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426、搾取再び
村に着くと、俺はヒイロさんのもとに向かった。
途中たくさんの獣人さんと挨拶して、その都度あいつらどうしてる、なんて訊かれてしまった。皆タタンさんとガレンさんを心配してるんだなあ。すごく馴染んでるよとその都度返して、道を急ぐ。
ヒイロさんの治療院に声をかけて入っていくと、相変わらずヒイロさんはまったりしていた。
「ようマック。どうしたんだ? またなんかあったのか?」
「あったっていうか、訊きたいことがあるっていうか」
「俺が知ってることなら答えてやるけど、知らないことは答えられないよ」
ヒイロさんはそんな当たり前のような答えを返しながら、お茶を飲んでいた。キラキラしているからもちろん聖水茶。
「病気を治す薬って、作れますか?」
「作れるよ」
ヒイロさんがとても重大なことをへろっと答える。
え、待って、作れるの?!
「どどどうやって……?!」
「そりゃ、俺が作るんだから、調薬に決まってんだろ」
「え、と、あの、それ『万能薬』ですか……?」
「『万能薬』? 何だそりゃ。違うよ。俺が作るのは『シックポーション』ってやつだよ。え、なに、知らねえの……?」
俺の驚いてる顔を見て、ヒイロさんが驚いていた。
何そのポーション、初めて聞いたよ。
「あ、そうか。人族には出回ってない素材使うから、人族には作れねえのか……?」
首を捻るヒイロさんにずずいと詰め寄ると、俺はその手をがしっととった。
「あの、師匠、レシピ教えて下さい!」
「そりゃ構わねえよ。ただし、今素材が手元にねえから、取りに行くところからだよ」
「もちろんです!」
快諾してもらえて、俺はルンルン気分で早速ヒイロさんを外に連れ出した。
ヒイロさんは道を歩きながら、素材のある大まかな場所を教えてくれた。森の奥の方にあるから、そこら辺を歩いている誰かを捕まえて連れて行くらしい。早速いつもヴィデロさんと腕試しをしている獣人さんを見かけて、ヒイロさんは声をかけていた。
「なあなあフォルゴー、ちょっとそこまで一緒にいかねえ?」
「別にいいけど、今日はどこまで行く気だ?」
「ウネウネのところ」
「お、いいねえ。待ってろよ。もう一人連れてくるから」
「マックも一緒に行くからな」
「はいよ」
気のいい返事をくれたチーターらしき獣人さんは、サッと消えてすぐにもう一人のヴィデロさんの友達を連れてきた。
そして4人で森に入っていく。
それにしてもさっき、ウネウネの所って言ってたよな。ウネウネ……。もしかして、こっちではタルアル草が自生してるってこと……? ってことは地面に植わってるってこと? なんか怖い想像が……。
「師匠、もしかして、これから行くところって、タルアル草……?」
「なんだ、人族の所にもあるのか。それで何で『シックポーション』が出回ってないんだ?」
「タルアル草を確認できたのが、去年でしたから。それまではなかったんです。それに俺、持ってきました」
「ウネウネを? どうやって」
歩きながら、俺はインベントリからタルアル草の鉢植えを取り出した。
もちろんちゃんと魔力を遮断する布に包まれて大人しくしている。
これです、とヒイロさんの前に出すと、ヒイロさんは足を止めて、鉢植えをまじまじと見つめた。
「……こうやって持ち帰って裏に植えれば、取りに行くこともなくなるのか……!」
なぜかショックを受けたようだった。
俺鉢持ってこなかった! と天を仰ぐ。
「取ってきてやろうか?」
「いや……今度持って行くことにする」
「そういえばその株を分けてくれた人から魔力の豊富な土に触手を一本植えると株分けできるとか聞きましたけど。育てるなら魔力のある土じゃないとすぐ枯れるとか」
「そうかあ、土から作らないとだめなのかあ……土にマジックハイパーポーション混ぜただけじゃダメなのかな。そこらへん聞きてえなあ。マック、こんどウネウネの育て方、訊いてきてくれねえ?」
「いいですよ」
答えた瞬間、ピロンとクエスト欄に通知が来た。
手元にあったタルアル草は、今はヒイロさんが持ってまじまじと色んな方向から覗かれている。
その間に、と俺はクエスト欄を開いた。
『【NEW】タルアル草飼育方法を調べよう
狐獣人がタルアル草を育てたいらしい
タルアル草の飼育方法を調べて伝えよう
クリア報酬:レシピ 新鮮素材
クエスト失敗:狐獣人が満足できる情報が集まらなかった 親愛度微下降』
あっさりとした内容だった。レシピと新鮮素材が欲しいので、頑張って色々情報仕入れてきます!
