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365、ニコロさんの魔力とユキヒラの恋と
ニコロさんがまっすぐ俺を見て、口を開いた。
頑張ります。ニコロさんの魔力限界値がもっともっと上だったらいいのに。
そう願いながら、俺は前にケインさんに叩き込まれた魔力上昇の魔法陣を描いた。もちろん、「己」というキーワードは「ニコロ」という名に変えて。
魔法陣魔法が発動し、魔法陣がニコロさん向かって飛んでいく。
ニコロさんを包み込むように展開された魔法陣が、スッとニコロさんの中に入って消えていく。
魔力、これで高くなってるといいな。
「何か、魔法を掛けてみてくれませんか。さっきのショールを羽織って、とても魔力を食うような魔法を」
魔法陣を目で追っていたニコロさんは、俺の言葉にハッと顔を上げた。
くっと口を引き締め、テーブル端に置いてあったショールに手を掛け、羽織ったニコロさんは、ゆっくりと深呼吸すると、両手を組んだ。
とても複雑な組み方だった。
それだけでなんかすごい魔法を使おうとしているような感じに見える。
ニコロさんは静かに目を閉じると、静かな声で、呪文を唱え始めた。
「この世界を見守る最上にして最高の神よ、その気高き聖なる気を持ちて」
少しずつニコロさんの顔色が悪くなっていく。なんか、呪文を聞いていて思ったんだけど、ニコロさんものすごくレベル高い聖魔法を使おうとしてる? 滅茶苦茶魔力減ってるんじゃないかな。
ゆっくりと噛み締めるように言葉を紡ぐニコロさんを、はらはらしながら見守る。
手にはぐっとマジックハイパーポーションを握りしめて。
「この地、この場所、この建造物に残る邪なる気を包み込み給え。……浄化鎮魂歌」
少しだけ眉に皺をよせながらも、ニコロさんの口は最後まで魔法を唱え終えた。
途端、スッと風が過っていった気がした。
ううん、違う。表現が難しいけど、一気に空気が綺麗にされた感じっていうのが正しいかもしれない。
山の中の澄んだ空気、みたいなものが、俺の周りに充満された感じだった。
これ、魔法成功してない?
「ニコロさん! すごい……っ」
感動して立ち上がった瞬間、ニコロさんがテーブルに手を着いて、苦し気に肩で息をしている。魔力切れだ。
俺は慌てて手に持っていたマジックハイパーポーションをニコロさんに渡した。
ちゃんと意識はあったみたいで、震える手で瓶の蓋を開けると、ニコロさんは躊躇いなく一気に喉に流し込んだ。
「……ありがとう、ございます」
瓶をテーブルに置いたニコロさんは、ホッと息を吐いて身体を起こした。顔色が戻ってるから、多分魔力回復もしっかりできたと思う。
「本当に、マックさんは腕を上げていますね。私も、負けられないと気付かされました。そして……」
ニコロさんは一度言葉を溜めてから、改めて自分の手を見下ろした。
数度瞬いて、その手をギュッと握る。
「これで、たくさんの方を救えるということでしょうか……マックさん、魔力が」
「ちゃんと増えましたか?」
魔法陣魔法を使って、俺は既に魔力が激減状態だけど。ニコロさんは何度も頷いて、両手で顔を覆ってしまった。
肩が震えているのは、もしかして泣いてるのかもしれない。
「今の魔法は、私が、最初の一節で既に唱えられなくなるような、浄化の聖魔法です。でも……でも。しっかりと、最後まで唱えることが、出来ました……」
「はい。すごいです、ニコロさん」
「すごいのは……マックさんです。不可能だと思われることを、こんな、いとも簡単に超えてしまわれる」
両手で覆ったままのニコロさんの声も、少しだけ震えている。
ニコロさんの魔力が上限まで成長してなくてよかった。いや、よくないんだけど。
「でもニコロさん。今の魔法陣魔法は、ニコロさんの身体の中の魔力を、最大値まで引き上げる魔法なので、これ以上の魔力上昇を目指すんだったら、あとは命を懸けるしかなくなります。どれだけ修行をしても、多分魔力はもう普通には上がらないんです。最初にそれを説明してなかったのですが、それでもよかったですか?」
もっと魔力が欲しい場合は、やっぱり神殿に行って限界突破クエストをクリアするしかないんだけど。あれは、プレイヤーなら気軽に挑戦できるけど、ここの人たちにとっては生死を掛けた挑戦になっちゃうんだ。
