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連載
459、ユイル、頑張った
『やあヴィル。なにしてるの? え、ヴィルの世界に俺の店を宣伝? わ、ありがとう』
クラッシュの言葉がログとして流れて来て、クラッシュがモニターに映っているんだとわかる。
あの顔はモニター映えするだろうなあ。美形だし。美形と言えば、ヴィルさんはヴィデロさんに絡みに行かないのかな。せっかく映像を頼んだのにヴィデロさんが出なかったらあんまり意味ない。
でも中継は二回くらいずつって打ち合わせの時に言ってたはず。ここもユイルが頑張ったらあとは終了になるはずだし。今クラッシュの店ってことは門の所には行かないで終わるのかな。
少しがっかりしながらお茶のおかわりを入れて、インベントリから残りのふわふわドーナツを取り出す。
すかさず雄太の手が伸びたけど、好きなだけ食べなさい、と温かい目で見守った。
『ところで天使、ちょっと頼みがあるんだが』
『なになに?』
『少し門まで連れて行ってくれないか? 転移の魔法陣を使って』
『いいよ。もしかして揶揄いに行くの? いいね、面白そう』
ふと流れたログに、思わずがたっと席を立つ。
つい「ヴィルさんナイス!」と声に出して言ってしまうと、インカムからくすくす笑いが聞こえた。あ、今の言葉聞こえちゃってた。
くっそ、目の前で映像が流れてくれないのが悔しい。見たい。ヴィデロさんを見たい。
『よう、ヴィル。今日はどうしたんだ? ほら、お兄様が来たぜ』
『何しに来たんだ。今日は何かがあるとか聞いたんだが』
『ああ。俺たちの世界にここが映されているんだ。この世界がどんな所かを紹介するためにね。そのためには君は外せないだろ』
『俺は関係ないだろ』
『いいや、関係おおありだ。君の登場を待っている愛しの人がいるんだよ』
そっと『マックが、君が映像になっている姿を見たいからと母の部下にこの映像を送ってもらうように頼んでいたんだ。だから、君が映らないとマックが悲しむ。出来れば面を上げてくれないか?』とインカムから流れて来た言葉によって、俺が密かに運営の人と約束していたことがヴィルさんには筒抜けだったということに気付いた。ついでに、同じようにインカムをオンにしていた雄太たちにバレた。くっそ、あの担当の人、いい仕事してくれるぜ……。
雄太たちからの視線を感じたけど、俺は顔を背けて目を合わせることがなかった。いいじゃん、担当の人も快く了承してくれたし。
『これでいいのか?』
『はは、面を上げるだけでよかったんだけどな』
『それにしても、二人並ぶとほんと似てるねえ』
もしかして、面を上げただけじゃなくて、兜を取ったとか。見たい……! 見たいです! いつも見てるけど、画面越しにも見たいです!
きっとかっこいいんだろうなあ。すごくかっこいいんだろうなあ。画面越しじゃなくてもかっこいいもん。好き。
一人悶えていると、ヴィルさんたちの中継じゃないログが流れた。
もうすぐこっちに中継が移るよという連絡だった。
「ユイルちゃん、もうすぐ出番だって。頑張ってね」
「うん! とりしゃん、ぼくをうつしてくれるの?」
「そうよ。お父さんも一緒に回るんですって。どこに行きたい?」
「ええと、えいゆうのところにあんないしたい! えいゆうのところ!」
「でもあそこは獣人の村じゃないよ。いいのかな?」
海里とユイが顔を合わせて首を捻っていると、ケインさんが「大丈夫じゃねえか」と口を挟んできた。
「基本はユイルが好きに動けばそれに鳥が付いてくるみたいなことを言われたから、ユイル任せだ。ただし予定通り見せてはだめな場所に入ろうとしたら鳥がちゃんと逃げてくれるらしい」
「そうなんだ。じゃあ私たちは離れて護衛でいいのかな」
「一緒でもいいとは思うけどな」
「そっか。じゃあ危なくなったら遠慮なく近付くね」
さ、そろそろ移動しようか、と皆が立ち上がったので、俺もトレ中継を気にしつつ立ち上がる。
ユイルの冒険も見たいし、あとで映像は貰えるし。とりあえずはやることやらないとね。
家から出ると、どこからともなく鳥が飛んできた。ユイルの近くを付かず離れず移動している。
「ユイル、あの鳥さんにお話ししてごらん」
「とりしゃん? あのね、ぼく、えいゆうをみんなにしょうかいしたいの。いい?」
『おお、可愛い獣人の子が英雄を紹介してくれるそうだよ。どんな英雄が出て来るか楽しみだな。頼むよ!』
会場の司会者の合いの手が入り、鳥がピヨと鳴く。
ユイルはそれに気を良くしたのか、時折鳥がちゃんと付いて来ているか確認しながら村を横切った。
