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378、弓道大会
そして俺は忘れていた。
辺境で鎧を作ってる生産プレイヤーの鎧を買いに行くことを。
帰ってきて素材を倉庫のインベントリにホクホクとしまって、そこでハッと思い出して頽れた俺。
毎回、それこそデートするたびに思うけど、今度こそヴィデロさんに鎧をプレゼントしたいのに。
これから行こうにももうすぐログアウト時間だし、明日はバイトがあるからそんなに長い時間ログインできないし。
来週まで持ち越しかな、としょんぼりしながら、俺はその日ログアウトした。
「土曜日は駅に9時40分待ち合わせで、市民弓道場ね」
目の前では、増田がブレイブの弓道大会の詳細を話している。そういえば雄太も応援に行くって言ってたっけ。
行けなくてごめん。ブレイブのこと、応援したかった。
しょんぼりしていると、増田が肩を竦めて俺の頭をわしわしと掻き混ぜた。
「昨日海里みさとにはちゃんと郷野の言葉伝えておいたよ。応援してくれる気持ちが嬉しいって。ありがとうって言ってたよ。その応援分さらに頑張るって」
「うん。でもなんか返しの言葉がとっても男前……さすがブレイブ」
「ふふ、海里みさとはかっこよくて可愛いよ。俺、何度惚れ直したかわからないくらい。それにね、ちょっとしたことがほんとに可愛んだ。実はカブトムシは大丈夫だけど蝉は苦手とか。あの蝉の死んだふりが姑息すぎて好きになれないんだって。堂々と逃げろよって小さいころすごく文句言ってたよ。可愛いよねえ」
「いやだからその好き嫌い判定もすでに男前なんだけど。見た目が嫌とかそういうのじゃないんだ。さすがブレイブ」
ちょっと俺には増田の可愛いという基準がわからなくなってきたよ。可愛いんじゃなくて、そういうのは男前というんじゃないだろうか。ブレイブカッコいい。
「ちなみにな、この間一緒に遊んだ時、ブレイブのやつ、道路側に自分が立って、増田を必ず内側にして歩いてたぞ。あれは男の中の男だ。俺も一目置いてる」
「うわ、俺も見習わないと」
「それにな、この間増田がナンパされたときがすっげえ見ものだったんだよ」
「ナンパ。そんなことされたんだ増田」
「女の子二人に俺ら二人でいる時声を掛けられたんだけどな、そん時丁度ユイとブレイブが来たんだ。ユイはなんか笑って「雄太かっこいいからねえ」なんてあほなこと言って終わったんだけど、ブレイブがな。こう」
とその時の状況を雄太が再現してくれた。
座ったままだったんだけど、増田の肩に肘を乗せて、少しだけ密着して、ニヤリと笑った。
「『ごめんね子猫ちゃんたち。この可愛い人は私のいい人なの。あなたたちは私より全然可愛いんだから、他の女のいい人に無駄な努力をするより、あなたたちを真っすぐ見てくれる人を見つけた方が幸せになれるわよ。私のようにね。頑張って』ってな。あのセリフは衝撃的すぎて忘れられねえ。きっとユイが言っても笑いのネタになるだけだろうけど、ブレイブみたいなイイ女がやると効果抜群だなあ。あの時のやつら、まわりにハート飛ばしながらブレイブの言葉に頷いてたから」
も、もしかして雄太のニヤリ顔、その時のブレイブの顔真似してたのか。
と思わずぶっと吹き出すと、雄太がなんだよと俺の額を指で突き刺した。痛い。
それにしてもそのセリフ。18歳の女の子のセリフとは思えない。
なんていうか男前の一言に尽きる。でもそれって。
「ブレイブって、花降女子だよね……」
絶対に「お姉様」とか呼ばれて、女の子たちからモテモテなんじゃなかろうか。
という俺の疑問は、土曜日に確信に変わった。
俺は今、市民弓道場にいる。
どうして弓道場にいるのかというと、ブレイブの逸話を聞いた日のバイトの時、何気なくヴィルさんにブレイブが弓道の大会に出るんだということを話したら。
「すごいな。ブレイブってこの間一緒に神殿に入った子だろ。じゃあぜひ応援に行かないとな!」
と超乗り気になって、全ての業務を佐久間さんに押し付けて、急きょ応援に行くということになったからだ。
いつもの車ではなくて佐久間さんのワゴン車を出したヴィルさんは、戸惑う俺を強引に車に乗せて弓道大会のある市民弓道場まで車を走らせ、今に至る。
弓道大会の案内を見ると、学生の部とかじゃなくて、ブレイブは一般市民の部に、所属する弓道場代表として出るみたいだった。袴を穿いて大会に出る人たちは年配の方が多いのは気のせいだろうか。そんな中女子高生が出たら、目立つよなあ。
なんて思いながら見学場所に向かっていると、途中で雄太たちがいた。
「あれ、郷野。どうしたの? って、あ、ヴィルさんこんにちは」
こっちでは初めましてなんだけど、ヴィルさんの場合もそのままの姿と名前でログインしているからか、増田にはすぐにわかったらしい。頭を下げて、「海里カイリです」と自己紹介していた。
「いきなり来てしまって迷惑かと思ったけど、どうしてもブレイブの応援をしたくてな。一緒に応援してもいいかい?」
「もちろん。人数が増えるのはとても嬉しいです」
満面の笑みで俺たちを歓迎した三人が、どうしてこんなに嬉しそうだったのかを理解したのは、応援場所に行ってからだった。
