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372、掲示板特設スレ保持してません!
「あんなもんがでてきたってことは、またデカい魔素溜まりが出来たってことか。最近大分増えたな」
「もう少し見回り強化したほうがいいんじゃないか? さすがに最近のデカい魔物は手に余る。異邦人が襲われたらひとたまりもねえ」
「そうするか。くそ、この大陸もそろそろ穢れてきてるってことかよ」
「やめろよ縁起でもねえ」
「ここだけじゃなかった。東の方にもデカいのが出来てたから、向こうの方にも人を割いたほうがいいかもしれない」
「あっちにはランディたちが行ってるだろ」
「ナスカからコースト付近を見回るには、3人や4人じゃ追い付かないから、少ないな」
「何かあったな」
「ああ」
門番さんたちが情報交換をしている。
ってことは、俺のこの状況をヴィデロさんに助けてもらうことは出来ないってことか。
「ねえ、ジョブ何? 戦闘職じゃないよね」
「薬師だけど」
「え、じゃあさっきハイポーション、自分で作ってるの? じゃあさ、さっきの売ってくれない?」
魔法使いプレイヤーに頼まれて、うっと詰まる。この子たち、きっとトレに来たばっかりってことは、もしかして夏休みから始めた、みたいな感じの子たちだよな。ってことは、そこまで所持金とかないんじゃなかろうか。安く見積もっても一本1200ガル。でもこれは騎士団に卸してる破格の値段だし、そもそもこの子たちのHPにハイパーポーションはいらないんじゃないだろうか。
「一本いくらくらいで売ってる? ねえ」
「……ええと、1200、ガル?」
「ちょ、それぼったくりでしょ! 店では200ガルよ。誰も買わないわよ」
「売る気もないからなあ」
「なあなあ、さっきの魔法、何だったんだ?」
「あれは魔法じゃなくて、『祈り』」
「それって何魔法? どこで覚えられるんだ?」
「だから魔法じゃないって。教会で今も講習、やってるのかなあ……」
「え、教会? もしかして、あんた教会の回し者? 俺、ウノの街のNPCに教会に行ったら全財産奪われるから行くなって言われたけど。どこかの偉い薬師さんがディスペルハイポーションを作ってくれたから、そのうち教会もすたれてくって」
あ、あはは。
何だろう。笑うしかない。
教会嫌われてるからなあ。でもこれから立て直っていくだろうし、ニコロさんがすごくいい人だから、時間がかかるかもしれないけど、きっと信頼は取り戻せるだろうとは思う。
でも、俺が教会の回し者って。ぶっ潰した本人なんですけど。あはは……はぁ。
俺は溜め息を吐いて、「だからハイポーションも高いんだ」なんて納得しているプレイヤーたちを横目で見ていた。うん、訂正はしない。面倒だし。
それよりも気になるのが、ヴィデロさんの腕にある傷。痛そう。
俺はごめんねとプレイヤーたちの間から抜け出して、ヴィデロさんに近付いた。
「話中ごめんね。ヴィデロさんの腕、治させて」
「マック。これくらいどうってことないから」
「俺が痛いからやだ。治す」
苦笑するヴィデロさんの腕を取って、ハイパーポーションを掛ける。
一瞬で消えて行く傷にホッとしていると、ヴィデロさんの腕が俺の背中に回った。
「ありがとう」
耳元でささやかれて、思わずデレっとなる。
俺こそ、治させてくれてありがとうだよ。ヴィデロさんのカッコいい身体に傷がつくのはやだし。
表情を戻せないまま顔を上げると、ふと周りでニヤニヤしている門番さんたちが目に入った。
「やっぱこれじゃねえとな。平和が一番だな」
「ほんとにな。この間マルクスがどいつもこいつも! なんて騒いでたぜ」
「平和だな」
