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443、ちょっと交流
しおりを挟む洞窟の最奥の部屋の前に跳ぶと、丁度目の前にプレイヤーがいて、目をまん丸にしていた。
あ、見られた! と焦っていたら「薬師マックだ」と呟かれてさらに驚く。
「門番さんもいる。おはよう」
「あ、はい、おはようございます……?」
「どうも」
門に立っている時とは違って作り笑いを乗せていないヴィデロさんは、軽く挨拶すると俺を促した。
後ろから「ユイルちゃんまだいるよ。今日もユイルちゃん可愛かった!」と教えてくれたプレイヤーにありがとうと返して扉を開くと、確かに中にケインさんとユイルがいた。あとは数人のプレイヤー。
「おにいちゃん!」
ユイルがひゅんと飛んできて俺の腕にすっぽりと填まる。うう、可愛い。思わず頬擦りすると、ヴィデロさんも横から手を伸ばして、ユイルの頭を撫でた。今日も可愛い景色をありがとう。
「マック。昨日の今日でどうしたんだ? オラン様の往診か?」
「ヒイロ師匠がいるから俺が見なくて大丈夫じゃないですか」
「でもヒイロだぞ? 適当に看病してあとはほっぽってるぞ。どっちかというと世話してんのは詰めてる他の奴らだな」
その言い方に思わず笑う。昨日はしっかりと看病してるように見えたんだけどな。
ユイルはふわふわの尻尾をパタパタと振って、ヴィデロさんの手を堪能している。可愛い。
「いいなあ、ユイルちゃん抱っこ出来て」
「ユイルちゃん、お兄ちゃんにも抱っこされない?」
「お姉ちゃんにも。アランネあるよ。おいで」
「あのね、おとうしゃんにね、たべものにつられて知らない人についてっちゃだめだよっていわれてるの。ごめんね」
「くうう、正しい……」
「まさに……そっか。地道にここに通って、仲良しお姉ちゃんになれるよう頑張るね。ユイルちゃん大好きよ」
断られた女性プレイヤーは、笑顔でカバンからアランネの実を取り出すと、俺の腕の中にいるユイルにそっと渡した。
ユイルもニパッと笑って「ぼくもおねえちゃんだいしゅき! ありがとう!」と喜んでいる。
「薬師さんは今日はデート?」
そのプレイヤーにそう声を掛けられて、俺も思わず笑顔になった。
「そうです。採取デート!」
「マック、ユイルと同じ顔してる」
横でヴィデロさんがくすくす笑っているのが聞こえて、俺はユイルとだって仲良しだからねー、と顔を見合わせた。
「いいなあ。私もそれくらい仲良くなりたい。どうすれば仲良くなれるの?」
横で見ていたプレイヤーが羨ましそうにこっちを見ている。
それを聞いたケインさんが「そうだなあ」とジャル・ガーさんを見上げた。
横で話を聞いていたジャル・ガーさんが口を開く。
「そうだな。これから先、俺ら獣人と人族の交流も多くなるだろ。もし何かあった場合、俺たちを助けてくれねえか。まだまだ世の中には今の世代の風を感じられない輩もいる。その場合は、お前たち異邦人が一番頼りになる。俺はもう、昔と同じことをしたくねえんだ。せっかくようやく、お前らと、こいつらと、俺らがここまで寄り添えたんだ。また離れたくねえ」
腕を組んで微笑したジャル・ガーさんが、低い声で穏やかにお願いする。
プレイヤーさんたちはジャル・ガーさんの本をしっかりと読んでいたらしく、真剣な顔をして頷いた。
「わかった。何かあったら全力で俺らが力になるよ」
「私も。だから、もっともっと交流しましょう。石像がいらなくなったら、ユイルちゃんと一緒にいれるんでしょ。私は、あなたとユイルちゃんが幸せに生きられるのを願ってるわ」
目に涙を溜めながら話す女性プレイヤーに、俺の手から抜け出したユイルがちょこんと飛び乗る。そして、満面の笑みで、頬擦りした。
「おねえちゃん、だいしゅき」
「ゆ、ゆ、ユイルちゃん……!?」
いきなり抱っこ出来たプレイヤーの人は、驚いて涙も引っ込んだらしく、ユイルを手に乗せたまま固まっていた。
こうして皆をメロメロにしてるんだな、ユイル。わざとじゃないんだろうけど。
ユイルの行動を見ていたジャル・ガーさんは苦笑して「ユイルの大好きは独り占め出来ねえなあ」なんて呟いていた。確かに。番なのにね。焼きもち妬かないのかな。
少しだけ皆で話をして、プレイヤーさんたちは名残惜しいけど、と帰って行った。これからノヴェに戻ってレベル上げするんだって。魔法陣の登録をしに来たらしい。
俺たちだけになった部屋で、ユイルにお茶のお誘いを受けた俺。少しだけ大人びた顔をしてから「えいゆうともいっしょにおちゃのみたいな」と呟いたユイルは、一瞬後にはいつもの顔に戻って、「ぼくがおおきくなったらいっぱいおちゃのめるから、楽しみ」と笑った。
「え、じゃあここでピクニックみたいに一緒にお茶飲めばいいんじゃないかな」
ふと思いついたことを呟くと、ユイルの顔がめちゃくちゃ輝いた。
そして、インベントリの中で放置していた魔物の皮を広げて敷き、そのうえで5人でお茶することになった。でもこれはこれで楽しいよね。