たまに、「ぼくここであそぶの」とか「こっちは森だから入っちゃダメっておとうしゃんにおこられるの」と色々紹介しながらジャル・ガーさんの元に行く道をひた走る。
鳥がユイルの言葉にちゃんとピヨピヨ鳴くので、会話しているように見えるのが和む。本当は司会の人が何か答えているんだけど、それはユイルには聞こえないからすごくメルヘン。
「ここを通ると、えいゆうのところだよ。いい?」
ユイルが固定魔法陣を通り抜け、ジャル・ガーさんの洞窟に跳ぶ。宙を浮いていると魔法陣を踏めないらしく、鳥は少しだけ戸惑って、ケインさんの肩にとまった。そしてケインさんと共に魔法陣を抜けた。
俺たちも少し遅れて洞窟に抜けると、すでにジャル・ガーさんの石化は解かれていて、ユイルが一生懸命ジャル・ガーさんを紹介していた。
「それでね、えいゆうは、ぼくを迎えにきてくれるんだって。やくしょくしたの! あのね、みんななかよくなればいいんだって。ぼく、みんななかよくしてほしいなあ」
「でもユイル、世の中には悪い大人もわんさかいるんだから、優しい言葉に騙されちゃだめだよ」
ケインさんが必死で注意しているのも、鳥はしっかりと映してるみたいだった。
「おとうしゃん、だいじょうぶだよ。ぼくたち悪いことをかんがえてる人はわかるでしょ」
「そうだけども! 父ちゃんはユイルが連れ去られて行っちゃわないかと心配で心配で」
「でもねおとうしゃん、おとなりのおにいちゃんがいってたよ。なんだっけ。『しんらいしないとしんらいはかえってこない』って。むずかしくてよく意味がわからないけど、なんかすごくかっこいいよね」
ジャル・ガーさんの肩の上から、ね! と笑顔で首を傾げるユイルに、ケインさんは負けたとばかりにがっくりと肩を落とした。
「まあ、ケインの言葉も一理あるな。信頼しても、裏切るやつは裏切る」
ジャル・ガーさんは鳥の方をじろりと見て、さらに口を開いた。
「今度から、俺らの村もお前らを迎え入れることにしたが、いいか、よからぬことを考えるような奴はまず入れないと思え。俺らは感情の色を読み取る。そして、お前らなんか一発で消せる腕を持っている。村に入りたくても入れない奴も出てくるだろう。入れないからと他にその悪感情をぶつけると、さらに村の敷居は高くなると思えよ。ただ俺らの村で純粋に楽しみたい奴だけが来い。俺らの仕事を増やすんじゃねえぞ」
低い低い声なので、かなりドスが効いている。
鳥がピヨと鳴き、ジャル・ガーさんの言葉を肯定するログが流れる。
そんな締め方で、ユイルの中継は終わった。なんか、ユイルたちが獣人の村への行き方をしっかりと教えてくれた形になった気がする。ユイルすごくいい仕事をしたよ。
中継の鳥は、バサバサ飛んでまたもブレイブの頭にとまると、動かなくなった。
「さ、終わった終わった。ユイル、お疲れさん。今日は頑張ったな。そっちのマックお兄ちゃんの作ったもんじゃないけど、俺からもユイルが頑張ったご褒美をやろうか」
頭に鳥を載せたまま、ブレイブがインベントリから何かを取り出して、ユイルの前に差し出す。
ユイルはジャル・ガーさんの肩に乗ったまま手を伸ばして、それを受け取った。
「おかし?」
「そ、お菓子。前にユイルを保護してくれた、怖いおじちゃんの奥さんが作ってくれたお菓子。美味しいんだぞ」
「ありがとう」
「その怖いおじちゃんの奥さんも、ユイルに会ってみたいって言ってたよ」
そしてユイルを見てメロメロになった王女様を見た勇者が嫉妬して威圧をかまして、ユイルに二度と近付かれなくなる未来が見えました。それとも勇者はユイルくらいなら嫉妬しないかな。
ブレイブの言葉に、雄太も海里も同じ感想を抱いたらしく、2人して遠い目をしていた。やっぱり嫉妬しそうだよね。熱烈溺愛中だもんね。
「んじゃ、役目も終えたし、俺らは帰ってログアウトするか」
「確か下のフロアに行けば、ゲームフェスタの中継も見せてもらえるって言ってたっけ」
「モニターをじゃなくて会場のほうだけどな。あの人だかりをひたすらモニターで見続けるのはちょっと面白くなさそうだけどな」
「もう、高橋そういうこと言わないの。皆楽しんでるんだからいいじゃん。私たちも楽しんだし。さっきの魔物のドロップでいい物貰ったし。マック君からは蘇生薬まで売ってもらったでしょ」
「でも去年から考えると、全然違う待遇な。そういえば辺境の案内はユーリナさんとドレインさんが請け負ったみたいだぜ。他の2人は休日出勤でだめになったとか。社会人こええな。マックも来年はバリバリ休日出勤の社会人になりそうだよな。あの人の下に付くわけだし」
「ははは……そんなことないと思うよ」
