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371、デートの帰りに
帰りはゆっくりと馬で帰った俺たち。
転移も早くていいけど、こういうふうに風情を楽しむのもいいよね。って馬を繰ってるのはヴィデロさんで、俺は前に乗ってるだけなんだけど。
門番さんの馬だから、トレの門に預ければ今度はトレの門で世話をするらしい。そしてクワットロに行く用事がある人が乗っていく、みたいなのがちゃんとできてるみたいで、俺はちょっとだけレンタカーとかレンタサイクルを思い出していた。前にクラッシュが馬を借りた時は、ちゃんと借りたところに連れ帰らないといけなかったはずだよな。今はクラッシュの店の裏にいるけど。可愛い。
ヴィデロさんはゆっくり目に走ってくれて、周りを歩いてるプレイヤーたちが良く見えた。
中には手を振ってくる人とかもいて、ヴィデロさんも俺もちゃんと振り返してみたりした。楽しいね。
「マックが楽しそうなのが一番楽しいな」
「そういうヴィデロさんもすっごく笑ってるよ」
「だから楽しいって言ったろ」
馬上でそんな話をしながら進む道中は、とてもデート感が凄くて大満足だった。
トレに着くと、ロイさんが門に立っていた。「なんだよデートかよ」とか言うから二人で思いっきり頷くと、ロイさんははいはいと呆れたように笑った。
ヴィデロさんが馬を厩舎につれて行く間、俺はロイさんの新婚生活の惚気を聞いていた。
「でよ、あいつが飯が美味い時は美味いってちゃんと言えとかキレてよ」
「それは言わないと。だって言われると滅茶苦茶嬉しいし、次も美味しいもの食べさせたいって思うもん」
「やっぱ言わねえとだめなのかよ。だってああいうのって妙に照れくさいだろ。なんだ、ヴィデロはいつも美味いって言ってんのか?」
「もちろん。言って貰うたびに「好き」って思うから積極的に言ったほうが夫婦円満だと思うよ」
「そっか……わかった善処する。それで、ちょっとした報告なんだけどな……子供が、来年生まれるんだよ」
「え、ほんと?! うっわおめでとう! 赤ちゃん、かっわいいだろうなあ。フランさんに似たら可愛くて、ロイさんに似たら男前だね!」
「サンキュ。正直俺が父親って想像つかないんだけどな。でも、まあ、うん」
ロイさんは言葉を濁して顔を緩めた。照れくさそうに笑ってから、「生まれたら見せるよ」なんて言ってくれた。楽しみ。
そんなこんなしているうちに、ヴィデロさんが厩舎から帰ってきた。
俺が大興奮で「ロイさんがパパになるんだって!」と教えると、ヴィデロさんがニヤッと笑って「もう皆知ってる」と意味深にロイさんを見た。
「こいつな、子供が待ちきれなくて、奥さんの懐妊がわかった瞬間詰所で泣いて叫んで大騒ぎだったんだ」
「い、いいだろ、だって嬉しかったんだから」
ロイさんがヴィデロさんのわき腹に軽くパンチを入れると、ヴィデロさんがお返しとばかりに鎧の胸にゴツンと拳を入れる。
二人の仲の良さにほっこりしながら、俺はロイさんにどんなお祝いをしようかなと顔を綻ばせた。
そんなとき、森の方から、軽装の人が駆け込んできた。
「誰か、手が空いてる奴いるか?!」
「ブロス、どうした?! 他の奴は」
「森にちょっとヤバいものが出て、今他の奴らが食い止めてる! ヴィデロ! 手が空いてんなら一緒に来てくれないか?!」
ブロスさんという人は、たまに門に立っているのを見かける門番さんの一人だった。今日は森の巡回だったらしいけど、着ている服は数か所かぎ裂きになって、血がにじんでいたりした。
ヴィデロさんはすぐさま頷くと、腰の剣を確認して、俺を振り返った。
「マックは……」
「怪我してる人もいそうだから、俺も行く」
ギュッと手を握りしめてそう言うと、ヴィデロさんはフッと顔を綻ばせて頷いた。
「場所は」
「西に進んだ呪いの洞窟付近の境界線奥だ」
「だったら転移で向かったほうが早いよね」
俺は取り敢えずブロスさんの傷を治すと、二人を連れてジャル・ガーさんの洞窟付近まで跳んだ。
ブロスさんは目をまん丸にしていたけど、ヴィデロさんの「どっちだ!」の声に我に返り、先頭に立って走り始める。
確かに、何か嫌な気が前方からしてくる。
戦闘の音が聞こえてくると、さらにブロスさんとヴィデロさんの走るスピードが速くなった。
現場についてみると、門番さんグループと数人のプレイヤーが一緒になって骸骨のような物と戦っていた。
その骸骨は、骨を切られてもカタカタと音をさせてまたくっついていくという怖ろしい再生能力を持っているみたいで、あんまり攻撃が効かない魔物だった。
頭上のHPバーは緑を示していて、まだまだHPが有り余ってるのがわかる。
鑑定眼で見てみると出てきたステータスは残りHP7456だった。そのままの状態で見ていると、プレイヤーの人が剣で攻撃した時、減ったHPはたったの30くらい。いつ倒せるのかわからないくらい攻撃が通じない。
と、そこにヴィデロさんが走り出て、呪文を唱えつつお父さんの形見の剣を一閃した。剣に炎が宿り、魔物の身に着けている鎧を剣が切り裂く。
途端にぐっと減る頭上のHP。もう一度鑑定眼で見てみると、ヴィデロさんの攻撃のあとはHP が6982になっていた。え、一撃でそんなに?!