もしそれでも行きたいっていうなら全力でサポートするけどね。
「今まで長い間、修行を欠かしたことはありませんでした。それでも魔力はとても少なかったのです。きっと私の修行の方法では、魔力はこれ以上増えることはなかったでしょう。とても、ありがたいです。本当にありがとうございます、マックさん」
「俺は、俺が出来ることをしただけです。ニコロさんと一緒。なので、お礼は聖魔法を……ユキヒラに教えてあげてください。俺は魔導士になる気はないし、まだまだ薬師として半人前なので、よそ見もなかなかできないんです。それが報酬っていうことで」
「……ほんとにあなたは、欲がない……」
ニコロさんはくすっと笑って顔を上げた。目が赤いのは見なかったことにする。
ふと見るとカップが空だったので、もう一度聖水茶を淹れて、ニコロさんに差し出した。毎日飲むことを推奨します。そう一言添えて。
ニコロさんと教皇の間に戻ると、二人いた信者の人が手を組んで祈りのポーズをしていた。ユキヒラはさっきいたところにでんと構えて微動だにしていない。
えっと、信者の人たち、どうしたの?
「ニコロ猊下……私たちは、あなたに仕えられることを、とても誇りに思います……」
「セイユさん、頭を上げてください」
ニコロさんは、穏やかに信者の人に声を掛けた。
そしてゆっくりとユキヒラの方を見て、口元を綻ばせた。
「きっと、そのうち私よりもふさわしい方が現れるでしょう。その時はぜひその方を助けてあげてください」
「ニコロ導師」
ユキヒラは焦ったようにニコロさんを呼んだ。
そんなユキヒラにニコロさんは一つ頷く。
「それまでは、若輩ながら、私がこの席を守ります。ですので、ユキヒラさんにはそれまでぜひお力添えをお願いいたします。よろしいでしょうか」
今までの苦悩を振り切ったように、まるで悟りを開いたかのように、ニコロさんが教皇となることを宣言した。
「出来る限り! やった! よかった! ニコロ導師! ご決断感謝します!」
よっしゃ! と両手を上に突き上げたユキヒラは、全身でニコロさんがトップに立って嬉しいということを表現していた。
「ただ、私にはやはり複合呪いを解く聖魔法は唱えられそうもありません。力不足の教皇代理でもよろしいのでしょうか」
椅子に手を掛け、でも座ることはなく、ニコロさんは小さく溜め息を吐いて俺たちを見回した。
「あれだけの魔法が使えるなら十分です」
ユキヒラが力強く頷く。さっきの魔法、ユキヒラも何の魔法かわかったのかな。俺にはさっぱりだけど。
あとで聞こうと思いながら、俺も頷いた。
「複合呪いなら、冒険者ギルドが複合呪いを解くことを始めたので、大丈夫です。ちゃんと協力して手分けすればいいんですよ。エミリさんは柔軟な考えの持ち主ですから」
「エミリさん……そうですね。冒険者ギルドですか……前は他の組織と手を組むなど、考えもつかなかったのですが。そうですね。それもいいかもしれません。それに、複合呪いが……そうですか。そういえばマックさんはクラッシュさんとも懇意にしていたのですよね。では、エミリさんともお話しするのですね。私も、エミリさんとそのうち話をしないといけませんね」
その一言で、ハッとなる。ギルドにディスペルハイポーションを納品するのが俺だって、ニコロさんにはバレたかもしれない。
でもその追及もなく、ニコロさんは笑顔でその話を終わりにしてくれた。
「マックさん、私の我が儘をきいてくださってありがとうございました」
我が儘じゃないのに、と思いながら俺はニコロさんの部屋を後にした。
泣きながら慌ただしく部屋を飛び出していった信者の人が、すぐに他の人を数人連れてきて、ニコロさんを取り囲んじゃったから。
俺とユキヒラは、慌ただしくなる教会の建物内を並んで歩いた。
建物を出て、そのままバラ園に向かう。途中にある東屋のようなところで足を止めると、ユキヒラがここで話しようぜとそこにある椅子にドカッと座った。
俺も隣に腰かけた。遠くに近衛騎士の鎧が見える以外は、人気のない場所だから、話をするにはうってつけだ。
「で、マック。ニコロ導師に何をしたんだ?」
「MP底上げ」
簡潔に答えると、ユキヒラが天を仰いだ。
