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366、先見の魔術師
消沈したユキヒラが目に入って、俺は慌てて話題を変えた。
「そうそう、ユキヒラ暇なときっていつ? さっき一緒にクワットロに行って欲しいって言ったじゃん。いつ行ける?」
ユキヒラは落としていた顔を上げて、んーと考えるように、今度は視線を上に向けた。
「もう少ししたら宰相の手伝いがあるんだけど、そのあとなら今日でも行けるぜ。一日で往復とか出来るのか?」
「往復は大丈夫だけど、俺もユキヒラを連れてってどうなるのかわからないからなあ。レガロさん、聖騎士にどんな用事があるんだろ」
「聖騎士っていうからには、なんか聖魔法関連とか穢れた魔物討伐関連とかじゃねえのか?」
「それだったら俺でも解決できると思うよ。……一人では無理だけど」
最後ちょっとだけ付け足した言葉に、ユキヒラがぶっと吹き出す。だって俺、本当に戦う術があんまりないんだもん。トレ周辺ならなんとでもなるけど、辺境を一人で歩くと多分一時間もしないで死に戻りだと思う。ヴィルさんみたいに強引に進んでは死に戻って、っていうのを繰り返すような。あ、無理。
ちょっとだけ落ち込んで溜め息を吐いた俺は、そういえばと顔を上げた。
「さっきニコロさんが唱えていた聖魔法、あれってすごいの?」
気になっていたことを訊くと、ユキヒラは「ああ」と頷いた。
「さっきの魔法は『浄化鎮魂歌』っつって聖魔法レベル60で唱えられるようになるやつ。MPは300くらい使う。あれ、範囲浄化の魔法なんだけど、この建物丸々浄化しちまったみたいだから、ニコロさん、MPはともかく聖魔法の精度はすげえよ。で、聖魔法初期に使えるようになる『解呪ディスペル』はMP消費15、人によってはもう少し高いって感じでわかるか?」
分かり易い説明に、俺はなるほど、とようやくさっきの魔法のすごさがわかった。
ショールを使っているとはいえ、MP300の魔法を唱えられたってことは、今までがMP30~40くらいだったとして、最低でも150は越えたってことか。よかった。上限が結構高くて。
「ちなみに、この間聖魔法が限界突破したから、今俺は聖魔法レベル104。でも魔法の欄は埋まってねえ」
「うわあ、気になるそういうの。埋めたい」
「埋めたいよな。でもなんか、人づてで手に入れないといけない魔法とかも結構あるんだよ。教えて貰ったり運よく目の前で唱えてもらって覚えたりとか。俺としてはマックの師匠の友人に会ってみたいってところか」
「でもニコロさん、聖典はすべて覚えてるみたいだから、もしかしたらユキヒラの知らない魔法を知ってるかも」
「やっぱすげえなあの人」
「うん」
建物丸々浄化って。この建物、確かに色々あって穢れてそうだったからなあ。呪いのローブがぎゅうぎゅう詰めにされたクローゼットとか、触ると呪われる石像の欠片とか、金銀財宝の教皇私室とか、隠し部屋の複合呪いとか。なんか学校七不思議みたいなノリになってたもん。オランさんの思念とかも残ってそうな感じだったし。
あのローブは全部破棄されたのかな。さっきので浄化されてたりして。
「って、ああ、俺ちょっと宰相の所に行ってくるわ。終わったらまた会おうぜ。どこにいる?」
「じゃあ、書庫にでも行ってようかな。まだ読み切ってないし。表の本なんかまったく手を着けてないし」
「わかった書庫な。あとで行く」
ユキヒラは立ち上がると、手を上げてから東屋を出ていった。
途中すれ違った近衛騎士の人と手を合わせて、笑い合いながら進んでいくユキヒラは、本気で王宮を本拠地にしてるみたいだった。先に進む気はないのかな。俺も人のこと言えないけど。
少しだけ東屋から景色を堪能して、俺も腰を上げた。
書庫に行ってまた古代魔道語の本を読ませてもらおう。
まだ見てないレシピとかもありそうだし。
表の方で料理レシピを探すのもいいかも。
そんなことを思いながら、俺も王宮に足を踏み入れた。
書庫に行くと、相変わらずの蔵書量にワクワクしてきた。
長い階段を上って、目くらましの掛かっているドアを開けた。
小さな書庫に入ってドアを閉めると、たくさんの人が行き交っていた表の書庫の喧騒が嘘のように人の気配が遮断される。
どこまで読んだっけ? と棚の間を動きながら、背表紙を見ていく。そして、薬学の本数点を手に取ると、俺は机に移動した。
調薬レシピを数点ゲットして、気になる本を2冊ほど読んだところで、ユキヒラからチャットメッセージが届いた。
本を戻して扉を開けると、丁度ユキヒラが階段を上がってくるところだった。
「悪いな待たせて」
「いいよ。レシピ二つもゲットできたし」
「何のレシピだ?」
「一定時間だけ知力を上げるやつと一定時間だけ素早さが倍になるやつ。俺、テストのときに知力を上げるやつ使いたい」
知力はともかく、素早さが倍になるっていうのは結構使えそうだよな。敵いそうもない魔物から逃げる時とか。今度作ってみよう。
王宮の外に出ると、俺はユキヒラに腕を触ってもらった。
手にはドイリー。さっき減ったMPは既に回復していたから、砂漠都市を経由して、呪術屋の前に跳んだ。
クワットロの呪術屋の前に着くと、ユキヒラが「はぁ?!」っていう変な声を出した。
「マック、ここ地図に載ってねえよ。なんだよここ。しかもこの店! ワクワクするような店じゃねえか!」
