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404、俺の攻撃当たりません‼
一人減った状態で、さらに戦闘は続いた。
攻撃中か全体攻撃の後にしかダメージを与えられないせいか、なかなか相手の体力を削げない。
俺はブレイブの近くに移動して、『起爆剤』を手渡した。
「これ、俺の詠唱と合わせてアレにぶつけられない?」
「いいぜ。必中のスキルで絶対にぶつけてやる」
ブレイブはニヤリと笑って受け取ると、早速弓を構えた。
「至高の神よ、その気高き神気で魔を打ち倒し給え、『聖球』!」
俺が打ちだす魔法に合わせて、ブレイブの矢が放たれる。
魔物が矢を避けようと霧になったその場でホーリーボムと『起爆剤』がぶつかり合い、霧状の魔物を包み込むように白い光の爆発が起こった。
見えていたHPバーが一気にググっと減る。よし、これなら霧状でも逃げられないんだ。
持っている限りの『起爆剤』をブレイブに託し、次の詠唱を唱えようと短剣を構えた。
次の瞬間、オランさんが「ケイン!」と叫ぶ。
魔法陣が俺たちを包み込むと同時に、魔物の身体から黒い煙がぶわっと溢れ出した。
そして部屋中をその煙で埋め尽くしてしまう。
「ふいー、何とか間に合った……。あいつ怖いなあ」
ケインさんが汗をぬぐっていると、周りを見回したヴィルさんが顔を顰めた。
「この霧に触れると穢れるから気を付けろよ。あの魔物の身体の中に取り込まれている状態になっているんだ」
「どうすりゃいいんだ? この魔法陣から動けないってことか?」
ハルポンさんが舌打ちする。
触れると穢れるって、普通に立ってたら全身穢れちゃうってことだよな。しかも一気に。
皆がじれたように周りの黒い空間を見回している。
穢れ自体は聖水で消えるけど。
と考えてハッと思い出した。
「皆! これ飲んで!」
インベントリからホーリーハイポーションを取り出して、皆に次々投げる。皆しっかりとキャッチして、一斉に飲んだ。
飲み終わってから、雄太に「ところでこれは何だよ」と訊かれて、俺はそれがしばらくの間聖属性になって穢れないアイテムだということを説明した。
「おま……、そういうもんは出し惜しみするんじゃねえ!」
「今まで忘れてたんだよ!」
雄太に盛大に突っ込まれて、そう叫び返すと、クラッシュに「まだ忘れてる有用なアイテムがありそうだよね」と冷静に突っ込まれた。
雄太が薄っすら光る大剣を構え、魔法陣の中を飛び出していく。
穢れないってわかった後の行動は大胆としか言いようがなかった。
真っ黒な煙の中やみくもに大剣を振り回す。
振り回すたびにそこの煙が切れていくのが、かなり不思議だった。
ハルポンさんとヴィデロさんも飛び出し、煙をザクザクと切り刻み始めると、魔物は諦めたように一か所に戻っていった。
「ほんとに穢れねえ! 怠くねえ! すげえ!」
ハイテンションのまま、雄太が大剣を魔物に突き刺す。
魔物は避けることなくそれをまともに受けて、おおおお、と叫び声をあげた。
すかさず一斉攻撃を掛けると、魔物のHPは目に見えて減った。
「マック、もう一回」
ブレイブが弓を構える。
俺ももう一度詠唱を唱え始めたところで、魔物の手が俺たちに伸びてきた。
咄嗟にムコウダさんが移動して防いでくれたので、詠唱を続ける。
ブレイブの矢が放たれた瞬間、魔物は全身を霧状にして、逃げるようにぶわっと移動し、『起爆剤』は魔物を包み込まずに爆発してしまった。
くそ、警戒された。
魔物の手が何度も何度も俺たちに向かって来る。
その伸びた手を前衛が刻んでは撃退してくれる。
HPの減りはやっぱり微々たるもので、ムコウダさんが魔物の注意を引くためのスキルを使ってもブレイブが弓を構えた瞬間俺たちに視線が来るようになってしまった。
少し減っては全体攻撃をケインさんの魔法陣で防ぎ、また攻撃の繰り返し。
ヴィデロさんは舌打ちして、オランさんに何かを囁いた。
そして踵を返して、クラッシュの横に来る。
「マック、すまない、少しクラッシュを借りる」
「ちょっと俺たちも離脱するね」
二人が俺にそう声をかけて、驚いている間にクラッシュの魔法陣で消えてしまった。
「あの二人どうしたんだよ!」
いきなりいなくなった二人に焦った声を上げるハルポンさんに、オランさんが「ここで有効な装備に着替えて来るだけだ。すぐ帰って来る」と淡々と告げた。