「……簡単に言うけどよ。ニコロ導師は、それこそここに来た当初からずっと魔力のことを言い続けていて、確かに魔力低かったんだよ。それでもあの人柄で、絶対にあそこに座って欲しかったんだ。クエストでもあったし」
「クエストかあ。もしかして、教会関係クエストが宰相の人から舞い込んだとか」
「そんなもんだ。教会のトップに、ふさわしい人格者を据えることが出来たら、世界の歯車が一つ手に入るとかいうクエスト。そこには魔力が高いやつなんて一言も書いてなかったから、ニコロ導師がいいなと思ってよ。このクエスト、期限が切られてなかったのは救いだけどよ、失敗したらここら辺に辺境の魔物が出始めて、街の人が脅威にさらされるとかそんなんだったんだよ。ロミーナちゃんが魔物に襲われるとか考えたらもう……」
「ロミーナちゃん……」
そっかユキヒラのあの叫びは、やっぱりロミーナちゃんのことを想ってだったのか。でも片想いだよな。不憫だ。
「そのロミーナちゃんとは、その後デートできたの?」
「……した」
ユキヒラのポツリと零した一言に、今日最大の驚きが到来した俺。
デートしたんだ! でもその割にユキヒラの顔は不機嫌そうな感じで。
ああ、ダメだったのか、とさっきの同情心がまたむくむくと湧き上がる。
「でもロミーナちゃん、異邦人とは絶対に恋をしないって、笑顔で断言してくれたから。俺、何も言えなかったよ。何で俺ここの世界で生まれなかったんだろ……」
重い溜め息とともに零れたユキヒラの告白は、ユキヒラの恋心にとって、一番ダメージが大きいものだったらしい。性格が、とか、顔が、とかだったら何とかなるけど、異邦人だから、なんて。根源から否定されてるってことか。ロミーナちゃん、そういうところを見ないでユキヒラ自身を見てくれたらいいのに。かなりいいやつだし誠実っぽいし、ちょっとチャラそうだけど一途だから。しかも聖騎士とかやって宰相の人とも仲のいい優良物件なのに。
でも、ってことは、ユキヒラのことを知らずに異邦人だからってだけでロミーナちゃんは突っぱねてるんだとしたら、もしユキヒラの人となりを知ったら、もしかしたら、異邦人フィルターを取ってユキヒラを見てくれるってことじゃないのかな。なんて小さな希望を持ってみたり。
俺も同じ道を通ったな、なんて目を細める。今は希望があるからそれに向けて頑張ってるけど。ユキヒラに教えていいのかはわからないから黙ってるけど、人を送ってみるとかいう段階まで行ったら、ユキヒラ絶対に一も二もなく立候補しそう。でもだからと言ってロミーナちゃんがユキヒラを好きになってくれるかどうかはわからなくて。俺より大変な恋をしてるよね、ユキヒラ。
でもちょっと引っかかったのが、ロミーナちゃんの性格。
「でもそんなことを笑顔で言っちゃうなんて、ちょっと……」
と口に出した瞬間、ユキヒラにキッと睨まれた。
「そんなんじゃねえんだよ。ごめんなさいって謝る彼女がすごく辛そうな顔してたのを見ちまったんだよ。だから、そんな簡単に言ったんじゃないんだってのはわかってるんだ。あの子、すっげえ優しい子なんだよ。だから、俺がすぐに諦められるように無理にそうやって言ってくれたんだよ」
「……そっか」
フラれてなおロミーナちゃんを庇うユキヒラは、もうチャラい人には見えなかった。さっきチャラそうって思ってごめん。ユキヒラは確かに聖騎士にふさわしいよ。
頑張ります。ニコロさんの魔力限界値がもっともっと上だったらいいのに。
そう願いながら、俺は前にケインさんに叩き込まれた魔力上昇の魔法陣を描いた。もちろん、「己」というキーワードは「ニコロ」という名に変えて。
魔法陣魔法が発動し、魔法陣がニコロさん向かって飛んでいく。
ニコロさんを包み込むように展開された魔法陣が、スッとニコロさんの中に入って消えていく。
魔力、これで高くなってるといいな。
「何か、魔法を掛けてみてくれませんか。さっきのショールを羽織って、とても魔力を食うような魔法を」
魔法陣を目で追っていたニコロさんは、俺の言葉にハッと顔を上げた。
くっと口を引き締め、テーブル端に置いてあったショールに手を掛け、羽織ったニコロさんは、ゆっくりと深呼吸すると、両手を組んだ。
とても複雑な組み方だった。
それだけでなんかすごい魔法を使おうとしているような感じに見える。
