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395、実演販売
昼休み、雄太と増田に長光さんの刀を買ったことを報告すると、是非見せろということで、週末に辺境で一緒に狩りをすることになった。
ヴィデロさんにその話をすると、一緒に行ってくれるらしい。やった。喜んで。
という訳で、週末を楽しみに実演販売をする俺。
クラッシュの店に在庫を確認しに行ったら、その場で捕まって、あれよあれよという間に外に用意された机の上で、ハイポーションを作らされている俺。
「うわあ、手つきがスムーズ。ああやってハイポーションが出来るんだ……」
「なんか思ってたより簡単そう」
「理科の実験みたいで面白そう」
「この出来上がったやつ売ってくれるんだよな? 買っていいのか?」
外野から聞こえてくる声をひたすらスルーして手を動かす俺。
今はパフォーマンスで一つの調薬器具しか使ってないから簡単そうに見えるんだよ。
でも今回は教えることはないから気楽でいいなあ。
……人だかりを気にしなければ。
すっごい囲まれてるよ。もう一つ用意された机には、既に出来上がったハイポーションが並んでいる。販売価格は店で売られてるランクSの物よりちょっとだけ高い。目の前で実演してるから、その技術見物料とかなんとかクラッシュは言ってたけど。
そろそろかな、と俺は普通の調薬キットの横に簡易調薬キットを取り出した。
そして、それも使ってハイポーションを作り始める。はいはい、生産スピード上がりますよ。どんどん買ってね。
なんか増えたぞ、なんて声が聞こえ続けたけど無視無視。
ひたすら手を動かして、ひたすらグツグツして、そして瓶に詰めて。グツグツの間に薬草を磨って。
クラッシュはカイルさんの所から新鮮薬草と他の素材をたんまりと仕入れてきていた。だから素材代は今日はクラッシュ持ち。ただひたすら調薬すればいいからと言われて、今まさにただひたすら調薬している。
出来上がった物が山になってきたところで、クラッシュが何かサラサラと紙に書いた。
それを皆に見せた瞬間、「わあ!」と歓声が上がる。
何を書いたんだろう。ちょっとだけ気になる。
「マック。もう一つ出して作ってくれる?」
「了解」
クラッシュの合図で上級調薬キットを取り出す。
実はとうとう上級調薬キットが大々的に売り出されることになったんだ。あの薬師を取りまとめているウル老師監修のもと、上級調薬キットがようやく量産体制に入ったとかで、それのお披露目も兼ねての実演販売だったらしい。薬師をやりたいプレイヤーもこれで上級調薬キットをそこら辺の店で手に入れることが出来るんだよ。こっちの薬師たちはまた別のルートらしいから、俺はただプレイヤー向けにお披露目するだけ。クラッシュの店も今日から上級調薬キット解禁らしい。俺、もう一つ買おうかな。二つ並べて並行して作ろうかな。
そんなことを思いながら三つ同時に調薬していく。ハイポーションを作るスピードはさらに上がった。
「なあなあ店主さん。あの調薬キット、薬師とかじゃなくても売ってもらえるのか?」
「もちろん。誰でも買えるよ。ただし、ポーション類を作ったことのない人は、こっちの普通のか簡易キットがおすすめ。難しいから慣れてからじゃないと失敗するよ」
上級調薬キットを二つ並べたら出来る物とかないのかな。でも煮込む作業が同じ長さだったらこっちこっちを並行して、とか出来ないかな。ああ、入れるタイミングをずらせば何とかなるかな。
なんて考えながら作った物は、ちゃんと出来上がるはずもなく。
すっごいギャラリーがいる中、簡易調薬キットの中身が黒い物体に……。やらかした。滅茶苦茶恥ずかしい。
「こんな風にね」
クラッシュの声と共に、どっと笑いが起こる。
くっそ失敗したよ。やらかしたよ。久々の失敗作はすっごく心を抉るよ!