気合いを入れていると、ヒイロさんがほい、とタルアル草の鉢植えを返してくれた。
「でもそれじゃちっと小さいから、やっぱ今日は素材採取な」
「でもこれ、鉢から地面に植え替えて魔力を渡すといきなり巨大化しますよ」
「それだとマックのウネウネがなくなっちまうだろ。それじゃマックが困るだろ」
フン、と鼻を鳴らして、ヒイロさんが腕を組む。株分けならまたしてくれるとは言ってたから大丈夫と答えると、「近くに自然の素材があるんだからしまっとけ」とさっさと先に行ってしまった。
言われた通り鉢をしまって、ヒイロさんの後を小走りで追う。
がさごそと草を越えて進んでいくと、森の木に絡まる何かが目に入った。
それは、木を数本巻き込んで広がりウネウネ動く、超巨大タルアル草だった。
「うわ……」
目に凶悪な光景だった。
森の一角がウネウネだらけ……。最初にタルアル草を見た時の衝撃もものすごかったけど、これは、それ以上だよ。これ以上近付きたくない。
怖気づいて足を止めていると、後ろから護衛の二人が笑いながら俺の背中をポンと叩いた。
「あいつらは俺らを取って食いはしないから大丈夫だって」
「でも魔力吸いつくされてヘロヘロになるじゃん」
「は? いやいや、そんなに魔力吸わねえよ?」
チーターの獣人さんは俺の言葉に怪訝な顔をした。
だってMPなくなりかけてもマジックハイポーションを飲まされて急かされて搾り取られたよ。
そのことを話すと、獣人さんたちが笑い転げ始めた。大爆笑である。笑い事か?!
「そりゃお前、よほどお前の魔力が美味かったか、餓えてたのか、その両方か」
「どっちにしてもそんな理由で搾り取られたなんてなんかやだ……」
げんなりした顔をすると、さらに獣人さんたちは大笑いした。
ヒイロさんはサクサク近付いていくと、伸びてきた触手に手を伸ばした。
「んー今日は半分くらい持ってっていいよ。大量にくれよ」
そんな交渉をしてるんだけど、交渉できるの?! 知能があるのは知ってたけど、これもう一種の種族でいいんじゃないのかな。なんか理解してるみたいだし。
じゃあ、今日は搾り取られることはないのかな、なんて思って一歩踏み出すと、違う株らしきタルアル草が触手をこっちに伸ばしてきた。
「あの、じゃあ俺も半分だけ……」
声をかけて、その触手に手を伸ばす。そっと触れると、MPがスッと減った。
そして、それが加速するようにぐいぐい減っていく。
これ、本当に半分で止まるんだよな……?
恐ろしいほどの減り具合に戦々恐々としていると、触れていたタルアル草の触手が俺の手首に絡みついてきた。
横から伸びて来る触手が俺の腰に回る。え、待って。何で俺抑えられてるんだよ……!
ふわっと足が地面から離れて、デジャヴが……ってデジャヴじゃないよ、これ、あの時の再現だよ!
「ちょ、待ってよ、これ以上吸われたら俺干乾びるから……!」
「やっぱりマックの魔力が気に入ってるんだな、ウネウネ……」
そこでしみじみ納得しないでよチーターさんんん!
またしてもMPをギリギリまで吸われて解放された俺。残り1だよ。もう力抜けたよ。でもここで回復すると、また搾り取られそうだからちょっとヘロヘロのまま我慢しよう……。と思ったら、魔力をあげ終えたヒイロさんが自分のマジックハイパーポーションを差し出してくれた。ヒイロさんの美味いんだよ。飲みたい……!
