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446、頑張るから!
「さ、マック。さっさとさっきの実を出しな」
ヒイロさんに言われて、俺はちょっとだけ顔を顰めた。
躊躇っていると、ヒイロさんから叱咤が飛んでくる。
「そんなんじゃヴィデロたちになんかあった時に中和剤が出来てねえだろ! 実際の物があるとないのとでは出来るスピードが雲泥の差なんだよ! ちゃんと俺が作ってやるから、早く出せ!」
「はい……!」
ヒイロさんに押されるように、俺はインベントリから実と蔦を出した。
ヒイロさんはそれを手に取ると、「鑑定眼」と呟いた。
「よっしゃわかった。そういうことか」
一人頷いて、数個ある実の一つを爪でサッと割り開いていく。
「くう、キッツい匂いだなあ。確かにこれは中毒性強そうだ。マックはさっき言ってたこれを枯らすための農薬作り、俺はこっちの中和剤作り。全力でやるから覚悟しろよ」
「はい師匠!」
俺の返事によし、と頷くと、ヒイロさんは早速爪に着いた果汁をぺろりとひと舐めした。そしてすぐさま隣にある毒消しを飲む。
そして、うーんと考えたあとに、たくさんの素材が入っている棚に向かって行った。
俺もこうしちゃいられない、と早速レシピを開けてみる。
でも、サラっと流し読んだだけのせいか、レシピ欄に書かれている物は中途半端だった。
「師匠、ちょっとトレに行って調べものと素材回収をしてきていいですか」
「行って来いよ。急げよ」
両手にたんまりと色んな素材を抱えて来たヒイロさんは、返事もそこそこにすぐに下処理を始めた。
負けてられない、と俺はヒイロさんの家から直接森に跳んだ。そこからジャル・ガーさんの洞窟に移動して、部屋を出た瞬間カイルさんの農園に跳んだ。
マジックハイパーポーションでMPを回復させつつカイルさんを呼ぶと、カイルさんは農園裏の倉庫から顔を出した。
「おうマック。どうした、急ぎか」
「うん。大分前に見せてもらったお祖父さんの書斎、また見せて欲しいんだ。調べたいレシピがあって」
「おう。好きに見てけよ。何かあったら裏から呼べよ。すぐ行くから」
「ありがと」
お礼もそこそこに、俺は早速母屋の奥の書庫に突き進んでいった。
どこにあったのかなんて全然覚えてないけれど、確か、表紙が暗い色をしていた気がする。
パッと見て目に入る黒っぽい背表紙の本を片っ端から眺めて、本の題名を見て当たりを付ける。
「確か、病気か何かのを調べてたはずだから、絶対違うっていう題名の本は横にどかしてたんだよな……」
今回もその手で行こう、と心に決めて、黒い本を集めた俺は、背表紙に書かれている題名を見て省けるものは片っ端から省いた。ああ、今度ゆっくり見せてもらおう。って、前にも思ったんじゃなかったっけ。
全く同じことを思いながら、全く同じような、はやる気持ちで本を繰る。
速読レベルが前より格段に上がっていたせいか、前よりもさらに速いスピードで中を確認できるようになっていることをありがたく感じながら、俺はひたすらそれっぽい本を探した。
しばらく黙々と本を捲り続けていた俺は、一時間程して、ようやくお目当てのレシピを見つけた。
今度こそしっかりと細部まで読み込んで、レシピ欄に表示されるようにする。
本を閉じて「よし」と頷いた俺は、ふと前も調べたことのなかった棚に目を向けた。
そこには、禁止薬物という文字が書かれた本が、他の本に紛れてちょこんと入っていた。そうか。農園だからこういう物もしっかりと管理しないといけないんだ。自分が作るためじゃなくて、誰かが隠れて禁止薬物を作っていた時にちゃんと見分けがつくように。
なるほどと思いながらその本に手を伸ばす。
あわよくばさっきの実が載ってないかな、なんて期待したけれども、流石にそれはなかった。獣人さんたちですら初めて見る実だって言ってたから、新しい品種なのかもしれないし。
でも、その本にとんでもないヒントが隠されていたので、俺は本を手にカイルさんのもとに走った。
