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403、どうやって攻撃すればいいんだよ!
「この6時間って短いの長いの?」
タイムリミットに首を捻っていると、近くにいたハルポンさんが「短いな」と教えてくれた。
「例えばだ。俺らは死に戻れるからある程度は死んでも大丈夫だとするだろ。でも、死に戻るとホームに着くわけだ。俺らの今のホームは辺境、でもってマックはトレ。マックはまだ転移を使えるからいいとして、俺らがやられたらここに戻ってくるまでにタイムリミットになっちまう。かといって助っ人を頼むにしてもここに到着するまでの時間が勝負になるんだ。だから、6時間はかなり短い」
「なるほど。出てくるやつは俺たちより強そうですよね。オランさんが倒せなかったらしいから」
「オラン、ってあの獅子の獣人さんか? 確かに滅茶苦茶強そうだけど……どうやって知り合ったとかそう言うことは聞いてもいいのか?」
ハルポンさんは俺の立ち位置を掴めずに配慮してくれた。
あんまり言いたくない内容なんだよな、どうしようかな、と躊躇っていると、その言葉が聞こえたかのようにオランさんがこっちを向いた。
「マックは俺の恩人だ。そして、ヴィデロには返せない借りがある」
ぼそりと呟いた声に、ハルポンさんが「まあ、マックだしな」とわけのわからない納得の仕方をしていた。
でもこれ以上に心強い味方はいないと思うよ。
皆が武器を構える。ユイは俺が前に渡していた『魔力増強薬』を一瓶取り出して飲んだ。
そうだ。盾役のムコウダさんには『耐久値上昇薬』を渡しておこう。最近ようやくランク高いの作れたから。勿論長光さんに渡したのもランクが高いやつ。もう使ってみたのかな。ヴィデロさんなかなか使ってくれないで大事に貯めてるみたいだから。沢山使ってほしいのに。いざというときに取っておくんだって。
「ムコウダさん、これを飲んでみてください」
『耐久値上昇薬』を渡すと、ムコウダさんは驚いたように目を開いた。そして、「これは、マック君オリジナルか?」と訊いてきた。
レシピはレガロさんから貰ったからオリジナルじゃないんだよな、残念。違うよと首を振ると、ムコウダさんは「そうなのか、初めて見る物だな。ありがとう」と礼を言ってくれた。そして腰につけられた小さなポーチ風カバンから何かを取り出した。
「エルフの里に行く途中に出てくる謎素材だ。この薬の代わりにこれを貰ってくれ。俺では何も活用できないんだ」
「ありがとうございます!」
かえっていい物をもらってしまった。錬金素材ゲット。嬉しい。
サッとしまって、俺は手に聖魔法の本を持って構えた。
雄太とハルポンさんが最前線に立ち、『耐久値上昇薬』を飲んだムコウダさんがその間に立つ。
長光さんはさすがに相手が悪いと後ろに下がってきている。生産職だもんね。
それぞれがベストと思われる場所で戦闘態勢に入ると、オランさんが祭壇に向かって咆哮を上げた。
仲間である俺たちもビリビリするような咆哮だった。
その咆哮で祭壇の耐久値が一気になくなる。
耐久値が0になった瞬間、コトリ、と祭壇の小さな扉が開いた。
じわじわと何かが迫ってくるような焦燥感に駆られる。
直接心に恐怖を植え付けられるみたいなそんな感じがせり上がって来る。
確かにこの間対峙した骸骨なんかとは格が違うのが、肌でわかる。
「……くそ、ふざけんな!」
雄太も同じように感じてたらしく、その恐怖を払しょくするために出てくる影に向かって叫んでいた。
俺は本を片手に、ギュッとローブを掴んだ。途端に、カッと胸のあたりが熱くなる。
そう言えばこれ、前にも感じたことがある。あの闇魔法を使われたときの、胸の熱さ。
スッと熱が引くと、今まで感じていたあのえもいわれぬ感覚は薄れていた。
ホッと息を吐く。
「こんな残滓とか呼ばれるようなやつでビビってたら魔王なんて倒せるわけないじゃん!」
自分に活を入れるために声を出すと、ヴィデロさんがフッと口元を緩ませたように見えた。
「ほんとにな! こうやって最初に追い詰めないと俺らを倒せないとでも思ってんじゃね?」
「そうかも。ってことは、小物なんじゃん」
「そうだねえ、残滓って言ったら、搾りカス……」
「ちょ、乙、変なことを女の子の前で言わないでよ!」
「ミネ?! ミネさん?! 杖がこっち向いてるけど、敵さんあっちだよ?! ねえ、あっち! わかる?!」
「はぁ? わかってるに決まってんでしょ。わざと向けてるのよ」
