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379、辺境デートに行ってきます!
ヴィルさんは車で全員を送り届けると、俺を乗せて会社に戻った。
雄太たちはヴィルさんの頼みを保留にして、とりあえず『高橋と愉快な仲間たち』のメンバーだけで明日にでもヴィルさんが言ってた気になる場所を調べてみる、と言っていた。
ヴィルさんは圧倒的にレベルが足りなくて、壁向こうに出してもらえるのかわからないんだって。
辺境かあ。俺も壁の向こうには出れなそうだしなあ。まだレベル三桁にはなってないから。
会社から自転車で家に帰りながら、何があるんだろうなあと俺は辺境に思いを馳せるのだった。
気になるものはその目で確かめてみよう、ということで、俺は次の日、辺境に跳ぶことにした。ついでに薬も納品しとこう。
ヴィデロさんを誘ったら一緒に行ってくれるかなあ、と裏フレンドリストの灰色の文字を見ながら呟く。
ダメもとで誘ってみよう。そして一緒に行けたら、今度こそ鎧を。と考えたところで、視界の隅に黒い鎧が目に入った。
……新しい鎧、いらないって言われそうだよなあ。あの鎧があるし。
溜め息を吐いてから、俺はアイテムのチェックを始めた。
門に着くと、ブロスさんが軽装で鎧を着たブロッサムさんと話をしていた。
俺の顔を見た瞬間破顔し、挨拶してくれる。
「ヴィデロさんはいる?」
「おう。中で暇してると思うぜ。誘ってやってくれよ。で、今日はどこまで行くんだ?」
「辺境」
質問に答えた瞬間、2人とも複雑そうな顔をした。二人とも俺が転移の魔法陣を使えるのを知ってるからなあ。
「まあ、気をつけろや。ヴィデロなら辺境でも何とかなるとは思うけどよ」
「うん」
ブロッサムさんの言葉に頷いていると、誰かがヴィデロさんを呼んでくれたらしく、詰所のドアが開いてヴィデロさんが出てきた。
俺に気付くなり、表情を緩めるヴィデロさんに俺もデロデロになっていると、ブロスさんが「頑張れよ」と俺の頭をポンと叩いて厩舎の方に行ってしまった。今日は外回りなのかな。
「おはようマック」
「おはようヴィデロさん。今日暇?」
抱き着いていきながらそう訊くと、ヴィデロさんは「暇だったらデートに誘ってくれるのか?」と笑った。
もちろん誘う誘う。めちゃくちゃ誘うよ。
「一緒に辺境に行こ!」
「辺境」
そう誘うと、ヴィデロさんは笑顔を苦笑に変えた。
待ってろと言って一度中に入っていったヴィデロさんは、すぐにラフな格好の上に軽装備を付けて出てきた。腰には形見の剣、胸当てを着けて、籠手を填めて。カッコいい。好き。
早速ヴィデロさんを工房に誘って、来た道を戻る。
休日の朝だからか、街はそこそこに賑わっていて、遠くに見えるギルドからは、プレイヤーがひっきりなしに出入りしていた。
「朝食は食べた?」
「実はまだ。さっき朝鍛錬を終わらせて風呂に入ってたところだったんだ」
「じゃあまずは朝ご飯を一緒に食べよう」
楽しみだな、というヴィデロさんに笑い返して、朝食とお弁当、何を作ろうかなと思いを馳せる。
門に向かうプレイヤーたちは、ヴィデロさんが門番さんだってわかってるのか、通りすがりざま挨拶をしていく。ヴィデロさんは軽く手を上げてそれに返している。有名になっちゃったのかな。こんなにかっこいいもんね。
思わず手を掴むと、ヴィデロさんの目が細くなって、繋いだ手がギュッと握られた。
そしてヴィデロさんの顔ばっかり見ていた俺は、前方なんて全然見てなくて。
「マック危ない!」
というヴィデロさんの声と共にひょいと身体を持ち上げられ、次の瞬間目の前を八百屋さんの台車がすごい勢いで押されて道を進んでいった。
「ありがとう。轢かれる所だった……」
「大丈夫だったか?」
「うん。ヴィデロさんの顔に見惚れてて、前を見るの忘れてた」
ヴィデロさんに抱き上げられたままの俺は、周りが注目してることにそこで気付いた。
「よっしゃ今日はレア魔物!」「一緒に歩いてたから門番タックルはダメかって諦めてたのに! まさかの姫抱っこ! ラッキー!」なんていう外野の声が聞こえてきて、そこで気付く。