「カイルさん! この本、ちょっとだけ貸し出して貰っちゃダメかな!」
駆け寄った俺の手にあった本を見下ろして、カイルさんは眉を顰めた。
「こりゃまた物騒なもんを持ち出してきたな。確かそれ、外に知識が洩れたらやべえ奴だ。貸し出すのは構わねえが、農園関係者以外の目についたら罰せられるぞ」
「俺の薬師の師匠なんだけど、それでもダメかな」
「そうだな……薬師だってだけなら、悪事を働くかもしれねえからって、農園関係者二人の推薦がねえと見せることは出来ねえな。もちろん、本を見ること自体じゃなくて、内容の知識を教えることもそれに含まれるはずだ」
「関係者二人の推薦……一応俺も農園関係者になるよね」
「そりゃもちろん。でもマックだけじゃダメだな。もう一人必要になる」
カイルさんの言葉に、俺は唸った。
もう一人、誰かヒイロさんを推薦できる人なんているかな。カイルさんはヒイロさんを知らないから、たとえ俺の師匠だって言っても絶対にうんって言ってくれないだろうし、輪廻に頼むのはどうかな。他の草花薬師って知らないし……とそこで頭に浮かんだのは、モントさん。ヒイロさんとどこまで仲良くなっているのかが賭けに近いけど、もしかしたら推薦してくれるかも。
俺はパッと顔を上げて、「モントさんの所に行ってくる!」とカイルさんの目の前で魔法陣を描いた。消える直前、苦笑して手を振っていたカイルさんが目に入った。
モントさんの所に跳んだ俺は、すぐさまモントさんにさっきの本を見せた。
「モントさん緊急事態なんです! この本、師匠に見せてもいいですか?!」
「どうしたどうした。そんなに焦って」
「ちょっと獣人の村で緊急事態でして。この本を参考に師匠とある物を作らないといけないんですが、カイルさんから農園関係者二人の推薦がないと見せたり活用したりしちゃダメだって言われて」
「そりゃ禁書だからな。相手はヒイロなんだな? あいつなら知識も俺以上にあるし、マックよりも薬師としての腕もある。もちろん問題はねえ。しかし、訳を教えてくれねえか。さっき緊急で冒険者ギルドから草花薬師の集合が掛かってたからよ。マックも行ってくれるか?」
「大丈夫です。俺、既に行ってるんで。それでこの本が必要になって」
俺はまだインベントリに入っていたリルの実を取り出して、モントさんに見せた。
その中毒性と中和剤をこれから作るということを説明して、だからこそこの禁書が必要だということを説く。
だってこの本、リルの実じゃないけど、中毒になる実の中和剤の作り方が書かれてるんだもん。それを参考に出来るかもしれない。
話をきいたモントさんは、「わかった。俺が推薦してやる」と頷いてくれた。誰かに申請しないといけないのかと思ったら、それはないらしい。モントさんの言葉一つで大丈夫だって。あとで禁書を使った作業が発覚した時に、それが悪事だった場合、推薦した俺とモントさんも罪に問われて、逆に全然悪事系じゃなかった場合は推薦は特にどうもしないらしい。主に連帯責任を取らされる人がいるから、自重しろって意味合いの推薦なんだって。だったら大丈夫だよね。師匠はめんどくさがって悪いことなんて絶対にしないから。
「草花薬師はこの後各街の農園に出向いて、集まったところで迎えが来るんだとよ。緊急依頼が出た時点で各ギルドの魔法陣が緊急仕様になるってことらしいし。よくわからねえが、その調子じゃあとでマックの所に行くことになると思う」
「わかりました。じゃあ一足先に行ってます。ところでモントさん。素材、売ってください」
必要になると思われる素材を数点大量買いした俺は、トレの工房に戻ってくると、早速レシピに必要な素材を選び始めた。
レシピに書かれていた素材はすべてがエルフの村か農園でしか手に入らない物だったけれど、幸い工房の錬金用倉庫インベントリにほぼすべて入っていたので取り出す。足りなかったものはモントさんの所から買い足したから、これで大丈夫。禁書に書かれている素材も詰め込んで、俺はジャル・ガーさんの所に跳んだ。