ニコロさんは静かに目を閉じると、静かな声で、呪文を唱え始めた。
「この世界を見守る最上にして最高の神よ、その気高き聖なる気を持ちて」
少しずつニコロさんの顔色が悪くなっていく。なんか、呪文を聞いていて思ったんだけど、ニコロさんものすごくレベル高い聖魔法を使おうとしてる? 滅茶苦茶魔力減ってるんじゃないかな。
ゆっくりと噛み締めるように言葉を紡ぐニコロさんを、はらはらしながら見守る。
手にはぐっとマジックハイパーポーションを握りしめて。
「この地、この場所、この建造物に残る邪なる気を包み込み給え。……浄化鎮魂歌」
少しだけ眉に皺をよせながらも、ニコロさんの口は最後まで魔法を唱え終えた。
途端、スッと風が過っていった気がした。
ううん、違う。表現が難しいけど、一気に空気が綺麗にされた感じっていうのが正しいかもしれない。
山の中の澄んだ空気、みたいなものが、俺の周りに充満された感じだった。
これ、魔法成功してない?
「ニコロさん! すごい……っ」
感動して立ち上がった瞬間、ニコロさんがテーブルに手を着いて、苦し気に肩で息をしている。魔力切れだ。
俺は慌てて手に持っていたマジックハイパーポーションをニコロさんに渡した。
ちゃんと意識はあったみたいで、震える手で瓶の蓋を開けると、ニコロさんは躊躇いなく一気に喉に流し込んだ。
「……ありがとう、ございます」
瓶をテーブルに置いたニコロさんは、ホッと息を吐いて身体を起こした。顔色が戻ってるから、多分魔力回復もしっかりできたと思う。
「本当に、マックさんは腕を上げていますね。私も、負けられないと気付かされました。そして……」
ニコロさんは一度言葉を溜めてから、改めて自分の手を見下ろした。
数度瞬いて、その手をギュッと握る。
「これで、たくさんの方を救えるということでしょうか……マックさん、魔力が」
「ちゃんと増えましたか?」
魔法陣魔法を使って、俺は既に魔力が激減状態だけど。ニコロさんは何度も頷いて、両手で顔を覆ってしまった。
肩が震えているのは、もしかして泣いてるのかもしれない。
「今の魔法は、私が、最初の一節で既に唱えられなくなるような、浄化の聖魔法です。でも……でも。しっかりと、最後まで唱えることが、出来ました……」
「はい。すごいです、ニコロさん」
「すごいのは……マックさんです。不可能だと思われることを、こんな、いとも簡単に超えてしまわれる」
両手で覆ったままのニコロさんの声も、少しだけ震えている。
ニコロさんの魔力が上限まで成長してなくてよかった。いや、よくないんだけど。
「でもニコロさん。今の魔法陣魔法は、ニコロさんの身体の中の魔力を、最大値まで引き上げる魔法なので、これ以上の魔力上昇を目指すんだったら、あとは命を懸けるしかなくなります。どれだけ修行をしても、多分魔力はもう普通には上がらないんです。最初にそれを説明してなかったのですが、それでもよかったですか?」
もっと魔力が欲しい場合は、やっぱり神殿に行って限界突破クエストをクリアするしかないんだけど。あれは、プレイヤーなら気軽に挑戦できるけど、ここの人たちにとっては生死を掛けた挑戦になっちゃうんだ。
もしそれでも行きたいっていうなら全力でサポートするけどね。
「今まで長い間、修行を欠かしたことはありませんでした。それでも魔力はとても少なかったのです。きっと私の修行の方法では、魔力はこれ以上増えることはなかったでしょう。とても、ありがたいです。本当にありがとうございます、マックさん」
「俺は、俺が出来ることをしただけです。ニコロさんと一緒。なので、お礼は聖魔法を……ユキヒラに教えてあげてください。俺は魔導士になる気はないし、まだまだ薬師として半人前なので、よそ見もなかなかできないんです。それが報酬っていうことで」
「……ほんとにあなたは、欲がない……」
ニコロさんはくすっと笑って顔を上げた。目が赤いのは見なかったことにする。
ふと見るとカップが空だったので、もう一度聖水茶を淹れて、ニコロさんに差し出した。毎日飲むことを推奨します。そう一言添えて。
ニコロさんと教皇の間に戻ると、二人いた信者の人が手を組んで祈りのポーズをしていた。ユキヒラはさっきいたところにでんと構えて微動だにしていない。
えっと、信者の人たち、どうしたの?