ヴィデロさんの攻撃を見て、その場で戦闘していた人たちが一斉にホッとした顔をする。
俺もぼーっと突っ立ってはいられない、とインベントリからハイパーポーションを取り出した。
そして怪我をしている人に走り寄っては掛けて回る。
「ヴィデロが来てくれて、マジ助かったぜ。あの魔物さん、どうも物理攻撃が効かなくてよ。最近練習してた攻撃のいい練習台になるんじゃねえのか?」
「そうだな。思う存分練習台にさせてもらおうか。どうもデクじゃ腕が上がったのかよくわからないからな」
「頼もしいねえ」
肩で息をしながらも、門番さんたちは軽口をたたく。よかった、元気そうだ。
プレイヤーたちは自分の力不足に気付いているのか、後ろに下がり気味だった。レベル差が激しすぎるからね。ここで死に戻ったら門番さんたちが気にするから無茶は禁物で。
「あの魔物って、魔法は効いた?」
怪我を治しつつ後ろにいた魔法使い系プレイヤーに訊くと、プレイヤーは首をぶんぶん横に振った。
「全然効かなかったよ。あたしの魔法じゃ歯が立たなかった。剣も効かないみたいだし、どうしてあんなレベル度外視の魔物が出てくるのかわかんない。ここ、トレだよね」
「トレだけど、強い魔物が出てくる境界線は越えてるから、不思議はないと思う。でもたまにユニークボスみたいな魔物は出てくるから、それなんじゃないかな」
魔法使いプレイヤーにそう答えると、その子は半笑いで「それって運がいいの? 悪いの?」と呟いていた。
レベル上げたいなって思う人にとっては運がいいのかもしれないけど、流石にトレ付近を歩いている人にとっては、このスケルトンは強すぎるよ。
俺は魔法使いに礼を言うと、門番さんたちのいる前線に走った。
ヴィデロさんは数度攻撃をしては、頭からマジックハイパーポーションを掛けて、また魔物に向きなおっている。攻撃力強いぶん魔力を食うんだろうな。
「ヴィデロさん! もっとマジックハイパーポーションいる⁈」
隣に立つと、ヴィデロさんが「大丈夫だから下がってろ!」と魔物を見たまま口を開いた。
魔物の剣が振り下ろされ、それをヴィデロさんが自身の剣で迎え撃つ。
辺りにキン! と金属のぶつかり合う音が聞こえ、魔物がヴィデロさんを力で押し潰そうとしている間に、他の門番さんたちが一斉に攻撃する。
ヴィデロさん、魔物に力負けしてない。すごい。
俺も負けじと魔法陣を描いた。ヴィデロさんの力がアップするように。打ち負けないように。
魔法陣がヴィデロさんに吸い込まれていった瞬間、ヴィデロさんの剣が魔物を弾き飛ばした。ヴィデロさんかっこいい!
「サンキュ、マック」
ちらりとこっちを振り向いて口元を綻ばせたヴィデロさんは、すぐに倒れた魔物のもとに走って追撃を開始した。
魔物もすぐに立ち上がり、周りを蹴散らすように剣を振り回す。
HPバーはまだ緑のまま。
俺はまたも回復に徹することにして、前線を走り回った。
さすがに全部の攻撃を防ぎきれるわけもなく、魔物が剣を揮うごとに誰かの身体に裂傷が出来た。それをハイパーポーションで治していく。
そして、ふと魔物のHPバーを見ようとして顔を上げた瞬間、魔物と目が合った気がした。
白い骨の中にぽっかりと開いた空洞。目なんてどこにもないんだけど、確かにそれは俺を見ていた。
もしかして、回復役を最初に潰そうと思う程度の知能があるのかな。
どきっとした瞬間、魔物の口がカタカタと鳴った。
『ォォォオオオオオオオオオオ!!』
いきなり上がった咆哮に、身体が一気に重くなる。
プレイヤーたちは竦み上がってしまったみたいで、「ひっ」なんて悲鳴を上げている。
門番さんたちも顔を顰めて動きを止めていた。
骸骨が咆哮をあげるなんて思ってなかった俺も、例に漏れずにちょっとだけ固まってしまった。でも1秒程度ですぐに動くようになった身体を必死で後ろに下げると、次の瞬間には今までいたところに魔物の剣が刺さっていた。あっぶな! 今のめっちゃギリギリ!
ドキドキしながら魔物を睨むと、魔物も俺をじろりと見ている。こんなアイコンタクトいらないんだけど!
