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347、複合呪いに掛かっていたのは
「ディスペルハイポーションの扱いなんだけどね、この瓶に入れて欲しいの」
エミリさんから手渡された瓶は、普通の透明な瓶と違って、中身が見えないような真っ白な瓶だった。
「鑑定してみて。たとえ優れた鑑定眼を持っていても鑑定されない瓶なの。辺境の異邦人鍛冶師が作り上げた物を買い取ったのよ」
「へえ、そんなものがあるんですね」
エミリさんに言われるままに鑑定してみると、本当に「液体入りの瓶」としか出なかった。中身は普通のハイポーションだったらしい。すごいなあ。辺境のプレイヤー、生産やってる人のスキルとか技術ってどうなってるんだろう。
白い瓶を手にして、しげしげと眺める。なんでも、使われている素材が特殊な魔物の素材らしい。魔物素材って実は無限の可能性があるんじゃないかな。
「これで、鑑定してもマックが作ったってことは絶対に知られないし、複合呪いなんてあまりかかることもないから、必要な折に秘密裏にクラッシュに伝言すればいいわよね。ここで納品じゃなくて、クラッシュ経由で納品でもいいしね。依頼料は、一本二万ガルでどうかしら。もちろんギルドからの正式な依頼だから、ギルドランクも上がるわ。マック全然ギルド依頼を受けないから、ギルドランク低いままでしょ」
ギルドランクって俺にはあんまり関係ないからなあ。ランクが上がるとそのランクに合わせた依頼が受けられるってやつでしょ。個人の依頼でいっぱいいっぱいだし、正直そこまで興味もなかった。
という考えをエミリさんに読まれたのか、エミリさんは肩を竦めて苦笑した。
「上げておいても損はないと思うんだけど、マックにとっては他のことの方が大事なのよね。そこは強制はしないわ。クラッシュの店に薬類を卸してくれるのもとても助かるしね。でもギルドランクが上がると受けられる支援なんかもあるから、一度ランク上げも検討してみてくれないかしら。Aランクまで上げればギルドに持ち込まれる希少素材も買えるようになるって、マックは知ってた? 勿論素材持ち込みの買取料も上がるし」
「ランク上げ、検討します」
「素材でつられるのね」
エミリさんの言葉に即答した俺。くすくす笑われたって気にしない。希少素材。レアアイテム。俺なんかじゃ太刀打ちできない魔物素材が手に入るってことでしょ。お高くても気にしない。今、ギルドランクは実はDだから、頑張ってAまで上げようそうしよう。
今現在で知られている複合呪いに掛かっている人は、全街を合わせて五人ほどいるらしい。どれも命を落とすような呪いじゃないのが救いだけれど、不便には違いない。
俺は手持ちのディスペルハイポーションランクSをその場で納品することにした。白い瓶はエミリさんがすぐに用意してくれたので、詰め替え作業をして、納品終了。そこでクエスト欄にびっくりマークがついたことを示す音が鳴った。
クエスト欄には一本納品でクリアってなってたけどね。
「話を聞いてくれてありがとうマック。あと一つ、図々しいお願いがあるんだけれどいいかしら」
「いいですよ。何ですか?」
エミリさんはソファから立ち上がって自分の机に向かうと、机の上にあった紙に手早く何かを書きつけて、秘書の人を呼んだ。
一本一本厳重に梱包するようにお願いしてから、一本は腰にある自分のカバンに詰め込んで、俺を手招きした。
「ナスカ村に連れていって欲しいのよ」
「ナスカ村、ですか?」
エミリさんと二人でナスカ村に魔法陣魔法で跳ぶ。エミリさんに案内されるまま、村の外れの建物まで来ると、エミリさんはその建物をノックした。
中から出てきたのは、衛兵の鎧を着た人。
「統括……どうしたんですか。何か、ありましたか」
「ランディはいる? どうなの、彼は」
エミリさんはずかずかと衛兵の人の横をすり抜けて中に入って行った。
あれ、今、聞いたことがある名前があったんだけど。
ランディって、どこかで……。
どきっとして、俺もエミリさんの後をついていった。
入り口を開けてくれた人以外に人影はなく、他の人は村の見回りに行っているとのこと。
エミリさんはさらに奥の居住地まで入って行った。
「ランディは今も奥で……」
言葉を濁しながら衛兵の人は文句も言わずエミリさんの後ろを付いてきた。
居住区の一つの部屋をノックして開けると、見た事のある人が、ベッドに横になっていた。
顔を見て思わず声をあげる。この人、ヴィデロさんの友達の衛兵さんだ。
ランディさんは、苦痛の表情のまま、目を瞑っていた。時折うなされていて、手で胸を掻きむしったりしている。
息を呑んでいると、エミリさんが俺の方を振り向いて、その人の症状を教えてくれた。
「彼ね、10日ほど前、村の外を見回っていた時に、魔物と戦って傷を負ったんですって。でも運が悪いことに、その魔物、呪いを持つ何かを身に着けていたみたいなの。それで、彼、それに触れてしまって複合呪いに掛かったのよ。それ以来、この状態。一度うちで扱っているディスペルハイポーションは使ってみたけど、全然効かなかったの」