ああ、そうか。ヴィデロさん、工房にある鎧を取ってくる気だったんだ。あの鎧は闇無効だったもんね。確かにこの魔物にはうってつけの装備だよね。
「じゃあそれまでにあいつらがびっくりするぐらいHP削いどこうぜ!」
「そうだな」
雄太の気合いを入れる声に、オランさんが静かに賛同する。
魔物が360度全体攻撃を放った直後に、人数を減らした前衛が一斉に攻撃を仕掛けた。
硬直時に合わせ俺も詠唱を終わらせ、ブレイブもそれに合わせて矢を射てくれる。
「1,2」
3を数える手前で『起爆剤』が魔物に着弾し、同時に聖魔法の爆弾が起動する。
魔物を聖魔法の円が包み込み、全体攻撃後の硬直時だったら霧になって逃げることも出来ないんだということがわかった。
黒いHPバーは既に白の半分まで減っている。やっぱり聖属性魔法が一番効くよね。
「マック、ブレイブ、その調子でHP削り取れ!」
「言われなくても!」
マジックハイパーポーションを呷り、MPが満タンになるのを確認していると、俺たちの立っているど真ん中に人が現れた。
クラッシュと一緒にさっき消えたヴィデロさんだった。
身体には黒い鎧をつけている。
「すまない待たせた」
「大丈夫だ」
オランさんと拳を合わせたヴィデロさんは、改めて剣を構えると、すぐに戦闘に参加していった。
クラッシュもすぐに剣を手に前に走っていく。
「ヴィデロ、下がれ! ケイン!」
「はいよ!」
ケインさんの魔法陣が発動され、魔物の攻撃が部屋全体に広がっていく。
「ヴィデロさん?!」
そして、ケインさんの魔法陣の中にヴィデロさんはいなかった。
魔物のすぐ横で薄く光る剣を揮っている。
その攻撃は面白いように魔物に命中した。
魔物も硬直状態で逃げられないのか、剣が当たる度に悲鳴のような声を上げて苦しんでいる。
「もうお前の闇は怖くないんだ、悪いな!」
胸に剣を深々と刺され、魔物は甲高い声を上げながら霧となって逃げる。
ヴィデロさんはどこもなんともないようにそのあとを追った。
闇無効ってこういう時に力を発揮するんだ。すごい。
俺も負けてられない、と聖魔法を唱えて、皆の剣に聖属性を付与していく。
ようやく白いバーがなくなった、と思った瞬間。
魔物は最初の時と同じような咆哮を放った。
途端に部屋の空気が淀む。
「この世界を見守る最上の神よ、その気高き聖なる神気でこの禍なる気を包みこみ……うわ!」
すぐに浄化しようと詠唱を始めた瞬間、その禍々しい霧が俺に向かって集まってきた。
その霧が槍の形状に硬化して、俺の上に降りそそぐ。
「マック!」
腕と足に黒い槍が刺さり、思わず膝を着く。
ミネさんの回復魔法が飛んできたけれど、その槍が刺さった場所は黒くなっていた。さすが高濃度の穢れた魔素の塊。ホーリーハイポーションを飲んでてもアレだけ深手を負うとこうなるんだ。
インベントリから聖水を取り出して掛けると、じゅううという耳障りな音がして、その場所に激痛が走った。攻撃された時よりよっぽど痛いよ。
「大丈夫! もう回復したから!」
痛みを振り払って立ち上がると、俺はもう一度範囲浄化の魔法を掛けようと剣を構えた。
また攻撃が来ることを想定してか、ヴィデロさんが俺に走り寄って来る。
「槍がマックを狙ってる間は身体ががら空きだぜ!」
詠唱を始めると、途端に魔物が俺に集中するせいか、確かに本体は攻撃し放題だった。
でも一段階パワーアップしたせいか、さっきよりもダメージの通りは悪くなっている。
そして俺を狙う槍はすべてヴィデロさんが剣で弾いてくれるので、俺は急いで魔法を発動した。
重苦しかった空気が正常に戻る。
さすがに闇無効の鎧を着ていてもあの穢れた魔素は防げなそうだから。
それにしてもヴィデロさんが凄い。何十本一気に降ってきた槍を一本たりとも逃すことなく弾き飛ばしてた。すごくかっこいい。好き。
「マック、無茶するな」
「大丈夫。ガンガン魔法使うよ。でもさらに決定打が出せなくなっちゃったね。まだまだ体力三分の一削ったくらいなのに」
「……なかなか、強いな」
ギュッとヴィデロさんの口が結ばれる。
今度はヴィデロさんは前線ではなくて、俺の横で魔物攻撃を防ぐことにチェンジしたらしい。
何せ俺が詠唱を始めると途端に攻撃がこっちに来るから。