「ニコロ猊下……私たちは、あなたに仕えられることを、とても誇りに思います……」
「セイユさん、頭を上げてください」
ニコロさんは、穏やかに信者の人に声を掛けた。
そしてゆっくりとユキヒラの方を見て、口元を綻ばせた。
「きっと、そのうち私よりもふさわしい方が現れるでしょう。その時はぜひその方を助けてあげてください」
「ニコロ導師」
ユキヒラは焦ったようにニコロさんを呼んだ。
そんなユキヒラにニコロさんは一つ頷く。
「それまでは、若輩ながら、私がこの席を守ります。ですので、ユキヒラさんにはそれまでぜひお力添えをお願いいたします。よろしいでしょうか」
今までの苦悩を振り切ったように、まるで悟りを開いたかのように、ニコロさんが教皇となることを宣言した。
「出来る限り! やった! よかった! ニコロ導師! ご決断感謝します!」
よっしゃ! と両手を上に突き上げたユキヒラは、全身でニコロさんがトップに立って嬉しいということを表現していた。
「ただ、私にはやはり複合呪いを解く聖魔法は唱えられそうもありません。力不足の教皇代理でもよろしいのでしょうか」
椅子に手を掛け、でも座ることはなく、ニコロさんは小さく溜め息を吐いて俺たちを見回した。
「あれだけの魔法が使えるなら十分です」
ユキヒラが力強く頷く。さっきの魔法、ユキヒラも何の魔法かわかったのかな。俺にはさっぱりだけど。
あとで聞こうと思いながら、俺も頷いた。
「複合呪いなら、冒険者ギルドが複合呪いを解くことを始めたので、大丈夫です。ちゃんと協力して手分けすればいいんですよ。エミリさんは柔軟な考えの持ち主ですから」
「エミリさん……そうですね。冒険者ギルドですか……前は他の組織と手を組むなど、考えもつかなかったのですが。そうですね。それもいいかもしれません。それに、複合呪いが……そうですか。そういえばマックさんはクラッシュさんとも懇意にしていたのですよね。では、エミリさんともお話しするのですね。私も、エミリさんとそのうち話をしないといけませんね」
その一言で、ハッとなる。ギルドにディスペルハイポーションを納品するのが俺だって、ニコロさんにはバレたかもしれない。
でもその追及もなく、ニコロさんは笑顔でその話を終わりにしてくれた。
「マックさん、私の我が儘をきいてくださってありがとうございました」
我が儘じゃないのに、と思いながら俺はニコロさんの部屋を後にした。
泣きながら慌ただしく部屋を飛び出していった信者の人が、すぐに他の人を数人連れてきて、ニコロさんを取り囲んじゃったから。
俺とユキヒラは、慌ただしくなる教会の建物内を並んで歩いた。
建物を出て、そのままバラ園に向かう。途中にある東屋のようなところで足を止めると、ユキヒラがここで話しようぜとそこにある椅子にドカッと座った。
俺も隣に腰かけた。遠くに近衛騎士の鎧が見える以外は、人気のない場所だから、話をするにはうってつけだ。
「で、マック。ニコロ導師に何をしたんだ?」
「MP底上げ」
簡潔に答えると、ユキヒラが天を仰いだ。
「……簡単に言うけどよ。ニコロ導師は、それこそここに来た当初からずっと魔力のことを言い続けていて、確かに魔力低かったんだよ。それでもあの人柄で、絶対にあそこに座って欲しかったんだ。クエストでもあったし」
「クエストかあ。もしかして、教会関係クエストが宰相の人から舞い込んだとか」