あはは、なんて笑ってるけど、きっとマルクスさんが騒いだのって、ロイさんの報告の時なんだろうなあ。でもきっと誰より盛大にお祝いとかしそう。ロイさんを飲みにつれていって「ちくしょう奢ってやるよ!」とか言いそう。
「ヴィデロはどうする。今日はマックと一緒ってことはデートだったんだろ」
「ああ。クワットロから帰ってきたところだ。な、マック」
「うん。ヴィデロさんと乗馬、楽しかった」
「んじゃ、あとは気を付けて帰れよ。んでマック。さっきの、ありがとな。マックがいてくれなかったら、間に合わなかったかもしれねえ」
ブロスさんがぽん、と軽く俺の頭に手を乗せる。
っていうか結構距離があったのに、ブロスさんは街まで走って帰ったのかな。
疑問に思って聞くと、今日は騎馬で見回りをしていたらしい。門番さんたちは山裾の見回りは騎馬で、森の中は徒歩で行うんだとか。そうだったんだ。
でも馬いないよ。と周りを見回すと、ヴィデロさんの横にいた門番さんが笛のような物を吹いた。音のないその笛は、馬の耳にはしっかりと聞こえるらしく、しばらくすると3頭の馬が現れた。
「ブロス、もしかして、ハニーは途中で?」
ヴィデロさんが訊くと、ブロスさんの表情が沈んだ。
「途中までは頑張ってくれたんだがな……魔物の傷が酷くて途中で降りたんだ」
「ハニーはどこらへんで?」
「街にほど近い場所だな。ハイポーションで傷は治したんだが、どうもスタミナの戻りが悪くてな……俺が乗ってたら負担になるだろ。うまくいけばスタミナが回復した後自分で街に戻れるだろうから、それを願って置いてきた」
肩を竦めるブロスさんの胸を、ヴィデロさんが元気づけるようにトン、と叩いた。
その手に自分の拳をこつんとさせて、ブロスさんは苦笑した。
「まあ俺のハニーは賢いからな。大丈夫だろ」
「とか言って心配なくせに!」
後ろから違う門番さんに文字通り突っ込まれて、ブロスさんがつんのめる。
「おまっ、あぶねえだろ!」と怒鳴るブロスさんに、その物理突っ込みをかました門番さんが半眼で指示した。
「お前はまずハニー回収。馬だってただじゃないんだ。せいぜい可愛がれ。ってわけで、ヴィデロ。デートの邪魔になるかもしれねえが、ブロスを連れ帰ってくれ。そして、ハニーを回収してくれ」
「わかった」
「すまないなマック。せっかくムフフのお楽しみの前に」
「ムフフって……」
「あ、昨日からヴィデロはお泊りか。そうか。もう満足してたか悪い」
ニヤニヤとふざけたあと、門番さんたちは戻ってきた馬達の背に乗った。
もしかして、皆鎧を着てないのは馬の負担になるからだったりして。見回りにしては軽装だ。
ブロスさんはちょっとだけばつが悪そうな顔をした後、「俺は一人で大丈夫だから、2人はデートを楽しめよ」と俺たちの背を押した。でももう頼まれちゃったし。
「気を付けろよ。魔素溜まりがまだどこかにあるんだろ」
「わかってるよ。でもまあ、一日に何度もあんなでか物が出てくることはねえだろ」
「……だといいけどな」
ヴィデロさんが遠い目をしながらそう呟く。だよね。魔素溜まりから魔物がポップするところを目の当たりにしちゃったし、間を置かずに大量に出てきちゃったし。あれはかなり気持ち悪かったよね。
ってことは、でっかい魔物が沢山ポップする場合ももしかしたらあるってことかもしれない。
俺は馬上の門番さんに近付いて、インベントリからありったけのハイパーポーションを取り出した。
「これ、差し入れ。危なくなったら躊躇いなく飲んで。味と効果はヴィデロさんの保証付き」
俺の差し出した瓶に目を向けて、困ったように見下ろす門番さんは、俺を見て、ヴィデロさんを見て、そして諦めたように瓶に手を伸ばした。
「じゃあ、一本ずつ貰うよ。ありがとな。マックの腕は俺らもよく知ってるよ。あとは自分で使えよ。マックが怪我すると手が付けられなくなるやつがいるからな、後ろに」
