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412、もう始まってた!
相変わらずヴィルさんの用意したヴィデロさんのベッドはふわふわ感が半端なかった。
腰を下ろしたその感触にホゥ……っとなって、ついついそのまま寝転がる。気持ちいい。
ヴィルさんにチャットメッセージを送ろうと思ったけど、少しだけこのベッドの感触を楽しんでからでもいいかな、なんて柔らかい感触の誘惑に負けてしまう。
ヴィデロさんも俺の隣に転がってきて、小さく笑う。
「このベッドに寝ると、宿舎のベッドに寝れなくなりそうだな」
「俺の工房のベッドも奮発してこういうのにしようかな。すっごく快眠できそうだよね」
「逆にふわふわすぎて眠りが浅くなりそうだ」
そうかな。そうかも。
そんな曖昧な返事をしながら、ヴィデロさんの方に転がる。
広さは俺のベッドの方がちょっと広い気がするけど、ふわふわ感で完敗だ。
「ヴィルさんに色々伝えないとなのに、今はまだ伝えたくない……」
転がった先のヴィデロさんの胸に頬を摺り寄せて、その筋肉を堪能する。
気持ちいい。
張り詰めてた気持ちが解されていく気がする。
俺の腰の上に乗るヴィデロさんの腕もまた、とても心地いい重さで。優しく撫でられるその手がまた最高に気持ちよくて。
俺はいつの間にかヴィデロさんの部屋で寝ていたらしい。ハッと頭を上げると、部屋は真っ暗で、ギアがスリープ状態だった。
「寝落ちログアウト……?」
時間を見ようともそもそと立ち上がり、机の上の携帯端末を探す。何とか見つけ出してディスプレイを覗き込むと、日曜日の午前4時を示していた。寝落ちだ。
せっかくヴィデロさんとベッドの上だったのに。何やってんの俺……。
がっくりしながらいったんギアを取り外して、俺は部屋を出た。
シャワーを浴びて軽く冷蔵庫の中の物を食べて、部屋に戻る。
目がさえた俺は、もう一度ギアを被ってログインした。
目を開けるとそこはやっぱりヴィデロさんの部屋で、でも部屋の主は隣にはいなかった。
むくっと起き上がり、ふわふわのベッドを降りる。そしてヴィデロさんを探すべく部屋を出て、階段を下りると、そこから見える広い部屋のテーブルで、ヴィデロさんとヴィルさんが向かい合って座っていた。
「お、健吾、起きたのか」
「まだ早いぞ。もっと寝ていていいのに」
二人が同時くらいに俺に声をかけてくれる。
俺はもう大丈夫、と速足で階段を下りてヴィデロさんの横の椅子に腰を下ろした。
「ベッドとヴィデロさんが気持ちよすぎて、寝ちゃった」
「一瞬だったな。色々あったから疲れていたんだろ」
「うん。そうだ、ヴィルさんに伝えなきゃいけないことがあったんです」
俺がそう言うと、ヴィルさんはくすっと笑って「わかってる」とウインクした。
「すべて弟から聞いたよ。各街のギルドを転移魔法陣で繋いだんだろ。獣人たちが」
「はい。それを公式の方からちゃんとルールと共に出したほうがいいんじゃないかって俺たちの間で結論が出て」
「もう母には伝えたよ。母は宰相閣下と相談して早急に公式ホームページに載せるそうだ」
「え、もう?!」
なんていうか、皆行動が早すぎる。
実際に転移の魔法陣が使われ始めてから出すのはアウトだけど、それにしても早すぎる。
「母にごねられたよ。あなたがログインするようになってから通常業務外が忙しすぎるってな。でもまあ、可愛い弟の住む世界だ。もっと動き回って色々と探してみるよ」
「お前が動くと周りがかなり巻き込まれるけどな……俺含めて」
「諦めて巻き込まれろ。たった二人の兄弟だろ」
溜め息とともに零したヴィデロさんに、ヴィルさんが笑いながらグラスを差しだす。
それにヴィデロさんもグラスを軽くぶつけて、軽やかな音を立てた。
それにしても、この時間まで二人で飲んでたんだ。もしかして結構頻繁に飲んでたりするのかな。ずるい。
じっとお酒のグラスを見ていると、ヴィデロさんが笑った。
「マックも一緒に飲みたいのか? さすがにこの酒は甘くないし度が高いからお勧めできないぞ」
「そうか、ここでは成人すれば酒も大丈夫なのか。果実酒もあるぞ。健吾も一緒に飲むか?」
「いいんですか?」
「だって顔にずるいって書いてある」
早速ヴィルさんがグラスと酒を用意するために腰を上げたので、俺はテンションが上がってしまった。
やった! 二人と酒盛り!