作り置きしてある軽食と果物のスイーツを取り出して切り分け、皆で座ってお茶を飲む。
その間中ユイルははしゃぎっぱなしで、それを見たケインさんもちょっと嬉しそうで、とても有意義なお茶時間になったのだった。楽しかった。
ケインさんに連れられて獣人の村に行くと、すぐさまユイルのお友達が集まってきた。
遊びに誘いに来たらしい。ついでにフンフンユイルの匂いを嗅いで、なんかおいしそうな匂いがする、と子供たちが騒ぎ始めたので、俺はインベントリを漁って残っていた最後のお菓子を皆に分けた。また作っておかないとな。非常食。
誰かの家に行くわけではなく、俺とヴィデロさんは村はずれの採取場所に足を進めた。
うずくまって草を採取していると、後ろで立っていたヴィデロさんに見回り獣人さんたちが声をかけて来て、わいわい盛り上がり始めた。
ヴィデロさんの楽しそうに話す声を聴きながら、俺は手を動かした。
「今日暇なら一緒に森に入らねえか? ちょっと厄介なやつが出たって隣の村のやつが言っててよ。こっちにもいるかもしれねえんだ」
「厄介なやつ?」
「ああ。動きは早くねえし、そこまで強くもねえんだけど、毒を持ってるらしくてな。俺らが爪で攻撃すると毒を貰っちまうらしいんだ。ヒイロが必死で毒消しを作ってて、「誰か剣使えよ!」って怒鳴ってた。でも俺ら剣は苦手でよ」
「わかった。手伝おう。マックはヒイロの手伝いをしててくれ」
採取が終わって立ち上がると、獣人たちはそんな物騒な話をしていた。
え、待って、毒があるような魔物をヴィデロさんが?
思わず顔を顰めると、ヴィデロさんは大丈夫、と俺を安心させるような笑顔を向けた。
「このカバンの中に、マック特製キュアポーションが沢山入ってるんだろ。だったら大丈夫」
「そりゃ、10個くらいは詰め込んだけど。でもキュアポーションは猛毒には効かないんだよ」
「まずはこっちの村付近に出るかもわからねえからな、そんな顔すんなよマック。俺らが悪い遊びにヴィデロを誘ってるみてえじゃねえか」
違いねえ! とその獣人さんの言葉に周りがどっと沸く。そこまで切羽詰まってなさそうだから、大丈夫だとは思うんだけど。
でも今日はヴィデロさんとデートのはずで。せっかくのデートが。
恨みがましく獣人さんを見上げると、ヴィデロさんが「ほっとけないだろ」と俺をなだめるかのようにおでこにキスをした。
死に戻るから大丈夫ってことを獣人さんたちに強調して、俺も結局見回りについていくことにした。最初は1人を守りながら戦うなんて無理だと渋られたけど、その場合は囮に使っても放置してもいいからと念を押す。
家にいたヒイロさんから毒消しのポーションをわんさか貰って森に出発しようとした俺に、ヒイロさんは俺の知らない毒消しの薬のレシピをそっと渡してきた。
見回りの途中でも何かあった場合即席で作って何とかするためかな、なんて思ったら。
「見回り戻ってきたら、これをたくさん作ってくれねえ? そろそろオラン様の様子見の時間なんだよ」
仕事を丸投げされただけだった。チラッと机の上を見たけど、「好きにもってけ」と書かれた紙のよこに、俺たちも貰った毒消しの薬が山になっていた。めんどくさくなったんだろうなあ。
「無事帰ってこなきゃいけなくなったな。絶対に囮とか身代わりとかそういうの考えるなよ、マック」
そっとヴィデロさんに言われて、俺はうっと言葉に詰まった
いいじゃん身代わり。ヴィデロさんがやられるより全然マシ。だって俺は復活したらすぐここに戻ってこれるから。
ヴィデロさんの友達獣人さん4人と俺たちは、背の高い草をかき分けて森に入っていった。
この草、スピード重視の人にはちょっと厄介なんじゃないかな。なんて思いながら進み辛い道を必死で進む。
特に魔物によって草をかき分けられた形跡もなく、踏み締められた地面もない。
進み辛いー、と途中泣き言を言うと、獣人さんの一人が何で草を伸ばしておくのか説明してくれた。
まず、こういうところは魔物もあまりスピードを上げられないらしい。適度に木も生えていて、下手にスピードを出すと樹に激突する恐れがあるから。それに草が倒れていると、そこで何かがいた、あるいはあったと目安にすることが出来るんだって。
そして、これが重要らしいけど、もし間違って子供が森に迷い込んだ時に、草が伸びていると、子供がどこにいるのか視界では識別不能になるからなんだって。もし魔物に遭遇したらできるだけ身を低くして、草の中をダッシュで逃げろ、と子供たちには教え込んでいるらしい。
だからこそ、最初ユイルも魔物から逃げることが出来たんだって。匂いに敏感な魔物も、草をかき分けることで身体に草の匂いが付くから、判断しにくくなるんだとか。なるほど。
理解は出来ても、胸のあたりまである草はどうにも進み辛く、俺は早々にスタミナポーションのお世話になった。
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