雄太たちはケインさんが送って行ってくれるということになって目の前で消えていったので、俺はジャル・ガーさんとユイルに見送られながら、その部屋を出た。そこから魔法陣魔法で工房に跳ぶ。
中継用意で結局はヴィデロさんとヴィルさんの会話をほぼ聞かないでいてしまったことにちょっとだけがっかりしながらベッドに向かって、ログアウト。
ギアを外すと、他の2人はまだログイン中だった。
ギアを片手に下のフロアに向かう。
事務所のドアを開けて中に入っていくと、コーヒーを飲みながら佐久間さんが3つのモニターを駆使して仕事していた。
「よ、中継ご苦労さん。早いログアウトだったな。他の奴らはもう少しかかるのか?」
「多分。俺だけ場所が違うからすぐなんです」
「ヴィルの所も中継終わったから、弟さんを揶揄い終わったらすぐログアウトしてくると思うぜ。今まさに揶揄い中だけどな」
ほら、と佐久間さんが画面を切り替える。すると、ヴィルさんとヴィデロさんとクラッシュがトレの門前で立ち話をしている映像が映った。
あ、ヴィデロさんがムッとした顔をしてる。あの顔、ヴィルさんにしか向けないんだよなあ。もしかしてヴィルさんに甘えてるとあの顔になるのかな。可愛い。
クラッシュがヴィデロさんの鎧をバンバン叩きながら大笑いしていて、ヴィルさんも口に手を当ててくすくす笑っている。すごく親しい雰囲気が画面越しに伝わってくる。
「佐久間さん、音声は?」
「音は通してねえ。残念だったな」
「なんて話をしてるのかな。あの三人、結構頻繁に飲みに行ってるみたいなんですよ。ずるい。俺も今度連れてってもらおうかな」
楽しそうに話す三人を、心の中でハンカチを噛みながら見つめていると、佐久間さんが変な顔で振り返った。
「やめとけ。飲みに行くなら、アバターを弄ってから行け。そうしないと全員飲み屋で締め出し食らうぞ」
「えええ!? 酷くないですか!?」
「厳然たる事実ってやつだ。アバターは好きな姿に出来るんだから、何もアバターまで童顔にすることねえのに。もっとでかくてごつくて渋い顔にすりゃいいだろ」
「だってそれだと俺じゃない違和感がバリバリで全然のめり込めなそうだったんですもん」
口を尖らせた俺に、佐久間さんが盛大に吹き出した時、ドアがノックされた。
佐久間さんの「入れよー」という返事と共に雄太たちが全員で事務所に入ってくる。
「あざっす。これ、ギアどこに置けばいいすか」
「あーそこの窓際のギアの充電器にセットしてくれ。全部置けるだろ」
言われた通りにギアを置くと雄太たちがわらわらと佐久間さんの周りに集まってきた。
「おお、門番さんと店主さんとヴィルさんだ」
「ほんとそっくり。なんか兄弟みたい」
ユイが目を細めてそんなことを言った瞬間、俺と雄太は目を合わせて苦笑した。雄太、前に教えた内容、ユイにも言ってないんだ。そのうち俺から言わないとだよな。
「これが会場に流れてる映像ですか?」
「いんや、健吾がどうしても見たいっていうから、三人で遊んでるところを映してる。でもそろそろ引き上げじゃねえ? ほら、英雄の息子が魔法陣描いてるから」
佐久間さんがモニターを指さした瞬間、ヴィルさんとクラッシュが消えた。そしてヴィデロさんは何事もなかったかのように、兜を被って持ち場に戻っていった。
佐久間さんがモニター画面をさっきまでのよくわからない数字の画面に戻すと、キーボードを弄り始めた。すると、本体の方からシュン、と白いディスクが出てきて、佐久間さんがそれを手に取る。何も書かれていなかったディスクに「飲み友」と書くと、それをケースに入れて俺にはいと手渡した。
え、もしかしてこれ。
もしかして!!!
「さっきの映像の録画ですか!! ありがとう佐久間さん! 一生大事にします!!」
「お礼はおかず一品追加でいいぜ」
「一品と言わず二品でも!」
ディスク片手にくるくる喜びの舞を舞っていると、奥のドアから出てきたヴィルさんとばっちり目が合った。
肩を震わすヴィルさんに、佐久間さんから貰ったディスクをババーンと見せる。
「ヴィデロさんが映ってる映像のディスク貰っちゃいました!!」
「そうか、よかったな」
すごく生暖かい目で見下ろすヴィルさんは、少しだけ肩を震わせながら俺の頭をわしっと掴んでぐりぐりと撫でた。まるで子供扱いだけど、気分が浮上していたので、されるがままになっていた俺だった。
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手料理が繋ぐ心と体。身分差を越えた、最強α皇帝と隠れΩ料理人の美味しくて甘い辺境スローライフが幕を開ける!
※本作にはボーイズラブ要素およびオメガバース設定(α、β、Ωの概念やフェロモンに関する描写)が含まれています。苦手な方は閲覧にご注意ください。