グラスと酒瓶しかないテーブルを見て、俺はテンションが上がったまま、「つまみ用意してきます!!」と立った。
ダッシュで隣の工房に向かって、作りすぎて食糧庫のインベントリにぶち込んであるサンドイッチを取り出して、カバンのインベントリに入れ替え、果実を数点入れ替えて、俺は意気揚々と隣の建物に戻っていった。
持ってきた物を取り出して、テーブルに並べる。もちろん果実は皮を剥いて一口大に切って皿に盛る。勿論、トレアムさんに貰った新種のペスカの実も取り出して剥いていく。
ヴィルさんがいい香りのするオレンジ色のお酒を俺の前に置いてくれて、早速俺たちは乾杯した。
「お、見た事のない果物だな。これは?」
「ペスカっていう果物です。セッテの農園で最近作り始めた新種なんですけど。一つだけ貰ったんです」
「新種か。桃みたいだな。ほら」
ペスカの実をフォークで刺して、ヴィルさんがヴィデロさんにほい、と差し出す。差し出されたヴィデロさんは「兄にあーんされても嬉しくもなんともないな」とその手からフォークを奪い取った。そして一口齧って、フッと目元を和ませる。
「美味いな」
「うん。まだ出回るほど作ってないんだって。これからもう少し増やして様子見るって」
「そうか」
二口目で一切れを食べ終えたので、今度は俺がヴィデロさんにペスカの実を差し出してみる。
ヴィデロさんは今度は笑いながらそれを食べてくれた。
そうやって皆で酒盛りを楽しんでいると、玄関をノックする音が聞こえた。
ヴィルさんが返事をすると、赤片喰さんが入ってきた。
「ギルドに確認してきた。ほんとだったわ転移魔法陣」
「お疲れ、日暮」
あー何でこんな早朝から動かねえといけねえんだ、と文句を言いながら、空いている椅子ににドカッと座り込む。そっとサンドイッチの皿を差し出してみると、赤片喰さんはサンキュ、と早速手を伸ばした。
「後で天使に頼んでギルド統括に会わせてもらうか」
ヴィルさんの言葉でハッと思い出した俺。そうだった。エミリさんに会いに行かないといけないのは俺だった。
ちらりと時間を見ると、早朝5時。そろそろギルドも賑わってくるのかな。エミリさんはいるかな。
結局は開いてなかったびっくりマークのついたクエスト欄を、そっとタップする。
『【NEW】異種族交流を再開させよう
異種族間交流のための話し合いをしたいと宰相から申し入れがあった
人族、エルフ族、獣人族、異邦人を集めて、顔合わせをさせよう
タイムリミット: 6:25
クリア報酬:歯車噛み合い強化 縁強化 魔道具
クエスト失敗:異種族が集まらなかった 歯車の欠け発生』
クエスト欄を読んだ瞬間思わず声を出してしまった。
もうこのクエスト時間が進んでる。進行中になってる。
残りのタイムリミット6時間しかないよ! こんな状態で何悠長に寝てたんだよ俺!
慌てて椅子から立ち上がると、三人の視線が俺に向けられた。
「俺、すぐエミリさんの所と獣人さんの所に行かないと! ヴィルさん、アリッサさんは今日こっちにログインするかわかりますか? もし連絡が取れるんだったら、絶対にログインしてくれるよう頼んでもらえないでしょうか」
俺のいきなりのお願いに、ヴィルさんは目を丸くした。
「あ、ああ。弟に話を聞いた時点で母に伝えた時は、指示を出し次第宰相閣下と話をすると言っていたな。宰相閣下にはもう健吾が伝えたんだろ?」
「はい。でもその話し合いにエミリさんと獣人さんを会わせないといけないクエストがあって。タイムリミットがあと6時間なんです!」
「母には急ぐよう伝えておこう。とはいえ、もう少ししたらログインすると思うよ」
気を付けて、という言葉に頷いて魔法陣を描き始めると、サッとヴィデロさんが俺の左手を取った。
一緒に行ってくれるらしい。思わず頬を緩めながら、俺は冒険者ギルドに跳んだ。
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※本作にはボーイズラブ要素およびオメガバース設定(α、β、Ωの概念やフェロモンに関する描写)が含まれています。苦手な方は閲覧にご注意ください。