静かに見守る外野席の一角に、その場にそぐわないほど黄色い声を上げている女子高生集団がいたからだ。彼女たちの身に着けている制服は、ブレイブとユイの通う花降女子の制服。ブレイブの自称ファンクラブなんだって。そのファンクラブに、ブレイブと仲がいいというだけでユイはちょっと目をつけられているらしい。当の本人は「実害はないから問題ないよ」って言ってるけど、逆に雄太がキレそうな顔をしてるのを見て納得した。ああ、ちょっとした喧嘩売られそうになったんだね。雄太、気に入らないと女子にでもしっかりと文句を言うから、揉めるよねそれは。じゃあもしかして俺たちはユイの護り兼雄太ストッパーか。よし来た。
でもあれ、ちょっと迷惑じゃないかな、と女子集団を見て思う。
もうすぐ競技が始まるっていうのにきゃあきゃあうるさい。ブレイブにとってもありがた迷惑な応援になりかねない。
と思って注意すべきか考えていたら、袴姿で胸当てを着けたブレイブが裏からそっと出てきて、その集団の前に立った。
「応援ありがとう。ここまで足を運んでくれてとても嬉しい。私も頑張れる。なので、頑張れる応援の方法を教えようか。まずは、矢が的に当たって「よし!」と声がかかったら拍手。皆中、矢がすべて的に当たったら拍手。これだけだ。応援に言葉はいらないんだ。このキンと引き締まった空気も他ではなかなか味わえないから、それも踏まえて楽しんでいってほしい。そして、私が皆中したら、ぜひ拍手を頼む」
笑顔で、透き通るような声で、ブレイブが女子集団に応援方法をレクチャーしていた。
すごいな。あれなら丸く収まるし、俺たちみたいな応援の仕方を知らない人も一緒になって理解できる。
尊敬のまなざしでブレイブを見ていると、ふとブレイブが俺たち集団の一か所を見て、顔をほころばせた。はい、ごちそうさま。増田もちょっと顔が緩んでるよ。
そのまま女子集団も静かになり、無事空気が緩むことなく競技が始まった。
ピンと張り詰めた糸のような雰囲気の中、厳かに競技は進んだ。
ブレイブが出てきた時も、さっきの忠告が効いたのか、黄色い声なんかは上がらなかった。
そして、皆が息をつめて見守る中、ブレイブの射たすべての矢がまるで的に吸い込まれるように皆中。俺たちは惜しみない拍手をブレイブに送った。
着替えて出てきたブレイブと合流した俺は、さっき感じた感動と興奮を余すことなくブレイブに伝えた。ユイも同じテンションでブレイブを褒め称える。
ブレイブの弓道場はこの大会で準優勝を飾った。優勝した道場だけが全国大会に出場するらしい。惜しかった。でも個人競技でブレイブの弓道場に所属する人が優勝していた。見ごたえはバッチリだった。ブレイブは個人競技はまだ出ないんだって言ってたけど、絶対に出たら優勝くらい出来るんじゃなかろうか。と言ったら、「私はまだ段が低いからもっと腕を磨かないととてもかなわないよ」なんて返ってきた。弓道にも段とかあるなんて知らなかったよ。でも本当に感動したんだ。かっこよかった。俺にはそこまで特筆すべき趣味も特技もないから、ああいうふうに輝いてるのはすごくかっこいいし憧れる。
ブレイブは俺とユイに詰め寄られて、苦笑を顔に乗せつつ聞いてくれた。
でも感動していたのは俺たちだけじゃなかったみたいで。
「とても素晴らしかった。こんな晴れ晴れとした気分は久しぶりだ。今日はとても素晴らしいものを見せてくれてありがとう」
とヴィルさんは強引に全員を拉致して、ちょっとお高めの店の個室に俺たちを詰め込んだ。
だから今日はいつもの車じゃなくて佐久間さんの7人乗りの車を使ってたんだ。と拉致られた時に納得。いつものヴィルさんの車は、もっと高級車だから。
突っ走ったヴィルさんを止めることは俺には出来なくて、諦めて皆ヴィルさんにお高いディナーをごちそうしてもらった。個室だったからマナーとかも気にすることなく、皆が目の前に並ぶ豪華で綺麗な料理に目が釘付けになる。これ、絶対にお高いよ。雄太は「俺たちがごちそうされるのはおかしい」としっかりとヴィルさんに詰め寄っていたけれど、ヴィルさんはサラリと「ブレイブ君の弓道道場の準優勝のお祝いだよ」とちょっと強引に皆を納得させていた。
皆がほぼ食べ終わったころ、ヴィルさんはウーロン茶を片手に、徐に雄太に声を掛けた。
「高橋君。『高橋と愉快な仲間たち』のリーダーとしての君にお願いがあるんだ」
「それはここをごちそうになったから断れない、そういうお願いっすか?」
「そんなことはない。あくまでここの食事は、ブレイブ君がとても素晴らしい感動を味わわせてくれたお礼だ。だから断ってくれて構わないし、やりたくない場合はそう言ってもいい。でも、君たちの実力を見込んで話くらいは聞いて欲しいかな」
強制的にとかそういうのじゃないとヴィルさんが言うと、雄太はうーんと考えたあと、「なんすか」と一言聞いた。
パーティーが不利になるような依頼は受けない、という姿勢を貫いているみたいに見えて、雄太もちゃんとリーダーしてるんだな、なんて少し雄太を見直してしまって、それを誤魔化すように飲み物を手にする。
「実は辺境の壁の辺りにとても気になる場所があるんだ。でも流石に俺一人じゃ実力不足でね。一緒に行って欲しいんだ」
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手料理が繋ぐ心と体。身分差を越えた、最強α皇帝と隠れΩ料理人の美味しくて甘い辺境スローライフが幕を開ける!
※本作にはボーイズラブ要素およびオメガバース設定(α、β、Ωの概念やフェロモンに関する描写)が含まれています。苦手な方は閲覧にご注意ください。