三人とも一本ずつ俺の手から瓶を取って、「見回り再開すんぞー」「おー」とあまり気合いの入ってない声を上げた。
三人を見送ってから、俺は余ったハイパーポーションを諦めてインベントリにしまう。
そう言えば最近門の詰所に薬類を差し入れてなかった。また再開しよう。スタミナ回復してないってことは、各自スタミナポーションは持ち歩いてないってことだよな。騎士団事情はトレの街も結構大変なんだろうな。ヴィデロさんは絶対にそんなことを俺に言わないけど。よし、今度からトレの街の詰所に大量差し入れだ。
そんなことを心に誓ってから、振り返る。
ヴィデロさんはすごく穏やかな目で俺を見ていてくれた。
うずうずして、思わず走り寄ってお腹に勢いのままにくっついてくと、衝撃ごとヴィデロさんが受け止めてくれた。大好き。
「え、もしかして今の『門番タックル』? うっそ、あれ、もしかして」
「まさか。だってここ、森の中だよ」
「でもトレ名物って……」
「待て。ってことはあいつ、もしかして……」
「『薬師マック』……? あの掲示板特設スレ保持の……? え、マジ?」
遠くからプレイヤーたちの声が聞こえてくるけど、気のせい気のせい。俺はヴィデロさんのお腹を堪能するのだ。しかし、掲示板特設スレ保持ってなんだ。俺は掲示板は殆ど活用してないのに。保持とかしてないから!
生意気言ってすみませんでした! と綺麗に頭を下げるプレイヤーたちと森で別れて、俺たちはトレの街に徒歩で向かった。途中ハニーと合流出来ればしたかったから。
でもいきなりどうしたんだろうプレイヤーたち。俺、そんなに怖い雰囲気でも出てた?
首を捻りつつ、辺りを見回す。
たまに出てくる魔物はヴィデロさんもブロスさんも一撃で葬れるので問題なく道を進んでいく。
「さっきヴィデロが言ってたデカい魔素溜まり、詳しく教えろよ」
「ああ」
ヴィデロさんがブロスさんに巨大魔素溜まりの詳細を話しながら足を進める。
ブロスさんは段々と険しい顔つきになって、最後、あーと唸って頭をガリガリと掻いた。
「なんか、ほんとに俺ら大丈夫なのかよ、って気がしてくるな。これから生まれてくる命だってあるってのに、将来を約束してやれねえなんてよ」
「……大丈夫だ。きっと」
ヴィデロさんはブロスさんの呟きに一瞬目を伏せてから、口を開いた。
俺を見て、「きっと大丈夫だろ。ここを救うために動いてくれてる奴らだっている」と力強く答えていた。
そして、溜め息を一つ。
「でも、俺には何も出来ないんだけどな……せめてもっと魔力があればな」
「魔力は少なくても、最近のヴィデロは俺らじゃ相手にならねえくらい強くなってるだろ」
「ああ。でも、俺の欲しい強さはこんなもんじゃないんだ」
「そうか。まあ、せいぜい頑張れや。ヴィデロならできそうだ」
「……だと、いいな」
俺は口を挟めなかった。
ヴィデロさんが魔力が欲しいっていうのは、きっと俺たちと一緒に魔大陸に行きたいから。
でも、正直俺はヴィデロさんにここに残っていて欲しい。だって、魔王の強さがわからないから、どれだけヴィデロさんが強くなってもやっぱり危険で。勇者ですら倒しきれずに、ぼろぼろになるくらいの魔王だから。ヴィデロさんはこっちで待っていて欲しい。
でもヴィデロさんの気持ちも理解できて、胸が痛くなる。もし逆の立場だったらって考えると、俺だったら絶対について行って、身を挺してヴィデロさんを守りたいから。
胸の痛みに視線を落として、俺はヴィデロさんの裾をきゅっと握った。
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※本作にはボーイズラブ要素およびオメガバース設定(α、β、Ωの概念やフェロモンに関する描写)が含まれています。苦手な方は閲覧にご注意ください。