フッと皆のこわばりが解けていく。皆ちゃんとあの状態異常を打ち消したんだ。よかった。
じわじわと祭壇から漏れ出てくる影は、段々と一か所に集まって、形になっていく。
まだHPバーはないから、攻撃していいのか悩みどころだ。と思ったら、ケインさんがいきなり魔法陣を描いた。
俺たち全員がその魔法陣に包まれて、ふとステータス欄を視界に入れたら、全パラメーターが少しずつ上がっていた。
俺は必死で聖魔法の本を捲った。
確かこの間ユキヒラたちと一緒に見ていた時にチラッと見かけたんだよ。ええと。
腰の聖短剣を取り出して、俺は本を片手に詠唱した。
「至高の神よ、その気高い神気を我が仲間の剣に纏わせ、闇を払う力を貸し与え給え。『聖属性付与』」
聖短剣から光が飛び、皆の武器を包んでいく。
その名の通りしばらくの間武器に聖属性を付与する魔法を唱えた俺は、マジックハイパーポーションを取り出した。聖魔法ってMPを馬鹿食いするのが多いのが困る。
皆の武器を視線を動かして確認すると、ちゃんと光り輝いていた。
オランさんもその爪に光を宿し、スッと腰を下げる。
目の前の影が人型になった瞬間、心を震わせるほどの低音の咆哮のような悲鳴のような音が広い部屋全体に響いて来る。
「ほんっと気持ち悪い。なにこの声、聞いてると滅茶苦茶潰したくなる」
俺の前の方に立っていたクラッシュが、顔を顰めながら呟いた。
その横に剣を構えていたやっぱり険しい顔のヴィデロさんに、クラッシュが肘をぐいぐいぶつけた。
「ヴィデロ、大丈夫? 正気?」
「ああ。これくらいなら大丈夫だ」
二人の会話を聞いて、ふと気付く。
この部屋、辺境の壁の向こうみたいな空気になってない?
もしかして目の前の叫んでる残滓が一瞬にして宙にある魔素を穢した、とか。
魔物化したら、二度と戻れない。そんな長老様の言葉が心臓に突き刺さった。
「この世界を見守る最上の神よ、その気高き聖なる神気でこの禍なる気を包みこみ給え。『円状鎮魂歌』」
今日はドイリーは最初から腕に巻いてる。さっきMPも回復した。
俺は全員を囲むようにしてルミエールダガー専用聖魔法を唱えた。
これで穢れた魔素が戻ればいい。
回復用アイテムはたくさん持ってるから、いくらでも浄化するよ。ヴィデロさんが魔物にならないように。
「ヴィデロさんはとりあえずクラッシュと一緒にこの場から……」
「逃げるわけないだろ」
ヴィデロさんに提案するも、すっぱり断られる。ですよね。でも「わかった」って言って欲しかった。
もう一度マジックハイパーポーションを呷りながら、こっそりと溜め息を吐いた。
「よっしゃ戦闘開始!」
魔物の頭上にはまだHPバーが出ていない、と思ったら、今の範囲浄化魔法が魔物にも掠っていて、ちらりと白いバーが見えた。
え、もう出てたんだ。あの黒いバーってぱっと見わからないよ。
ムコウダさんが盾を鳴らし、雄太とハルポンさんが飛び出す。海里も横に回って、ユイが宙に浮く。ブレイブが飛ばした魔法の矢には『感覚器官破壊薬』がつけられていて、乙さんが綺麗な青い炎の矢を番えて、射る。
そんな皆の間を潜る様に、ヴィデロさんとオランさんが正面から魔物に切りかかった。
爪とヴィデロさんの剣が同時に魔物の身体に沈む。
しかしその攻撃に合わせるかのように、魔物が一瞬だけ霧状になり、攻撃をかわされてしまった。
雄太とハルポンさんの攻撃も同じように全然ダメージを与えられない。
剣に聖属性を纏わせても攻撃出来ないなんて。
顔を顰めると、ルミエールダガーが光った。
「……もしかして、聖剣じゃないとだめ、とか……」
呟いた瞬間、長光さんが「マジかよ」と呟いた。
かといって俺の聖短剣は戦い向きじゃない。攻撃をすればするほど弱くなるから。
ユイとミネさんの魔法もブレイブと乙さんの魔法矢も、同じように躱されてしまう。掠めてもほぼHPバーは減らない。
俺も攻撃の聖魔法を唱えて飛ばしたけれど、さらに入念に避けられてしまった。当たれば致命傷なのかなって思う避けっぷりだったんだけど、当たらないと意味ないよ。
魔物の手がニュルっと伸びて、鞭のようにムコウダさんの盾を攻撃する。
もう片方の手で、周りにいる物理攻撃組を薙ぎ払いにかかった。
「昔も、こうやって全く俺たちの攻撃が効かなかった。だから仕方なく封印するしかなかった。あれから少しは力をつけたつもりでいたが、俺もまだまだだということだな」
魔物の手を自らの手で押さえながら、オランさんが自嘲する。
オランさんと力比べをしているその手を、すかさず雄太が切りかかった。