ジャル・ガーさんは石化を解かれた状態で洞窟にいた。
「マック。村を頼む」
「もちろん」
「俺もあとから行くからよ。助けてくれる奴らを連れて」
「待ってます!」
俺の返事と共に、ジャル・ガーさんが道を開けてくれる。
気合いを入れて、俺はヒイロさんの所に戻った。
ヒイロさんはあーでもないこーでもないと色んな素材を混ぜてみては首を捻っていた。でもやっぱり失敗はないらしく、黒い物体じゃなくて何らかの薬になっていた。
「ヒイロさん! この本見てください! これに中和剤を作るヒントみたいなの載ってました!」
「でかした! どれどれ……なんだこれ。『ブルベル』なんて見たことねえよ」
「俺たくさん持ってます! 生ってるところも知ってます」
「この『深層塩藻』ってのは」
「それも持ってますし、売ってるところを知ってるので大丈夫です!」
よっしゃよっしゃと呟いて、ヒイロさんは禁書を覗き込みながら迷いない手つきで調薬器具を弄り始めた。
もちろんレシピに書かれている素材は、俺から提供済み。
俺もレシピを見ながら、草を枯らすアイテム作りを始めた。
ドイリーを敷いて、錬金釜を乗せる。
素材を用意して、レシピを覗きつつ手順を確認する。サラさんの錬金方法をきいて、多分順番はそこまで関係ないんだろうなとは思ったけれど、一度身に付いた癖は抜けることなく、レシピに描かれた通りの順番に並べてチェックした俺は、深呼吸して釜にMPを注いだ。
謎液体で釜の中を満たしながら、ヴィデロさんを想う。
大丈夫。ヴィデロさんは強いから。だから、信じて俺も頑張ろう。
ヒイロさんが大量に用意していてくれたマジックハイパーポーションを1本手に取り一気飲みして、俺は掻き混ぜる棒を手に持った。
ヒイロさんがグツグツする近くで、俺はグルグルし続ける。
素材は順調に混ざって液体に消えていき、ボン、という失敗の煙はまだ出ない。
MPもまだまだ余裕がある。ゆっくりと、丁寧に。
棒は重くなることなく、素材だけが消えて行く。その都度変色していくのを目で追いながら、最後の素材を投入した。
途端にぐっとMPの減りが早くなる。もってくれ、俺のMP。もう少し、もう少し。祈りながら掻き混ぜていると、ふわっと色がなくなり、釜の中の液体が透明になった。
「できた!」
釜の中身を瓶に移し、鑑定してみると『生物枯死薬』となっていた。効能は、生物の体内にある水分を枯渇させ、枯死させる薬だそうだ。うわ、間違えて人が飲んだら干乾びるよこれ。
一回の錬金で瓶4本出来上がったから、もう一度ヒイロさんの薬で回復する。大量に作って、発生しているあの実を確実に枯らさないといけないから。
「その前に」
と俺は釜に謎液体を満たす前に手を止めて、インベントリからリルの実の蔦を取り出した。
少しだけ切り離して、そこに出来立てほやほやの『生物枯死薬』を一滴垂らしてみると、見る間にみずみずしい草が茶色く枯れていった。そして、触った瞬間形が崩れ、さらさらになる。
水分がなくなりすぎて元の形を保ってられなかったらしい。そんなこともあるんだ。ちょっとだけぞっとしながら、俺は「成功です!」とヒイロさんに声を掛けた。
「よくやった。でもそれ、あぶねえ薬だな」
「そうですね。触ると水分なくなるんで気を付けてください」
「怖くて触れねえよ。俺のミイラが出来上がっちまう。でも、この分だと一つの村一本で行けそうだな」
「ですね。ただし撒くのは俺たちがやります」
「扱い注意だな」
もう二度ほど錬金をして、全7村分の薬の他に予備も追加した俺は、今度こそヒイロさんの手伝いをしようと錬金釜をしまいこんだ。
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※本作にはボーイズラブ要素およびオメガバース設定(α、β、Ωの概念やフェロモンに関する描写)が含まれています。苦手な方は閲覧にご注意ください。