「そんなもんだ。教会のトップに、ふさわしい人格者を据えることが出来たら、世界の歯車が一つ手に入るとかいうクエスト。そこには魔力が高いやつなんて一言も書いてなかったから、ニコロ導師がいいなと思ってよ。このクエスト、期限が切られてなかったのは救いだけどよ、失敗したらここら辺に辺境の魔物が出始めて、街の人が脅威にさらされるとかそんなんだったんだよ。ロミーナちゃんが魔物に襲われるとか考えたらもう……」
「ロミーナちゃん……」
そっかユキヒラのあの叫びは、やっぱりロミーナちゃんのことを想ってだったのか。でも片想いだよな。不憫だ。
「そのロミーナちゃんとは、その後デートできたの?」
「……した」
ユキヒラのポツリと零した一言に、今日最大の驚きが到来した俺。
デートしたんだ! でもその割にユキヒラの顔は不機嫌そうな感じで。
ああ、ダメだったのか、とさっきの同情心がまたむくむくと湧き上がる。
「でもロミーナちゃん、異邦人とは絶対に恋をしないって、笑顔で断言してくれたから。俺、何も言えなかったよ。何で俺ここの世界で生まれなかったんだろ……」
重い溜め息とともに零れたユキヒラの告白は、ユキヒラの恋心にとって、一番ダメージが大きいものだったらしい。性格が、とか、顔が、とかだったら何とかなるけど、異邦人だから、なんて。根源から否定されてるってことか。ロミーナちゃん、そういうところを見ないでユキヒラ自身を見てくれたらいいのに。かなりいいやつだし誠実っぽいし、ちょっとチャラそうだけど一途だから。しかも聖騎士とかやって宰相の人とも仲のいい優良物件なのに。
でも、ってことは、ユキヒラのことを知らずに異邦人だからってだけでロミーナちゃんは突っぱねてるんだとしたら、もしユキヒラの人となりを知ったら、もしかしたら、異邦人フィルターを取ってユキヒラを見てくれるってことじゃないのかな。なんて小さな希望を持ってみたり。
俺も同じ道を通ったな、なんて目を細める。今は希望があるからそれに向けて頑張ってるけど。ユキヒラに教えていいのかはわからないから黙ってるけど、人を送ってみるとかいう段階まで行ったら、ユキヒラ絶対に一も二もなく立候補しそう。でもだからと言ってロミーナちゃんがユキヒラを好きになってくれるかどうかはわからなくて。俺より大変な恋をしてるよね、ユキヒラ。
でもちょっと引っかかったのが、ロミーナちゃんの性格。
「でもそんなことを笑顔で言っちゃうなんて、ちょっと……」
と口に出した瞬間、ユキヒラにキッと睨まれた。
「そんなんじゃねえんだよ。ごめんなさいって謝る彼女がすごく辛そうな顔してたのを見ちまったんだよ。だから、そんな簡単に言ったんじゃないんだってのはわかってるんだ。あの子、すっげえ優しい子なんだよ。だから、俺がすぐに諦められるように無理にそうやって言ってくれたんだよ」
「……そっか」
フラれてなおロミーナちゃんを庇うユキヒラは、もうチャラい人には見えなかった。さっきチャラそうって思ってごめん。ユキヒラは確かに聖騎士にふさわしいよ。
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手料理が繋ぐ心と体。身分差を越えた、最強α皇帝と隠れΩ料理人の美味しくて甘い辺境スローライフが幕を開ける!
※本作にはボーイズラブ要素およびオメガバース設定(α、β、Ωの概念やフェロモンに関する描写)が含まれています。苦手な方は閲覧にご注意ください。