ああ、ユキヒラもそう思うんだ。レガロさん、俺たちがワクワクするようなものがどんなのかリサーチしてこの建物にしたのかな。外はボロボロで怪しげ、入れば何かが起こりそうな雰囲気がバリバリ出てるから。
「俺もこの店好き。店主の人がすごくすごいんだよ」
「なんだよそのすごくすごいって。何がすごくすごいんだよ」
「言葉に言い表せないすごさ」
二人でわけのわからないことを言いながら、ドアノッカーをトントンとドアにぶつける。
すぐに中から「どうぞ」と声がかかった。
「ようこそいらっしゃいました」
いつものように執事然としたレガロさんがモノクルを顔に付けてお出迎えしてくれる。
ユキヒラはレガロさんを見て、「うわ……」と失礼な声を上げていた。レガロさんの口元がちょっとだけくっと上がったのが目に入って、気付く。ユキヒラの思考、駄々洩れてるかも。あほなこと考えるなよ。と思った瞬間俺とレガロさんの視線が合った。
「流石マック君。こんなにも早く聖騎士の方を連れてきてくださるとは思いませんでした」
「今日はヴィデロさんが仕事だし時間があったので」
「それはよかった。では早速。こちらへいらしてください」
レガロさんは俺たちを店の奥のテーブルに誘った。
そして、綺麗な青色のお茶を出してくれた。
「初めまして。私、クワットロの雑貨屋『呪術屋』の店主をしております」
「俺は聖騎士でユキヒラといいます。セィ城下街で活動してる異邦人です」
お互いが自己紹介をしているのを何気なく聞いてたんだけど、レガロさんは名乗ることはしなかった。ユキヒラもこの世界の人が安易に名乗らないのは知ってるからか、そこから追究しようとはしない。
ユキヒラが名乗ったことで、俺のクエスト欄にピロンという通知が来た。連れて来ただけでよかったから、クリアだ。
「聖騎士であるあなたに、どうしても受け取って欲しい品があるのですが」
「俺に? 何ですか?」
ユキヒラが首を傾げると、レガロさんはいつもの微笑のまま、それは、と続けた。
「受け取ってしまったら、否応なく巻き込まれるような品物です。もし、このままセィ城下街で楽しく遊んでいたいのであれば、受け取らない方がよろしいかと。そして、その巻き込まれる事柄とは」
一度口を閉じたレガロさんは、まっすぐユキヒラを見て、口角を上げた。
「魔大陸への進出。強大なる者との対峙。引くことのできない戦闘。この世界を、背負って立つ重責プレッシャー」
「……」
レガロさん、ユキヒラも魔王討伐に巻き込む気満々なんだ。聖騎士がいないと魔王討伐が大変ってことかな。
ゴクリ、とユキヒラの喉から音がした。
ただ黙ってレガロさんを見上げるユキヒラに時間を与えるためなのか、「少々お待ちください」と奥の扉に消えていった。
「なあマック。どう思う、今の」
「魔王討伐メンバーに選ばれたってことじゃないかな」
「はぁ?!」
「多分切り札として、ユキヒラが選ばれたんだと思う。俺がここにユキヒラを連れてこないで終わったら、「王手遅延」とかなってたから」
クエスト欄を開きながらそう答えると、ユキヒラは眉に皺を寄せてなんだよそれ、と呟いていた。そっか。ユキヒラは知ってるんだもんね。アリッサさんの近くにいるし。ゲーム的ノリでおっしゃやってやるよ! とはいかないよな。
ムムムと唸るユキヒラを横目に、開いたクエスト欄に目を通した。
『聖騎士を連れてこよう
先見の魔術師が聖騎士を探している
聖騎士を連れてこよう
クリア報酬:白の宝玉
クエスト失敗:聖騎士を連れてこなかった 聖なる者の不在 王手遅延スカッコマットリタルド
【クエストクリア!】
先見の魔術師のもとに聖騎士を連れて来ることが出来た
迅速に聖騎士を見つけ出すことが出来た
クリアランク:A
クリア報酬:白の宝玉 連携魔法』
「連携魔法?」
思わず最後の報酬欄を声に出してしまった。その声に反応したのはユキヒラ。
「何だそれ。今まで聞いたことねえ」
「俺も初めて聞いた。魔導師の人たちって、2人で連携して魔法を使ったりする?」
「あんまり聞いたことねえな。相性が悪い魔法同士を同時に飛ばすと威力が弱まるとかは結構掲示板に載ってるけど」
「そうなんだ。この連携魔法って何だろう」
「うわめっちゃ気になるワード」
あとで調べてみようかなと思っていたところで、レガロさんが細身のシルバーの剣を手に戻ってきた。
その剣は、俺が渡した『滅呪の輝石』を中央に填め込んだ、とても細かい装飾をしている滅茶苦茶綺麗でカッコいい片手剣だった。
「お手に取っていただきたいのは、この剣です」
「……滅茶苦茶高そうなんですけど」
「値は付けられません。もう失われたという技術で作り上げられた宝玉と、穢れを払うと言われた最高品質の聖銀で打たれたこの聖なる剣。どちらも値をつけることすらできないものです。それが合わせられた、この世界にただ一振りの、『聖剣アローナディード』。これを繰れる者は高みを極めた聖騎士のみ。あなたは、これを持つに値する力をお持ちです」
レガロさんは、その手に持った剣を両手で掲げるように持ちかえると、恭しくユキヒラの前にそれを差し出した。
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※本作にはボーイズラブ要素およびオメガバース設定(α、β、Ωの概念やフェロモンに関する描写)が含まれています。苦手な方は閲覧にご注意ください。