俺は手にしていた回復薬をサッと投げ捨て、インベントリから『起爆剤』を取り出した。
魔法陣魔法で発動するかな。それだけが心配。
指でサッと炎の攻撃魔法陣を描きながら、『起爆剤』を投げつける。それに合わせて魔法陣を飛ばすと、『起爆剤』は魔物を包み込むようにして綺麗に丸く爆発した。この『起爆剤』、周りに被害が出ないってのが凄い。ほんとに対象だけを巻き込んで爆発するよ。
その爆発で、ようやく魔物のHPバーは黄色に変わった。
炎が消え去った魔物は、既に周りには目もくれず俺に向かって剣を突き出し始めた。
すぐさまヴィデロさんが俺の前に立って剣をいなすも、魔物の剣先からも何か斬撃のような物が飛び出し始めて、俺とヴィデロさんを切り刻む。
「ヴィデロさん! 俺を守るんじゃなくて、魔物を攻撃して!」
「マック!」
「俺を狙ってる間は魔物隙だらけだから! 俺は大丈夫! 死に戻ってもすぐここに戻って来るから!」
「いやだ!」
「いやじゃない! 早く倒してくれた方が俺が安全だから!」
ティソナドスカラスを腰から抜いて、構える。きっとさっきのヴィデロさんみたいに防ぐことなんてできないけど、でもないよりまし。
刻まれた腕にハイパーポーションを掛けて、残りを遠慮なくヴィデロさんに掛けると、俺はヴィデロさんの後ろから走り出た。
魔物も俺を追って一歩踏み出す。
後ろから剣圧が迫り、肩がカッと熱くなる。
これ、剣が触れなくても切り刻まれるよ。痛い。
俺は走りながらハイパーポーションを肩に掛けた。途端にジュッと音がする。え、何今の音。
足は動かしたまま後ろを振り向くと、魔物の剣先から白い煙が出ていた。何が起きた。
「そこの人! 今魔物がハイポーション掛かってダメージ受けたよ!」
下がっていたプレイヤーが教えてくれる。
いいことを聞いた。
俺は足を止めて、後ろを振り向いた。
アンデッド系は回復用の物でダメージを受けるんだ。ってことは、もしかして聖水とか効くのかな。ってことは、ランクSの聖水だったら、どうなるかな。
さっき手に入れたばかりの聖剣を使うってことも考えたけど、戦闘だから出すのはやめた。弱体化したらやだし。
咆哮を上げながら繰り出される剣に、聖水ランクSを放り投げる。魔物はそれを攻撃と思ったらしく、軌道を変えて剣で聖水を薙ぎ払った。途端に剣から煙が出て、ジュウウウと剣が溶けていく。聖水怖い。酸みたい。
そして魔物は、剣を攻撃されてもダメージになるらしく、痛そうに咆哮を上げている。
その間にヴィデロさんと門番さんたちが攻撃してHPを減らしてくれる。
負けてられないとばかりにプレイヤーさんたちも参戦していくけど、ちょっと効いてないかな。でも頑張れ。
周りの攻撃が激しくなって、魔物は煩わし気に周りを攻撃し始めた。よし、今がチャンス。
俺は高濃度魔素水の魔法陣を描いた。それをスケルトンに向かって飛ばすと、スケルトンにビシャっと水がかかる。でもそれだけ。
プレイヤーの一人が全然効いてねえよ今の魔法! と突っ込んでくれたけど、これからだよ。
指を組んで、深呼吸して、祈りを唱える。心持ち早口だけどそれはしょうがない。戦闘中だからね。
黒いスライムを撃破したのと同じ方法で、俺はスケルトンに攻撃した。
スケルトンを濡らしていた水はキラキラと輝き、輝き始めたところから煙が立ち、骨が解け始める。頭の上のHPバーはじりじりと減っていき、片足が完全に溶けたところで、魔物が頽れた。立てなくなったらしい。
でも身体の部分は鎧で覆われていて無事だったらしく、頭も半分解けながらも、まだHPは残っていた。しぶとい。
ヴィデロさんも俺が前に渡していた聖水を取り出すと、半分を剣に掛けて、残りを魔物に向かって力いっぱい投げていた。そして聖なる液体を纏った剣で魔物を突き刺す。
HPバーが赤くなって魔物が咆哮を上げたけれど、流石に溶けた足は元に戻らず、なすすべなく、間もなく光となって消えていった。
ヴィデロさんがこっちを向いてサムズアップしてくれたのに見惚れていると、プレイヤーたちが周りに集まった。
「なあなあ今の魔法、何? すげえカッコいい。俺も覚えたい」
「ローブ着てるってことは君も魔法使い?」
「すっごく効くハイポーション持ってるんだね。どこで買ったの?」
囲まれて次々質問攻めにされて、うわあ、となる。
魔法使いのプレイヤーさん。目をキラキラさせて期待してるところ悪いけど、「祈り」攻撃魔法じゃないんだよ。そして皆そこまでHPが高くないから気付かないかもしれないけど、ハイポーションでもないし、自作なんだ。
えっと、どう答えればいいのかな。
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※本作にはボーイズラブ要素およびオメガバース設定(α、β、Ωの概念やフェロモンに関する描写)が含まれています。苦手な方は閲覧にご注意ください。