でも俺を掴んでいた触手がなんか後ろの方でスタンバってる気がするから、今は飲めない……!
ぐぐぐ、と我慢していると、ヒイロさんが俺とタルアル草を見比べて、ほら、と俺の手にマジックハイパーポーションを握らせた。
「まだそっちのウネウネは満足してねえみたいだから、飲まねえと採取できねえよ?」
「いつ満足するんですか……?!」
「んー、それはその個々によるから何とも言えねえなあ」
「またか……! またそのパターンか……!」
「それにしても、よっぽどマックの魔力が気に入ったんだな。俺の魔力は最初の契約どおりでちゃんと満足してくれるのになあ。難儀だな」
足りなかったらもっとやるから頑張れ、とヒイロさんに応援されて、俺は泣く泣く前と同じパターンで搾取されたのだった。
そして咲いたタルアル草の花は……。
「なんか赤に近いんですけど?!」
色がピンクなんて可愛い物じゃなくて、赤に近いめちゃくちゃ濃い色合いをしていた。これはこれで綺麗だけど、複雑。
「そんな色合いは初めて見たなあ。搾り取られたからな。あげた魔力によって色が違うのか。すげえなあ。ますます裏で育てたくなったな」
「が、がんばって調べてきます……」
地面にしゃがみ込んで、俺はぐったりと赤い花を見上げた。
最後にもう一度MPを回復して、今度はヒイロさんと一緒に採取にかかった。
結果的に、ヒイロさんが採取した物より、俺が採取できたものの方が倍以上多かった。次々瓶に溜まっていく『万能薬の素』に、最後にはヒイロさんも呆れた顔をしていた。だってくれるっていうんだもん。ありがたく貰うよ。
無事絞り終えて花の白くなったタルアル草は、伸びた触手で花を覆って、そのまま動かなくなった。
ヒイロさんによると、採取し終えた後はああなってしばらくしたらまた採取できるようになる、とのこと。奥の方にもあるらしいけど、入り口で事足りるんだそうだ。確かに。
あの採取中は魔物が出てきても対処できないから、いつも誰かについてきてもらうらしい。今日は魔物は出なかったけどね。そしてその報酬が、タルアル草の汁。いい酒代わりなんだとか。一本貰って何かと割ってそのまま飲むらしい。あの酩酊感が癖になるんだって。だからこその「いいねえ」だったらしい。あれ、俺は二度となりたくないよ。二日酔い……。ほんと辛かったから。
ヒイロさんの家に帰って来ると、ようやく『シックポーション』のレシピを教えて貰えることになった。
並べられた素材は、半分は錬金の『万能薬』と同じ素材を使っているけれど、『レッドホットサンドの葉』『狼の軟骨』『蜘蛛の帯電腑』は全然使わず、裏の畑で採れる素材を使うみたいだった。獣人の村にしかない素材だけどね。
ヒイロさんと一緒に調薬する。作り方自体はそこまで難しい物じゃなく、俺は無事『シックポーション』を作り上げることが出来た。でもヒイロさんのはランクS、俺のはランクC。まあ、そうだよね。これ、ランクによって治る病気が違ってくるみたいだ。
「ランクSだと『コウマ病』も治るんですか?」
「『コウマ病』? 治るよ。でもSじゃねえと治らねえ、とも言える。あれは厄介な病だからなあ。めんどくさいからヨシューを連れてきて魔法で治してもらうのが一番手っ取り早いんだけどな、あいつ、なかなか動かねえから」
「ああ……ヨシュー師匠は魔法で治せるんだ……」
「人族も聖魔法使えるやつはいるんだろ?」
「いるけど、上級の聖魔法を使えるような人は今多分いなくて」
もしできるとしたら、ニコロさんくらいだと思うんだけど、ニコロさんはMP足りるのかがちょっと不安だからなあ。すごそうな魔法だから、MPバカ食いするだろうしな。
その他の候補者は、ユキヒラくらいだし。
思わず溜め息を零すと、気を落とすなよ、とヒイロさんが俺の背中をポンポンしてくれた。
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※本作にはボーイズラブ要素およびオメガバース設定(α、β、Ωの概念やフェロモンに関する描写)が含まれています。苦手な方は閲覧にご注意ください。