でもその間は攻撃され放題なんだけど、少しずつしかHPが減らないせいから、魔物は他の人の攻撃は放置することに決めたらしい。
「神気を纏った聖なる剣……」
剣から光が消え、聖属性が消えてしまった剣を見下ろして、ぽつりとヴィルさんが呟く。
俺かクラッシュがセィに跳んでユキヒラを連れて来るって手もあるよな、なんて考え始めたところで、部屋の中央に誰かが現れた。
「長光! と、ユキヒラ……?」
目の前に現れた二人に、ハルポンさんが驚愕の声を上げる。
「わりい合流が後れて遅くなった」
「って、なんだこの切羽詰まった状態」
ユキヒラは周りをぐるっと見回して、最後魔物の頭上に目を向けて、眉を顰めた。
「おい長光、聞いてる状態と違うぞ」
「そりゃ聖剣持ってる奴がいねえからな」
「お前、あいつらなら楽勝だけどとか言ってただろ!」
「いいからお前はガンガン攻撃と魔法使えばいいんだよ。クエスト来たんだろ?」
「長光の話を聞いた瞬間通知が来たっての。しかも現在進行で時間が減ってるしよ! おら、俺も参戦するぜ!」
腰の剣を引き抜き構えたユキヒラは、雄叫びを上げる魔物に向かって『セイントアロー! おらあ!』と宙に浮かんだ矢を放ちながら剣で切りかかった。
魔物は攻撃をすることもせずに、ユキヒラが来てからは逃げの一手に回り始めた。
「わり、ユキヒラを捕まえるのが遅くなった」
「長光さん生産職だからさすがに離脱かなって思ってました」
「まさか。この状態で逃げるってどこのクズだよ」
俺の隣に立って、長光さんが肩を竦める。
「マック君だって生産職だろ。なのに逃げてねえじゃん」
「俺は聖短剣の持ち主ですし、聖魔法使える人ですから」
「俺は聖剣の持ち主を知ってて、居場所も知ってた。だから連れてきた。同じだろ。あとは見てるくらいしか出来ねえけどな」
それにしても、と長光さんがヴィデロさんの鎧をまじまじと見た。正しくは、胸の義玉を。
「その鎧はあれだろ。辺境のセル爺さんの作ったやつだろ。変なもんがくっついてるけど。何だその玉」
「これはマックが作ってつけてくれた雷を蓄積できる物だ」
「……マック君」
「はい」
「俺と取引しないか? これもしかして謎素材で作るんだろ。謎素材が出たらとことん渡す。だからこういうのが出来たら俺に売ってくれ。すっげえ鎧とか剣とか出来そうだ。それにあの聖剣の石。見せてもらったけど笑える性能だな! あれをマック君が作ったっていうのが驚きだ。錬金ってのはヤバいな」
「ヤバいです。あの目の前の魔物を生み出したのも、もとをたどれば錬金釜のせいだとかなんだとか」
「そこまで歴史をひも解いていたのか。俺は大陸の方の昔話はあんまり見つけられなかったんだ」
「そこにいるヴィルさんなら俺より多分詳しいですよ」
何かを考えている風のヴィルさんを指さすと、長光さんは目を光らせた。
「後でゆっくり話を聞かせて貰うか」
にんまり笑うと、長光さんは懐からグリスのような物を取り出した。
そしてヴィデロさんの鎧にそれを少し塗り付けた。
「そこに細かい傷がある。弱くなってるから、あとで俺の所にメンテナンスに出せよ」
「頼む」
ヴィデロさんは魔物から目を離さずに一言そう言った。
「ってかなにこの魔物。攻撃全然当たらねえじゃん。どうやってここまで削ったんだよ?!」
「そりゃ、あいつが攻撃してる間は身体にこっちの攻撃が通るからその間にザクザクと」
「っつうか攻撃してこねえじゃん!」
「聖剣が目の前にあるからだろ。すげえなその剣。どうしたんだよ」
「なんか流れで手に入れたんだよ」
ハルポンさんと共に並んで魔物に剣を揮いながら、ユキヒラはちらりとオランさんに視線を向けた。
逃げるだけの魔物に舌打ちして、ユキヒラが一歩下がる。
「……無事だったんだな。よかった」
小さな声で言ったはずだったのに、俺にはユキヒラがそう言ったのがはっきりと聞こえた。
ユキヒラはオランさんがバラバラだった時に一度見てるから。オランさんはユキヒラを見ることなく、魔物から視線を離さずに、口元だけを持ち上げた。
そして、大きく息を吸い、俺たち全員が硬直するくらいの咆哮を放った。
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※本作にはボーイズラブ要素およびオメガバース設定(α、β、Ωの概念やフェロモンに関する描写)が含まれています。苦手な方は閲覧にご注意ください。