赤くなりそうな顔を必死で引き締めながら、大丈夫だった二つのキットから瓶に注ぐと、クラッシュが俺にウインクして寄越した。
「マック演出ありがと」
「……どういたしまして」
演出じゃないけどね。
肩が震えてるから、クラッシュは俺がわざと失敗したわけじゃないのは知ってるっぽい。こっちこそフォローありがとう。ああ、恥ずかしい。空が青いなあ。
「おひとり様10個まで。ランクはすべてSだよ。押さないで並んでね」
クラッシュの声と共に皆が我先にとクラッシュの前に並んでいく。
その間に俺は今度はマジックハイポーションの製作に取り掛かることにした。失敗作はしまいしまい。
ちなみに、さっきクラッシュが何か書いていた紙は、販売上限が書かれていた。いつもは3本上限だから歓声があがったみたいだった。
ほぼ全員が出来立てほやほやのハイポーション類を手にして、お開きになった時には、すでに辺りは暗くなっていた。
途中からクラッシュが明かりの球が出てくる魔法を唱えてくれたから手元はすごく明るいんだけどね。
ポーション各種だけじゃなくて、そこそこ調薬キットも売れたらしく、クラッシュは楽しそうに机を店に運んでいた。
「マックありがとう。メチャクチャ売れたよ。こんなに盛況だとは思わなかったよ。またやろうね」
「うん。でもキットも売れたってことは、自分で作る人が出てくるだろうから、普段売れなくなったりしない?」
「しないしない、大丈夫大丈夫。だって皆素人だよ。素人が作るポーションのまずさは知ってるでしょ。それに今日見せたのはハイポーションの作り方。でもマックだって最初はポーションから作ったでしょ。段階を踏まないで作っても失敗作しかできないよ。それでも作りたい人は自分から作り方を教えて貰えるところに教わりに行くか本で調べたりして腕を磨くだろうし。そういう人は何をしなくても最後には自分で色々する人だから。大丈夫」
クラッシュの言葉に思わず唸る。そこまで考えて実演販売なんてしたんだ。さすがクラッシュ。
なんて感心していたら、クラッシュが奥の部屋に向かいながら黒い笑みを俺に向けた。
「そしてね、調薬キットを使わなくなった人たちが、買ったときよりもものすごく安いお金でキットを売りに来るんだよ。大丈夫、この店はちゃんと買取するから」
負の循環まで見通していた。流石クラッシュ……。
クラッシュに頼まれてお茶を出しつつ、報酬の話になる。
「今回は素材はうち持ちだから、値段はいつもと違うよ」
「わかってるって」
ハイポーションマジックハイポーションが売れた本数をチェックしたクラッシュは、ブツブツ何かを呟きながらお金を袋に入れ、その袋を俺の前に置いた。
「色々込みで、マックの取り分はこれくらいでいいかな。あとは、そうだね……この間母さんから買い取ったレシピがあるんだけど、それもつけるね。なんかどこかのダンジョンで異邦人が見つけたレシピを高く買い取ったんだとか言ってた。見たことないアイテムのレシピなんだけど」
「レシピ! 正直そっちの方が嬉しいかも」
「マックならそう言うと思った。これだよ。『速度上昇薬』。名前からしてスピードが上がるやつみたいだけど、これ、マックがやってる調薬キット三つ並べて作るやつでしょ」
「ああ、うん。複合調薬で作るやつだ。やったありがとう。早速あとで作ってみよう。でも素材がないけど」
レシピを見ると、「風切り羽」と「ハイウルフの肉」を持ってなかった。
クラッシュにどの素材がないのか訊かれたので答えると、待ってて、とクラッシュは店の方に行った。
すぐに帰ってきたクラッシュの手には、魔物のドロップ品があった。
「これこれ、買っていく? たまに入ってくる素材なんだ。マック、魔物の素材ってそれほど持ってなそうだよね。もしよかったら面白い素材が入ったら取っておこうか? そしてマックがいらないんだったら店に出すよ」
「え、いいの?」
「それぐらいの融通はきくからね。だからマックもたまにはお客さんになってね」
「勿論! やった! ありがとう!」
素材を買い取りつつ満面の笑みを浮かべると、ピロン、とクエスト欄に通知が来た。クリアだ。
そのままご飯をクラッシュの店で作り、打ち上げをしてから、俺はホクホクと工房に帰った。
帰り着くと、早速新しいレシピを開いて挑戦することにした。
書かれている素材を並べて、調薬キットを各種取り出す。
「風切り羽」も「ハイウルフの肉」も、グツグツと煮込むと段々と溶けて小さくなっていくのが面白い。
そこに色んな素材を詰め込んで、煮込んで、混ぜて、よし、完成。
「『速度上昇薬:ランクS 一定時間だけスピードが上昇する液体 上昇幅はランク及び使用者の速さによる』って、もしかして素早い人の方が更に素早くなるってことかな。すごい。しかも最初からランクS。複合調薬も今のでレベル上がったし。やった」
出来上がった3本の速度上昇薬をインベントリに突っ込み、クエスト欄をチェックする。
『トレの雑貨屋で販売促進をしよう
トレの雑貨屋店主が店内で調薬を披露し販売して欲しいと依頼してきた。
店主に声を掛けられたら店で調薬を披露し、店主及び客を満足させ、販売を促進させよう。
クリア報酬:レア素材買取優先権利、親愛度上昇、レシピ
クエスト失敗:調薬に失敗 調薬を披露できなかった 再度挑戦時難易度上昇
【クエストクリア】
実演販売で予想以上の売り上げに貢献した
クリアランク:A
クリア報酬:レア素材買取優先権利、親愛度上昇、レシピ』
よし、とクエスト欄を閉じて、俺はログアウトすべく調薬キットをしまった。
週末は辺境。楽しみ楽しみ。
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※本作にはボーイズラブ要素およびオメガバース設定(α、β、Ωの概念やフェロモンに関する描写)が含まれています。苦手な方は閲覧にご注意ください。