「何の呪いに掛かったかは、わかってるんですか?」
「『睡眠』と『悪夢』らしいわ。最悪の組み合わせよ。寝ている限り悪夢を見続ける呪いと、ずっと起きれない呪い。彼はずっと悪夢を見ているの。命に係わるわけじゃないけれど、でも、このままだと精神が死んでしまう」
そう言いながら、エミリさんは白い瓶を取り出した。
もう大丈夫、と呟きながら全身に掛けていく。
俺と衛兵の人は、固唾を飲んでランディさんを見守っていた。
ス……とランディさんの目が開く。
「ランディ!」
「……スラン? 俺は一体……」
大きく息を吐きながら、ランディさんが身体を起き上がらせる。
頭を押さえてるのは、きっとずっと悪夢を見ていたから身体が悲鳴を上げているんだと思う。
「あなた、複合呪いに掛かってたのよ」
「統括……? なんで、俺、複合呪いって……まさか。って、あれ、後ろにいるのは、ヴィデロの……」
少しだけげっそりとしていたランディさんは、俺を見つけると、首を傾げた。
俺はその声にぺこりと頭を下げる。ランディさんの視線がきょろきょろしてるのは、もしかしてヴィデロさんを探してるのかな。今日は残念ながら一緒にいないんだ。
「彼は私をここまで連れてきてくれたのよ。ようやく複合呪いを解く物が手に入ったから。元気になったのならよかったわ。村長に感謝してね」
「村長が統括に連絡を取ってくれたんですか」
「ええ。すごく心配していたわ。でも、無事呪いが消えてよかった。もう、大丈夫ね」
ランディさんが頷くと、エミリさんは満足げに微笑んだ。
そっか。サラさんのお父さんからお願いされたのか。でも、ランディさんが元気になってよかった。
もしかして、一本の納品って、ランディさん用だったのかな。
「今日はヴィデロは来てないのか。でも、俺が複合呪いに掛かったなんて知られたらヴィデロに何言われるかわからないから、丁度良かった。内緒にしてくれな」
ベッドから起き上がりながら、ランディさんは俺の頭にポン、と手を置いて、ウインクした。
心配かけたくないんだろうなっていうのがわかる。
俺はしっかりと頷いて、「今度はヴィデロと遊びに来いよ」という声にいい返事をしてから建物を出ていくエミリさんの後を追った。
エミリさんはまっすぐ村長さんの家に向かった。
ドアをノックすると、村長さんが自ら出迎えてくれた。
「おお、エミリちゃん。いらっしゃい」
「村長、彼はもう大丈夫よ」
エミリさんは、村長さんの顔を見て、いつもよりも親しみのある笑顔を村長さんに向けた。
まるで自分の親を見るような顔つきだった。
村長さんは、そんなエミリさんの言葉に、目をまん丸にした。
「そんな……まさか……ニコロ君だって解けない呪いを……」
「私は村長に嘘なんて言わないわよ。あとで確認してもらえる? これで依頼は達成ね。私が依頼を達成したから、成功報酬はしっかり貰うわよ。サラとルーチェの形見のブレスレット」
「わかった。エミリちゃん自ら依頼を達成してくれたのも、きっと神の思し召しだ」
村長さんも目を細めてエミリさんに微笑むと、一度中に引っ込んだ。
すぐに奥から出てくると、手に持っていた袋をエミリさんに渡した。
「ありがとう。大事にするわ」
「エミリちゃんに貰ってもらえるなら、きっとあの子も本望だよ」
「ふふ、そうかしら。案外怒られるかもよ。「ルーチェとおそろいにしたかったのに」って」
「そうだったらなあ……」
2人で笑いあっていたけれど、村長さんの顔はちょっとだけ寂しそうだった。
その後すぐトレに帰ってきた俺たちは、またもソファに座って報酬の受け渡しをすることになった。
「ありがとうマック。移動の報酬もしっかり払わせてもらうわね。ギルドカードを出してくれる?」
言われるままにギルドカードをエミリさんに差し出すと、Dランクの欄が目に入ったらしく、エミリさんの目がスッと細められた。
エミリさんはカードを手に、机の方に向かうと、何か変な機械のような物にカードをかざした。あれがもしかして魔道具ってやつか。
戻ってきたカードを見ると、ランクがCになっていた。Aランクまでは先が長そう。
でも待って。
カードに見慣れないマークが入ってるのに気付いて、俺は首を傾げた。
「それ、ギルドで優遇されるマークよ。ランクに関係なく、ギルドに貢献してくれた人のカードに入ってるの。中にはEランクでそのマークが入ってる人もいるから、そこまで難しく考えないでね」
「はぁ……」
カードをしまいながら、そんなものなのかな、とにこにこしているエミリさんに視線を向けた。っていうか、そもそもギルドマスターとこうやって面と向かって話をしていること自体がすでに優遇されているような気がしないでもないけど。
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※本作にはボーイズラブ要素およびオメガバース設定(α、β、Ωの概念やフェロモンに関する描写)が含まれています。苦手な方は閲覧にご注意ください。