出して、6本ほどを手渡す。その人がインベントリにしまおうとしたのを止めて、ヴィルさんはすぐに取り出せる場所に入れておくのが重要なんだと説明していた。
ただ連れて来ただけの俺は手持無沙汰で周りを見ていた。
夜のトレの森は静かでなかなかに風情がある。所々に夜だけほんのり光る花とかも咲いていて、それがすごく綺麗だった。採取しようかな。
ヴィルさんが詳しい説明をしている間、俺はしゃがみ込んで素材採取を決め込んでいた。
すると、マップにまたもプレイヤーの表示が現れた。
ガサっと音がしたので顔をあげると、そこには赤片喰あかかたばみさんがいた。
「ようマック。マックも検証組か?」
「俺は二か月入れないんで、ヴィルさんを送ってきただけです」
「そっか」
既に上には三人いるって言ってたから、もしかしたら赤片喰さんは第二陣として中に入ろうとしているメンバーなのかも。
しゃがんだまま見上げていると、赤片喰さんは苦笑して「先陣はまだ入ってねえみたいだな」と肩を竦めた。
その場所に咲いている素材の花を採取し終えた俺は、立ち上がって赤片喰さんの横で待機していた。でも実はもう少し奥にある蔦にぶら下がってる木の実も気になってたりする。
素材採取魂に火が付きそうだ。
説明を終わったヴィルさんは、また岩壁をひょいひょい登っていくさっきの人の所からこっちに来て、俺たちの横に並んだ。
「この間は、下にいても全員が認識されただろ。もしかしたら俺たちも認識されてしまって入り口が開かないかもしれないな」
「そこらへん、どうなるんでしょうね。でもあの岩にさすがに15人全員は立てませんし」
「ってことは俺まで認識されたら次に入るやつらが一人足りなくて入れなくなるってことか。一旦ここから離れるか」
「いや、上が一度神殿入り口を開けるまではここで待機だ。そこらへんも気になるからな」
なるほど、と崖の上の方を見ながらヴィルさんの言葉に納得した。
検証内容って、そういうことまでやらないといけないんだ。かなり色々調べるんだな。本格的。
マップにも崖の上の三人がちゃんと表示されていて、まだ入れていないことを示している。
「入ったな。大丈夫だったみたいだ」
「でもここで赤片喰さんが中に入らなかったら試練が始まらないとかなったら逆に大変ですよ。中に入っちゃったらチャットも使えないでしょ」
「念話の魔法陣を使える人もいないしな。なかなか不便だな」
ふとした瞬間にマップから三人の表示が消えたことで、三人は無事神殿内部に入ったことが分かった。でも、赤片喰さんが認識されてるのかどうかはわからないから、一度崖の上に行ってみることにした。
魔法陣で岩の上に跳んで、三人は無事試練を始めたんだとわかる。
だって、入り口になるはずの文字が消えてたから。
もう一度二人の所に戻って、俺は文字がなくなっていたことを説明した。
「ってことは、だ。誰かが神殿に入っている限りは、他の者が入れないということか……日暮は近場で待機、だな」
「マジかよ……どれくらい待てばいいんだよ」
「最大で48時間だ」
「長えよ」
赤片喰さんは溜め息を吐いて、宙に指を這わせ始めた。
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※本作にはボーイズラブ要素およびオメガバース設定(α、β、Ωの概念やフェロモンに関する描写)が含まれています。苦手な方は閲覧にご注意ください。