もしかして、注目を浴びてたのは、ヴィデロさんだけじゃなくて、俺も? ま、まさかね。
思わず抱き上げられたまま肩口に顔を埋めると、歓声が上がった、のも気のせいだよね。
耳元すぐ近くでヴィデロさんがくすくす笑ってるのがダイレクトに響いて、さらに顔を上げられなくなる。
ヴィデロさん、もしかしてプレイヤーからのこんな冷やかしは慣れてたりするのかな。全然気にしてなそう。
下ろしてとお願いするのも忘れて、俺はヴィデロさんの肩に顔をうずめたまま、工房まで連行された。
「すっかりマックも顔が知れ渡ったな」
「そうだね……おかしいな。地味な生産者なはずなんだけどな。顔つきだってキリッと美形とかじゃなくて普通に地味なはずなのに」
「可愛いからだな」
「可愛くないから」
楽しそうに笑うヴィデロさんにどうしてそんなに楽しそうなのか訊くと、「すっかり俺とマックの仲が皆に知れ渡ってるのが嬉しい」と本当に嬉しそうに笑った。そんな顔されたら何も言えないよ。ヴィデロさん可愛い。好き。
軽く朝食を作って食べて、並行して作ったサンドイッチの入った入れ物をインベントリにぶち込んで、俺たちは辺境に向かった。と言っても数度の転移なので時間はすぐ。
辺境の街じゃなくて今回は壁の方に出た俺たちは、壁の上から下を覗いた。うん、やっぱり高いし、ところどころでっかい魔物の背中が見える。普通に怖い。たまにチラチラ見える小さな米粒はカンスト勢のプレイヤーかな。もしかして神殿捜索組とかだったりして。まさかね。
「ところでどうして今日は辺境に来たんだ?」
一緒に壁の下を覗き込みながらヴィデロさんがもっともな疑問を投げかけて来る。そういえば言ってなかった。
「ヴィルさんが、ここら辺がすごく気になるって言ってたところがあったじゃん。そこを高橋たちが調査に行くらしいから、ちょっと気になって来てみただけ。あとは、辺境にいる鍛冶プレイヤーの店に行ってみたいなって」
「そうか。でも壁向こうじゃ俺は出れないからな……」
「俺も出れないよ。弱いから。だから、ここから覗き込むだけ。でも高すぎてちょっとくらくらする」
「落ちるなよ」
サッとヴィデロさんの腕が俺の腰に回る。支えてくれるらしい。
確かにここから落ちたらキラキラと自分の身体が宙に散ってくよね。しかも転移でここに来たから死に戻るのはトレの工房。ヴィデロさん一人辺境に残してトレに戻っちゃうよ。まあ、すぐ来れるんだけどね。
でもざっと見た限り、壁の上からは他と違う変わったところは見当たらなかった。もっと北の方とかなのかな。地図がざっくりすぎてわからない。
と辺りを見回していると、街と壁を繋ぐ道を、馬が駆けてきた。
「あれ、高橋たちだ」
壁の上から見える小さな塊は、確かに『高橋と愉快な仲間たち』だった。そこに赤毛の美丈夫が一人。保護者の様についてきている。
勇者までついてきてるってどういうことだろう。やっぱり保護者かな。
これから雄太たちは壁の向こうに向かうんだろうな。
俺たち壁の上からは見えない位置まで馬が移動したので、俺はようやく顔を上げた。
そして今度は反対側に走る。向こう側に出るのかな。壁の向こうは魔素が強いから、通常のこの国の人は壁の向こうには絶対に出ないって聞いたことがある。
しばらく見ていると、雄太たちが壁の向こう側に出てきた。やっぱり勇者もちょこんとついてきてる。
皆米粒くらいなせいか、壁の上にいる俺のことは気付かなそうだったので、とりあえずメッセージを送ってみた。
『お前たちが皆米粒のようだ。小さいのう』
送った瞬間、雄太がきょろきょろと辺りを見回してから、上をばっと見上げた。
『調査頑張れ。俺はこれから鍛冶屋デートだ』
『てめえも来い!』
『無理』
軽いやり取りをして満足すると、俺とヴィデロさんは辺境街に向かうべく壁を降りることにした。
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手料理が繋ぐ心と体。身分差を越えた、最強α皇帝と隠れΩ料理人の美味しくて甘い辺境スローライフが幕を開ける!
※本作にはボーイズラブ要素およびオメガバース設定(α、β、Ωの概念やフェロモンに関する描写)が含まれています。苦手な方は閲覧にご注意ください。