ザシュ、と何かを切る音がして、オランさんに抑えられていた手が落ちた。
そして、HPバーが少し減った。
「よっしゃ、攻撃の時はこいつ霧にならねえみたいだ! 攻撃通じるぜ!」
「高橋よくやった!」
「よっしゃ、高橋さすが!」
「色男!」
「金欠!」
いったん引きながら口笛を吹く雄太を、皆が口々に称える。若干一名褒め称えてない言葉もあったような気がするけど。
落ちた魔物の手は、ぶわっと霧に戻って、また魔物にくっついた。うわ、再生可能なのか。
今度は皆待ちの姿勢に入った。でもそうなると魔物も守りに入ってしまって膠着状態に陥った。
「あれじゃねえの、一定数攻撃しねえと反撃しねえタイプ」
ハルポンさんの言葉に、オランさんがすぐさま「違う」と返す。
「ケイン! 全体を覆う防御魔法陣を展開しろ!」
「はいよ今すぐ!」
オランさんの声にこたえて、ケインさんがすぐさま魔法陣で俺たち全員を包む。
そのすぐ後に、魔物の身体からぶわっとサークル状に黒い衝撃波のようなものが飛んだ。
360度死角なしの攻撃だった。
ぶち当たった祭壇の残骸が、激しい音と共に崩れ落ちる。
俺たちはケインさんの防御で何ともなかったけど、何あの全体攻撃。
普通に俺たちだけで戦ってたら一発で皆やられてたよ。
「うわあ、衝撃きっつい。ほらほらみんなぼーっとしてないであいつをやっつけちまえよ!」
ケインさんの声に我に返った前衛が咄嗟に飛び出す。
剣を振りまわすと、今度は霧になることなくザクザク切れた。そしてHPバーも少しずつ減っていく。
俺も必死で詠唱を唱えるけれど、その間にも段々と攻撃が通じなくなり、俺の魔法が飛んだ時にはやっぱり念入りによけられた。
「全体攻撃の後は3秒程度硬直時間があるみたいだ。その間に出来る限り攻撃!」
「3秒って短すぎねえ?!」
ハルポンさんが魔物と少し距離を開けながら皆に声を掛ける。
「でも相手が攻撃中か全体攻撃後くらいしか俺らの攻撃が当たらねえ! 狙っていくぞ!」
おお! という返事と共にまたも魔物の手が伸びて来る。
問題なのは、その手がかなり伸びること。
俺の目の前まで手が伸びてきて、何も出来ずにただ短剣を前に身体を竦めたところ、クラッシュとヴィルさんの剣がその手を弾いてくれた。
「この手に直接ダメージを受けると穢れるから気を付けろ! 動きはゆっくりだが、霧状になると物理も魔法も全く効かなくなる。弱点は聖属性と神気を纏った聖なる剣だが、その剣は俺たちは所持していないし、見たところそれは相手も知っていて、絶対にマックの魔法に当たらないようにしている。マックは詠唱をもっと早く、皆はとにかく硬直時間内に出来る限り手数を多く。闇魔法は吸収されてしまうから、絶対に使うなよ。全体攻撃はさっきのだけじゃなくて、魔素を穢していく最初に食らったあの咆哮とさらにエグイのが一つあるようだ」
ヴィルさんの剣に絡みついた黒い手を解析したのか、ヴィルさんは力比べをしながら口を開いた。
その間にヴィデロさんとオランさんが攻撃を仕掛けて、もう一本の手をムコウダさんが抑えている間に雄太とハルポンさんが攻撃を仕掛けている。
もしかして、通常の剣じゃダメージすら与えられなかったりするのかな。今は皆聖属性がくっついた剣だから大丈夫なのかな。ユイの魔法、着弾してもほぼダメージを与えられてない。
俺も必死で詠唱して聖魔法を飛ばすけれど、それが飛んだ瞬間魔物の手が戻っていってサッと霧状に変わった。くそ。絶対に俺の魔法に当たらないつもりだなあの魔物。
「じり貧だねえ。俺、聖属性の矢って作れないよ」
「奇遇だな、俺もだ」
弓の二人が苦い顔で呟く。さっきの属性付与の魔法、弓の人には矢じゃなくて弓の方に掛かっちゃうんだ。
思わぬ落とし穴に、俺は心の中でごめんなさいと呟いた。
ふと、長光さんが刀を鞘にしまった。
「まいったな……俺じゃ全く力になれねえから、ちょいと離脱してもいいか?」
皆に聞こえるように声を張り上げる長光さんに、皆が一瞬だけ視線を向ける。
いいと思うよ。だって長光さんは生産職だし。多分皆同じことを思ってるよ。
全員が頷いたのを見て、長光さんはフッと笑った。
「悪いな」
一言謝って、長光さんは魔法陣でその場から消えていった。
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※本作にはボーイズラブ要素およびオメガバース設定(α、β、Ωの概念やフェロモンに関する描写)が含まれています。苦手な方は閲覧にご注意ください。